幕間2
幕間
星の見えない夜空で、三日月が笑う。
「…………」
自室のベランダで夜風に当たりながら、今日あったことをゆっくりと思い出していた。
実際、疲れによる眠気もあるにはあったが、どうにも寝付けないでいた。
「......兄さん?」
隣でぴったりとくっついているヒカリが、心配そうに見てくる。
「......まだどこか痛むの?」
「いや、"コイツ"のおかげでもうすっかり治ったよ」
「......嘘つき」
「え?」
「......≪再生能力≫は、そんなに有能じゃない」
「……あとで回復薬でも飲むからさ……」
「......ダメ。ちゃんと診てもらってきて」
「わかったよ……」
心配してくれるのはありがたいが、俺は治療されるのがあんまり好きじゃないんだよな……
「......それで」
「ん?」
「......こんなところで何を考えていたの?」
ヒカリはこの辺のことをはぐらかさせてくれない。
俺は正直に答えた。
「ちょっと昔のことをな」
「......昔って……」
育成場でのこと、防衛戦での悲劇、そして、≪激情の悪魔≫と俺の話。
ローザを病院に送りつつ、話した俺の過去。
さすがに1から詳しく話せたわけではないが……
俺が死んだ理由と、それにもかかわらず生きている理由を、ざっとローザに話した。
彼女は初めこそ驚いていたものの、真摯に俺の話を聞いてくれた。
しばらく誰にも話せていなかった過去を明かせて、少し気分が落ち着いたのを感じずにはいられなかった。
「......まだ、気にしているの?」
「何を?」
「......彼女を、殺したこと」
「…………」
「......ごめん……わたし、また……余計なことを……」
「いや、いいよ。もうあんなことにはさせないって、誓ったから」
「......兄さん……」
俺が生きている理由。
兵器として利用され、モンスターを狩るためだけの道具として使われた俺は、不足した前線での重要な戦力だった。
……たったそれだけのことだった。
SSランクモンスターのクリスタルを使ってまで、俺のことを生かそうとしたのは、そんな余りにも非人道的な理由だった。
そして、兵器だった俺は、暴走した彼女に……手をかけることになった。
たったそれだけの話だった。
「……ヒカリ……?」
唐突に、俺の胸に飛び込んで来るヒカリ。
「......兄さん、そんな暗い顔、しないで……」
自分のミスを後悔してるのか、その声は少しくぐもって聞こえた。
「……過去のことを悔やんでても仕方ない。そうだろ?」
かつてそう言って励ましてくれたのは、ヒカリだった。
「......うん」
俺は頭を撫でてやり、ヒカリを少し抱き寄せた。
ヒカリに悪気はなかったはずだ。
いつまでもくよくよしてるから、ヒカリに余計な心配をかけてるんだ、俺よ。
……いい加減、過去を悔やむのはやめよう。
「……もう遅いし、そろそろ寝たらどうだ?」
これ以上この話題を引っ張ってもあれなので、寝るように促す。
「......兄さんは寝ないの?」
ヒカリは顔を上げて首を傾げた。
「うーん……俺はもう少し、夜風に当たってるよ」
「......ん。わかった」
ヒカリはそう言って俺から体を離し、少し不安げな顔で、「......おやすみ」と告げ、寝室へ向かって行った。
……さて……
ヒカリの後ろ姿を見届けたあと、ポケットから携帯端末と電子生徒手帳を取り出した。
起動させると……
……新着メールが合計16件……
アカリやヒヨたちのメールが半分を占め、4分の1が教師たちからの情報共有の催促メールだった。
残りのうち2通は、熊谷先生からの呼び出しメール。
そして、残る2通はローザからだった。
軽い治療を受けるので向こうに一晩泊まるという連絡。
それから……
『助けに戻ってきてくれて本当に嬉しかった
わ。ありがとう。おやすみ』
……なんというか、こっちまで恥ずかしくなってきたな……
素直にそう伝えられると、少し照れくさい気分だった。
…ッとそういえば……
反対側のポケットから、ステラからの手紙を取り出す。
『多分、これを読んでるのはライトやと思うけど、一応これより先の文章は暗号文で書かせてもらうで』
という書き出しに続き、予告通り、見慣れた暗号文が綴られていた。
……この独特な訛り、ステラ本人で間違いないな……
彼女は関西エリア出身の、俺の同級生だ。
育成場で知り合った仲で、生き残りの一人でもある。
……なになに……
暗号文を解いていくと、いろいろな情報が読める。
……やはり今日のモンスター襲撃は人為的なものなのか……
何者かによる"召喚"が行われていた形跡を発見したらしい。
……場所は……クリスタル鉱山の麓。
わざわざ調べに行ったのだろうか。
こっちに来てるなら、顔ぐらい見せてくれてもいいのにな……
……だが、彼女が捜査に出てるということは、どうやらこの事件、今日だけで解決というわけではなさそうだぞ。
早速嫌な予感がしてきた俺は、手紙をそこで一旦しまい、深呼吸をしたあと、リビングへ戻った。
……もうこれ以上の新情報を出されたら、俺の頭がパンクする。
落ち着いて、今日のレポートを書くことにし、電子生徒手帳を起動する。
どんな事件だろうと、大切な仲間をこれ以上失わせなんてしない。
そう胸に誓い、指をキーボードの上で走らせた。
今日の出来事を忘れまいと。




