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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第三章 「天《そら》照らす霞んだ希望《ひかり》」
36/111

チャプター 5-1





『魔龍の宣告--生徒120人が死亡』

その記事は、そう題されてあった。

『防衛ラインを抜けてきたクリスタルモンスターが、新中学生徒120人が集まる体育館を襲撃……』

日付は、2232/04/02 となっていたので、現在いまから3年前の出来事ということになる。

「ライト……」

死亡者リストの中に、"天風あまかぜ雷人(らいと)"の文字を見つける。

クリックすると、顔写真付のパーソナルデータが表示された。

『北星海中学1年2組1番 天風雷人』

……防衛ラインギリギリにある学校か……襲われても不思議じゃないわね……

『備考:死体発見できず。事件のモンスターとともに消え去ったという情報も』

……実際は死んでなかったんだもの。死体なんて見つかるわけ無いわ……

"モンスターとともに消え去った"

気がかりな情報この上ない。

……あとで聞いてみようかしら……

リンクはなく、説明はそこで終了していたため、ページを捲った。

「……あら?この顔……」

「……なにを熱心に調べてるんだ?」

「ひっ――ッ!!」

「そ、そんなに驚かなくてもいいだろ……」

数センチ椅子の上で飛んでしまった。

ぶつけた膝が痛い。

「もう……後ろから急になんて……やめてよ……」

「わ、悪い……」

リビングの電気を消していたせいか、近づいていたことにも気づけなかった。

「……まぁ、いいわよ。それで、なんでこんな時間まで起きてるのよ?」

「それは俺の台詞だ……」

ライトは顔をあたしのノートパソコンの画面に近づける。

……ちょっ……近い近い……

それを嫌に思わないのは、普通じゃないのかな……

「あぁ……なるほど」

「な、なによ」

「いつかは調べるって思ってたけど……」

「………………」

桜の前で聞いた話の裏を取ろうとすることは、お見通しだったらしい。

ライトは隣の椅子を引き、座る。

「……その記事は、"事実"しか書いてないよ」

「でも、ライトは……」

目を閉じて首を振るライト。

「……いや、これでも死んでるよ」

「え?」

「"こいつ"に……≪サウザントソード・ドラゴン≫に殺されたんだ」

……≪魔剣龍サウザントソード≫か……その目撃情報の少なさゆえに、存在してなかったのではとまで言われてたモンスターが……

「……本当なの?」

「ああ」

「でも、どうして……」

ライトはあたしの頭に手を置き、少し笑ってみせる。

「……ライト?」

手を離し、目を閉じてこう言った。

「……俺を殺した"こいつ"は、同時に俺を生かしているんだ」

あたしはその言葉の意味を理解するのに数十秒を要した。

「……まさか、そのモンスターのクリスタルで……」

「あぁ。"こいつ"はいま、俺の中に居る」

本当に信じがたい話だった。

あたしが未来から来たっていうことぐらい、信じがたい。

だが、それで全てつじつまが通ったことになる。

でも……

「……えっと、じゃあ、ここに写ってる"彼女"は……?」

「ステラのことだろ? ……間違いなく、そいつは今寝室で寝てるステラだ」

『北星海中学1年2組2番 天野霞あまのかすみ

画面に映っている彼女――カスミは、同じように"死亡した"と記されていた。

けれど、ライトの話によれば、彼女もモンスターのクリスタルで……

「そういえば"ステラ"ってのは、愛称かなにかなの?」

「そうだな……まぁ、そんな感じだな」

歯切れ悪いわね……

本人に直接聞いたほうが早いらしい。

「そうね……何人ぐらいそうやって生き返ったか、教えてくれるかしら?」

「……13人だ。そのうち8人が死んだ」

「………………ごめんなさい。いやなこと聞いたわね」

「いや、いいよ。隠すことでもないし」

桜の木の下で話していた"仲間"は、全員クリスタルによって生き返っていたらしい。

……13人もの命を生き返らせるなんて……いったい誰が何の目的で……

「……あなたの過去、もう少し聞かせてもらえないかしら?」

ライトは少し意外そうな顔をした後、少し悩むように頭を掻いた。

「……それもいいけどさ、俺はローザの話が聞きたい……かな」

「え……?」

悪戯っぽく笑うと、こう続けた。

「過去の話も大事かもだけどさ……もう少し、未来ローザのことが知りたいんだ」

「………………」

……そうね……ライトにばっかり話させるのも悪いし……

「聞かせてくれないか?どうやって現在ここに来たのか」

「ええ。わかったわ」

あたしはパソコンのウィンドウを全て閉じ、ライトに向き直った。

「……あたしにはね、"お兄ちゃん"がいたの……」




*********




あたしは祈った――自分の身体を犠牲にして、大切なものを守るために。

あたしは願った――これ以上"運命だった"で別れを告げたくないと。

あたしは誓った――この"力"で、運命を変えてみせる。





*********




『あ、隊長!この後暇ですか?』

数日後の放課後。

急に電話がかかってきたと思ったら、第一声がこれだった。

「……まぁ、予定はないけど」

『それなら、ウチのもと住んでた部屋に捜査にいかへん?』

「もと住んでた部屋?」

『そうそう。調べたら何か思い出すかもしれへんやん』

「なるほど。ステラがいいなら、俺は別にかまわないぞ」

『ほんまですか!? わかりました!すぐ用意しますんで、戻ってきてください!』

そう言って電話は切れた。

……捜査か……ヒカリを連れて行ったほうがいいかもしれない。

俺はヒカリに電話をかける。

『......もしもし?』

2コール目で出た。

「これから時間あるか?」

『......でーと?』

「……ちょっと顔洗って来いよ」

『......冗談。今やってるゲームもキリがいいところだし、いいよ』

「悪いな。実はステラの家宅捜査を頼まれて……」

俺は軽くさっきのステラの話を説明しておいた。

『......なるほど。了解』

ヒカリは部屋にもともと帰っていたらしいので、準備だけするように言っておいた。

『......ステラの部屋か……どんな感じなんだろうね』

「さぁな」

中学時代、あいつの部屋に行ったことは何度かあるが……

……どうせあいつのことだ。散らかってるんだろうな……

『......兄さん』

「なんだ?」

『......一応警戒だけはしておいて。現状、わからないことが多いわけだし』

「ああ。わかってる」

そう言って電話を切った。

……ステラを操ってたやつの手がかりだけでも、見つけてやるぞ……





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