表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第一章 「追跡者《チェイサー》すなわち過去」
25/111

チャプター 3-7




「それにしても、意外だったわ」


腕の中のローザが呟く。


「何が?」

「ライトが、弱ってる女の子を躊躇い無くお姫様抱っ

こするような人だったこと」


こちらを見ずにそう言ってくる。


「そ、それはその……ごめん、気に障ったか?」

「いいえ。……思ったより悪くない気分よ」

「そ、そうか」


確かに流れでこうなったものの、彼女ローザを抱えることに躊躇はしなかった。


……慣れ、かな……?


人命救助の依頼クエストがあったときには、確かにこの運び方をすることが多かった気がする。


「…………」


応急手当薬ファーストエイドの効果で若干上がっている体温は、俺の腕にしっかり伝わっている。

心なしか、甘い匂いが鼻孔をくすぐった。

こうして人の温もりに触れたのはいつ振りだろうか。


……そういえばパーティー結成の時……


ローザの背負っているものの大きさを感じたあの時も……


俺の視線は左手の指にはめられている契約指輪パーティーリングに向いた。

その指輪に誓ったことを思い出す。

そして……ローザと出会った時のことも。


……こんな世界の未来なんて、想像もつかないけど……


ローザに視線を移す。

"未来を変える"、か……


……彼女のいた未来は、どうなったのだろう……

ふと、そんな疑問が頭をよぎった。


……確かに彼女は現在ここへ来た。だけど、そもそもどうやって……?


浮かんだのは、いままで触れてこないようにしてきた疑問ばかりだった。


「……な、なによ?」


視線に気づいたローザが赤くなる。


「い、いや……ローザがいた未来の話を、聞いてみたいと思って」


ローザはため息をついて、首を振る。


「やめておいたほうがいいわよ。変えなきゃいけないぐらい酷いものなんだもの」


彼女から聞いた、伝染病の話や、クリスタルの密輸話などを思い出し、確かにと思わされる。


「それにしたって、いったいどこまで連れて行く気なの?」

「もう少しで着くよ」


最終防衛ラインで稼動している無人自動撃退兵器オートマトンに見つからないように森を迂回し、丘の頂上を目指す。


あたしの話(そんなこと)より、あたしはあんたの話が聞きたいわ」

「俺の話……?」

「何か聞かせてよ、あんたが辿ってきた道を」

「そうだな……まぁ、少しぐらい昔話をするのもいいか……」


ちょうどそう答えたとき、丘を越えて、景色が変わった。


「あら?これは……桜の花びら……?」

「着いたぞ」


ローザを降ろし、息を吸う。

少し湿った空気の匂いと、焦げたような匂いがした。


……ただいま、リリ……


目の前の、その大きな桜の木に目をやる。


「こんな戦場に桜の木があるなんて……」


ローザは信じられないといった様子だ。

満開と言うにふさわしい桜を見て、少し昔を振り返る。


「この木は……俺が、俺たちが守ったものなんだ」

一呼吸のあと、ぽつりとつぶやく。

「え……?」

「中学時代のときの話だが……俺たちの仕事は北関東エリアの安定化、そして防衛だったんだ」


空を見ると、日が傾いてきていて、だんだんと赤く色づいてきていた。


「ここ一帯は、桜が一面に咲く綺麗な場所だったんだ……」

「…………」


ローザは周りを見渡し、俺の"守った"の意味を理解したらしい。


「でも、防衛戦争(Rebellion)が起こって、それに巻き込まれた俺は、この場所で……仲間を……」


……何もかもを失った……


そう続けるつもりだったが、口がその先を紡ぐことはなかった。

代わりに出たのは、ローザに伝えたかったことだった。


「……その時に思い知らされたよ。一人で戦うなんて、一人で背負うなんて無謀だと」


ローザを見据え、伝えた。


「……ここには仲間がいるんだからさ。もう少し、俺たちのことも頼ってくれていいんだぜ?」


何度目かわからないこのセリフに、ローザは苦笑気味だった。


「わかっているわ……あんなことはもう二度とごめんだもの」

「本当に、ひやひやさせないでくれよ……」


あそこでローザに何かあったら、俺はどうなってたか……


そう思いながら、桜の木に近づく。


「でも、本当に綺麗ね……」


ローザが後ろでポツリと呟いた。


「ありがとう……いいもの見させてもらったわ」


振り向くと、ローザの笑顔があった。


「その言葉は、こいつらにも言ってやってくれ」

「え……?」


木の根元に置いてある、ひとつの墓石。

言われなければ気づかない程度に小さなものだが、手入れがされていた。


……あれ?誰か先客がいたのか……


「これは?」

「俺の……かけがえの無い仲間が眠ってる場所だ」

「……………」


墓石には、5名の名前が刻まれているのがわかる。


……もうほとんど読めないな……


片膝をつき、目線を合わせる。

すると、足元に白い何かが隠れているのを見つけた。


……手紙……ステラからか……


そばの草むらに刺さっていた手紙をポケットにしまい、墓石の前で黙祷をささげる。


……リリ。俺はちゃんと、新しく"守りたいもの"を見つけたぜ……


今はいない、確かに大切だった人に呼びかける。


……今度こそちゃんと守り抜くからさ……


「ねぇ、あなたの行ってた中学校って……」


ローザは気づいたのだろう。

北関東エリアの外れに学校と呼べる施設はひとつしかない。

いや、もっと言えば、中部エリアから北関東エリアにかけて、だろうか。


「……"育成場"……俺は国民兵士化計画の基に造られた軍事施設出身だ」

「そう……やっぱりね……」


どこか納得した様子のローザ。


「意外だな。もっと嫌悪を抱いた目をで見られるかと思ったよ」

「何言ってるのよ。悪いのは国のほうでしょ?」


そう平然と言ってのけるローザ。


……未来を変える覚悟を持つだけはあるな、さすがに……


国が相手でも一歩も引かないつもりらしい。

でも、ゴライアス一匹であの様だったのに、大丈夫なのだろうか……


「……今回はちょっと上手くいかなかっただけなんだから、大丈夫よ……」


俺の考えを読んだのか、ローザが少し不満そうにそっぽを向く。


「そういえばあんた、見慣れない刀を使ってたわね?あれは?」

「ああ……、あれはだな……」

「……クリスタルが関係してる……のよね?」

「そうだな……"この力"がクリスタルの力であるのは確かだ」


俺は自分の心臓の辺りに手を置く。

そこにある確かな存在を確かめた。


「実は……俺の中に、クリスタルが埋まってるんだ」

「え?」


意味がわからないという顔をするローザ。

俺はこの際だからと、すべてを明かすことにした。


「俺は一度、死んでるんだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