チャプター 3-5
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「さて……っと」
だんだんと強くなっていく横風に吹かれて、揺れる自分の髪を押さえる。
……せっかくのデートだったのに……
けれど、そんなことも言っていられない。
「さっさと倒しちゃいたいところだけど……」
まだ、そいつは攻撃の届く距離にはいない。
「あれはいったい何なのかしらね……?」
……1人でショッピングモールを守ると決めて、ライトを送り出したんだから……!
任務は全うしないと……と、自分を戒める。
近づいてくる、明らかに異質なあれを見据えて。
「……まぁ、なんとかなるわ……たぶん」
背中から愛用の大剣を取り出し、構える。
「現実でも強いって事、証明してあげるわ」
≪フォトンウィング≫を展開し、モンスターに先制攻撃を仕掛けに地を蹴った。
……不安なんて、無いんだから……!!
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「このッ……!!」
ティーガーは俺の攻撃パターンを学習しているのか、徐々に攻撃が当たらなくなっていく。
……さすがはBランク……
俺の≪双剣≫をもってしても、≪自動修復≫能力には敵わないらしい。
「これなら……どうだッ!!――≪フォーリングツイスト≫!!」
インスタントクリスタルを使って14連撃を繰り出すも、すぐさま修復されてしまう。
どうも、第二形態に入ってから修復能力が強化されているようだ。
≪サーチャー≫の数値は90%を超えた。
それでも尚、弱点であるコアは見つからない。
体力を削りきることがほぼ不可能な状態な上、この状況は……ほぼ詰みだ。
「くっ……!!」
こちらの連撃を修復しつつ、ティーガーは反撃を開始する。
粒子の翼を翻し、鉤爪で2連撃。
ビームサーベルで弾き返すも、その後に飛んできた≪アサシンブレード≫に、愛剣を弾かれる。
「し、しま……ッ!!」
防御手段を失った俺は、続く突進をもろに喰らい、壁まで飛ばされた。
……ぐあッ……痛ぇ……
勢いを殺しきれず、壁に叩きつけられる。
「ごほっ……っ」
喉につっかえていたものを吐き出す。
口内に広がる錆びた鉄の味。
見れば、左手は真っ赤に血塗れてしまっていた。
……骨、何本か持っていかれたか……
どこかで頭を打ったらしく、視界も意識も朦朧としてくる。
……なさけねぇ……こんな程度で……
さすがに2年前のようにはいかないらしい。
ティーガーは容赦なく、追撃を加えるために近づいてくる。
だが、俺を弄んでいるのか、その速度は緩やかだ。
……ここでてこずっていちゃ、ローザの手助けなんて到底無理だろうな……
ランクが違うとは、このことを言うのか。
そう気づいたときには、その差を埋める手段を思い出していた。
……使うしかないのか……コイツを……
ちょうど心臓の辺りで疼く、確かな衝動。
はやく開放しろとばかりに自己主張をしてくる。
……去年は使わずに来れたのに……
コイツを使うのには、それなりのリスクと代償が要る。
……またあんなことにはなりたくないのに……
2年前のあの日から、この能力は使わないと誓っていた。
……けど、そんなこと言ってる場合じゃねぇ……!!
俺は意識と意志を、腰の辺りに集中させる。
イメージは、刀。
空いている右手を、刀の柄にあたる位置に持っていく。
そこに刀は無いけれど、コイツが動いていれば……
俺は朦朧とする意志をかき集め、手に集中させた。
……これを半分とはいえ開放するからには、一撃で仕留めさせてもらうぞ……
コイツのおかげか、千切れかけていた意識は繋ぎ止められ、集中力が戻ってくる。
奇跡的にまだ動いていたサーチャーに示されている弱点候補を、全て切り裂くイメージを立てる。
ティーガーはすぐそこにまで来ていた。
身体を何とか起こし、片ひざをつく。
イメージの固まった俺は、右手を強く握った。
そこには期待通りの、確かに柄を握った感覚があった。
「――≪雷切≫」
2年ぶりに放つ……天津風流龍剣術の裏奥義。
俺の中学時代の集大成。
……こんなにはやく再び放つ日が来るとは、思ってもなかったが……
居合い切りの要領で、ティーガーの額から尾まで一閃。
反す刃で胴体を真っ二つに裂く。
『ゴアアアアアアアアアア!!!』
ティーガーの断末魔を聞きながら、着地する。
「……ッ」
紅く光る刀を握る右腕に、鋭い痛みが走る。
音速を超える攻撃の代償か、右腕には横に裂けたような傷跡があった。
……こんな傷、気にしてる場合じゃ……
何かに取り付かれたかのように、力の入らない足はふらふらと歩を進める。
「......に、兄さん!!」
普段なら絶対に聞こえないはずの大きな声がする。
「ヒカリ……」
避難所へ行っていたはずのヒカリが、工場の入り口から走ってくる。
「......ごめんなさい。ごめんなさい……」
ヒカリは半分泣き崩れるようにして俺に抱きつく。
なぜか謝罪の言葉と共に。
「......わたしが……わたしがしっかりしてなかったばっかりに……!!」
ヒカリがここまで取り乱すのは珍しい。
「何言ってんだ……お前はちゃんと戦ってくれてたじゃないか」
「......でも……でも……!!」
そう言って真っ赤に腫らした目を上げる。
俺はそんなヒカリの頭に手を置き、抱きよせる。
「……謝るのは俺の方だ。ごめん」
「……ッ!」
「1人でやるなんて……少し言い過ぎたよ……」
「......ううん……あの反応は、当然……だから……」
「ごめん、心配かけたよな……?」
「......本当に、兄さんはいつまでたっても仕方のない兄さんですね」
そう言って少しだけ、笑ってくれるのだった。
「……ヒカリ」
「......うん。 赤月先輩のところに、行くんでしょ?」
少し落ち着いてから、避難所での情報を送ってもらう。
身体の痛みは、この能力のおかげで徐々に引いていっていた。
……自動修復の機能もあったんだな……忘れてたよ……
「......ショッピングモールの方、戦闘が激化しているみたい」
「そうか……」
思わず、周囲を警戒してしまう。
「......レーダーに反応がないか見てるから、そっちのことは安心して」
「ああ。助かるよ」
もう1つの懸念材料。
それは……この力の解放により、ヤツが狙いにくる可能性だった。
≪激情の悪魔≫と呼ばれている、SS級モンスター……
去年遭遇しなかったのも、この能力を抑えてきた故だ。
だが、そんなことも言っていられない。
「......兄さん、気をつけて……」
「ああ、わかってる」
俺は回収したビームサーベルでフォトンウィングを展開し、宙を舞う。
……待っててくれ、ローザ。
俺は電子手帳から鳴り響くコール音を無視して、ひたすらにローザの元へ向かった。
……代償は後で払ってやるし、罰ならいくらでも受けてやる……
それでも、俺はこれ以上大切な人が傷付くのは見たくなかった。
……絶対に、間に合ってみせる……!!




