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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第一章 「追跡者《チェイサー》すなわち過去」
26/111

幕間2

幕間



星の見えない夜空で、三日月が笑う。


「…………」


自室のベランダで夜風に当たりながら、今日あったことをゆっくりと思い出していた。

実際、疲れによる眠気もあるにはあったが、どうにも寝付けないでいた。


「......兄さん?」


隣でぴったりとくっついているヒカリが、心配そうに見てくる。


「......まだどこか痛むの?」

「いや、"コイツ"のおかげでもうすっかり治ったよ」

「......嘘つき」

「え?」

「......≪再生能力≫は、そんなに有能じゃない」

「……あとで回復薬ポーションでも飲むからさ……」

「......ダメ。ちゃんと診てもらってきて」

「わかったよ……」


心配してくれるのはありがたいが、俺は治療されるのがあんまり好きじゃないんだよな……


「......それで」

「ん?」

「......こんなところで何を考えていたの?」


ヒカリはこの辺のことをはぐらかさせてくれない。

俺は正直に答えた。


「ちょっと昔のことをな」

「......昔って……」


育成場でのこと、防衛戦での悲劇、そして、≪激情の悪魔≫と俺の話。

ローザを病院に送りつつ、話した俺の過去。

さすがに1から詳しく話せたわけではないが……

俺が死んだ理由と、それにもかかわらず生きている理由を、ざっとローザに話した。

彼女は初めこそ驚いていたものの、真摯に俺の話を聞いてくれた。

しばらく誰にも話せていなかった過去を明かせて、少し気分が落ち着いたのを感じずにはいられなかった。


「......まだ、気にしているの?」

「何を?」

「......彼女を、殺したこと」

「…………」

「......ごめん……わたし、また……余計なことを……」

「いや、いいよ。もうあんなことにはさせないって、誓ったから」

「......兄さん……」


俺が生きている理由。

兵器として利用され、モンスターを狩るためだけの道具として使われた俺は、不足した前線での重要な戦力だった。


……たったそれだけのことだった。


SSランクモンスターのクリスタルを使ってまで、俺のことを生かそうとしたのは、そんな余りにも非人道的な理由だった。

そして、兵器だった俺は、暴走した彼女に……手をかけることになった。

たったそれだけの話だった。


「……ヒカリ……?」


唐突に、俺の胸に飛び込んで来るヒカリ。


「......兄さん、そんな暗い顔、しないで……」


自分のミスを後悔してるのか、その声は少しくぐもって聞こえた。


「……過去のことを悔やんでても仕方ない。そうだろ?」


かつてそう言って励ましてくれたのは、ヒカリだった。


「......うん」


俺は頭を撫でてやり、ヒカリを少し抱き寄せた。

ヒカリに悪気はなかったはずだ。

いつまでもくよくよしてるから、ヒカリに余計な心配をかけてるんだ、俺よ。


……いい加減、過去を悔やむのはやめよう。


「……もう遅いし、そろそろ寝たらどうだ?」


これ以上この話題を引っ張ってもあれなので、寝るように促す。


「......兄さんは寝ないの?」


ヒカリは顔を上げて首を傾げた。


「うーん……俺はもう少し、夜風に当たってるよ」

「......ん。わかった」


ヒカリはそう言って俺から体を離し、少し不安げな顔で、「......おやすみ」と告げ、寝室へ向かって行った。


……さて……


ヒカリの後ろ姿を見届けたあと、ポケットから携帯端末と電子生徒手帳を取り出した。

起動させると……


……新着メールが合計16件……


アカリやヒヨたちのメールが半分を占め、4分の1が教師たちからの情報共有の催促メールだった。

残りのうち2通は、熊谷先生からの呼び出しメール。

そして、残る2通はローザからだった。

軽い治療を受けるので向こうに一晩泊まるという連絡。

それから……


『助けに戻ってきてくれて本当に嬉しかった

わ。ありがとう。おやすみ』


……なんというか、こっちまで恥ずかしくなってきたな……


素直にそう伝えられると、少し照れくさい気分だった。


…ッとそういえば……


反対側のポケットから、ステラからの手紙を取り出す。


『多分、これを読んでるのはライトやと思うけど、一応これより先の文章は暗号文で書かせてもらうで』


という書き出しに続き、予告通り、見慣れた暗号文が綴られていた。


……この独特な訛り、ステラ本人で間違いないな……


彼女は関西エリア出身の、俺の同級生だ。

育成場で知り合った仲で、生き残りの一人でもある。


……なになに……


暗号文を解いていくと、いろいろな情報が読める。


……やはり今日のモンスター襲撃は人為的なものなのか……


何者かによる"召喚"が行われていた形跡を発見したらしい。


……場所は……クリスタル鉱山の麓。


わざわざ調べに行ったのだろうか。

こっちに来てるなら、顔ぐらい見せてくれてもいいのにな……


……だが、彼女が捜査に出てるということは、どうやらこの事件、今日だけで解決というわけではなさそうだぞ。


早速嫌な予感がしてきた俺は、手紙をそこで一旦しまい、深呼吸をしたあと、リビングへ戻った。


……もうこれ以上の新情報を出されたら、俺の頭がパンクする。


落ち着いて、今日のレポートを書くことにし、電子生徒手帳を起動する。

どんな事件だろうと、大切な仲間をこれ以上失わせなんてしない。

そう胸に誓い、指をキーボードの上で走らせた。

今日の出来事を忘れまいと。




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