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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第四章 「夢見る幸せの花嫁《ジューンブライド》」
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チャプター 6-4



「それじゃあ、今日の授業はここまで」

放課後を告げるチャイムが鳴り響く。

「ねぇ、天風君」

最近元気のないヒヨと、それを心配そうに見ているケンを眺めていると、突然話しかけられた。

「熊谷先生が呼んでたよ?」

「え、あ、ああ。 ありがとう、えっと……双葉さん」

「うん」

役目はこれで終わりと言うようにすぐに去って行った。

……わざわざ伝言なんて……あの人らしくないな……

もう少し他のクラスメイトとも交流した方が良いと水島先生に言われたことを思い出す。

……まさかな……

俺はカバンに荷物を詰め、教室へ出た。

……場所は……どうせいつものところだろ?



*********



「失礼します」

「来たか」

ここに来るのも久しぶりな気がする。

「まぁ、座れ」

立ったままはアレなので、素直に座る。

「……お前、あの地震について嗅ぎまわってるらしいな」

「……だとしたら、何なんです?」

少し強めに出てみる。

「単刀直入に言っておこう。 やめておけ」

「……なぜですか?」

「今回の件は前例がない。 何が起こるかわからないんだ。 悪いことは言わない。 やめておくんだ」

俺は少し考えてから、こう言った。

「……少し意外だな」

「なに……?」

「先生なら、鉱山でキャンプさせてでも調べさせると思ってましたから」

「……今回はそんなことも言ってられないんだ」

熊谷先生の表情は険しい。

「……と、言うと?」

「想定ランクはSSだ。 討伐科の最上級生のみが調査に当たっているが……それでも進展がないんだよ」

「…………」

正直、3人集まれば一個中隊相当と言われる上級生を信用できるかというと、そういうわけではない。

だからこそ、俺たち討伐科は部隊をケチらずに調査をするべきだ。

「……被害報告は」

「今のところは重傷者までしか出ていない」

「どこまで侵入できたんですか?」

「……第一階層の入り口までだ。 それより向こう側を譲る気はないらしい」

「そう……ですか」

どうやら思ってた以上に絶望的らしい。

それだけ調査して手がかりもないんじゃ……

「……先生は、この地震をどう思います?」

「そうだな……」

熊谷先生は少し顔を伏せて考えるそぶりを見せる。

「……モンスター軍も、そろそろお怒りってことじゃないか?」

「うーん……」

そんな理由なのか……?

