チャプター 4-5
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「......兄さん、ちょっといい?」
「ん?なんだ?」
寝室へ向かう途中、ヒカリに呼び止められた。
「......わかってると思うけど、その"能力"を使いすぎるのは……」
「……なんだ、そんなことか」
……こんな時間に呼び止めるから、何事かと思ったぞ……
「......そんなことって……」
「わかってるよ。この能力源は、俺の命そのものだからな」
自分の心臓の辺りに指を立てる。
そこから伝わってくる鼓動は、昔に比べれば少しゆっくりになっていた。
「......本当にわかってるの?」
「ああ。ありがとうな。ヒカリ」
頭を軽く叩いてやる。
「......もう、兄さんのわからずや」
ヒカリはそっぽを向いてしまう。
「……出し惜しみして死ぬのは嫌だからさ」
苦笑いでそう付け加えた。
「でも、最後までなるべく使わないようにするよ」
そこまで言ったとき、ヒカリはようやくあきらめたようにため息をついた。
「......まったく、本当に仕方のない兄さん……」
俺は笑って誤魔化すしか無かった。
……嘘なんて、簡単に見破られるもんなんだな……
*********
次の日の朝。
今日は土曜日なので学校はない。
「さて……準備はいいかしら?」
だが、任務執行のために学校に集まっていた。
休みの日でも人気のあるラウンジだが、今朝は珍しく俺たちしか居ない。
「今回の任務の内容は昨日も言ったけど、あくまで鉱山の調査だからね?」
「わかってるよ」
「......んー」
隣で返事をするヒカリは眠そうにしている。
基本的に朝は弱いタイプだもんな、ヒカリは……
「サポートはわたし達に任せてね」
ローザが頼んだのか、ヒヨもオペレーター装備でスタンバイしていた。
「悪いな、ヒヨ。いろいろ巻き込んじまって」
「ううん。気にしないで!わたしがやりたいって言ったんだし」
「そうか……じゃあ、よろしく頼む」
「うん、こちらこそ!」
「ほら、ライト、行くわよ!」
ローザが≪フォトンウィング≫を展開し、出発の準備を終えたことを伝える。
「よし、行くか」
ローザに倣って粒子の翼を展開し、ヒカリを抱える。
久しぶりに触れた彼女の身体は、思っていたよりもやわらかく、温かかった。
……ちゃんと飯食ってるのかな……お兄ちゃん、心配だぞ……
「......うぅ……着いたら起こして……」
「ああ。ゆっくり休んでいてくれ」
ローザに合図をし、鉱山へ飛翔した。
≪サーチャー≫を装備し、起動する。
『あ、マスター。おはようございまーす』
「……あ、ああ。おはよう」
元気なトルの声が響く。
慣れない声に少し戸惑ってしまった。
『あれ?元気ないですねー……緊張してるのですか?』
「……そういうわけじゃないんだが……」
……緊張、ねぇ……
してないと言えば嘘になるかもしれない。
だが……戦場に赴くことへの緊張感など、とっくの昔に忘れてしまった。
『それにしてもこの戦術プランは、誰が考えたのですか?』
今朝起きたときに送られてきていたデータのことだろう。 勝手に見ているとは思っていなかったが……
「それは、ここで眠ってるお姫様が書いたんだ」
俺の能力を極力使わない戦い方などが記されたデータ。
きっと昨日、あのあとに書いたものだろう。
『ああ、あの写真の方ですね?』
「……あれのことはもう忘れてくれ」
どうでもいい記憶はポイしてください。
『それはそうと、この戦術、興味深いですね』
「ローザからの事前情報を使いまくった、超メタ戦法だしな」
『なるほど、これだけの情報、よく集めましたね……』
……たしかに、しばらく見ていないと思ったが、いったいどれだけの時間をこの作戦に費やしたのだろうか。
そう考えると、ますます失敗するわけにはいかないと思ってしまう。
『マスター。そろそろ鉱山ですよ』
「あ、ああ。わかった」
俺はトルに周囲を警戒するように言い、麓の森に降り立った。
「ほら、ヒカリ。着いたぞ」
「......うん……ふあぁ……」
欠伸をしつつ、俺から降りる。
「ライト、行くわよ」
「ああ。頼む」
ローザが先頭に立ち、カノープスの出現ポイントまで移動する。
「ここで待機して、モンスターが召喚されるのを待つわよ」
当初の作戦では、ローザがその召喚を行った犯人を捕まえ、俺たちがモンスターの相手をする、というものだった。
召喚……そんなことが可能なのはごく一部のはずだし、これなら目撃情報がなかったのも頷ける。
「ローザ。犯人探し、俺にやらせてくれないか?」
「え……?」
「嫌な予感がするんだ。なんとなく」
「そんな理由で納得するとでも?」
「……頼む、ローザ。……犯人に少し、心当たりがあるんだ」
「なんですって?」
「だから頼む。俺に行かせてくれ」
「………………」
ローザは顎に手を当て、目を閉じた。
「……全く……しくじったらワッフル100個は奢ってもらうわよ?」
そう言いながら、ローザは笑って許可してくれた。
「あ、ああ。わかったよ」
俺はヒカリに目配せし、目立たないように移動した。
……俺にもあったじゃねぇか、メタ情報。
俺はステラからの手紙の内容を思い出していた。
……そこに書いてあった情報によれば……
『マスター!右後ろです!』
唐突にトルの警報が耳に入った。
「くッ……誰だ!」
ビームサーベルを抜き、構えた。
「……うんうん。ええ反応やな。全然鈍ってへんみたいで、安心したわ」
そう言って背後の木から歩み出てきたのは……
「な……ステラ……?」
「…………」
少し驚いたような表情を見せたステラ。
「……まだウチのこと、そう呼んでくれるんやな、"隊長"さん」
そう呼ぶ彼女は間違いなく、俺と同じ生き残り、ステラだった。
「どうしてこんなところに?」
わかっていても、聞かずにはいられなかった。
「もちろん、隊長さんに会うためですよ」
「何……?」
「そんな怖い顔せんとってください。何もしませんから!」
「………………」
再会できたことを素直に喜ぶべきだと思ってはいるが……何かが引っかかる。
「まぁ、立ち話もなんですし、少し移動しましょうよ」
「どこへ……?」
「……隊長さんに、会ってみたいって言う人がいるんよ」
ステラの目が、何かを伝えようとするようにまばたきされる。
その情報を読み取った俺は、誘導通りに質問をぶつけた。
「……断ると言ったら?」
ステラは少し微笑みながらも、どこか悲しい顔をして、こう続けた。
「悪いけど、力尽くでも持って帰れと言われてんねん」
そして、ポケットから見たこともないクリスタルを取り出した。
「……ごめん。ごめんな、隊長さん」
そう呟き、クリスタルを投げた。
その時点でことのほぼ全てを悟った俺は、退避するステラを止めず、この現状を受け止めた。
クリスタルが地に着いた途端、クリスタルが砕け、地面が揺れ始めた。
「……ステラ。あとで話がある」
「………………」
ステラは何も言わない。
『マスター!地下から巨大な反応が!』
「ちっ……最悪のパターンだったってことかよ……」
そこに現れたのは予想通り、情報通りの姿をした、≪カノープス≫だった。
だが、まさかステラが犯人とは……
「……ごめん……」
カノープスの起こす地響きの中で、ステラの声だけが聞こえた。




