チャプター 7-3
3
「……一応、デュエルのシステムを聞いておいていいかな?」
生徒手帳やらを番号ロック付きのロッカーにしまいつつ、アイリにそう問いかける。
「えっと、普段は起動装甲同士で模擬戦をする場所なんだけど、今回は特別に、このデバイスを使って対戦してもらうわ」
そう言ってアイリは俺の腰のベルトに何かを取り付けてくる。
「これは?」
「≪プロテクトクリスタル≫ を埋め込んだデバイスよ。 防具の代わりだと思ってくれていいわ」
アイリがそのデバイスのスイッチを押すと、青っぽい光が俺を包んで消えた。
「へぇ……プロテクトか……」
……どれぐらい守ってくれるかはわからないけど、話が本当なら、かなり便利な代物だぞ……
「これは……貰っていいのか?」
「……まぁ、良いんじゃない?」
……なんか、適当になってないか……?
「でも、このデバイスを過信するのは良くないですよ」
……機動装甲についてるものと同じか……
「……わかってるよ」
どうやら死なない仕様はないらしい。
「……あなたの得物は?」
唐突にアイリが俺のポケットを見てそう聞く。
「ビームサーベルだ」
特に隠す必要もないので、取り出して見せる。
「へぇ、それが噂の……」
「これも噂になってるのか……」
「そりゃそうよ。 科学武器を生成できる技術士は限られてるし、出回ってないから」
「……ま、それもそうか」
もとは、たまたま熊谷先生の顔が広かったおかげで手に入れた物だった。
データ取りの被験者とか言われて。
……つぼみん先生が予想以上にすごい先生だったってのもあるけど……
「でも考えてみれば、うちの機動装甲も似たようなものよね」
……クリスタルを原動力にしている点では一緒か……
「確かに。 それでクリスタルの能力を使われたら、たまったものじゃなさそうだな」
アイリはどこか満足そうに微笑むと、
「それなら、いっそう覚悟して行くことね」
と、アリーナの入り口を指して言った。
……もしかして……もしかする……のか?
「じゃ、あたしは先に戻ってるから」
アイリはどこか楽しそうに控室から出て行った。
……ま、死なない程度に頑張りますか……
やってみないとわからないって、ヒカリも言ってたしな……
*********
アイリに示された扉を抜けると、アリーナと呼ぶにふさわしい景色が広がっていた。
そこに佇む一機の機動装甲。
全長2メートルちょっとか。
白地に真紅のラインが目立つ機体。
地面に突き刺さった刀だけが、不自然なほどに蒼かった。
「待ってましたよ」
「早かったな。 ごめん。待たせて」
「いえ……。 お願いしたのはこっちですし」
なんだかテンションの低めなソウマ。
「シエル、アイリス。 準備は?」
俺が何か言う前に、ソウマがインカムマイクを通して2人に呼びかけた。
『大丈夫よ〜』『バッチリです〜!』
2人の声が上の方から響く。
同時に、アリーナの観客席とリングの間に半透明の障壁が展開された。
……この学校の防御技術は、半端じゃないな……
「じゃあ、始めましょうか」
「ああ」
一変して殺意にも似た存在感を醸し出し、刀を地面から抜いたソウマに問いかける気にもなれず、俺は愛剣のビームサーベルを抜く。
ソウマの刀のサイズと質量感からして、片手剣で受け止めきれる気がしないので、惜しまず2本目も取り出した。
右手に青い刀身の、左手に赤い刀身のビームサーベルを持って、≪双剣≫スキルの構えをとる。
……ここで≪サウザンド≫の刀を見せるのは、流石にな……
「デバイスは作動していますか?」
「ああ。 大丈夫だ」
「じゃあ、最初から飛ばして……行くぜ!!」
抜刀術に近い初動を確認した時には、刃が頭上に迫っていた。
俺は身体を進路上から避け、両手の剣で受ける。
「ぐっ……!?」
予想を遥かに超える重みに耐えられず、膝をついてしまう。
「そう来てもらわないと……!!」
続けてソウマは刀を振り上げ、その勢いで俺を蹴り飛ばした。
機械人形の脚が放ったキックは俺の右腕を正確に捉えたが、プロテクトが作動しているおかげで折れた感覚は無い。
「天津風流龍剣術……」
「その動きも見えるんだよ!!」
地を蹴って急接近してくるソウマの目が、一瞬オッドアイになった気がしたが、気にしている余裕など無かった。
「吼えろよ!! ≪テンペスト≫!!」
ソウマの叫びに呼応するように、ソウマの機動装甲が赤く光る。
「クソッ!!」
技の発動をキャンセルして、横薙ぎに迫る刀を避け、ソウマの後方へ転がり出る。
「≪ツイン・ストライク≫!!」
右手の剣に装填しておいたクリスタルを発動させ、技を放つ。
「甘いぜッ!!」
……間違いない。 あいつには見えてるんだ……!!
