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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第四章 「夢見る幸せの花嫁《ジューンブライド》」
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チャプター 6-1




「......兄さん、今日って、兄さんの誕生日だよね?」

「え……。 あぁ、そうだっけ……?」

午前7時を示している時計には、確かに5月21日と書いてあった。

「そうだっけ? じゃないわよ! 自分の誕生日くらい覚えておきなさいよ!」

「そ、そうだよライト君! せっかくみんなこの日のために準備してたのに……あ」

「「…………」」

ヒヨにそう言われ、ジト目で睨むヒカリと、真っ赤になってそっぽを向くローザ。

「あはは……」

少し気まずい空気のなか、俺はヒヨが今朝作ってくれたサンドイッチをかじる。

「……そんなわけで、今夜は誕生日パーティーをやるわよ! ライト君!」

「えぇ……この部屋でか?」

「そうよ」

「......それもサプライズでやるはずだったのに、なんで言っちゃうかな……」

ヒカリの半分あきれた声がポツリ。

「……いや、いいよ。なんか悪いし……」

「もう、遠慮してどうするのよ!」

「いや、でも……」

「……まったく、こっちは準備してるんだから、さっさと腹括りなさいよ! このバカ!」

「はぁ……わかったよ」

ついにローザに言われ、俺は仕方なくパーティーの開催を了承するのだった。



*********


*********



学校で熊谷先生に半ば無理やりクリスタル(詳細不明)を渡されたり、水島先生やつぼみん先生から声をかけられたこと以外は何事も無くすごし、無事にその日をやり過ごすことができた。

