チャプター 6-5
5
「大丈夫ですか!?」
戦場へ降り立つと、1人の生徒が交戦しているのが確認できた。
相手は……トーラスの小型版。
カノープス戦を思い出す光景だ。
「き、君たちは?」
「討伐科2年の第十三小隊です! 援護します!」
いつものビームサーベルを抜き、トーラスに接近する。
「やめろ! むやみに突っ込むな!」
「え?」
言われるが否や、目の前のトーラスの目が光ったのが見えた。
「うおッ!!」
瞬間、体が急激に重くなり、たたらを踏んでしまう。
……これが重力を操る力……
「どきなさい!! ≪ハウリングドライブ≫!!」
大剣を振りかぶったローザが、装填したクリスタルを光らせながら叫んでくる。
トーラスの方に視線をやると、突進のモーションを見せていた。
思い切り地面を蹴って、回避行動を起こす。
入れ替わるようにしてローザの攻撃がトーラスへ。
どうやら重力を操れるのは一瞬だけらしく、無事に攻撃を回避することに成功した。
『オオオオオォォォ!!!!』
トーラスの咆哮が聞こえる。
足止めはできたらしい。
「……あんまり効いてない……?」
ローザがそう呟く。
「あいつに遠距離攻撃は効かないぞ!」
長剣を構える先輩は忠告を続ける。
「近づこうにも、重力が邪魔して思うように攻撃できないし……」
悔しそうにトーラスを睨む。
「だったら、ここは一旦引くべきです! 対策を立て直しましょう!」
「ダメだ! こいつらを進軍させるわけには……!!」
「でも!」
「......兄さん!」
ヒカリの声に振り返る。
トーラスがこちらへ突進してきていた。
「≪朧月≫――!!」
敵の攻撃をギリギリでかわしてカウンターを打ち込む。
突進中は重力場を生成できないようだ。
攻撃がヒットする。
「……被害状況は?」
「……把握できていない。 距離が開きすぎている……ッ」
「だったら、なおさら一時撤退を計るべきです! 戦線は俺たちで維持しますから!」
「くっ……わかった。 しくじるなよ」
そう言って先輩は走っていった。
「まずは一匹仕留めるぞ!」
この前貰った二本目のビームサーベルを抜く。
すると、走っていった先輩の方を見ていたトーラスがこちらを向いた。
どこか怯えているような……そんな印象を受ける。
……なんだ……ヘイト上昇効果でもあるのか? このビームサーベル……
「ヒカリ! 突進モーションに合わせてバニッシュしてくれ!」
「......うん。 任せて」
俺はあえてトーラスに突っ込む。
すると予想通り、トーラスは防衛のために重力場を生成する。
「ぐっ……」
無理に抗おうとせず、足を止める。
その瞬間をトーラスは逃がさず、すかさず突進のモーションに移る。
「今だ! ヒカリ!」
「......やぁあ!!」
ヒカリもタイミングを合わせてトーラスの横腹を叩き上げ、スタン状態にさせる。
「トドメだ! ローザ!!」
「やぁぁぁぁあああ!!」
ヒカリとローザが入れ替わる。
「≪血薔薇の衝動≫!!」
上下に叩き、横回転で相手を切り飛ばした。
『オオオオォォォォ……』
トーラスは断末魔とともに消滅した。
見かけによらず、HPはあまり多くないらしい。
「よし。 この調子で次も行くぞ!」
「......待って、兄さん」
「な、なんだよ?」
「......あれ見て」
ヒカリが指差した先には……
「なんだ、あれ……?」