振り返ったその目に違った色の光を宿していたのを確認した俺は、放った技が弾かれた瞬間に気付かされた。
「……見えているのか? 俺がどう動くか……」
追撃をして来ないので、バックステップで距離を取る。
「……ああ。 見える。 見えてしまうんだよ……」
ソウマはどこか忌々しげに自分の目を押さえた。
「見たくなくても、見えてしまうんだ。 そういう能力だから……」
『ソウマ! 落ち着くです!』
上の方からアイリスの声が。
「ご、ごめん……この話になると、ほんと弱くて……」
「……その話は、あとでじっくり聞かせてもらうとして……」
俺はその隙に、デバイスの反対側に着けていたサーチャーを取り外し、装備した。
『マスター!! 最近出番が少ないですよ!!』
「うぉ!? ご、ごめん、トル……」
いきなり怒りを爆発させたトル。
最近はテストがあったりして出番が減っていたのは確かだが……
「……そ、それで、あの機動装甲なんだが……」
『あれは……TMP228AA……通称≪テンペスト≫ですね』
「そんな情報どっから……」
感心すべきか呆れるべきか迷っている間に、ソウマが態勢を整えていた。
「……そんなわけで、あなたの攻撃のほとんどは見えてるんですよ。 ですから、全力で来てください」
……ソウマは戦闘中にスイッチが入るタイプなのか……
余裕がないのはわかっていても、そんなことを思ってしまう。
「トル。 どうすればいい?」
『テンペストの特徴として、クリスタルを消費して能力を使用するためのデバイスが搭載されていることが挙げられます。 そこを逆手にとって、カウンターで関節を切り落とすのが最善かと』
「なるほど」
トルの講義を聞き流しながら、ソウマの剣撃をバックステップで躱す。
……カウンターとか簡単に言ってくれるけど、あれは流石に……
大きさと機動性に負けている相手にカウンターを挟める自信は……正直あまりない。
「さぁさぁ! 僕に見せてくださいよ! あなたの本気を!!」
そう言ってソウマは、ついにクリスタルを腕のソケットに嵌め込んだ。
……あれが例のデバイスか……
「そうでないと……倒してしまいますよッ!!」
頭上に刀を一文字に構えた。
俺はその初動を見て、技の軌道を予測する。
その予測しようという意志に応えてくれたのか、ポルの予測線が数本画面に表示された。
「≪デトネイションリープ≫!!」
「天津風流龍剣術……」
俺の予想とポルの予想が一致した位置に剣を構えた俺たちの予測は当たり、技のタイミングを合わせることができる。
……運勝負の結果が、見えるわけないだろ……
「……≪朧月≫!!」
過去で1番使ったであろうカウンター技をかけ、ソウマの技の勢いをそのまま推進力と回転力に使い、テンペストの腕へ。
「あぁぁぁぁあああああっ!!!」
振り抜かれたテンペストの腕に吸い付くように俺のビームサーベルが迫り……
「流石ですよ。 天風さん。 ……機動装甲に乗っていなければ、絶対に負けていました」
その腕が飛んだが、テンペストは全く動じることなく冷静に、空中で浮かんだままの俺を捉えていた。
そして、無慈悲にもう片方の腕で殴り飛ばされ、俺の意識は刈り取られてしまった。




