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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第四章 「夢見る幸せの花嫁《ジューンブライド》」
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チャプター 6-2




「......む~……兄さん、なかなかしぶとい……」

あれから一週間。

いつの間にか6月に入っていて、だんだん気温が上がってきている今日この頃。

その暑さに比例するかのように、ヒカリの攻撃と言う名の誘惑も、ヒートアップしていた。

ある日は晩飯のときに俺に「あーん」を強要してきたり、水着で風呂に突撃してきたり、下着のまま俺のベッドに忍び込んできたこともあった。

……もはやどうしてここまでされて間違いを起こしてないのか、俺でもわからんな……

考えられるとすれば、育成場時代からこんなイベントをこなしていたからだろうか……

「......今だって、全然話聞いてくれないし……」

「……聞いてるよ」

「......ほんとに?」

これ見よがしに上目使いでそう聞いてくる。

ジト目でこうされるのも悪くない……かもしれない。

だが、それぐらいじゃ心動かされない。

「ああ。 この公式がわからないんだろ?」

俺は少し嘆息しながら、目の前の教科書とノートに目を向ける。

明らかにヒカリの罠だとわかっていても、ヒカリが「勉強する」と言うのだから、付き合わないわけにはいかない。

「これはだな……」

俺にもよくわからない公式を、教科書を頼りになんとか説明する。

もちろん端から勉強なんてする気のないヒカリは俺の隙を伺っていて、聞く耳持たない。

……聞いてないのはヒカリの方じゃないか……

そう思っても、気を抜けばヒカリが襲ってくるかもしれないので、ひたすら説明に集中する。

「ほら、これで解けただろ?」

「......そうだね、兄さん」

もしかして、わかってて聞いてたのか……?

「…………ほかに何かわからないことはあるか?」

よく考えてみれば、放課後で日も傾いていてヒカリの部屋は薄暗く、ローザもステラも――たぶんヒカリが仕組んで――外へ出払ってしまっている。

こんなそういうこと(・・・・・・)が起きるのには十分すぎる環境で、こんな王道な攻め方をされたら……

「......兄さんが、どうしてわたしに興味を示さないかわかりません」

「ぶふっ!!」

そんな気分も吹っ飛んだ。

「……お前、自分が何言ってるのか、自覚してるのか……?」

「......うん。 素直な質問」

あっけらかんと、そう言ってのけた。

「……だって、俺たち兄妹だぞ?」

「......そんなことわかってる。 それにわたしたちは――」

「――いや、正真正銘、本当の兄妹だ」

「......もう……そんな意地っ張りなところも……」

「…………」

俺はため息をついて、立ち上がる。

「まったく……どうしてここまでするんだよ?」

つい、そう聞いてしまった。

「......もちろん、兄さんが好きだから」

返答はわかりきっていた、何回と聞いてきたものだった。

「……なんでそんなこと……」

言われたこっちが恥ずかしく、顔を背けてしまう。

「......この愛を、受け取って欲しいの。 わたしの身体全部使って、余すところ無く……」

「……お前の愛とやらはもう十分に伝わってる。 自分の身体は大事にしろ」

俺はこの流れはマズイ気がして、部屋を出ようとドアに手をかける。

「......兄さんは、どうしていつもこうなの……?」

「ヒ、ヒカリ……?」

……まさか……

思わず後ろを振り返ると……やはり、ヒカリが伝家の宝刀を抜いていた。

……泣き落としなんて……やめてくれ……

半分だけ開かれた瞳に大粒の雫があふれて、ヒカリの頬を濡らしていく。

「......わたしが普段、どれだけ自分を抑えてるかも、兄さんが側にいるのに自分で慰めなきゃいけなかったもどかしさも、兄さんは知らないくせに! どうして、そんな……」

