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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
プロローグ 「終わりの始まり」
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チャプター 1-2



寮から学校までのマラソンの末、ようやく学校にたどり着いた。

学校は人工島の上のしかも南の方にあるので、余裕で時間には間に合わなかった。

今更引き返すこともできないので、靴箱へ向かう。


「えっと、教室は……」


張り出されている張り紙を確認し、教室へ。

丁度、体育館で行われていた始業式が終わったらしく、生徒が教室に戻っているのが見えた。

この波に乗って、何事もなかったの様に教室へ入る。


「あ、ライトくん!」

「お、ヒヨ。 それにケンも」


そこで待っていたのは、幼馴染のヒヨと、これまた同じく幼馴染のケン……"天海剣人"だった。

どうやら今年は同じクラスだったらしい。 張り紙で確認しておけばよかったと思うが、そんな余裕はなかった。


「ライトくん、遅かったから心配しちゃったよ~」

「ああ……まぁ、ちょっといろいろあってな」

「いろいろって何だよ? ナンパでもされたか?」

「バカ言うな」


ケンが掛けているメガネを光らせ、そう聞いてくる。

とりあえず腹パンを決めておいた。 これでしばらくは黙るだろう。

……ケンは"そういうこと"に目がない。

それさえなければな……と、いつも思ってしまう。

これでも生徒会とかいうエキスパート集団の一員なのだから、どこでどう間違えるかわかったものではない。


「HRはじめるぞ。 さっさと席に着け…………ん?」


そこに、既視感バリバリの先生が入ってきた。

そして俺の顔を見るなり、ため息をつく。


「始業式早々遅刻なんて、お前ぐらいだぞ。ライト」

「熊谷先生……」


この白衣が似合うお姉さんは、去年俺のクラスの担任を勤めた熊谷先生。 さばさばしていて女性らしさはその身体以外見当たらないが…………どうやら今年も俺のクラスを担当するらしい。

……これ以上はやめよう。 そして早く席に着こう。 何か言われる前に。


「目つきが厭らしいぞ」

「変な言いがかりはやめろ!?」


腹パンを貰った。 ついノリでタメ口になってしまったぐらい、許して欲しいところではある。


……てかケンやめろその同属を見るような目。 マジで。


俺が席に着いたのを確認するなり先生はもう一度ため息をついて、教室を見渡した。


「……これで全員そろったな。 早速で悪いが、転入生がいる。 赤月、入れ」


"赤月"……? 珍しい苗字だな……まぁ人のことを言える立場ではないんだけど。


そんなことを考えていたら、教室の扉がスライドした。 無意識的に視線がそちらへ移る。

座席の関係上、最初に俺の前を通って入ってくるのだが、入ってきたその姿を見て俺は自分の目を疑った。

目と鼻の先に見えたその姿は、まさしく数十分前に見たものと同じ。

俺の混乱もどこ吹く風で教壇の中央に立ったその少女は、思わず見とれてしまうほど綺麗な姿勢と声でこう言った。


「討伐課二年、赤月ローザよ。 よろしく頼むわ!」


突然現れたその美少女を前に、このクラスの皆は反応できずにいた。

まぁ無理もない。ピンク髪のツインテ少女なんて、お目にかかることなど普通はないのだから。

――って、そうじゃなくてッ!?


