チャプター 5-5
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「......兄さん!? 何を……」
ダイモニオンの1匹を刺し潰したヒカリが、俺のクリスタルに覆われた左腕を見てそう言った。
「隊長さん!?」
傷だらけになりながらも、ステラはダイモニオンの攻撃を避け続けていた。
「くッ……ヒカリ! ステラ! "バニッシュ"だ!! 離脱するぞ!」
膝を折ってサーチャーを拾い、左腕に全意識を集中させる。
……≪不可視の千剣≫……!!
サウザントソードドラゴンの能力は、無限の剣を作り出すというもの。
その能力を借り、クリスタルで覆われた左腕から、30本ほどの不可視の剣を召喚する。
……少ない……だが、突破するには十分な……
奥歯を噛み締めて、持って行かれそうな意識を繋ぎ止める。
……これが最善なんて……
俺はクリスタルの恩恵で加速した思考視力を使い、離脱ルートまでの敵を全て捉える。
「......はっ!!」「やぁああ!!」
強攻撃を叩き込み、ダイモニオンをスタン状態にさせたのを確認する。
「がぁぁぁああああああ!!!」
30本の剣を一斉射させ、同時にフォトンウィングを展開して地面を動く右足で思い切り蹴った。
「......きゃっ!」「うわっ!」
ヒカリとステラを囲むダイモニオンを不可視の剣が一掃するのを確認し、二人を両腕に抱きかかえた。
追従してくるダイモニオンを残る不可視の剣で牽制し、全力で逃げる。
前に出てくるダイモニオンも、剣に意識を飛ばし、処理していく。
「......兄さん! 大丈夫!?」
「隊長さん……その腕……」
俺には返答する余裕も無い。
ただ黙って撃退しつつ逃げることだけに集中した。
……くっそ……こんなことじゃ……
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「これ……どういうことよ……」
「......赤月先輩……」
……ライトが病院に搬送されたって聞いたときは、心臓が止まるかと思ったわ……
「……………」
あたしの目の前で目を閉じて眠っているライトは、ピクリともしない。
包帯とサポーターで固定された腕や身体が痛々しかった。
……怪我自体はすぐに治るでしょうけど……
「......ごめんなさい」
「え……?」
「......わたしの……わたしのせい、なの……」
ヒカリは俯いて、肩を震わせた。
「……ヒカリがな、ずっと持ってたんやって。このクリスタルを」
ヒカリを撫でてやりながら、ステラ――カスミがそう言う。
見せてくれたのは……血色をした、赤黒いクリスタル。
「それは?」
「わざわざ棄てられた社から盗んできたらしいわ」
「......だって……まさかあんなことになるなんて……」
自分を責めているのか、ヒカリが柄にもなく泣きじゃくっている。
「……それを盗ってきた理由は置いておくとして、どうしてこうなる前に逃げなかったの?」
「それは……」
カスミが少しバツが悪そうに頭をかく。
「……ちょっとプライドが邪魔してな。ウチも隊長さんも、"離脱"って選択肢がめっさ嫌いなんや」
「……ふざけないで」
「……ごめん。でも……」
気づけば立ち上がり、声を荒げていた。
「モンスターとの戦闘は、遊びじゃないのよ!? 死んだら元には戻らないし、逃げることだって立派な戦術じゃない! どうしてこんなになるまで……」
そこまで言ったとき、ヒカリの声がぽつりとこぼれた。
「......兄さんは……兄さん達は、"逃げる"という選択肢を選んだせいで……大切な人を、何人も失ったの」
「え?」
「……………」
カスミに目をやるも、視線を逸らされてしまった。
「......兄さん、言ってた。『逃げて生き延びるぐらいなら、最後まで残って死んだほうがましだ』って」
「……ウチもその言葉に助けられて……逃げるのは早い、まだ何とかなるって、そう思うようになったんや」
「…………」
ヒカリは落ち着いたのか、ティッシュで鼻をかんでいる。
「……はぁ……まったく、ライトらしい、バカみたいな考えね」
自分でも、自然と笑みを浮かべているのがわかる。
「ほんと、しかたのないバカなんだから……」