……勢い任せてなんてことカミングアウトしてくれてるんだ……

早まる鼓動と裏腹に、俺の頭は異常なまでに冷静だった。

「……そうは言うけどさ、俺だって……」

だが、冷静だったのは頭だけだったらしい。

気づけば身体が勝手に動き、ヒカリを抱きしめていた。

「俺だって、ここまでされて、何も思わなかったわけじゃないさ」

……何をやってるんだ俺は……

そう思っても、身体が言うことを聞かない。

「......兄さん……わたし……」

ヒカリの息が少し上がっているようだ。顔も赤い。

「......今だってこんな……期待してる淫らな女の子だけど……」

ヒカリは涙を含んだままの潤んだ瞳で、俺を見上げる。

俺に密着するヒカリから発せられる女の子特有の香りが、俺の鼻孔を擽る。

「......兄さんにしか……兄さんにだけしか、こんなこと、できない……」

「ヒカリ……」

ヒカリの顔が近づく。

数センチ、また数センチ。

ヒカリの息使いまで聞こえてくる。

……我慢する必要なんて……

俺は最後の砦を失い、受け入れるように目を閉じた。


その時だった。


「ライト〜? 帰ってるなら返事ぐらい……」

「はっ……!!」

一気に目が覚めた俺はヒカリの拘束を解き、部屋から脱出する。

「お、お帰り。 ローザ。 遅かったな」

「……ライト、大丈夫? すごい汗かいてるけど……」

「あ、ああ。 大丈夫だ」

部屋を出た直後、ゴツン!! と何かがぶつかった音が聞こえたが、多分気のせいだ。

「......兄さん、ヒドい……自分から襲ってきておいて、放置なんてヒドい……!」

「ヒカリ!?」

しまっていなかった扉から、どういうわけか制服を半分脱いだ状態のヒカリが這ってでてきた。

痛そうにおでこを押さえている。

「ちょっ……ライト!?」

「まて、誤解だッ!」

「......兄さん、ここまでしたのに……続き、しないの?」

「まだ始まってもなかっただろっ!?」

「ライト! それどういう意味よ!」

「もう勘弁してくれ〜!!!!」




*********




一緒に入るとうるさいヒカリを先にお風呂に入れ、ローザと机を挟んで向かい合う。

ステラは空気を読んだのか、部屋に戻っている。

「……さて、どういうことか、説明してもらおうかしら?」

「説明って言われても……」

ガシャンッ――ジャキッ!!

ローザの大剣の展開する音が聞こえたと思ったら、俺の耳元に剣が振り下ろされた。

「真面目に応えないと、輪切りにするわよ……?」

「輪切りって……」

「文句は5文字以内」

全力で抵抗すれば何とかなったかもしれないが、無駄と悟り、諦めた。

「わ、わかったよ……」

俺はこの1週間にあった、ヒカリとの俺の理性をかけた熾烈な戦いの全てを話した。

明らかに俺が不利な情報は伏せておいた。

先ほどの「襲われた」案件も、ヒカリが図ったものだと説明した。

「……はぁ。 いったい何やってるのよ……」

ローザは頭を押さえて首を振った。

「……あいつのことだ。 期限の1ヶ月の間で俺が態度を変えなきゃ、諦めると思う」

「……そうかしらね」

ローザはそう言って席を立つ。

「どこ行くんだよ?」

「……ヒカリに話があるの」

ローザはため息をついてリビングを出て行ってしまった。

……俺はどうすればいいんだよ……




*********



*********




「ヒカリ? 入るわよ」

「......え? 赤月先輩?」

あたしはヒカリが湯船に浸かった瞬間を見計らって、風呂場に侵入する。

「......どうしたんですか?」

珍獣でも見るかのような目を向けられる。

「……あんたに話があるのよ」

あまり自分の身体を見せたくなかったあたしは、前かがみ気味にシャワーを浴びる。

身長が違うとは言え、あたしよりほんの少しだけ成長しているヒカリの身体を一瞥し、何から話すか考える。

「......兄さんから、何か聞いたんですか?」

予想に反して、ヒカリから話しかけてきた。

「……ええ。 ……洗いざらい白状してもらったわ」

「......それで、先輩はどう思いました?」

思っていた以上に、ヒカリが何を考えているのか読めない。

「まぁ、その……やっぱり兄妹でこういうのってどうなのかな、とは思ったわ」

「......やっぱり否定するんですね」

「一応止めておいたほうが、あなた達のためになると思うし」

「......それは、わたしたちが本当の兄妹……血の繋がった兄妹だから?」

「そうよ」

「......じゃあ、わたしたちが同じ親(・・・)から生まれ(・・・・・)ていない(・・・・)と言ったら?」

「…………やっぱり、そうなのね」

「......知ってたんですか?」

「ある程度、予測はついていたわ。 でも、本当に義妹だったなんてね」

「......それは違います。 わたしと兄さんは、本当の兄妹です」

「……どういうことよ?」

「......血は繋がってませんが、血を分け合った仲ですから」

上半身を浴槽に預けるようにしてあたしを見るヒカリの目は、まっすぐだった。

「…………」

あたしは身体を軽く洗って、桶に溜めていたお湯で洗い流す。

「……あたしも入っていいかしら?」

「......いいですよ」

浴槽はそこまで広くなかったが、平均身長150の二人で入っても窮屈ではなかった。

「……ライトは、知ってるの? あんたとは血が繋がってないって」

「......知ってるなら、もう少し態度を変えてくれてもいいと思うんです」

「そう……。 それを話す気は無いの?」

「......兄さんは強情だから、事実を受け入れようとしてくれないんですよ」

「話してはいるのね……」

背中合わせに浸かりながら、ライトがどう考えてるのか整理しようと試みる。

「……そういえばヒカリ。 のぼせないの?」

「......そろそろ、キツイ……」

「あ……なんか、ごめん」

ヒカリが熱で沈みそうになっていたので、慌ててヒカリを湯船から救出する。

「......先輩。 わざわざありがとうございました」

ヒカリはそれだけ言い残し、ふらふらと浴室から出て行った。

「……どう考えてるか、か……」

それはあたしにも言えることだ。

あたしはこの現状を、思っているのだろう……

……もちろん、良いとは……

それは兄妹でいちゃついていることがだろうか、それとも、単純にライトが……

「何を考えてるの……あたし……」

顔が熱い。

きっとのぼせてるからだと言い聞かせ、あたしも浴槽を出る。

……これも全部、ライトのせいだわ……



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