表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第一章 「追跡者《チェイサー》すなわち過去」
24/111

チャプター 3-6



「≪血薔薇の拘束ブラッドローズ・バインド≫!!」


迫る拳を一瞬だけ止め、横へ回避する。


……さすがに辛いわね……


体力的にも、そして身体的にも。

大剣では目の前の巨人ジャイアント……≪ゴライアス≫の攻撃が捌き切れず、小さな傷が増えていた。

そのため、すでに力を解放して≪双剣≫状態だ。

服装は動きやすいものなので弊害にこそならないものの、少しずつとはいえ破れていくのはなんだか嫌だった。

広い公園で足止めすることに成功しているのと、街で住民の避難が開始されているため、あたりに人の姿はない。

それでも……


「くっ……≪血薔薇の衝撃ブラッドローズ・インパクト≫!!」


両手に握る剣を十字に構え、体勢を立て直しているゴライアスに反撃する。

16連撃を足にすべて命中させ、ゴライアスをよろめかせる事に成功した。

だが、いくら切り裂いても、たちまちそこから煙を上げ、傷を塞がれてしまう。


「噂に聞いてた≪超再生能力≫……想像以上に厄介ね……」


乱れる呼吸を何とか整えつつ、戦略を練り直す。

まず、こちらがどれだけ攻撃しても、ものの数秒で治されてしまうのでは倒しようが無い。


……コアを叩けばいいってことはわかってるけど……


まさに鬼のような姿のゴライアスからは、コアの場所

は確定できなかった。


……ケンのアシストも焼け石に水だし……


時折飛んでくる光線は学校にいるはずのケンのものだが、ゴライアスの身体を撃ち抜くには少し威力が足りないでいた。


……来てくれた応援部隊は、市民の避難活動で懸かりきりだし……


そもそも、慣れない人と連携をとるのは難しいので、効率が上がるとも言いがたい。


……でも、一人で倒すのなんて……


「……ッ!!」


ゴライアスの踏みつけ攻撃を紙一重で避けるも、体勢を崩されてしまった。

そこに容赦のない蹴りが迫った。


「――かは……ッ!!」


両手の剣でガードするも、ガードの上から壁に叩きつけられてしまう。

体が千切れるかと思うほどの衝撃と痛みがあたしを襲った。


……あたしの身体……こんなにも脆いものなのね……


いつの間にか忘れてしまっていた、身体的な人間の脆さ。

身体のどこであっても、壊れてしまっては動けない。


……痛い……痛いよ……


視界が滲む。

まだ戦えるはずなのに、ただ暴力的なまでの痛みを受け入れるしかなかった。


……治癒ヒールクリスタルを……


ポケットから取り出そうとするも、左腕が言うことを聞いてくれない。


……せめて、物陰に隠れられれば……


立とうとするも、足に力が入らない。


……どうして……どうしてなの……


確かに、こんなサイズのモンスターと戦ったことなどなかった。

確定情報もほとんど無い状態だった。

でも、心のどこかでは、それでもいけると思っていた。

血薔薇ブラッドローズの技があればあるいは。

過去へ戻れたという奇跡ミラクルを起こせた自分なら、こんなピンチぐらい大丈夫だと。


……ぜんぜん、甘かったわ……どうしてこんな……


少し冷静になって考えてみればわかることだった。

自分はただの人間で。

少し発育の遅い身体を持つだけの普通の女の子で。


……運命を変える力なんて、持ち合わせてなんていないのよ……


過去ここに来たのには、確かに理由がある。

どうしても未来を変えなければならない。

ただそれだけだったのに。


……あたしが間違えたんだよね……


ゴライアスが止めを刺そうと、腕を振り上げているのが見える。


……あたしが調子に乗ったばっかりに……


視界がまた揺れて、ぼやけた。


……ごめん。あたし……強くなんて無かった……


守れるほどの強さ、そして、何かを変えるだけの強さなんて……


ましてや……未来を変える力なんて、あたしにはない……


静かに目を閉じた。


……じゃあ、あたしは何のためにここにいるの……?


変えなきゃいけない未来が脳裏をよぎる。


……"あんな悲劇"は繰り返してほしくない……


自分だけが知っている、未来の出来事。


……でも……もう……



「――ローザーーーッ!!!」



「………ッ!!」


突然、自分の名前を叫ぶ声が耳に入った。

目を開けると、切り落とされたゴライアスの腕が落ちてくるところだった。

腕は目の前で、地面を揺らしながら着地した。


「らあああああああぁッ!!!!」


蒼くも紅い光が、ゴライアスの身体を駆ける。

光が通るたびに、ゴライアスの身体が分断されていく。


「天津風流龍剣術――≪五月雨≫!!」


煙を上げながら、ゴライアスの身体が空中分解を始める。


「くたばれッ!!」


光は速度を上げて、次々に切断していく。

ついに、中心に残った赤い球体が弾け飛んだのが見えた。

そしてその蒼い光は、目の前で地面を削って着地した。


「まったく……何泣いてんだよ」



*********


*********




「ライ、ト……」


目の前でへたり込んでいたローザは、小さく俺の名前をつぶやいた。


「無茶しやがって……」


……それはまぁ、俺もだが……


ここまで超スピードで飛ばしてきただけでなく、ローザを叩き潰そうとした巨人を勢いで倒してしまった。

その反動で、痛いところがわからないほど、体中が悲鳴を上げていた。

酸欠気味で視界が霞む。


「無事でよかったよ」


それでも俺はローザの身体を見つけ、抱き寄せる。


「……ぅ……」


ローザは声にならない嗚咽をもらして、泣き始めた。


「ごめん……ごめんね……迷惑かけて……」

「何言ってんだ。原因はお前じゃないし、謝ることなんてないよ」

「あたしがもっと強かったら……一人で倒せるほど強かったら……!」

「そうやって一人でやろうとするなよ」

「………ッ!」

「お前には、俺がいる。俺のことも、少しは頼ってくれていいんだぜ?」


疲れを無理やり押し殺して、無理にでも笑ってやる。


「うん……ごめん……ごめんなさい……」


……これは相当思いつめてたな……


ローザは泣き止まない。


……うまくいかなくて、かなり焦ったんだろう……


昔の自分とどこか似ている気がした。


……泣きたい時は泣けばいい。俺もそう言われたから……


こうして抱いて慰めてもらっていたことを思い出す。


……それに今回は、ちゃんと間に合ったんだ……


大切な人を失わずに済んだ。

そのことが今の俺を安心させる要因だった。


……いくらでも泣けばいいさ。いくらでも付き合ってやるから……




**********




……またやっちまった……


ローザが落ち着いて、応急処置が終わった後、「見せ

たいものがある」と言って移動し始めたのはいいが……


……"コイツ"を使うと、どうしてこう、性格が変わるんだろうな……?


どうにも優しくしすぎる上に、自分で思い返しても恥ずかしいセリフしか出てこないのは如何に。


……まぁそれ以上何かあるわけでもないし、いいんだけど……


ひとまず反省会をしようと決めて、≪フォトンウィング≫で空を舞った。

守りきった彼女を抱えて。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