チャプター 3-4
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「なぁ……今回の任務が終わったら、見せたいものがあるんだ」
隣に並ぶ少女は、少し困惑気味な視線を向けた。
「大丈夫だよ。きっと気に入ってくれると思うんだ」
そう言い聞かせつつ、出撃ゲートへ向かう。
ほとんど丸腰の少女も出撃命令を待つ。
「だからさ……」
――生きていてくれ――
本当に言いたいことはわかっていたのに、言えなかった。
かわりに俺はいつものように、彼女に笑いかけてこう言った。
「……俺が、守るから。安心してくれ……リリ」
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「クソッ……どうなってるんだ……!」
橋を潜って、海に出る。
「同時にランクB以上のモンスターが2体も……」
……人為的な策略か何かとしか思えない。
ぼやきながら、試験会場になっている空き地島に上陸する。
現在まだ未開発のこのクリスタルの存在を確認されるとめんどう……という理由により、ローザから高度制限を命じられていた。
そのため、上空から事態の確認……というのもできない。
「無事だといいが……」
もとは貿易関連の仕事をしていた島というだけあって、建物は大きく丈夫なようだ。
崩れかかってはいるが、去年とさほど変わっていない。
「会場はもっと奥だったか……」
≪フォトンウィング≫を再展開し、廃墟と化した街に進入する。
小さな魔物がこちらに向かってこようとするのが横目に見えるが、今はそれどころではなかった。
瓦礫を迂回し、窓の壊れたビルを突っ切り、モンスターを振り切る。
「――!あそこか!」
念のため≪サーチャー≫を起動していたのが幸いし、戦闘音の発生ポイントを割り出せた。
……戦闘音が止んでないって事は、まだ生きてるのか……!
生い茂った木々を越え、少し広めの空間に出る。
どうやらなにかの倉庫だったらしいここが、今回の会場だったらしい。
「報告どおり……虎型のモンスター!」
ビームサーベルを構え、飛び込んだ勢いで切りかかる。
「――離れろ!!」
「......兄さんッ!?」
最前線で交戦していたのは、やはりヒカリだった。
脇にいるのはアカリとアキラ。三人とも無事だったのか……
俺は虎型のモンスターの頭を剣で突き刺し、そのまま頭ごと壁まで押し込んだ。
不意を突けたからか、モンスターは体勢を直せないでいた。
後ろに大きく跳んで、ヒカリたちのもとへ戻る。
「状況を教えてくれ!」
ヒカリが言い難そうに、そして悔しそうに顔をゆがませる。
「......えっと……負傷者13名、死亡者が……2人」
「クソッ……先生達は何してるんだ!」
「……ボクたちが足止めしてる間に避難してもらったよ」
アキラが片腕を押さえながら近づいてくる。
「ひどい怪我じゃないか……早く治療しないと――」
「――治療をするなら、アカリを先にしてもらえないかな」
アキラは自身の武器である≪玄武≫という亀形のロボットに守らせていたアカリの方を見やる。
「あ、アカリ!」
「大丈夫……気を失ってるだけだから」
アカリは壁に寄りかかったまま、ピクリとも動かない。
「……もういい、お前達は下がってろ!」
「......……ッ!!」
ヒカリの肩が震えた。
「ヒカリ、お前は二人を避難所まで送り届けてくれ」
「......で、でも、兄さん。あれを一人でなんて――」
「――いいから早くしろ!!」
モンスターがこちらに突進しようとしてきているのが横目に見える。
「......ッ!……う、うん」
ヒカリはうなずくと、アキラの手を引いて外へ駆け出した。
それと同時に、≪玄武≫がアカリを乗せて動き始める。
そして、モンスターも突進を開始した。
「当たるかよッ!!」
向けられた牙を剣で弾きつつ、横に受け流す。
逃げていくヒカリたちを追おうとしたのか、こちらを振り向くことなく歩を進めた。
