幕間3
幕間3
「じゃあ、"コード・スイーパー"完遂ということで、乾杯!」
「「「「かんぱーい」」」」
手に持ったグラスをあげ、一口飲む。
昔から変わらないメロンっぽい甘さと炭酸のさわやかさが口を満たした。
……打ち上げなんて久しぶりだな……
人のまばらなレストランの一角。
遅めの昼食ついでに催された打ち上げパーティー。
意外にも、提案者はローザだった。
その上、奢りだとか。
……まぁ、ある意味でローザにとって大きな一歩になったもんな……
そこまでして喜びを分かち合いたい気持ちはわかる。
「お疲れ、ライト」
なぜかケンが向かい側に座っていた。
「……なんでお前までいるんだよ?」
「いいじゃねぇか。トドメさしたのオレだしよ」
「まぁそうだが……」
おかげで99パーセントを焼却できて、カノープス本体も消滅。 残りは防衛ラインのオートマトンが倒してくれるはずだ。
「......兄さん、あんまり嬉しそうじゃないね?」
隣に座るヒカリが首をかしげる。
「そ、そうか?」
「......うん。疲れてるみたいに見える」
「……いやまぁ、疲れてるのは事実だけどな」
ステラを学校に連行して、直行で向かったわけだし……
「あ、そうそう、ライトくん」
ケンの隣で、ずっとストローを口から離さなかったヒヨが、思い出したように口を開く。
「メール来てると思うけど、熊谷先生があとで話があるって言ってたよ」
「話か……わかった。ありがとう」
「あ、料理が来たみたいよ!」
俺たちの机に、皆が頼んだ料理が次々と運ばれてくる。
ローザが山積みになったワッフルに、ヒカリが同じく山積みになったドーナッツに、それぞれ目を輝かせているのを横目にメールを確認する。
『お前の連れてきたおてんば娘の今後の処置について話がある』
という書き出しに続き、場所と時間が後ろのほうに記されていた。
……この時間なら、打ち上げ終わってからでも間に合いそうだ……気を効かせてくれたのか……?
俺はケンが頼んだピザを横から奪い取り、パーティーを再開することにした。
殴られても返さんぞ。 ローザの奢りだしな。
*********
「ふぅ……ちょっと食べ過ぎたかしら……」
「そりゃあ、あんな量食べたら……」
帰り道、軽い運動気分で歩いて帰ることにした俺とローザ。
ヒカリは「......用事がある」と言って先にバスに乗っていってしまった。
「楽しかったわね」
「あぁ。そうだな」
「………………」
「………………」
海に沈もうとする赤い夕日を眺めつつ歩く。
ローザも赤く染まった空を眺めているようだ。
「……なぁ、ローザ」
「ん?」
「……本当に未来は変わったのか?」
「……そうね」
呟き、足を止めるローザ。
「少なくとも、この辺りの平和を保てたことは事実ね」
「……やっぱり、本来は仕留めきれずに……」
つい言ってしまったが、
「ええ。破壊の限りを尽くされたわ」
ローザはそれを否定しない。
にわかには信じられない話だった。
だが、ローザが嘘をついてるとも思えない。
「じゃあ、やっぱり未来は……」
「少しとはいえ、変わったと思うわ」
……変わったのか。 そうか……もう、変えてしまったんだな……
「気が早いかもしれないけど、今後どうなるかはわかってたりしないのか?」
「そうね……しばらくの間は何も無いと思うけど……」
ローザは例の本を取り出す。
「……うん。 特にあたしたちが動くような事はなさそうね」
「そうか」
それならひとまずは安心だな。
「まぁ……この本の信憑性はそんなに高くないけど、多分大丈夫よ」
「そ、そうか」
大丈夫か、それ……?
