チャプター 3-6
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「≪血薔薇の拘束≫!!」
迫る拳を一瞬だけ止め、横へ回避する。
……さすがに辛いわね……
体力的にも、そして身体的にも。
大剣では目の前の巨人……≪ゴライアス≫の攻撃が捌き切れず、小さな傷が増えていた。
そのため、すでに力を解放して≪双剣≫状態だ。
服装は動きやすいものなので弊害にこそならないものの、少しずつとはいえ破れていくのはなんだか嫌だった。
広い公園で足止めすることに成功しているのと、街で住民の避難が開始されているため、あたりに人の姿はない。
それでも……
「くっ……≪血薔薇の衝撃≫!!」
両手に握る剣を十字に構え、体勢を立て直しているゴライアスに反撃する。
16連撃を足にすべて命中させ、ゴライアスをよろめかせる事に成功した。
だが、いくら切り裂いても、たちまちそこから煙を上げ、傷を塞がれてしまう。
「噂に聞いてた≪超再生能力≫……想像以上に厄介ね……」
乱れる呼吸を何とか整えつつ、戦略を練り直す。
まず、こちらがどれだけ攻撃しても、ものの数秒で治されてしまうのでは倒しようが無い。
……コアを叩けばいいってことはわかってるけど……
まさに鬼のような姿のゴライアスからは、コアの場所
は確定できなかった。
……ケンのアシストも焼け石に水だし……
時折飛んでくる光線は学校にいるはずのケンのものだが、ゴライアスの身体を撃ち抜くには少し威力が足りないでいた。
……来てくれた応援部隊は、市民の避難活動で懸かりきりだし……
そもそも、慣れない人と連携をとるのは難しいので、効率が上がるとも言いがたい。
……でも、一人で倒すのなんて……
「……ッ!!」
ゴライアスの踏みつけ攻撃を紙一重で避けるも、体勢を崩されてしまった。
そこに容赦のない蹴りが迫った。
「――かは……ッ!!」
両手の剣でガードするも、ガードの上から壁に叩きつけられてしまう。
体が千切れるかと思うほどの衝撃と痛みがあたしを襲った。
……あたしの身体……こんなにも脆いものなのね……
いつの間にか忘れてしまっていた、身体的な人間の脆さ。
身体のどこであっても、壊れてしまっては動けない。
……痛い……痛いよ……
視界が滲む。
まだ戦えるはずなのに、ただ暴力的なまでの痛みを受け入れるしかなかった。
……治癒クリスタルを……
ポケットから取り出そうとするも、左腕が言うことを聞いてくれない。
……せめて、物陰に隠れられれば……
立とうとするも、足に力が入らない。
……どうして……どうしてなの……
確かに、こんなサイズのモンスターと戦ったことなどなかった。
確定情報もほとんど無い状態だった。
でも、心のどこかでは、それでもいけると思っていた。
血薔薇の技があればあるいは。
過去へ戻れたという奇跡を起こせた自分なら、こんなピンチぐらい大丈夫だと。
……ぜんぜん、甘かったわ……どうしてこんな……
少し冷静になって考えてみればわかることだった。
自分はただの人間で。
少し発育の遅い身体を持つだけの普通の女の子で。
……運命を変える力なんて、持ち合わせてなんていないのよ……
過去に来たのには、確かに理由がある。
どうしても未来を変えなければならない。
ただそれだけだったのに。
……あたしが間違えたんだよね……
ゴライアスが止めを刺そうと、腕を振り上げているのが見える。
……あたしが調子に乗ったばっかりに……
視界がまた揺れて、ぼやけた。
……ごめん。あたし……強くなんて無かった……
守れるほどの強さ、そして、何かを変えるだけの強さなんて……
ましてや……未来を変える力なんて、あたしにはない……
静かに目を閉じた。
……じゃあ、あたしは何のためにここにいるの……?
変えなきゃいけない未来が脳裏をよぎる。
……"あんな悲劇"は繰り返してほしくない……
自分だけが知っている、未来の出来事。
……でも……もう……
「――ローザーーーッ!!!」
「………ッ!!」
突然、自分の名前を叫ぶ声が耳に入った。
目を開けると、切り落とされたゴライアスの腕が落ちてくるところだった。
腕は目の前で、地面を揺らしながら着地した。
「らあああああああぁッ!!!!」
蒼くも紅い光が、ゴライアスの身体を駆ける。
光が通るたびに、ゴライアスの身体が分断されていく。
「天津風流龍剣術――≪五月雨≫!!」
煙を上げながら、ゴライアスの身体が空中分解を始める。
「くたばれッ!!」
光は速度を上げて、次々に切断していく。
ついに、中心に残った赤い球体が弾け飛んだのが見えた。
そしてその蒼い光は、目の前で地面を削って着地した。
「まったく……何泣いてんだよ」
*********
*********
「ライ、ト……」
目の前でへたり込んでいたローザは、小さく俺の名前をつぶやいた。
「無茶しやがって……」
……それはまぁ、俺もだが……
ここまで超スピードで飛ばしてきただけでなく、ローザを叩き潰そうとした巨人を勢いで倒してしまった。
その反動で、痛いところがわからないほど、体中が悲鳴を上げていた。
酸欠気味で視界が霞む。
「無事でよかったよ」
それでも俺はローザの身体を見つけ、抱き寄せる。
「……ぅ……」
ローザは声にならない嗚咽をもらして、泣き始めた。
「ごめん……ごめんね……迷惑かけて……」
「何言ってんだ。原因はお前じゃないし、謝ることなんてないよ」
「あたしがもっと強かったら……一人で倒せるほど強かったら……!」
「そうやって一人でやろうとするなよ」
「………ッ!」
「お前には、俺がいる。俺のことも、少しは頼ってくれていいんだぜ?」
疲れを無理やり押し殺して、無理にでも笑ってやる。
「うん……ごめん……ごめんなさい……」
……これは相当思いつめてたな……
ローザは泣き止まない。
……うまくいかなくて、かなり焦ったんだろう……
昔の自分とどこか似ている気がした。
……泣きたい時は泣けばいい。俺もそう言われたから……
こうして抱いて慰めてもらっていたことを思い出す。
……それに今回は、ちゃんと間に合ったんだ……
大切な人を失わずに済んだ。
そのことが今の俺を安心させる要因だった。
……いくらでも泣けばいいさ。いくらでも付き合ってやるから……
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……またやっちまった……
ローザが落ち着いて、応急処置が終わった後、「見せ
たいものがある」と言って移動し始めたのはいいが……
……"コイツ"を使うと、どうしてこう、性格が変わるんだろうな……?
どうにも優しくしすぎる上に、自分で思い返しても恥ずかしいセリフしか出てこないのは如何に。
……まぁそれ以上何かあるわけでもないし、いいんだけど……
ひとまず反省会をしようと決めて、≪フォトンウィング≫で空を舞った。
守りきった彼女を抱えて。




