チャプター 7-1
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「はぁ……」
「どうしたのよ?」
「いや……いつの間にか7月になってたからさ……」
「それで?」
「……いろいろ思うところがあってね……」
鉛筆が大活躍したテスト期間が無事に終了し、気づけば7月。
もうすぐ七夕とかいうそんな頃。
「ふぅん……思うところ、ねぇ……」
「なんだよ」
「別に」
ローザは少しつまらなさそうに視線を外す。
俺もつられて窓の外を見た。
学校の中庭にあたるところに、申し訳程度の笹が植えられていた。
「……ローザは願い事とか、書くのか?」
ふと思ったことを口にしてしまう。
「……まぁ、書かないわけじゃないけど……」
「へぇ。 何書くかはもう決めてるのか?」
「そうね……」
ローザはあごに手をあて、考える素振りを見せる。
すると、なぜかローザの顔が徐々に赤くなっていった。
「……あ、あんたは何を書くのよ?」
「え、俺?」
「そ、そうよ!」
必死に誤魔化そうとしているのがバレバレだった。
「そうだな……」
俺はあえて追及することを選ばず、考えてしまう。
……そういえば、去年は何を書いたんだっけ……
「……普通に、来年も生きてますように、って書こうかな」
「……なんだか切実ね……」
ローザが半分呆れたようにそう呟く。
「……あ、そういえば」
「ん?」
俺は入れっぱなしになっていた手紙を取り出す。
「それは?」
「この前助けた、聖堂学院の生徒からもらった招待状だ」
「いつの間に……」
……あのときローザは転移クリスタルに夢中だったからな……
「それで、そろそろ行こうと思ってるんだけど、ローザも来ないか?」
「いいの?」
「いや、まだ中身見てないからわからないけど」
「見てから言いなさいよ!」
「お、おう」
怒られたので、手紙を開封する。
中には、案内と一枚のカードが入っていた。
案内によると、このカードで3人まで同時に入れるらしい。
有効期限は特に書いていない。
「3人までいけるらしいぞ」
「そう。 ……じゃあせっかくだし、あたしも行こうかしら」
「あと1人誘えるのか……」
「…………」
ローザは腕を組んだまま、こちらの様子を伺っている。
……たまにはローザと二人ってのも、悪くないかもしれない……
「……みんな忙しそうだし、俺たちだけで行くか」
「……! そ、そうね!」
ローザは一瞬驚いた表情を見せたあと、嬉しそうに笑った。
************
来る前に連絡を入れて欲しいと書いてあったので、休み時間の間に電話をした。
話は通していたらしく、名前を言っただけで話が進んだ。
そうして放課後。
とりあえず場所を移そうということで、モン研に来ていた。
「そういえば、学校がどこにあるか聞いてなかったな……」
俺は今更ながら、聖堂学院の位置を調べることにする。
「関東エリアの北端……」
検索すると、すぐに数件ヒットした。
進藤先輩が言っていた通り、機動装甲の研究を主としているようだ。
「ローザ、どうやって行くかわかるか?」
「どうしてあたしが知ってなきゃいけないのよ?」
「そうだよな……」
逆ギレされた。
モンスターがうろついているせいで、電車や高速道路の類は全て地下に作り直されている。
ただ、この前のトーラスの一件で地下施設がそこそこの被害を受けたらしく、スピード制限がなされているとか。
「……でも、まぁ、交通機関を使う以外の選択肢も、あたしたちにはあるじゃない?」
ローザはわざとらしく咳払いをし、そう言ってくる。
「飛んでいくのか? さすがに関東エリアの真ん中通るとなると、途中で撃ち落とされるぞ」
「何言ってるのよ。 これがあるでしょ?」
取り出したのは、蒼い転移クリスタル。
テスト前に散々モルモットにされてデータを取られた、忌まわしきクリスタルだ。
「……なによ、その嫌そうな顔は」