その後、俺は学校に用があるとローザに告げ、指定されていた場所へ向かった。
そこは……意外にも……と言うかいつも通り、保健室だった。
「うぅ……」
そこのベッドでうなされているのはステラだろう。
頭まで布団を被っている。
「……先生。何したんです?」
軽く睨むと、先生は髪をいじりながら目をそらした。
……やりすぎなんだよ……
どうせあれこれ聴きだすために恥辱の限りを尽くしたのだろう。
「……それはそうと、何か聞き出せたんですか?」
「それが、思い出そうとすると頭が痛むと訴えてね……」
「え?」
モンスターを召喚していた本人であることは間違いないそうだが、肝心のクリスタル関連の話は何も聞き出せなかったらしい。
記憶が消されたのはマジだったというわけだ。
「そんなわけで、犯行時ことがわからないんじゃ身柄拘束もあれだし……」
「……なんです?」
熊谷先生は少し笑ってこちらを向く。
「君をこの娘の監視役にしたいんだが、どうだろう?」
「……監視役?」
「時間がたてば話を聞き出せるかもしれないだろ?だから、それまでお前にこの娘の監視を頼みたい」
「どうして俺が……」
「連れてきたのはお前だろ」
秒で反論を喰らった。
「………………」
……どうしてこうなるんだ……
そうして殺されずにすんだステラを抱えて帰宅した俺は、ローザたちに事情を話すことに。
「……なるほど。この娘が犯人だったのね」
「......でも、こんな形で再会することになるなんて……」
意外にも、あまり否定的な反応は返ってこなかった。
ヒカリ的には久しぶりの再会のはずだし、話ぐらいはさせてあげたいところだが……
「監視役任されたんでしょ?」
「あぁ。この部屋でしばらく様子を見ようと思うんだが……」
……ここで否定されたら、部屋移らないとダメだな……
などと考えていたが、
「......別にいいよ。話したいこといっぱいあるし」
「そうね。断る理由もないし」
「そ、そうか」
予想に反して受け入れられてしまった。
ただ、ローザの目が怖いのはちょっと不安要素だが。
「少しでも怪しい行為を見かけたら、あたしが代わりに指導しておくわ」
……なにかステラに恨みごとでもあるのだろうか。 あとでしっかり言っておかないと……
意識を取り戻さないステラのコートを洗濯機に突っ込み、ステラをベッドに寝かせる。
……結局、寝室埋まっちまったな……
一人で使っていたときは広いものだと思っていたのに、今となっては上限の4人が揃ってしまった。
「……ライト」
寝室の入り口から声がした。
「ローザか」
少し不安げな表情の彼女は、そのまま近づいてくる。
「……その子、事件のときの記憶がないって聞いたけど」
「あぁ。そうなんだよ」
どこから聞いたかは、今は追求しないことにした。
「何か心当たりは無いの?」
「……あるにはある」
俺は洞窟で起きた一連の流れを説明した。
トイレの件は伏せたが。
「その"誰か"が記憶を奪ったの?」
「奪ったというよりは、消した……だと思うけど」
「……あの本に、集団記憶喪失についての記述があったの」
テロにも似た、モンスターを使った管理区への攻撃。
そのモンスターを使用した犯人数十人ともが、その時の記憶までの一切を忘れていたというものらしい。
「"コートに身を包んだ男"なんてどこにも出てないけど……なにか関係ありそうよね」
……それで少し警戒気味なのか……
「その男の特徴が"目が紅い"ってだけじゃ特定できないし……」
ちょうど、ローザの目の色に近い感じだった。 何か関係がある……訳ではなさそうだ。 ヒカリも赤かった。
「……その娘が目を覚まして何か聞き出せたら、あたしにも聞かせてちょうだい」
「あぁ。わかった」
「あ、それと……」
ローザが思い出したように付け足す。
「『破廉恥な行為を強制された』って報告書に書いてあったんだけど、一体どういうことかしら?」
……熊谷の野郎……どうでもいいこと記録しやがってッ!!
「説明してもらえるかしら?」
「あ、はい……」
ローザは確かに笑顔なのに、目は一切笑っていなかった。断る選択肢などない。
……ステラ……起きてきたら覚えておけよ……!!