アカリアキラペアの姿が見えなかったのが不安要素ではあるが……

「パーティーまでまだ時間があるな……」

自分の部屋にすぐに戻る気にはなれず、俺は学校地下のアリーナでかるく訓練して帰ることにする。

「ちょうどつぼみん先生から渡されたBS(ビームサーベル)を試しておきたかったし……」

そう呟きアリーナへ向かおうと連絡橋へ歩き始めたとき、空から聞きなれた声が。

「あ、ライトー! 今、帰り?」

「ローザ……」

……そんな高く飛んで大丈夫かよ……スカートはいてること忘れてるんじゃないだろうな……

俺の呆れにも似た心配にローザは気づくはずも無く、俺の目の前に着地した。

「ローザこそ、何してるんだよ?」

「あたしは、あんたのケーキを運んであげてたのよ」

両手で持っていたビニール袋を掲げて見せ付けてくる。

「店員さんに 『お兄さんの誕生日ケーキかな?』 なんて言われちゃったわ。 思っても普通、口に出さないわよね?」

「そ、そうだな……」

「まったく、失礼しちゃうんだから!」

唇を尖らせてそっぽを向くローザ。

それだけ幼くみられたことに怒ってるのか、はたまた妹と言われたことに怒ってるのか……

今ある情報だけでは判断できなかった。

「それで」

「ん?」

「帰りなんでしょ? せっかくだし、一緒に帰りましょ。 ……あ、あくまで、せっかくだからよ!?」

「……わかったよ。 わかったから」

顔を近づけてそう釘を刺すローザを制止し、寮に向かって歩き出した。

……ま、訓練はいつでもできるし……また今度にするか……

「……どこか、行きたいとこあったの?」

「え!? い、いや……アリーナで、このBS(ビームサーベル)の訓練をしようかと」

「あ……」

ローザは何か思い出したように一瞬動きを止めたが、誤魔化すように笑って再び歩き出した。

「完成してたのね。 よかったじゃない」

「そういえば、このBSのクリスタルを採ってくるのに協力してくれたんだろ? ありがとな」

ローザは少し驚いたような表情を見せた。

「え、ええ。 ……その、何のクリスタルで出来てるか、聞いたりした?」

「ああ。 なんでも≪ダイモニオン≫のクリスタルを使ってるらしいな」

「そ、そうなのよ! あの時は大変だったわ!」

「いったい、いつの間に採りに行ってたんだよ?」

「え!?」

今度は完全に硬直した。

「えっと…………」

「うん?」

「ま、まぁ、そんなことはいいじゃない! あははは……」

「そ、そうか……」

……なにか言いにくい理由があるんだろう……無理な詮索は避けたほうがいいかもしれない……

それからしばらく俺達は、寮までの海沿いの道を黙って歩いた。

夕日が海に溶けていくのを見ると、先月もこうして二人で夕焼けを見ながら歩いたことを思い出す。

涼しい海風が伸びすぎた前髪を揺らす中、俺は前を歩くローザに視線を移した。

同じ海風に長い髪をなびかせて歩く小さな姿は、確かに力強さを感じるが、どこかもろさも感じさせた。

そうしてローザの背中を見ていたら不意に、さっきの『妹』の話と遊園地でのケンの話を思い出した。

『お前、もうローザが来てから1ヶ月経つのに、進展ないのかよ?』

『進展もなにも……あいつは俺にとっては、新しい()みたいなものだ。そういう風(・・・・・)に見たりはしない』

『本当か?』

『……実は最初の頃はかなり緊張した』

『はは。おまえもやっぱ男だな。ライト』

……そういや、そのとき妹として、家族としてみることで、俺の中で折り合いをつけたんだったか……

それが逃げの手段(・・・・・)だとしても、俺の理性はそうでもしないと歯止めが利かない可能性があった。

仕方なく、本当に仕方なくそういう見方をしていたが……ローザはそう見られることを、どう思っているのだろうか。

そう見ていることをローザが知る由もないが、俺はふと、そんなことを考えてしまった。

……それなら、俺はローザに、どんな風に思われてるんだろう……

「ねぇ、ライト」

「――! な、なんだ!?」

今度はこっちが驚く番だった。

「えっと……本当は部屋で渡そうと思ってたんだけど、せっかくだから今、渡しておくわ」

「な、なにを?」

「……誕生日プレゼント」

ローザは少し照れながら、俺のほうに向き直る。

「どうして急に……」

「わ、渡したくなったからよ! なにか文句ある!?」

「いや、ないけど……」

ローザは、手に持っていたケーキのビニール袋を俺に押し付け、ブレザーのなかから何かを取り出した。

「それは……」

ローザが手に乗せたのは、小さなクリスタルに細いチェーンが通された、いわゆるネックレスだ。

「このネックレスは、きっとあなたを守ってくれるわ。あなたに意志がある限り」

「…………」

「だから、その……。うぅ……さっさと受け取りなさい!」

そう言ってローザは強引にネックレスを押し付けた。

俺は空いてるほうの手でそれを受け取る。

「あ、ああ。ありがとな、ローザ」

「せっかくあげたんだから、肌身離さず持ち歩きなさいよ?」

「ああ。わかった」

ローザは無事に渡せたことに安心したのか、安堵のため息をついて、少し笑った。

「じゃ、さっさと帰るわよ! きっと今頃ヒヨが料理を並べてる頃でしょうね」

「そうだな。みんな待ってるよな」

「よし、寮まで競争よ!」

「え、ちょッ!?」

「よーい、どん!」

ローザは子供のように笑って走り出した。

仕方なく俺もケーキを気にしながら走りだす。

……まったく、今日は驚いたり怒ったり笑ったり、大変だな……




*********


*********




「じゃあ、ライト君、お誕生日おめでとう! 乾杯!」

「「「乾杯!」」」

