チャプター 4-1
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「…………」
リビングでヒカリが燃え尽きている。
……そういえば、ライトもあまり顔色良くなかったわね……
朝から先生に召集され、午後から戦死者の追悼をしたというライト達。
そのライトは、ついさっきお風呂へ向かったところだ。
「えっと、ヒカリ……?」
悪いとは思いながらも、ヒカリに声をかける。
「......うん?」
ヒカリの声が返ってくるも、目は閉じられたままだった。
「一応聞いておきたいのだけど、先生達には何て言われたの?」
「......はぅ……それ、言わなきゃいけませんか……?」
ため息混じりの、なんとも気怠そうな声だった。
「い、いえ、別にいいわ……言いたくないのなら」
なんだか悪いことをした気分だった。
「......まぁ、言うならば、こんな状態になる……そんな話でしたよ」
疲れたのは追悼式のせいなのでは……というつっこみは、口を出ることは無かった。
クリスタルモンスターの発生ポイントが不明だった話、モンスターからドロップしたクリスタルの解析が行われている話、そして、ヒカリ達が試験に合格した話。
面倒くさそうにしている割には、律儀に話してくれた。
「......そういえば、モンスター討伐戦で死にかけたって、聞きましたけど……本当ですか?」
「ごほっごほっ!?」
……いったい誰がそんなことをっ!?
「......大丈夫ですか……?」
「え、ええ……。まぁ、その話は……嘘ではないわ」
あたしのセリフを聞いてヒカリは、予想に反して、驚いた表情を見せた。
……感情を読み取りにくい娘だとは聞いてたけど、それほどでもないじゃない……
「......また兄さんは、無茶なことを……」
「え?」
「......なんでもありません」
ヒカリはため息を吐くと、半開きの目をこちらに向け、指を立てた。
「......赤月先輩。そんな無茶は、もうしないでくださ
い」
「わかってるわよ……」
何度目かわからないその台詞に、もはや苦笑するしかなかった。
「......兄さんは、先輩がどんな無茶をしても、それを上回る無茶をして助けに来る……そういう人なんです」
「…………」
確かにあの時ライトは、あたしに見せなかった刀を振って、人間離れした攻撃を繰り出していた。
……あんな無茶苦茶……確かに、あれでは身体がいつ壊れてもおかしくない。
「......だから、兄さんにあまり無茶をさせないでください」
「ええ……わかったわ」
「......わかってもらえれば、それで良いんです。……さて、わたしもシャワー浴びてこようかな……」
ヒカリはそう言って、ライトの居るはずのバスルームへ歩いていった。
……ライトは……
ヒカリの座っていたソファーに腰掛ける。
……優しさで自分を殺すことになる。
人の優しさに頼ってばかりではいけない……
そう思っていたはずだった。
だが、年月が経ちすぎていたのか、その記憶を抹消したかったからか、どうも忘れていたらしい。
首にかけていたネックレスを引っ張り出す。
半月を模ったペアネックレス。
もう片方を持って行ったあの人は、今どこで何をしているのだろうか。
「……"兄さん"、か……」
*********
*********
「ふぅ……」
湯船につかりながら、今日聞かされた話を整理していく。
……いつになっても、死なれるのは嫌な気分だな……
そこに居た討伐科一年生たちの様子は、しばらく忘れられそうにない。
……いや、それよりも……
頭をふって、話を午前中に戻す。
どうやらステラが発見した"召喚ポイント"はまだバレてないらしい。
調査が進めば、そのうちわかるとは思うが、見に行くなら今のうちだ。
……でもポイントがあるってことは……誰かが召喚したことの証明になるんだよな。
いったい誰が、何のために?
その疑問の答えは、いくらでも推測できる。
だが、その推測が正しいという証明はまだ出来ない。
……そういえば、あの≪ゴライアス≫のクリスタルがドロップしたって言ってたな……
モンスターを倒すと、その核の一部がクリスタルとなってドロップすることがある。
ドロップしたクリスタルを加工すると、インスタントクリスタルにも永続クリスタルにもなると聞く。
……ビームサーベルの強化ついでにモン研にでも寄るか……
クリスタル関連を取り扱っている部活……モンスター研究部。
そこでは、武装のメンテをしてくれたり、クリスタルを調整してくれたりするサービスをしている。
去年は本当にお世話になった部活だ。
……明日の放課後に予約入れとくか。
そこまで考えていたときだった。
「......兄さん、まだ?」
ドアの向こう側から、ヒカリの声がした。
「......まだなら入るよ?」
……は?なんだと……
布切れの音が漏れ聞こえてくる。
……油断してた。どうしてまたこんなシチュに……
妹が兄の居る風呂場に突撃など、ゲームの中だけにしてくれッ……!
だが、俺は致命的なことに気づく。
……よく考えたら、このまま出たら裸同士でばったりとかいう可能性が……
ダメだ、落ち着け俺!
何か方法があるはず……!!
「......兄さん?入るよ?」
「ちょッ!待ってくれッ!」
俺はとりあえず湯船から出て、タオルでいろいろ隠し、ドア前で待機。
……そうだ、あの技なら……!
ヒカリが扉を開けて一歩踏み込んだ瞬間ーー
「......……?」
ヒカリの手をとり、ターンの要領でヒカリとの立ち位置を入れ替え、そのまま外へ脱出。
……うまく、行ったぞ……
ヒカリの残念な感じのボディーラインは見なかったことにして、身体をさっと拭いて服を着る。
……やれやれ。いったいなんのつもりだ……
「......兄さん、今の技って……」
「うわっ!」
扉が少し開いて、ヒカリが顔を覗かせた。
「……また後で教えてやるから、さっさと入れ」
「......ん。わかった」
そう言ってヒカリは引っ込んだ。
……油断大敵って、本当だよな……
そんなことを思いつつ、寝室へと向かったのだった。




