チャプター 4-6
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『――――ッ!!!』
カノープスの叫びが森の中で木霊する。
龍骨の頭に蛇のような骨格が生えており、手にはカマキリにも似た大鎌が付いていた。
「くっ……」
俺は周囲をさっと目だけで確認する。
「ライトーー!!」『マスター!!』
「――っ!!」
耳に同時に届いた声で、俺はカノープスの鎌が振りかぶられていることに気づく。
「ステラ、来い!」
「え……!?」
ステラを抱えてその場を離脱した。
翼を展開し、木々の間を縫いながら飛ぶ。
「……ったく、お前は何を考えてるんだ」
「まぁまぁ、そう怖い顔で怒らんといて下さいよ」
ステラはさっきの泣き顔が嘘のようにケロっとしている。
まぁ、実際演技だったんだろうけど。
「……で?こんな事して何のつもりだよ?」
「隊長さんに会いたいって人がいるってのは、ほんまやで?」
「そいつに頼まれたのか?」
「まぁ、早い話がそうや」
こんなことをさせてまで、俺を呼び出したいのか。 とんだ変わり者だな、そいつは。
「その辺で様子見てるみたいやったから、しょっぱい演技に付き合ってもらったっちゅうわけや」
「絶対必要なかっただろ……」
「そう言わんとってくださいよ。こうしないとあいつに身体の半分とお別れさせられる羽目に……」
などと言って腕の中で震えてみせるステラ。
演技かと思ったが……
「……そんなことされるのか?」
「あの野郎ならやりかねんな」
「マジかよ……」
真顔で言われては疑いようもない。
……もう少し話を聞く必要があるな……
俺はそんな話を聞き流しつつ、鉱山の入り口付近にある小さな洞窟へ入る。
そこでステラを降ろし、預かっていた手錠を取り出す。
「え……隊長さんってそういうプレイが好きやったん?」
「ボケてる場合か」
俺は否定する気にもなれず、さっとステラの手を拘束した。
「……抵抗しないんだな」
「……そんなエロ同人みたいなこと言わんとってな」
顔を少し赤らめてこちらに目で訴えてくる。
……いちいち反応しないでくれ……
『......マスター、何をしているの……?』
「ポル、これは仕方なく、本当に仕方なくだな……」
『......言い訳は聞きたくありません』
「誤解だッ!」
「隊長さん……?」
……そうか、ステラはポルたちのこと知らないんだったな……
「いや、なんでもない」
腕だけの拘束で逃げられては困るので、足にも手錠をつけておく。
「……ウチのこと、どうするつもりなん?」
「そうだな……」
考えてみれば、ここは薄暗い洞窟で誰も入ってこないだろう状態で。
ステラは拘束されて、反抗するにもできない状態で。
……そう、まさにエロ同ーー
『......マスター?』
ポルの呼びかけは、俺の頭と背筋を冷やすには十分だった。
……こんな思考回路ができたのはケンのせいだ。 あとで殴ってやろう。
「……そろそろ、お前の依頼者を教えてもらえるか?」
「ま、そうくるわな」
ステラはどこかでその質問を待っていたような口調だった。
「その前に、ひとつだけ忠告させてな」
「なんだ?」
「……悪魔はまだ生きてるで。気ぃつけや」
「――ッ!」
冗談……としか思えなかった。
ヒカリの作ったレーダーにそれらしき反応は無かったし、目撃情報も無かった。
だが……ステラの証言が、それらの情報を無駄にしていく。
生きている。
……そんなの冗談に決まってる。そうだ。いつもの面白くないジョークだろ……?
「……誰からの情報だ?」
「それは依頼者の――ッ!!」
「……おいッ!大丈夫か、ステラ!」
突然苦しみ始めたステラは、頭を抱えて蹲ってしまった。
「ふぅ……危ない危ない」
「――ッ!誰だッ!」
入り口から聞こえた声に振り向くと、見慣れない影がそこにあった。
身長は俺と同じぐらいだろうか。
目深にかぶっているフードのせいで、顔はよく見えない。
だが、そいつの紅い目だけは印象的に光っていた。
「……そうだね。そこの女の依頼人……とでも言っておこうか?」
「な……」
本人から来るとは思ってもいなかった。
「ボクのことがバレたら色々困るからね。その女の記憶は一部消させてもらったよ」
……記憶を消した……だと……
「何が目的だ!」
「君と話をすること……かな」
「……ふざけてるのか」
「とんでもない」
「………っ!!」
声が後ろから聞こえたと思った時には、ステラのそばでそいつがしゃがんでいた。
「ステラ!」
このままだと、ステラを連れて行かれるかもしれない。
その不安が頭をよぎった瞬間、俺は動いていた。
ーー≪雷切≫!!
「おっと!」
「ーーッ!!」
タイミングは完璧だったにもかかわらず、そいつは軽々と俺の後ろへ跳んで攻撃を躱した。
……雷切が、避けられた……?
「いやー、やっぱり君は面白いね。ここまでおびき寄せて正解だったよ」
「このっ……!!」
追撃を加えたいところだが、攻撃の反動で体が思うように動かない。
「……じゃ、またね。"ライト君"」
「な……ッ!」
俺の名前を呼び、そいつは外へ消えた。
後を追うも、外に出た時にはもう姿は見えなかった。
「……ポル。さっきのやつに見覚えはないか?」
『......ごめんなさい。あの人が、クリスタルモンスターと同じ反応を示していたこと以外は何も……』
「……そうか。 それだけわかっただけでも助かる。 ありがとう」
……モンスターレーダーには反応したのか……
結局あいつが何者かも、どうしてステラを使ったのかも、そしてどうして俺と話したかったのかもわからなかった。
……ステラの意識が飛ばなければ……
「……そうだ、ステラは!?」
急いで中へ戻り、ステラの容態を調べる。
「……うぅ……隊長さん?」
揺り起こしてみると、意外にもすぐに反応があった。
「ステラ、大丈夫か?」
体を起こしてやる。
「え……何で隊長さんが……って、何やこの格好!?」
動かない手足をジタバタさせ、抗議するステラ。
「その様子だと、大丈夫そうだな」
「どこが大丈夫やねん!」
半泣きのステラの頭を軽く叩いて落ち着かせ、立ち上がる。
「悪いけど、もう少しそのままじっとしていてくれ」
「え、隊長さん、うちに何する気ですの?」
「だから、何もしねーよ……」
『………………』
ポルの無言の威圧が俺を戒める。
いや、どうしてそんなに警戒するんですかね……
「ま、待ってや! どこ行くん!?」
……この状態じゃ聞き出すにも聞き出せねぇな……
「せめてこの手鎖外してや!」
うるさいステラを放置し、俺はローザたちの元へ飛ぶ。
「ちょっ、隊長さん〜!」
ステラの叫びは俺の耳には届かなかった。
今頃、ローザとヒカリがカノープスと応戦しているはずだ。
……あいつらなら、大丈夫だよな……