「だってさ……」
転移クリスタルの転移成功率は80パーセント。
3、4回ほど地球の反対側に出て、命の危機にさらされたことがあった。
帰りのクリスタルが正常に動いたからよかったものの、それで帰ってこれなかったらどうなっていたことやら……
「……だ、大丈夫よ! たぶん!」
「たぶんて……」
「そうと決まれば、さっそく行くわよ!」
ローザは俺の腕を掴んだ。
「いや、まだ何も決まってな――」
「≪転移≫!!」
俺が台詞を言い終わる前に、視界が青く染まって、暗転した。
************
「のわぁっ!?」
視界と意識がもどったときには、上空にいた。
重力に従って下に落ちて行き、木々の枝に叩かれながら地面に墜落する。
「くぅ……痛ぇ……」
芝生のおかげか、致命傷にはならなかったようだ。
「てか、ここどこだよ……」
起き上がって周りを観察する。
左手の奥にはコンクリートの壁。
床は芝生。
右手には少し低めの植木が並んでいる。
俺はあまりにも明るく見える、その植木の向こう側へと出る。
「うん?」
まず目に入ったのは、普通のブランコ。
その横に滑り台やジャングルジムなどが見える。
「公園……だよな……?」
だれかいるかと思ったが、子供1人いない。
「……まぁ、それもそうだよな……」
聖堂学院は、そこそこ防衛線から近い位置にあった。
つまり、モンスターとの遭遇率もそこそこあるということだ。
「……にしても、ローザはどこだ……?」
一緒に飛んだはずなのに、落ちてくる位置が違うのはどういうことなのか。
「あ、あれか」
公園を出ると、すぐそこに学校らしき建物が見えた。
周りのビルに負けじと、その存在感を放っていた。
「……とりあえず、連絡だけしておくか……」
聖堂学院に向かいながら、ローザに電話をかける。
学院までの道のりはきれいに舗装されていて、それだけ見ても、この辺りの平和度がうかがえた。
「あ、ローザ? 今どこに――」
『――この者の関係者ですか? 至急学院まで来ていただきたいのですが』
「……はい?」
************
「話は聞いていますよ。 ようこそ、天風さん」
「えっと、まず、どういうことか聞かせてくれないかな?」
数分後。
正門で二人分の認証を済ませた俺は、そのまま学院の会議室に呼ばれた。
そこで、機動装甲のアームに掴まれたローザと再会を果たした。
今のローザは、首元を吊り上げられた猫のようだった。
「中庭に突然あらわれたので、とりあえず捕獲しました」
「ああ……」
どうやらローザは、学院の中庭に降り立ったらしい。
完全に不法侵入者となってしまったローザは、力なくうなだれている。
……自業自得とはこのことか……
「あの……この子は俺の連れなんだ。 放してやってくれないかな?」
「それは構いませんが、どうやって入ったのですか?」
「えっと……」
……くそ……いきなり他校に話さないといけなくなるとは……
俺は空間移動で来たことを告げた。
「へぇ……そんな技術がもう出来ていたんですね……」
言及されるかと思ったが、逆に感心されてしまった。
「いえ、まだ実験段階で……。 現に、こうして失敗していますし……」
「なるほど。 ですが、興味深いですね……。 あとでお話、伺えませんか?」
「ま、まぁ、時間があれば……」
絶対ですよ! と言われ、俺はただ、頷くことしか出来なかった。
俺が了承したのを見て満足したのかローザを放すと、
「そういえば、みなさんがあなた方のことをお待ちですよ。 行きましょうか」
と言って会議室の扉を開けてくれた。
「あぅ……ごめん。 ライト……」
俺の後ろから、申し訳なさそうにローザが近づいてくる。
「……まぁ、中庭に落ちたのがローザでよかったよ……」
……俺が落ちていたら、絶対助からなかっただろうしな……
なんと言ってもこの学院は……
――男女比1対99という、お嬢様学校だったからだ……




