チャプター 4-7
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「ライトーー!!」
あたしの叫びは届いたのか、ライトはカノープスの攻撃を躱した。
ほっと胸を撫で下ろして再びそこを見るが、そこにはもう誰もいなかった。
何か言っていたような気がしたが、聞き取ることはできなかった。
「もう……いったいどこに……」
「......赤月先輩、上!」
「なッ――!?」
あたし目掛けて振られた大鎌を視界に入れたときには、もう逃げるだけの時間は残されていなかった。
「このッ!!」
背中の大剣を抜いて、そのまま展開させつつパリングを狙う。
「――ッ!?」
受けた鎌の重みは、想像を遥かに越えるものだった。
……あと数センチずれてたら……
肩を掠めて、鎌が地面を叩く。
……大剣が無ければ、腕を持っていかれたかもね……
地面に突き刺さった大剣を抜き、バックスッテップで後退した。
額を伝う冷や汗をぬぐい、少し乱れた呼吸を整える。
「......大丈夫です?」
「え、ええ……」
カノープスは鎌を戻し、こちらに視線を移す。
その間に、ポケットから通信機を取り出し、左耳に装備した。
電源を入れ、視線をヒカリに移す。
ヒカリはすでに装備し終えていた。頷いて視線を前に戻す。
「......ヒヨ、準備はいい?」
『ええ!状況は大体把握してるわ、ヒカリちゃん!』
通信機から二人の声が聞こえてくる。
「......作戦通りに行くよ」
『戦術プランは確認済みよ。支持は随時出していくわ』
「......お願い」
……戦術プラン……? 情報は与えたけど、プランまでは……
『ローザちゃん。聞こえてる?』
「え、ええ。聞こえてるわよ」
『実は、ヒカリちゃんが今朝、ローザちゃんには内緒でって戦術プランを送ってくれたの』
……なるほどね。 通りで……
『それで作戦なんだけど……』
そこまで聞いたとき、カノープスは前転の要領で、自身の胴体と尾をこちらに振ってきた。
風を切って迫る刃を、左右に避けて躱す。
「……そのまま話しててちょうだい。聞いてるわ」
『う、うん。……カノープスの攻撃パターンは、ローザちゃんが一番よく知ってると思うけど……』
カノープスの起こす地響きに足を取られないようにしつつ、背後へ回る。
薙倒された木々が軽い遮蔽物になっていたが、この程度では隠れることは出来ないだろう。
だが、カノープスはあたしたちを見つけれずにいるらしい。追撃がこない。
『弱点はやっぱり"頭部"みたいよ。あと、胴体は≪自動修復≫されるようね』
「くぅ……これだから大型は嫌いなのよ……っ!」
両手で握る大剣に力をこめる。
……自動修復だかなんだろうが……頭をかち割ればこっちのもんよ……!
「......慢心は、ダメ」
隣で同じ説明を受けていたヒカリが念を押す。
「わ、わかってるわよ!」
『じゃあ、始めるよ! カウントスタート!』
ヒヨの掛け声を合図に、ヒカリが二本のビームサーベルを取り出し、クリスタルを装填して飛び出した。
「......はぁあああ!!」
そのまま刃を展開し、カノープスの背中を切り裂く。
「......≪天津風流龍剣術≫」
着地と同時に聞こえてきた、ライトがよく言うのと同じフレーズ。
片方のクリスタルが砕け、粒子がヒカリを淡く包んだ。
「......≪閃華≫!!」
ムーンサルトの要領で飛び上がり、光速の剣撃を繰り出すヒカリ。 目で追うのでやっとだ。
「......≪シャイニング・エッジ≫!!」
もう片方のクリスタルも砕け、空中でヒカリが舞う。
その剣先から撃ち出された光の刃が、カノープスのムカデのような足を切り裂いていった。
「......先輩!!」
「わかってる!」
大剣にクリスタルを装填し、カノープスの正面に躍り出る。