パッと見はゴリラそのものだが、背中に大きなクリスタルの大結晶がいくつもささっていた。
「……あれは、≪クリスタルバック≫。 シルバーバックがクリスタル汚染されて出来たモンスターよ」
「......1、2、3……このままじゃ囲まれるよ……」
クリスタルバックというそのモンスターを見据える。
次々と森の奥から集まってきていた。
「……ここは俺が引き受ける。 お前らは先に救助を進めてくれ」
「な、なに言ってるのよ!?」
「大丈夫だ。 救助の邪魔にならないように引き付けておくだけだから」
それに、ルナに少しとは言え力を解放する許可を得たんだ。 きっとうまくいく。
「......行こ、赤月先輩」
「ちょ、ヒカリ!?」
「......わたしたちがさっさと救助してしまえばいいだけのこと」
「それはそうかもしれないけど……」
クリスタルバックの視線はあからさま俺に集まっており、こっちが動くまで動く気は無いらしい。
「頼んだぞ、二人とも」
俺はそう言い残し、一番手前にいたクリスタルバック目掛けて飛び出した。
ゴリラ特有のドラミングで威嚇してきたクリスタルバックは、負けじと突っ込んでくる。
様子見もかねて、少し広めに距離を取って回避行動に移る。
対応が遅れたクリスタルバックの拳が地面を叩き割った。
……くっそ……脳筋の人海戦術とか……
地面に着地すると、あっという間にクリスタルバックに包囲される。
……この戦闘能力、バカにならないぞ……
一番最初に攻撃を仕掛けてきたクリスタルバックの拳をギリギリでかわし、開いた空間に身を投げて包囲網から転がり出る。
起き上がりつつ、クリスタルを両方のビームサーベルに装填する。
「≪リーンフォース≫!!」
強化項目は……俊敏力!
「≪弦月≫!!」
素早さと基礎威力を上昇させた≪弦月≫を見舞い、クリスタルバックの数を半数に減らす。
だが、あとからあとからクリスタルバックが合流してきて、減っているように見えない。
「くそ……何匹いるんだ……」
空いたほうのクリスタルスロットにクリスタルを装填し、フォトンウィングを展開する。
クリスタルバックの攻撃を後ろへ飛んでかわし、翼を広げて場所を移しにかかる。
視線を森の中へ向けると、クリスタルバックの赤く光る目がいくつも見えた。
……くっそ、雷まで鳴ってるぞ……
軽いホラーだった。
……これだけヘイト率が高いのは、やっぱりこのビームサーベルのせいなのか……?
迫る木々とクリスタルバックを避け、20匹を下らないクリスタルバックの軍を引き連れて森を抜ける。
道中、ヒカリとローザの姿が見えたが、順調に救助と討伐を進めているようだった。
……あれが、本体のトーラスか……
木々の間から見える親玉は、山の様に大きい。
……バリスタ銃が欲しくなるな……
ケンに龍撃槍でも持ってきてもらおうかと思ったが、そもそもウチの学校には実装されていなかったことを思い出す。
数秒後、視界が突然開けた。
瞬間、冷たい雨が俺の身体を捉えた。
どうやら広場に出てしまったらしい。
「……よし」
クリスタルバックがしっかりついてきている事を確認した俺は、翼を閉じて2本のビームサーベルを仕舞う。
地面を削りながら着地した俺は、そのまま腕を腰の辺りで構えて迎撃体勢に入る。
……2本でやったことは無いが……
拳を握ると、そこにはちゃんと柄の感覚が。
……捉えた!!