「……まぁ、今回ばかりはお前の出る幕はないと思ってくれ」

「……わかりました。 また何かあれば」

「ああ。 わかってるよ」



*********



「あれだけ言われたら、さすがにどうしようもないかな……」

俺は諦めて、昨日解析してもらった使用履歴を片手にバスを待つ。

ポルとトルはヒカリのところにいるのか、画面に現れない。

……何だこのサイト……

何件も連続しているURL。

よく見ると、10分間に50アクセスされていた。

俺は少し迷った後、そのURLからページへ飛ぶ。

……これは……

「あ、ライトくん! 今帰り?」

俺はとっさに画面をトップへ戻した。

「ヒヨ……。 ああ。 今から帰るところだ」

俺以外誰も並んでいなかったバス停の列に、ヒヨが加わる。

「せっかくだし、一緒に帰ろ?」

ヒヨはそう言って屈託無い笑顔を見せる。

教室で落ち込んでたのが嘘のようだ。

「そうだな」

断る理由もないので、提案に乗ることにした。



*********



「なんだか久しぶりだね、こういうの」

「ああ」

空いてるバスの一番後ろの席で並んで、バスに揺られる。

「……それにしたって、今日は早いな」

「そうかな? よくわかんないや」

どうもヒヨの様子が変だ。

「……何かあったのか?」

俺は堪らずそう聞いてしまった。

「え……?」

ヒヨは心底驚いたように硬直した。

「……ふふっ。 やっぱりわかっちゃうか」

無意識なのか、いつも着けているカチューシャに触れる。

「……でも、大丈夫だよ」

ヒヨは首を振って笑った。

……けど、その笑顔は、嘘だ。

「……いや、大丈夫じゃない」

「ライトくん……?」

「何があったか俺にはわかんないけど、自分だけで解決しようとするなよ」

「…………」

「お前には、俺がいるだろ?」

「……っ!!」

「それにケンだって、ローザだっているんだ。 だから、俺たちのことを頼ってくれよ」

ヒヨはどこか寂しそうに笑うと、顔を上げた。

「ライトくんは、優しいね」

「……昔からよく言われる」

「きっと何人もの人が、その優しさで救われたんだよね」

「そうだと、良いけどな……」

「……その優しさが……」

「え、なんだって?」

「ううん。 ……ライトくん。 実は……」

そこまでヒヨが言った時、バスが急停止した。

不意の衝撃を、前の座席を支えにすることで耐える。

「な、なんだ……?」

視線を窓の外に向けた時、俺の生徒手帳が震えた。

『マスター!! モンスターの出現報告です!!』

ポルがかなり焦った様子でそう告げる。

バスに乗ってるせいで分かりにくいが、かなり揺れている気がする。

『鉱山に大型モンスターが出現! かなり大きいです!』

……まだ地震の発生時間じゃないはずだ……

「ヒヨ、とりあえず降りるぞ」

「う、うん」

「どうした? 気分でも悪いのか?」

「ちょっと、頭痛が……」

「立てるか?」

ヒヨに肩を貸してやり、バスを降りる。

「これ……地震の揺れ方じゃないぞ……」

何かで地面を叩いてるような……そんな振動があった。

モンスターが起こしていることは明らかだ。

『関東地区西側に避難命令が出ています! 迅速に避難を!』

「くッ…… 」

「ライトくん」

「ヒヨ?」

突然、ヒヨが俺の手を握る。

「ライトくんは、ライトくんのやりたいようにすれば、良いと思うよ」

「え……?」

「私は逃げることしかできないけど、ライトくんは、ライトくんにしかできないことが、いっぱいあるよね?」

表情はよく見えないが、握られた手の温かさでわかる。

「……そうだな。 悪い、ヒヨ。 俺、行かなきゃ」

「うん」

ヒヨは手を離し、一歩下がった。

「待ってるから」

笑顔でそう告げた。

今度は嘘のない、100パーセントの笑顔だった。



*********



『おい、ライト! 避難命令を出したはずだぞ!』

「ああ。 確認した」

『だったら、なぜそんな事が言える?』

数刻後、俺は討伐科の一員として出撃許可を申請していた。

「討伐科は、戦線の最前線で防衛を援助するのが仕事です! 逃げることは仕事じゃありません!」

『だからって、お前が行ったところで……』

「それでも、このまま見過ごすわけにはいかない!」

『そんな偽善のために、お前は命を賭けると言うのか?』

「ああ。 偽善だろうがなんだろうが、やれることをやらない理由にはならないからな」

『死んでも知らないぞ』

「死にに行くわけじゃ、ありませんから」

熊谷先生の通信がブツリと切れる。

数秒後、俺宛にクエストが届いた。

≪コード:グラビティブレイク≫

……報告をしに戻ってこいってことか?

変なところで気が回ると言うかなんと言うか……

「ありがとう、先生……」

クエストの概要は、戦闘要員の援助、及びモンスターの無力化を図ること、となっていた。

推奨人数は、1〜3人……

……やっぱり、組むならあの2人かな……

俺は連絡を取ろうと手帳を操作する。

「......兄さん!!」

メーラーを立ち上げた時、俺以外誰もいない公道に聞き慣れた声が響いた。

「ヒカリ!?」

寮から走ってきたのか、息が上がっていた。

「......はぁ、はぁ……モンスターの情報が入ったから、それを伝えに……」

「伝えるだけなら、データを送っても良かったんじゃないか?」

そう言うと、ヒカリはジト目で睨む。

「......バカ」

「な……!?」

前屈みだった体を起こし、ため息をつく。

「......わたしも行く。 だから走った」

「……それなら最初からそう言ってくれよ……」

頭上から、粒子の飛び散る音が近づいてきている。

「あ、ライト! それにヒカリも!」

案の定、音の発生源はローザだった。

「ローザ? お前までどうしたんだよ?」

「あんたこそ、こんなところで立ち話なんてよくできるわね……」

ローザは少しあきれたようにため息をついて着地する。

「いや、今からお前を呼ぼうと……」

「へ?」

「ローザもそのつもりで来たんじゃないのか?」

「あ……う、うん」

図星だったのか、恥ずかしそうにそっぽを向くローザ。

「……ありがとな。 ふたりとも」

思わずそう呟く。

「急にどうしたのよ?」

2人はそれを聞き逃さなかった。

「いや、こんな死にに行くようなクエストに付き合ってくれてさ……」

「......何を言ってるの?」

「え……?」

「......兄さんが行くクエストなら、ついて行くのは当然の権利」

「そ、そうか……?」

ヒカリはコクリと頷く。

「ま、あんたはあたしのパートナーだし、死ぬときは一緒に死んでくれるんでしょ?」

「そんなこと約束したっけ!?」

「今決めた」

真顔だった。

「…………」

「......兄さんはわたしのフィアンセだし、わたしを置いていくわけがない」

「……まだ言ってたのね……」

ローザは半分呆れたように苦笑した。

「ふぅ……」

俺は手帳を仕舞い、空を仰いだ。

灰色の雲が空を覆い隠していて、いつ雨が降ってもおかしくない天気だった。

……二人をここで失うわけにはいかない……

この身を盾にしてでも二人を守り、クエストを完遂させるんだ……

「よし……じゃあ、行こうか」

「......「うん!!」」

俺とローザはフォトンウィングを展開し、ヒカリを抱きかかえる。

「……なんかもう、自然と抱くのね……」

「変な言い方するなよ……」

「......このままめちゃくちゃにしてくれても……」

「ヒカリは黙ってろ!」

クエストへ向けて空へ舞う。

少し上がったところで、鉱山のほうを見据える。

クリスタルの力で再生されつつあった森林がなぎ倒され、そこにいたのは……

「......≪重力獣トーラス≫。 推定SSランクのモンスター」

亀のような容姿を持ちながらも、頭は龍そのもので、ツノを2本生やしている。

甲羅に当たる部位には、小さな山がいくつものっていた。

「……特徴は?」

「......その名の通り、重力を操る能力が確認されているわ」

「重力を……操る……?」

「......地震の原因と断定してもいいレベル」

「そんな能力、聞いたことないわよ……」

何かと戦っているように見えることから、まだ先輩たちは無事な可能性が高いとわかる。

「……まずは救助が優先だ。 そのあと体勢を立て直してもらって、全員で叩く……それが現状考えられるプランだ」

「どうやって助け出す気?」

「それは……そうだな……。 俺がターゲットを取ってる間に2人に……」

「いや、あたしたち3人でターゲットを取りましょう」

「......うん。 それがいい」

「でも、動けない先輩がいたら……」

「逃げられないほどじゃないでしょ?」

「......とりあえず、やってみたら良いよ」

「そんな適当な……」

「こんなこと言ってる間に、1人でも助けた方が良いんじゃない?」

「……そうだな。 じゃあ、行くぞ!!」

「......「おう!!」」

コード:グラビティブレイクーー開始!



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