チャプター 5-1
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『魔龍の宣告--生徒120人が死亡』
その記事は、そう題されてあった。
『防衛ラインを抜けてきたクリスタルモンスターが、新中学生徒120人が集まる体育館を襲撃……』
日付は、2232/04/02 となっていたので、現在から3年前の出来事ということになる。
「ライト……」
死亡者リストの中に、"天風雷人"の文字を見つける。
クリックすると、顔写真付のパーソナルデータが表示された。
『北星海中学1年2組1番 天風雷人』
……防衛ラインギリギリにある学校か……襲われても不思議じゃないわね……
『備考:死体発見できず。事件のモンスターとともに消え去ったという情報も』
……実際は死んでなかったんだもの。死体なんて見つかるわけ無いわ……
"モンスターとともに消え去った"
気がかりな情報この上ない。
……あとで聞いてみようかしら……
リンクはなく、説明はそこで終了していたため、ページを捲った。
「……あら?この顔……」
「……なにを熱心に調べてるんだ?」
「ひっ――ッ!!」
「そ、そんなに驚かなくてもいいだろ……」
数センチ椅子の上で飛んでしまった。
ぶつけた膝が痛い。
「もう……後ろから急になんて……やめてよ……」
「わ、悪い……」
リビングの電気を消していたせいか、近づいていたことにも気づけなかった。
「……まぁ、いいわよ。それで、なんでこんな時間まで起きてるのよ?」
「それは俺の台詞だ……」
ライトは顔をあたしのノートパソコンの画面に近づける。
……ちょっ……近い近い……
それを嫌に思わないのは、普通じゃないのかな……
「あぁ……なるほど」
「な、なによ」
「いつかは調べるって思ってたけど……」
「………………」
桜の前で聞いた話の裏を取ろうとすることは、お見通しだったらしい。
ライトは隣の椅子を引き、座る。
「……その記事は、"事実"しか書いてないよ」
「でも、ライトは……」
目を閉じて首を振るライト。
「……いや、これでも死んでるよ」
「え?」
「"こいつ"に……≪サウザントソード・ドラゴン≫に殺されたんだ」
……≪魔剣龍サウザントソード≫か……その目撃情報の少なさゆえに、存在してなかったのではとまで言われてたモンスターが……
「……本当なの?」
「ああ」
「でも、どうして……」
ライトはあたしの頭に手を置き、少し笑ってみせる。
「……ライト?」
手を離し、目を閉じてこう言った。
「……俺を殺した"こいつ"は、同時に俺を生かしているんだ」
あたしはその言葉の意味を理解するのに数十秒を要した。
「……まさか、そのモンスターのクリスタルで……」
「あぁ。"こいつ"はいま、俺の中に居る」
本当に信じがたい話だった。
あたしが未来から来たっていうことぐらい、信じがたい。
だが、それで全てつじつまが通ったことになる。
でも……
「……えっと、じゃあ、ここに写ってる"彼女"は……?」
「ステラのことだろ? ……間違いなく、そいつは今寝室で寝てるステラだ」
『北星海中学1年2組2番 天野霞』
画面に映っている彼女――カスミは、同じように"死亡した"と記されていた。
けれど、ライトの話によれば、彼女もモンスターのクリスタルで……
「そういえば"ステラ"ってのは、愛称かなにかなの?」
「そうだな……まぁ、そんな感じだな」
歯切れ悪いわね……
本人に直接聞いたほうが早いらしい。
「そうね……何人ぐらいそうやって生き返ったか、教えてくれるかしら?」
「……13人だ。そのうち8人が死んだ」
「………………ごめんなさい。いやなこと聞いたわね」
「いや、いいよ。隠すことでもないし」
桜の木の下で話していた"仲間"は、全員クリスタルによって生き返っていたらしい。
……13人もの命を生き返らせるなんて……いったい誰が何の目的で……
「……あなたの過去、もう少し聞かせてもらえないかしら?」
ライトは少し意外そうな顔をした後、少し悩むように頭を掻いた。
「……それもいいけどさ、俺はローザの話が聞きたい……かな」
「え……?」
悪戯っぽく笑うと、こう続けた。
「過去の話も大事かもだけどさ……もう少し、未来のことが知りたいんだ」
「………………」
……そうね……ライトにばっかり話させるのも悪いし……
「聞かせてくれないか?どうやって現在に来たのか」
「ええ。わかったわ」
あたしはパソコンのウィンドウを全て閉じ、ライトに向き直った。
「……あたしにはね、"お兄ちゃん"がいたの……」
*********
あたしは祈った――自分の身体を犠牲にして、大切なものを守るために。
あたしは願った――これ以上"運命だった"で別れを告げたくないと。
あたしは誓った――この"力"で、運命を変えてみせる。
*********
『あ、隊長!この後暇ですか?』
数日後の放課後。
急に電話がかかってきたと思ったら、第一声がこれだった。
「……まぁ、予定はないけど」
『それなら、ウチのもと住んでた部屋に捜査にいかへん?』
「もと住んでた部屋?」
『そうそう。調べたら何か思い出すかもしれへんやん』
「なるほど。ステラがいいなら、俺は別にかまわないぞ」
『ほんまですか!? わかりました!すぐ用意しますんで、戻ってきてください!』
そう言って電話は切れた。
……捜査か……ヒカリを連れて行ったほうがいいかもしれない。
俺はヒカリに電話をかける。
『......もしもし?』
2コール目で出た。
「これから時間あるか?」
『......でーと?』
「……ちょっと顔洗って来いよ」
『......冗談。今やってるゲームもキリがいいところだし、いいよ』
「悪いな。実はステラの家宅捜査を頼まれて……」
俺は軽くさっきのステラの話を説明しておいた。
『......なるほど。了解』
ヒカリは部屋にもともと帰っていたらしいので、準備だけするように言っておいた。
『......ステラの部屋か……どんな感じなんだろうね』
「さぁな」
中学時代、あいつの部屋に行ったことは何度かあるが……
……どうせあいつのことだ。散らかってるんだろうな……
『......兄さん』
「なんだ?」
『......一応警戒だけはしておいて。現状、わからないことが多いわけだし』
「ああ。わかってる」
そう言って電話を切った。
……ステラを操ってたやつの手がかりだけでも、見つけてやるぞ……




