チャプター 3-3
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「"彼女"に何をしたんですか!教官!」
眉一つ動かさない教官の机を叩く。
「……ちょっとした検査だ。危害は何も加えていない」
「嘘言わないでください!衰弱しきってたじゃないですか!」
「……だったら何だと言うのだ」
「何……?」
教官は冷たく鋭い眼光を向ける。
「こんな状況で、どこから来たかもわからない戦力外を、なぜ保護しなければならない?」
「…………」
「いくら君の権限を使って連れてきたものだからといって、特別扱いするわけにはいかない」
「……せめて、これ以上危険な目には――」
「――遭わせないようにするのが、貴様の仕事だろう?」
「……ッ! ……失礼します」
俺は教官室から、なるべく感情を読み取られないように出た。
……俺の仕事、か……
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「…………」
「ライト……?どうかしたの?」
ショッピングモールの4階にあった開放感あふれるフードコートで、ローザとアイスを突いている。
もちろんだが、これも奢らされた。
「いや……ごめん。何か言ったか?」
「いいえ。……何か考え事?」
そう言ってローザは手元の黄色いアイス――オレンジレモン味とかいうアイスらしい――を一口掬う。
「あ……ひ、一口、あげるわ」
ローザは顔を少し赤らめて、掬ったアイスをこちらに向ける。
……ナチュラルに恥ずかしいこと要求しないでくれよ……っと……
「――ちょっとごめん、ローザ」
俺はポケットから携帯を取り出し、すばやくコールをかける。
思っていたより早く反応があった。
「……やっぱりお前か」
『……何の話だ?』
声の主は、ケン。
しばらく生徒会の仕事で忙しそうにしていたので、最近見ていなかった。
「……俺から8時の方向。射程的に……3キロ圏内ってところか?」
『…………』
ケンは何も言わない。
「……風の音がするな。……ってことは、屋上にいるな?」
『……はぁ。やっぱりすげぇや』
ケンが感心したように呟く。
「いいから、その銃口を向けるな」
『ごめんごめん。 たまたま見かけたからさ』
すこしイライラしてね。と続けた。
……撃つ気満々だっただろ……
ローザが複雑な表情をして、こちらを伺っていた。
俺はジェスチャーで謝っておき、ケンが居るであろう方角に向き直る。
「……見かけたってことは、見張り当番中か?」
『ま、早い話がそういうことだ』
生徒会の仕事の一環として、学校付近のモンスター出現情報を目で確かめる……と言うものがある。
それがこの通称、見張り当番。
「休みの日なのに当番なんて、大変だな」
『他人事じゃないんだがな……』
ケンは見張りの道具として、スナイパーライフルのスコープを使ってるとか言ってたが、マジだったらしい。
俺が殺気に気づかなかったらどうするつもりだったのだろうか。
あと、何かぼやいていたようだが聞こえなかったことにした。
「ちなみに……どんな感じだ?」
『新入生たちは意外と優秀みたいだな。もうすぐ試験は終わるってよ』
「そうか……」
……何事もなかったならいいんだ……
2次試験は、学校のある学園島の隣の空き地島と呼ばれている島で行われる。
そこには、防衛ラインを越えてきたモンスターたちの巣穴となっている。
そう強いモンスターがいないことから、訓練場として使われることが多い。
「他はどうだ?」
『うーん……少し奥の方が騒がしい……かな』
「騒がしい?」
ケンがはっきりしないことを言うなんて珍しい。
『確証はないが……注意だけはしておいてくれ』
「あ、ああ……」
『じゃ、オレはそろそろ見張りにもどるよ。せいぜい楽しんでこいよ』
そう言って電話は切れた。
「…………」
ローザが不服そうにこちらを見ている。
アイスが入っていたはずの容器はすでに空だった。
なぜか俺の分まで。
「ご、ごめん、ローザ。長くなった」
「まったく……デリカシーの欠片も無いんだから……」
「……申し訳ないです」
本当にその通りなので、ただ謝るしかできない。
「まぁ、あれだけ買ってもらったし、今日だけは特別に、許してあげるわ」
俺はローザの慈悲に縋るしかなかった。
……もう少しまともな回避手段を考えないとな……
などと思った時、仕舞ったはずの携帯が震えた。
「あら……?何かしら?」
どうやらローザの携帯にも届いたらしい。
「……ッ!ライト!!」
呼ばれた時には、ローザはすでに走り始めていた。
「あ、ああ!」
俺はあとから追うように走り始めた。
送られてきたメールは……緊急依頼。
どうやら最悪の事態が起こってしまったらしい。
出現モンスターのランクはB。
あの大蜘蛛がランクCなのだから、どれほどの戦力を持つかは想像がつく。
そして場所は……予想通り、空き地島。
……さっきまで何もなかったはずだったのに……ケンの見落としか……?
「あんたの妹たちは大丈夫なの?」
「多分な。けど、他の生徒は……」
あの3人で守りきれるとは思えなかった。
メールをスクロールして詳細情報を確認する。
……敵は虎型のクリスタルモンスター。被害状況は未確認、か……
心の中で毒突く。
……ん?またメールが……
1通目を確認し終わったタイミングで、追加のメールが届く。
「ロ、ローザ!」
前を走るローザを呼び止める。
次に来たメールも緊急依頼。
……俺、何か悪いことしたかな……?
思い当たることが多すぎたので考えるのをやめた。
「……ここはあたしが残るわ。ライトはあっちをお願い」
「だ、大丈夫なのか?」
追加で現れたのは、このショッピングモールに近づいてくる大型モンスター。
ランクはAが判定されたらしい。
ただ、それ以上の情報はまだ記されていなかった。
「ええ。あたしの強さは、あんたが一番知ってるでしょ?」
こんなほとんど確定情報のない状況なのに、彼女は笑顔を見せてくる。
それほどの自信はどこから湧いているのだろうか……
「……無理はしないでくれよ」
「わかってるわ」
手を上げて、ハイタッチを交わした。
うちの学校で一時期流行った、出撃のサインだった。
「あんたも気をつけなさいよ」
「ああ……わかってる」
……さすがのローザとはいえ、援軍が来るかもわからない状況下で……
頭を振って、頭を切り替える。
俺は外へ出ると、≪フォトンウィング≫を起動した。
……頼む。間に合ってくれ……!
あいつらが倒れるより速く、ローザが力つきるより速く!
俺が願えば願うほど、粒子を纏った光の羽はそれに応えるように震えた。
「……もう、手遅れなんていやなんだよ」