「ローザ……」
「ちょっとすっきりしたわ。ライトがあきらめ悪い理由がわかって」
「......もう、怒ってない?」
「まぁ、怒ってないわけじゃないけど、その考えは嫌いじゃないから、許しておいてあげるわ」
「......赤月先輩……」
「そうは言っても、危なくなったらちゃんと今回みたいに逃げるのよ? 戦術的撤退は時に必要よ」
「わかってるって!」
カスミにも、もとの笑顔が戻った。
……あとは、ライトが起きるのを待つだけね……
「あ、そういえば、どうしてあんたはわざわざクリスタルを盗ってきたのよ?」
しかもよく見てみると、このクリスタルはインスタントでも永続でもなく、原石そのものだった。
「......兄さんのBS、まだ一本しかなかったから、これで作ってもらおうって……」
「へぇ……よく見つけてきたわね……」
……ライトも愛されてるわね、まったく……
「……そのクリスタルを持ってたヒカリが狙われたってことは、そのクリスタルってダイモニオンとなにか関係があるんか?」
思い出したように、カスミがヒカリに問いかけた。
「......いえ……"悪魔"が関係してるのは確かだけど、ダイモニオンは直接的には関係ない……と思う」
「それで『誰かに操られてる』ってことになるわけか」
「......ええ。……たぶん、今のわたし達にとって一番因縁深い……"激情の悪魔"が関わってる」
「なんやて!?」
「激情の悪魔……?」
どこかで聞いた気がするけど……
「ローザは聞いたことあるか? "ジークフリート"ってモンスターを」
「え……」
一瞬お兄ちゃんのことかと思ってあせってしまった。
「あいつは、下級からある程度の中級モンスターを支配下に治める能力があるからな。 可能性ならあるけど……」
「......2年前と同じように、封印が解かれた形跡が見つかってるの」
「また誰かがあいつの力を利用してるってことか?」
……全然話についていけない……
「……えっと、その"激情の悪魔"はモンスターなのよね? それがどうして封印なんて……」
「......ジークフリートは2年前、その強大すぎる能力ゆえに、育成場メンバーで討伐しようとしたの……」
「……せやけどな、ウチらの力を以ってしても倒しきれなかったんや」
カスミはそのときのことを思い出したのか、悔しそうに首を振った。
「......それでリリ……ライトの元パートナーが、ジークフリートを……文字通り命懸けで封印したの」
「そうだったのね……」
「ジークフリートのクリスタルも砕いて各地に封印したわけやし、大丈夫やって思ってたけど……」
カスミの視線にヒカリがうなずく。
「......各地でそのクリスタルを回収して回ってる誰かがいる……って聞いて、わたしがそのうちの一つをこうして持ち出したってわけ」
「なるほどね。……で、そのクリスタルの位置ってどうやって割り出したの?」
「......自室のサーチャーに、クリスタルの探知機能も搭載しておいた。半径30キロの範囲内なら捜索可能」
「……まったく、便利な道具ね」
「ま、おかげでジークフリートの復活も阻止できたみたいやし……あとは、隊長さんが目覚めるのを待つだけやな」
「そうね……」
ライトの様子をを改めて見る。
……よく生きて帰ってくれたわ。もう、無茶しないでって言っておきながら、こんな無茶して……
「……ん? でも、そのクリスタルをモンスターが取り返しに来たってことは、その回収してまわってるやつってのは、もう悪魔の力を使えてる……ってことにならない?」
「......現状、どこまで回収がすすんでるかはわからない。はやくこのクリスタルは処理した方がいい」
「……ちなみに、クリスタルは何等分したの?」
「えっと、確か8等分ぐらいやったよな?」
「......うん。各地に分散して隠したとき、8箇所回ったはず」
「はっきりしないわね……」
……個数合わなかったらどうするつもりなのかしら……
「ま、そのクリスタルはモン研に持っていきましょう。あんたはここでライトの様子を見ててちょうだい」
「おう、まかせとき!」
「さっさと行くわよ」
「......うん。……ありがとう」
「……ふん。これでも仲間よ? これぐらい当然よ!」