痛みに苦しんでいるらしいカノープスが、その鎌をあげて反撃しようとしてくる。
「そうはいかないわよ!!」
フォトンウィングを展開し、上昇する勢いで鎌を弾く。
「まだまだぁ!!」
弾いた反動を利用して、さらに上昇する。
カノープスの追撃が追いつく前に、頭部に到達した。
「≪血薔薇の衝動≫!!」
渾身の一撃を、カノープスの頭部にぶち込む。
「ヒカリ!!!」
「だぁぁぁああああああ!!!」
カノープスの脊髄を駆け上ったヒカリが、上空に飛び出す。
「………くっ!!」
しかし、足の修復を終えたカノープスは、逃げるように後転しつつ、あたしたちを振り払った。
「......がぁあ!?」
ヒカリはカノープスの尾をモロにくらい、地面に叩きつけられる。
「ヒカリ!?」
「......ぐぅ……油断、したかな……」
反撃の糸口を掴んだらしいカノープスは、怒り狂ったように鎌を振り回した。
風を切り裂く音を立て、木々を切り飛ばしていく。
ヒカリに肩を貸してやり、フォトンウィングで後退する。グダグダしていたら木々ごと切り飛ばされてしまいそうだ。
『ライトくんがもう少しで合流するって! 作戦のフェイズCへ移行するよ!』
インカムからヒヨの声が。 もう作戦なんて破綻してしまったが、ライトが無事なのは確認できたので良しとしよう。
「……大丈夫なの?」
あたしに掴まるヒカリの容態を伺う。
「......このぐらい、平気」
十分に離れたポイントでヒカリを降ろす。
少しふらつきながらも、カノープスへ向き直るヒカリ。
カノープスはあたしたちを探しているのか、突進するようにあちこちを動き回っている。
動くたびに樹木が吹き飛ばされているのを見るに、無差別攻撃を開始したようだ。
「他のモンスターの反応はないの?」
レーダーを見ているはずのヒヨに聞いてみる。
『……今のところは、カノープスだけみたい』
「よし。ヒカリ、あたしがタゲを取ってるうちに、カノープスの背中に飛び乗って!」
「......う、うん。 わかった」
「ヒヨ、あいつの弱点ってなんだったかしら?」
『光に反応するんだよね? 眩しいのが苦手なのかも』
「……ナイスアドバイスよ、ヒヨ!」
あたしは剣を構えて走った。
フォトンウィングで飛び出し、カノープスの目の前へ。
「こっちよ! ≪血薔薇の拘束≫!!」
大剣を強振し、カノープスの動きを一瞬止める。
反動で下りつつも、オマケで発生した光で、しっかりカノープスの視線を捉えさせる。
「鬼さんこちら〜ってね!」
追いつかれないように逃げつつ、カノープスを指示通りに誘導する。
狙い通り、カノープスは挑発に乗って追いかけてくれる。
「......いい誘導です!」
ヒカリは無事に飛び乗れたようだ。
「じゃあ……急ブレーキにご注意くださいっ!」
「......え?」
翼を大きく翻し、ほぼ直角に上昇する。
それを追うカノープスは、同じく上昇するも、途中で勢いが止まってしまった。さすがに重力には抗えなかったよう。
それでもあたしを捉えようと鎌がハサミのように振られたが、届かなかった。
「ヒカリ!!」
「......うん!」
ヒカリがカノープスの頭を、後ろから突き刺す。
痛みに悲鳴をあげたカノープスは、そのままうしろへ倒れていった。
「さぁ、止めよーーライト!!」
そう、叫んだ。
「だあぁぁぁぁああああああああ!!!!」
その先から、期待通りの声が聞こえてくる。
「≪雷切≫!!!」
ライトの一閃は、カノープスの頭を切り落とすのには十分だった。
カノープスは断末魔とともに崩れ去って行く。
「よっと」
剣を素早く仕舞ったライトは、振り落とされたヒカリを回収して着地した。
「ふぅ……間に合ったみたいだな」
あたしたちが無事なのを確認して、笑顔を見せるライト。
あたしは、そんなライトに笑い返す。
「まったく、心配させないでよね」