「お前の相手はこっちだ!――≪リーンフォース≫!!」
強化項目は……ビームサーベルの出力。
走る勢いで足を切り裂いて、反した剣で胴を叩く。
『グオオオオオォォ!!』
モンスターは痛みに怯んだように見えたが、すぐにこちらを向き直った。
モンスターの切り傷から煙が上がっているのが見える。
……≪自動修復≫能力持ちか……
どうやら半端な攻撃では、すぐに回復されてしまうようだ。
……ん?≪サーチャー≫に通信? 誰から……
モンスターの鉤爪攻撃を受け流しながら、通信に出る。
『ライトくん!大丈夫!?』
「その声は……ヒヨか!」
反撃の一閃をかまし、少し距離をとる。
『ヒカリちゃんからそのモンスター……≪ティーガー≫の情報が送られてきたから、伝えておくね』
……ヒカリ、あいつ……
今になって、あんな冷たい態度を取ったことを後悔した。
……あいつもちゃんと戦ってくれてたんじゃないか。それを俺は……
『……そのモンスターの通称名は≪ティーガー≫。武装は≪鉤爪≫と≪アサシンブレード≫、それに――』
「――照射型のビームライフル!」
虎型のモンスター……ティーガーの背中から出てきた銃口が、俺めがけてビームを放つ。
……距離をとってたら焼かれるぞッ……!
右側面に回りながら、ビームを避ける。
『だ、大丈夫?』
「あ、ああ。……それで、武装はそれだけなのか?」
反動で動けないところをカウンターで突く。
少しでもダメージを稼いでおきたいところではある。
『今わかってる武装はそれだけみたい……けど、まだ何かあるかもしれないし……』
「わかった。ありがとな、ヒヨ」
『うん。これ以上のことはしてあげられないけど……がんばって!』
「あ、ヒヨ」
通信が切れる直前に、ヒヨを呼び止める。
『な、なに?』
「……ローザは……ショッピングモールの方はどうなってるかわかるか?」
『ショッピングモール……って、あの巨人がいるところのこと?』
「ジャイアント……!?」
聞き覚えのありすぎる名前だった。
『巨人型のモンスターってことで、そう呼んでるけど、正確な名称はまだ決まってないの』
「そ、そうなのか……?」
ヒヨの言葉を聞き流しながら、体勢を整えたティーガーの攻撃を避けていく。
『10メートルはあるって言ってたけど……ごめん、ライトくん。そっちはまだ何も……』
「……そうか、すまない」
『ううん。また何かわかったら連絡するね』
「ああ。頼む」
そう言うと、通信は切れてしまった。
……画面越しなら、気絶しないんだな……
「……さて、そろそろ片付けないとな……」
ティーガーの腕から飛び出してくる≪アサシンブレード≫も、事前モーションがあるので避けれる。
鉤爪も、威力はそこそこだが、ビームサーベルで受けきれない強さではない。
問題は、どうやって倒すか。
サーチャーの解析完了率は87%。
弱点候補はいくつも上がっているが、全てを試しているほどの時間はなさそうだ。
……こっちはローザのところへ戻らなきゃなんでね……
俺は一旦体勢を立て直そうと、ティーガーの鉤爪を弾いて、後ろへ下がる。
……うん?
ティーガーも後ろへ大きく跳んで、距離をとったと思ったら、
……ティーガーの身体が……
もともとこういう仕組みだったのか、はたまた誰かの戦略か。
一瞬、強い光を放ったティーガーは、明らかにさっきまでとは違う雰囲気を醸し出していた。
背中には粒子の翼を展開し、腕や足にスパイクのよう
な武装が追加されている。
『グォォォァアアアア!!』
「……ここからが本番、ってか……!」
俺は剣を握りなおす。
「悪いけど、こんなところで遊んでる暇はないんだよ……」
そしてポケットからクリスタルを取り出し、装着した。
「≪エクスパンド≫!」
ビームサーベルを複製し、スキルセットを≪双剣≫に変更する。
「お前は、ここで倒させてもらう!」
俺と怪物との、第2ラウンドが幕を開けた。