各自が持ったグラスを、軽くぶつける。

俺はケーキに立てた蝋燭を吹いて消し、それを見届けたヒヨがそのホールケーキを8等分するのを見る。

少し形が崩れたケーキを迷い無く切っていくヒヨは、

「さすがにこの人数だと1人あたりが小さくなるわね……」

と、ぼやき、切ったケーキを皿に移した。

机の上には、鳥の丸焼きやオムライス、パスタにやきそばにピザまで用意されていた。

「これ、全部ヒヨが用意したのか?」

「ううん。 ヒカリちゃんとステラちゃんにも少し手伝ってもらったんだよ」

「......うん。作ったのオムライスだけだけど」

「ウチもやきそばだけや」

「へぇ。 すごいじゃないか」

「えへへ……」

ヒヨは照れたように笑い、ヒカリとステラも恥ずかしそうに微笑んだ。

「先輩! わたしたちは部屋の装飾をしたんですよ!」

アカリとアキラが競うようにアピールしてきた。

「ああ。 この折り紙で作ってるやつか?」

「はい! どうですか? 気分出るでしょ?」

「そうだな。 お前達もありがとな」


それからしばらく皆で談笑しながら、食事を楽しんだ。

10人分ぐらいに見えた料理は、8人がかりだと15分少々で攻略されてしまった。

ヒヨとヒカリとローザの3人で空になった皿を運んでいる間、残りのメンバーはプレゼントを渡すことになった。

「じゃあ、オレから渡すぞ」

ケンが鞄から取り出したのは、小さな箱。

ラッピングもされていないそれを受け取る。

「開けていいか?」

「ああ」

箱の中には、銀色に光る腕時計が入っていた。

「ケン、これ、どうしたんだ?」

「それはオレが作ったんだ」

「え、嘘だろ……」

取り出してみると、思っていたより軽いが、しっかりとした時計相応の重さがあった。

「同封してる説明書を読んでおけ。 便利な機能をいくつかつけておいた」

「ああ。 ありがとな、ケン」

ケンは頷くと、視線でステラを指した。

「えっと、次はウチの番か……」

ステラも自身の鞄をあさり、小さめの紙袋を取り出した。

「プレゼント言うても、なんも思いつかんかったから……普通にハンカチや」

ステラから紙袋を受けとる。

中には四葉のクローバーの模様がついたハンカチが入っていた。

「ちょうど新しいのを探してたんだよ。 ありがとう、ステラ」

「う、うん」

安堵のため息をついて、ステラは胸を撫で下ろした。

「次はわたしたちだね、アキラ!」

「そうだね。 アカリ」

二人は手に持っていた白い紙袋から、二つの何かを取り出した。

「それは?」

「これはね、さっき二人で作ったんだよ!」

「ボクが半分手伝ったんだけどね」

そう言って差し出してきたのは、鈴のついた……根付ストラップ。

「これ、なんのストラップだ……?」

「えっとね、先輩のストラップ!」

「あとボクたちのストラップだね」

紐の先についている、フェルトで作られた指人形……

……これが俺で、こっちがアキラとアカリ……

髪型などの特徴をしっかり反映していながらも、かなりデフォルメに作られている。

言われて見れば、そう見えなくは無い。

「よく出来てるな……。 ありがとな、二人とも」

「えへへ。 喜んでもらえてよかったです!」

「うん。 ボクもがんばった甲斐があったよ」

受け取ったプレゼントを机の上に並べて置く。

「あ、ちょうど渡し終わった感じかしら?」

「お、ローザ。 お疲れさま」

「ほとんどヒヨがやっちゃったから、あたしたちはそんなに疲れてないわよ」

ローザの後ろから、ヒカリとヒヨがリビングに戻ってくる。

「あ、ライト君、私からのプレゼントは、冷蔵庫に入れてあるから、あとで見ておいて」

「え? あ、ああ。 わかった」

「......兄さん」

「ん?」

「......わたしからは、後で渡す」

「そ、そうか」

ヒヨは、すばやくアカリとアキラが施した部屋の装飾を取り外した。

「さ、もういい時間だし、今日はこれでお開きにしましょう」

「そうだな」

「うん。わかった! じゃあ、先輩! また明日!」

「ボクも、失礼します」

「ヒヨ、送ってくぞ」

「わ、ケン君、珍しくやさしいねー」

「茶化してるのか……」

狭い玄関を通って、みな帰っていく。

「ふぁあ……あたしもう眠いし、先にお風呂入ってるわね」

「あ、ああ」

ローザはあくびをしながら、浴室へ消えた。

「隊長さん、ウチも先に休ませてもらいますね」

「ああ。 おやすみ」

「はい。 おやすみなさい」

ステラも寝室へ消えた。

「......兄さん」

リビングに残ったのは、俺とヒカリだけ。

さっきまであれだけ騒がしかったリビングは、浴室からのシャワーの音以外聞こえない、静かな空間になっていた。

「......兄さん?」

「……聞こえてるよ。 お前も寝ないのか?」

「......わたしまだ、兄さんにプレゼント渡してない」

「ああ……そういえばそうだったな」

ヒカリは短く息を吸い、俯いて息を吐き出した。

……なんだ……改まって……

「......兄さん。兄さんへのプレゼントは、わたし(・・・)

「……は?」

「......わたしを、一ヶ月間、なんでも好きなように使っていい権利を、兄さんにあげる」

「え、ちょっ……待ってくれ」

「......わたしを奴隷みたく扱ってもいいし、性欲の捌け口にしてくれてもいい」

「だから、どういう……」

ヒカリは、混乱した俺に止めを刺すように、身体を俺に摺り寄せて、こう言い放った。

「......つまり、わたしからのプレゼントは、わたしとの結婚(仮)ってことよ」

俺はついに理解することを諦めた。



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