「ローザお前……中等科の生徒じゃなかったのか!?」


……勝手に出てしまったこのセリフを、俺は一生後悔することになった。


「だっ、誰が中等科よ!?」


そう言うが否やあの大剣をどこからともなく取り出し――


「うおッ――!?」


光速で放たれた一閃を、反射的に動いた手でローザの大剣を挟んで止めていた。

姿勢的にも距離的にも、もはや奇跡的と言える。 防衛本能の力だろうか。

……真剣白刃取り……コンマ数秒遅れたら、脳天持って行かれたぞ……


「なにッ!? あんたにはあたしが中学生に見えるのッ!?」


剣に体重をかけつつそう聞いてくる。 思っていたよりは重くない。

だが俺は考えるほどの余裕がなかったので、思ったままを話した。


「いや、だって……とてもじゃないが、高校生には見えなかったから――」

「――≪ブラスト≫……!!」


ローザの呟きを最後に、俺の意識は壁ごと吹き飛ばされた。

突然の攻撃に反応できるわけもなく、ただ自分の身体が千切れていないことを祈ることすらできなかった。



**********



「ああ……今日も良い天気だな……」

「おい大丈夫か、ライト? 目が死んでるぞ」


数十分後。

治療を受けた俺は、ヒヨに呼ばれて屋上へ来ていた。

寝転がっていれば気持ちが紛れるかと期待したが、どうにもそういうわけにも行かないらしい。

どれだけ空が青くて広かろうと、吹き飛ばされた俺の心は晴れない。 ついでにローザの心も。

何かアクションを起こさない限りは、現状は変わってくれない。


「……ヒヨはまだなのか?」


だが、言ってしまったことは取り消せない。 とりあえず話題を変えようと視線を移す。


「遅れるって言ってたぞ」


見ればケンも空を見ていた。 特に何の変哲もない空だが、落ち着くのかもしれない。


……てか、ヒヨが遅れるなんて珍しいな。


きっと弁当を運ぶのに苦労してるんだろう。


……それにしてもさっきのローザの攻撃……見た事もない技だったな……彼女はいったい何者なんだ……?


話題を変え損ねた頭は、また彼女のことを思い出していた。

他に考えることもないから、というのもあるのだろうけど。


「おまたせ~二人とも!!」


そこでヒヨがなにやら重そうなものを抱えて来た。

そしてなぜか、後ろにローザが。


「ライトくんに話があるからって言うから、連れて来ちゃった」


俺が尋ねるより早くそういわれた。


「…………」


ムスッ、とした顔。

これで話があると言われても、疑って然りだと思う。

とにかく機嫌をなんとかしないと、話もなにもない。


「あ……あの、さっきは悪かったよ。 俺があまりにも無遠慮だった。 反省してる」


俺には謝る以外の選択肢がなかった。

ここまで素直に頭を下げたのは随分と久しぶりな気がする。


「……ほんとに?」

「ああ。 この通り」


もう土下座でもしてやろうかとまで思ってしまう。

どうしてそこまで思えてしまうのかは分からないけれど。


「……まぁいいわ。 今回は許してあげるけど、次はないからね?」

「ありがとう、約束する」


何とか許してもらうことに成功し、胸を撫で下ろす。


……おい、ケン。 なんだその顔。 俺が謝るのがそんなに信じられないのか!?


確かに初日から盛大に遅刻するような俺だし、分からなくは無いけれど。


「……さて、お昼にしようよ!」


ローザの表情が戻ったところで、ヒヨが手に持っていた弁当箱を広げ始めた。


「待ってました!」

「……てかお前、式の片付けとかは手伝わなくてよかったのか?」


ケンは≪ウェポンマスター≫の称号のもとに、生徒会役員に選ばれている。

生徒会は基本的に超人の集団だが、していることはこういう雑用ばかりだ。

よくもまぁあんな集団に入りたがるものだ、とは常々思っている。 決して言えたものではないが。


「ああ。 明日、入学式があるから。 今日はもう仕事がないんだ」

「そ、そうか」


それこそ準備とかありそうなものだが……そう言うのなら大丈夫なのだろう。


「はい、準備できたよ! 食べて食べて!」


ヒヨは相変わらずマイペースに切り込んでくる。

こんなにアホっぽく見えるくせに成績はケンと肩を並べるほどの実力で、まさに才色兼備ってやつだ。

予想通り、運動はこれきしダメなんだが。

一緒にいるだけで目の敵にされる特典が付いているせいで、去年はかなり苦労したものだ。 弁当のこともそのそうだし。


「へぇ。 あなた、いつもこんな量作ってるの?」


ローザが興味津々でヒヨに聞いている。


「ええ。 みんなで食べるときはね。 ……そういえば遅れたけど、わたしはひよみ。 ヒヨって呼んで!」

「わかったわ。 よろしくね、ヒヨ」

「オレは剣人。 気安くケンって呼んでくれ。 で、こっちが……」

「ライト、でしょ? ケン」

「「!!」」


バッと視線が集まる。


……そりゃま、驚くよな……初対面のはずの娘が、親友の名前を知ってたら。


「……実は今朝会ったんだ。ローザと」

「……それで妙に慣れ慣れしかったのね……」


ヒヨがあきれたようにこちらを見る。


「ライト。 そういうことはもっと早く言えよな。 水臭い」

「いや。 まさかこうなるとは思ってなくて……」

「というと?」


……俺は今朝起こった出来事を全て話すことにした。

奢るだとかその辺の細かいところは伏せておいた。 余計な情報を開示するのは、不利になるだけって明白だし。


「……ふ~ん。 なるほど。 とりあえず学校に遅れた理由もわかったよ。 でも――」


ヒヨが不機嫌そうに俺に言った。


「――だからって、遅刻はダメだよ?」


俺が黙って頷くしかなかったのは、言うまでも無い。



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