クリスタルバックが飛びかかろうとするタイミングにあわせ、両手で剣を振り抜く。
体中をアドレナリンが駆け巡り、視界が一気に明瞭になった。
「喰らえッ!! ――≪雷切≫!!」
雷鳴とともにクリスタルバックの軍勢の中へ切り込む。
だが、気づけば軍勢の最後尾で着地していた。
両手には熱で湯気を立てている二振りの刀がしっかりと握られていた。
「痛い……」
俊敏性の補正がかかったままだったのか、どうやらマッハを越えてしまったらしい。
腕や身体になにかに裂かれたような傷がいくつもついてしまっていた。
雨が傷口の血を洗い流してくれるが、滲みて痛い。
振り返ると、あれだけいた軍勢が跡形もなかった。
……ここまでする必要、なかったかな……
痛む身体を動かし、刀を杖にして立ち上がる。
≪自己修復≫が働き始めたのか、傷口から煙が上がり始めた。
……シャツ、買い換えないと……
徐々に思考が停止してきたことに気づいた俺は、あわてて左手に握っていた刀を虚無へ還した。
頭を振って息を吐く。
……そんな呑気なこと言ってる場合か……
連絡を取るため、ベルトに取り付けていたサーチャーを装着する。
『あ、マスター! わたしの警告無視しましたね!?』
「わ、わるい。 そういうつもりじゃなかったんだけど……」
『もう、こんなことなら警告なんてしてあげませんよ?』
トルはそう言いつつ、ローザとヒカリのインカムにコールを掛けてくれる。
『あ、ライト? こっちはまだ3匹しか狩れてないわよ?』
『......思ってた以上にしんどい……』
「今行く。 位置情報を送ってくれ」
『ええ。 ああ、それと、先輩達は全員森の外へ誘導させておいたわよ』
「本当か? 助かるよ」
『それより、さっさとトーラスをどうにかするわよ!』
「ああ!」
『......兄さん。 早く来てね?』
「わかってるよ」
そう言って通信を切る。
『位置情報を確認しました! ルート案内に移行します!』
「頼むよ」
『はい! がんばろうね、ポル!』
『......ん』
10時の方向に見えるトーラス本体は、少しずつだが移動しているようだ。 地響きが止まない。
その上空で、ガーゴイルと見受けられる黒い影が飛び回っており、対空対策も万全といったところか。
「……ん? なんだ……あれ」
雨と灰色の雲のコントラストのせいでよく見えないが、ガーゴイルとは違う飛行物体がいる。
「ポル。 悪いけどフォーカスできるか?」
『......もちろん』
半透明の液晶に映る景色が動く。
右目を閉じて映像を覗いた。
「……あれは……機動装甲?」
粒子を散らして飛翔するのは、どこかの機動装甲のようだ。
……話には聞いてたが……実用可能なレベルまでいってたんだな……
いつだったか忘れたが、どこかの学校が機構装甲の研究をしていると熊谷先生が言っていた。
機械仕掛けではなく人が装備するタイプの武装で、特殊なクリスタルを使って動いているとか。
……主力武器はビームライフルか……
撃退しようとするガーゴイルを次々と撃ち払っていく様子が見れる。
……ざっと5機だけか……
「ありがとう、ポル。 案内を続けてくれ」
『......ラジャ』
************
「ローザ! バニッシュだ!」
数十メートル先に、交戦するローザの姿を捉える。
「ライト! ――えいっ!」
俺の指示が届いたらしく、ローザは強打をトーラスに見舞う。
「≪弦月≫!!」
7連撃を叩き込み、トーラスを切り伏せた。
「情報ではこれで最後のトーラスのようよ」
「そうか。 じゃあ、あとは本体をどうにかするだけか……」
雨が伝う刀を一振りして、雨粒を飛ばす。
「......兄さん、また使ってるの?」
俺の刀を見て、ヒカリが心配半分呆れ半分といった感じで見てくる。
「あ……ごめん、これしか対処法思いつかなくて……」
「......もう……。 それで、トーラスは遠距離攻撃が効かないんだっけ?」
「まぁ、ダメージが一切無いってわけではなさそうだけど……キツイだろうな」
「......そう。 なら今回は≪フェイルノート≫を使わなくてもよさそう」
「いや、できればもう……」
「......何か言った?」
『お前が言うな』的な目で睨むヒカリ。
「ご、ごめん」
「さ、こんなところで話してないで、さっさとトーラスをどうにかするわよ」
「そうは言っても……」
「……とりあえず、トーラスの進行を止めれば良いわよね?」
「まぁ、そうだが……って、まさか……」
ローザは意地悪っぽく、得意げな笑みを浮かべる。
「ええ。 あいつの脚部をぶった切ることができれば、ひとまずは落ち着けるわ」
「おいおい……あんな重力場のなかじゃまともに動けないのに……」
「そんな弱音吐いてどうするのよ? やるしかないでしょ」
「......そうそう。 やってみなきゃ、わかんないでしょ?」
いつか聞いた台詞を言われ、確かにそうだったと思い知らされる。
……そうだ。 やってみなきゃわかんねぇよな……
「……よし、目標はトーラスの脚部を破壊することだ! 行くぞ!」




