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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第ニ章 「現在《いま》を駆ける探索者《シーカー》」
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チャプター 4-5



「......兄さん、ちょっといい?」

「ん?なんだ?」


寝室へ向かう途中、ヒカリに呼び止められた。


「......わかってると思うけど、その"能力ちから"を使いすぎるのは……」

「……なんだ、そんなことか」


……こんな時間に呼び止めるから、何事かと思ったぞ……


「......そんなことって……」

「わかってるよ。この能力源クリスタルは、俺の命そのものだからな」


自分の心臓の辺りに指を立てる。

そこから伝わってくる鼓動は、昔に比べれば少しゆっくりになっていた。


「......本当にわかってるの?」

「ああ。ありがとうな。ヒカリ」


頭を軽く叩いてやる。


「......もう、兄さんのわからずや」


ヒカリはそっぽを向いてしまう。


「……出し惜しみして死ぬのは嫌だからさ」


苦笑いでそう付け加えた。


「でも、最後までなるべく使わないようにするよ」


そこまで言ったとき、ヒカリはようやくあきらめたようにため息をついた。


「......まったく、本当に仕方のない兄さん……」


俺は笑って誤魔化すしか無かった。


……嘘なんて、簡単に見破られるもんなんだな……



*********




次の日の朝。

今日は土曜日なので学校はない。


「さて……準備はいいかしら?」


だが、任務クエスト執行のために学校に集まっていた。

休みの日でも人気のあるラウンジだが、今朝は珍しく俺たちしか居ない。


「今回の任務の内容は昨日も言ったけど、あくまで鉱山の調査だからね?」

「わかってるよ」

「......んー」


隣で返事をするヒカリは眠そうにしている。

基本的に朝は弱いタイプだもんな、ヒカリは……


「サポートはわたし達に任せてね」


ローザが頼んだのか、ヒヨもオペレーター装備でスタンバイしていた。


「悪いな、ヒヨ。いろいろ巻き込んじまって」

「ううん。気にしないで!わたしがやりたいって言ったんだし」

「そうか……じゃあ、よろしく頼む」

「うん、こちらこそ!」

「ほら、ライト、行くわよ!」


ローザが≪フォトンウィング≫を展開し、出発の準備を終えたことを伝える。


「よし、行くか」


ローザに倣って粒子の翼を展開し、ヒカリを抱える。

久しぶりに触れた彼女の身体は、思っていたよりもやわらかく、温かかった。


……ちゃんと飯食ってるのかな……お兄ちゃん、心配だぞ……


「......うぅ……着いたら起こして……」

「ああ。ゆっくり休んでいてくれ」


ローザに合図をし、鉱山へ飛翔した。





≪サーチャー≫を装備し、起動する。


『あ、マスター。おはようございまーす』

「……あ、ああ。おはよう」


元気なトルの声が響く。

慣れない声に少し戸惑ってしまった。


『あれ?元気ないですねー……緊張してるのですか?』

「……そういうわけじゃないんだが……」


……緊張、ねぇ……


してないと言えば嘘になるかもしれない。

だが……戦場に赴くことへの緊張感など、とっくの昔に忘れてしまった。


『それにしてもこの戦術プランは、誰が考えたのですか?』


今朝起きたときに送られてきていたデータのことだろう。 勝手に見ているとは思っていなかったが……


「それは、ここで眠ってるお姫様(ヒカリ)が書いたんだ」


俺の能力を極力使わない戦い方などが記されたデータ。

きっと昨日、あのあとに書いたものだろう。


『ああ、あの写真の方ですね?』

「……あれのことはもう忘れてくれ」


どうでもいい記憶データはポイしてください。


『それはそうと、この戦術、興味深いですね』

「ローザからの事前情報を使いまくった、超メタ戦法だしな」

『なるほど、これだけの情報、よく集めましたね……』


……たしかに、しばらく見ていないと思ったが、いったいどれだけの時間をこの作戦に費やしたのだろうか。


そう考えると、ますます失敗するわけにはいかないと思ってしまう。


『マスター。そろそろ鉱山ですよ』

「あ、ああ。わかった」


俺はトルに周囲を警戒するように言い、麓の森に降り立った。


「ほら、ヒカリ。着いたぞ」

「......うん……ふあぁ……」


欠伸をしつつ、俺から降りる。


「ライト、行くわよ」

「ああ。頼む」


ローザが先頭に立ち、カノープスの出現ポイントまで移動する。


「ここで待機して、モンスターが召喚されるのを待つわよ」


当初の作戦では、ローザがその召喚を行った犯人を捕まえ、俺たちがモンスターの相手をする、というものだった。

召喚……そんなことが可能なのはごく一部のはずだし、これなら目撃情報がなかったのも頷ける。


「ローザ。犯人探し、俺にやらせてくれないか?」

「え……?」

「嫌な予感がするんだ。なんとなく」

「そんな理由で納得するとでも?」

「……頼む、ローザ。……犯人に少し、心当たりがあるんだ」

「なんですって?」

「だから頼む。俺に行かせてくれ」

「………………」


ローザは顎に手を当て、目を閉じた。


「……全く……しくじったらワッフル100個は奢ってもらうわよ?」


そう言いながら、ローザは笑って許可してくれた。


「あ、ああ。わかったよ」


俺はヒカリに目配せし、目立たないように移動した。


……俺にもあったじゃねぇか、メタ情報。





俺はステラからの手紙の内容を思い出していた。


……そこに書いてあった情報によれば……


『マスター!右後ろです!』


唐突にトルの警報が耳に入った。


「くッ……誰だ!」


ビームサーベルを抜き、構えた。


「……うんうん。ええ反応やな。全然鈍ってへんみたいで、安心したわ」


そう言って背後の木から歩み出てきたのは……


「な……ステラ……?」

「…………」


少し驚いたような表情を見せたステラ。


「……まだウチのこと、そう呼んでくれるんやな、"隊長"さん」


そう呼ぶ彼女は間違いなく、俺と同じ生き残り、ステラだった。


「どうしてこんなところに?」


わかっていても、聞かずにはいられなかった。


「もちろん、隊長さんに会うためですよ」

「何……?」

「そんな怖い顔せんとってください。何もしませんから!」

「………………」


再会できたことを素直に喜ぶべきだと思ってはいるが……何かが引っかかる。


「まぁ、立ち話もなんですし、少し移動しましょうよ」

「どこへ……?」

「……隊長さんに、会ってみたいって言う人がいるんよ」


ステラの目が、何かを伝えようとするようにまばたきされる。

その情報を読み取った俺は、誘導通りに質問をぶつけた。


「……断ると言ったら?」


ステラは少し微笑みながらも、どこか悲しい顔をして、こう続けた。


「悪いけど、力尽くでも持って帰れと言われてんねん」


そして、ポケットから見たこともないクリスタルを取り出した。


「……ごめん。ごめんな、隊長さん」


そう呟き、クリスタルを投げた。

その時点でことのほぼ全てを悟った俺は、退避するステラを止めず、この現状を受け止めた。

クリスタルが地に着いた途端、クリスタルが砕け、地面が揺れ始めた。


「……ステラ。あとで話がある」

「………………」


ステラは何も言わない。


『マスター!地下から巨大な反応が!』

「ちっ……最悪のパターンだったってことかよ……」


そこに現れたのは予想通り、情報通りの姿をした、≪カノープス≫だった。

だが、まさかステラが犯人とは……


「……ごめん……」


カノープスの起こす地響きの中で、ステラの声だけが聞こえた。






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