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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第一章 「追跡者《チェイサー》すなわち過去」
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チャプター 3-3



「"彼女"に何をしたんですか!教官!」


眉一つ動かさない教官の机を叩く。


「……ちょっとした検査だ。危害は何も加えていない」

「嘘言わないでください!衰弱しきってたじゃないですか!」

「……だったら何だと言うのだ」

「何……?」


教官は冷たく鋭い眼光を向ける。


「こんな状況で、どこから来たかもわからない戦力外あれを、なぜ保護しなければならない?」

「…………」

「いくら君の権限を使って連れてきたものだからといって、特別扱いするわけにはいかない」

「……せめて、これ以上危険な目には――」

「――遭わせないようにするのが、貴様の仕事だろう?」

「……ッ! ……失礼します」


俺は教官室から、なるべく感情を読み取られないように出た。

……俺の仕事、か……





*********

******






「…………」

「ライト……?どうかしたの?」


ショッピングモールの4階にあった開放感あふれるフードコートで、ローザとアイスを突いている。

もちろんだが、これも奢らされた。


「いや……ごめん。何か言ったか?」

「いいえ。……何か考え事?」


そう言ってローザは手元の黄色いアイス――オレンジレモン味とかいうアイスらしい――を一口掬う。


「あ……ひ、一口、あげるわ」


ローザは顔を少し赤らめて、掬ったアイスをこちらに向ける。

……ナチュラルに恥ずかしいこと要求しないでくれよ……っと……


「――ちょっとごめん、ローザ」


俺はポケットから携帯を取り出し、すばやくコールをかける。

思っていたより早く反応があった。


「……やっぱりお前か」

『……何の話だ?』


声の主は、ケン。

しばらく生徒会の仕事で忙しそうにしていたので、最近見ていなかった。


「……俺から8時の方向。射程的に……3キロ圏内ってところか?」

『…………』


ケンは何も言わない。


「……風の音がするな。……ってことは、屋上にいるな?」

『……はぁ。やっぱりすげぇや』


ケンが感心したように呟く。


「いいから、その銃口を向けるな」

『ごめんごめん。 たまたま見かけたからさ』


すこしイライラしてね。と続けた。

……撃つ気満々だっただろ……

ローザが複雑な表情をして、こちらを伺っていた。

俺はジェスチャーで謝っておき、ケンが居るであろう方角に向き直る。


「……見かけたってことは、見張り当番中か?」

『ま、早い話がそういうことだ』


生徒会の仕事の一環として、学校付近のモンスター出現情報を目で確かめる……と言うものがある。

それがこの通称、見張り当番。


「休みの日なのに当番なんて、大変だな」

『他人事じゃないんだがな……』


ケンは見張りの道具として、スナイパーライフルのスコープを使ってるとか言ってたが、マジだったらしい。

俺が殺気に気づかなかったらどうするつもりだったのだろうか。

あと、何かぼやいていたようだが聞こえなかったことにした。


「ちなみに……どんな感じだ?」

『新入生たちは意外と優秀みたいだな。もうすぐ試験は終わるってよ』

「そうか……」


……何事もなかったならいいんだ……

2次試験は、学校のある学園島の隣の空き地島と呼ばれている島で行われる。

そこには、防衛ラインを越えてきたモンスターたちの巣穴となっている。

そう強いモンスターがいないことから、訓練場として使われることが多い。


「他はどうだ?」

『うーん……少し奥の方が騒がしい……かな』

「騒がしい?」


ケンがはっきりしないことを言うなんて珍しい。


『確証はないが……注意だけはしておいてくれ』

「あ、ああ……」

『じゃ、オレはそろそろ見張りにもどるよ。せいぜい楽しんでこいよ』


そう言って電話は切れた。


「…………」


ローザが不服そうにこちらを見ている。

アイスが入っていたはずの容器はすでに空だった。

なぜか俺の分まで。


「ご、ごめん、ローザ。長くなった」

「まったく……デリカシーの欠片も無いんだから……」

「……申し訳ないです」


本当にその通りなので、ただ謝るしかできない。


「まぁ、あれだけ買ってもらったし、今日だけは特別に、許してあげるわ」


俺はローザの慈悲に縋るしかなかった。

……もう少しまともな回避手段を考えないとな……

などと思った時、仕舞ったはずの携帯が震えた。


「あら……?何かしら?」


どうやらローザの携帯にも届いたらしい。


「……ッ!ライト!!」


呼ばれた時には、ローザはすでに走り始めていた。


「あ、ああ!」


俺はあとから追うように走り始めた。

送られてきたメールは……緊急依頼。

どうやら最悪の事態が起こってしまったらしい。

出現モンスターのランクはB。

あの大蜘蛛がランクCなのだから、どれほどの戦力を持つかは想像がつく。

そして場所は……予想通り、空き地島。

……さっきまで何もなかったはずだったのに……ケンの見落としか……?


「あんたの妹たちは大丈夫なの?」

「多分な。けど、他の生徒は……」


あの3人で守りきれるとは思えなかった。

メールをスクロールして詳細情報を確認する。

……敵は虎型のクリスタルモンスター。被害状況は未確認、か……

心の中で毒突く。

……ん?またメールが……

1通目を確認し終わったタイミングで、追加のメールが届く。


「ロ、ローザ!」


前を走るローザを呼び止める。

次に来たメールも緊急依頼。

……俺、何か悪いことしたかな……?

思い当たることが多すぎたので考えるのをやめた。


「……ここはあたしが残るわ。ライトはあっちをお願い」

「だ、大丈夫なのか?」


追加で現れたのは、このショッピングモールに近づいてくる大型モンスター。

ランクはAが判定されたらしい。

ただ、それ以上の情報はまだ記されていなかった。


「ええ。あたしの強さは、あんたが一番知ってるでしょ?」


こんなほとんど確定情報のない状況なのに、彼女は笑顔を見せてくる。

それほどの自信はどこから湧いているのだろうか……


「……無理はしないでくれよ」

「わかってるわ」


手を上げて、ハイタッチを交わした。

うちの学校で一時期流行った、出撃のサインだった。


「あんたも気をつけなさいよ」

「ああ……わかってる」


……さすがのローザとはいえ、援軍が来るかもわからない状況下で……

頭を振って、頭を切り替える。

俺は外へ出ると、≪フォトンウィング≫を起動した。

……頼む。間に合ってくれ……!

あいつらが倒れるより速く、ローザが力つきるより速く!

俺が願えば願うほど、粒子を纏った光の羽はそれに応えるように震えた。


「……もう、手遅れなんていやなんだよ」




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