チャプター 5-3
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「ほら、着いたで」
「お、おう……」
「なんや、酔ったんか?」
「……いや、大丈夫だ」
ステラに心配されながら、バスを降りる。
酔ったのはバスというよりはヒカリの……
「......どうかした?」
ヒカリはとても満足そうな表情をしていた。
いつも以上に話して興奮したのか、頬も少し赤い。
「……なんでもない」
俺は気を取り直して、ステラに案内するように告げた。
「ほな、行くで!」
自分の靴紐を自分で踏んでこけそうになっているステラを横目に、町の様子を確認する。
防衛ラインに近い位置にあるせいか、人気は無く、建物も倒壊しているものが多い。
……こんな町にもバスは来るんだな……って、よく見たら1時間に1本しか来てないじゃん……
「......兄さん、置いてかれるよ?」
「あ、今行く!」
しばらく歩くと、住宅街と見受けられる場所に入った。
やはりあまり人は居ないらしく、少し寂れている印象を受ける。
そこのアパートの前で、ステラは足を止めた。
「なんか久しぶりやわ。覚えてる分にはついこの間まで住んでた所やけど」
「………………」
……どこで生活していたかの記憶も消されてるのか……厳重だな……
「......あの……モンスターがそこらじゅうに……」
「まぁまぁ、別に襲ってきてるわけやないんやし、大丈夫やって」
「......は、はぁ」
「お前はもう少し反省しろよ……こんなところにいたから……」
……連れ去られたりするんだろ!?
そう続ける前に、ステラの声が入った。
「ええところやで、隊長さんが思ってるよりは」
「え?」
ステラは振り返り、真剣な眼差しでこちらを見た。
「こんなところだって、人はちゃんと生活してるし、モンスターとも折り合いつけれてる」
「………………」
「ウチも嬉しかったんや。モンスターを撃退することで、町のみんなに感謝されるのが」
どうやらステラはここに移り住んでから、モンスターの討伐をしていたらしい。
大丈夫発言の根拠はそこにあったようだ。
「……ま、そんなことはええんや。さっさと調べましょう」
「ああ。……なんか、ごめん。ステラ」
「気にせんとってください、隊長さん。ウチも気をつけますから」
「ただいまー」
ステラは扉の鍵を開けて、中に入った。
予想していたよりはしっかりしたアパートだったが、空き部屋が目立つのは仕方ないことなのか。
「......おじゃまします」
「う……」
扉のなかに入ったとたん、洗濯物のカビた臭いが鼻を刺した。
横に視線を移すと、開いた扉の先に山積みになった洗濯物が見える。
臭いの原因はこれだろう。
「あ、隊長さん!こっち来てください!」
奥のほうから、ステラの呼ぶ声が。
「ほら、日記ですよ!」
「……ちゃんとつけてるようには思えないんだよな……」
ステラのいる部屋はごみに溢れていたが、そこまで酷いものではなかった。
そのままステラの傍へ行き、その日記帳を手に取る。
……うん……?どこかで見たような……
「......兄さん、こんなものが……」
ヒカリが手に持っていたのは……
「……どう見ても、クリスタルだよな……?」
見たこともない、鈍く青色に光るクリスタルの欠片。
そのクリスタルには、明らかに使用された後のものだ。
……クリスタルについては、ローザかつぼみん先生に聞くまでなんとも言えないな……
「......あと、この完食されたカップ麺の賞味期限」
「……先週に期限切れてる」
どうやら、記憶がない間もここで過ごしていたのは確からしい。
「なぁ、ステラ」
「なんですか、改まって」
「軽く掃除でもしようぜ」
「えぇ〜嫌ですよこんなゴミの山整理するなんて〜」
「お前が作ったんだろうが……」
嫌がるステラを引っ張り、ゴミの山の解体作業を開始した。
マジで時給取ってやろうかと思った。
*********
「……あの、隊長さん」
「なんだよ?」
「1時間前と変わってないように……いやむしろ余計ひどくなった気が……」
「いや、マシにはなった」
「......うん。マシマシ」
「……これからはもっとこまめに掃除します」
しょうがないだろ……面子が面子じゃねえか。
片付けを知らない妹と、捨てることを知らない宿主と、掃除を知らない俺だぞ?
ヒヨかケンがいればまだ変わったかもだが。
「そうだ、任せておいた洗濯物は……」
「......しっかり洗濯機に突っ込んできました」
「そうか。よくやったぞ」
「大丈夫なんかな……」
ヒカリの報告によると、下着の色は普通に白が多いとか……いや、そうじゃなくて、汚れ方とかカビ具合をみるかぎり、やはりここに最近までいたのは確実だとか。
「......ステラ。やっぱり下着の処理は自分でやらないと……いろいろバレるよ? こんな事とかあんな事とか……」
「うぁ……うぅ……」
ヒカリに耳元で何を暴露されてるのかよく聞こえないが、真っ赤になったステラを見るかぎり、俺が立ち入ってはいけない話なようだった。
仕方なく、次の手がかりを探しに行くことに。
……さて、ほかに何か手がかりは……
「あれ? この本……」
ーーズドンッ!!
「「「!!!!」」」
外から地響きとともに、爆発音が響いた。
「ステラ!」
「これは……間違いない。モンスターや!」
俺たちはステラの部屋を後にし、アパートの外へ出た。
「な……!! またあいつかいな……!!」
数メートル先で倒壊した家から飛び出してきたのは、ガーゴイル、そして……
「まさか、あれがデーモン!?」
「なんや、知ってるんか?」
「......人の生き血を吸って生きると言われてる、特殊なクリスタルモンスターね……正式名は……」
「......「≪ダイモニオン≫」」
ステラとヒカリがそう言い終えた時、そのデーモン……いや、ダイモニオンが、俺たちの方へ視線を移したのが見えた。
……あれが、ローザの両親を殺したモンスター……なのか……?
よく見ると、そのダイモニオンの後ろからゾロゾロと、ガーゴイルと、同じようなダイモニオンが数十体湧いてきている。
……さすがは防衛ラインってところか……?
「くっ……この前も追い返したところやってのに……」
「......兄さん、情報があるとはいえ、油断しないで」
「ああ。わかってる」
俺は≪サーチャー≫を装備して、ビームサーベルを取り出し、戦闘体制に移る。
『マスター!寂しかったですよ〜』
「トル、早速で悪いけど……」
『うぅ……状況は分かってます。できるかぎりのサポートを尽くします』
……これも、未来を変えることになるのか?
そんな疑問を胸に、戦闘を開始した。




