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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
第一章 「追跡者《チェイサー》すなわち過去」
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チャプター 3-1

チャプター3





『育成場』――

対クリスタルモンスターを想定した防衛訓練を受けられる軍事施設。

最終防衛ラインから奥へ何千キロも入った所にあるこの施設は、教育機関として機能している。

……ただ、一般公開はされていない。

自衛隊だけでは国を守りきれないからと、国民を戦力に変えるために建てられた施設なのだから……

……今でも忘れられない。消えない硝煙の匂いと、何億回と振ったけんの感覚を……

戦場のど真ん中で、途方も無い数の敵をひたすらに叩き切っていた、あの頃の記憶を……

そして、俺にとって確かに大切だった、あの娘のことを……






*********


*********






あれから毎日放課後は、≪フォトン・ウイング≫を使った空中戦訓練を行った。

いつのまにか、ローザと学校の地下にある誰も居ないアリーナへ行くことが日課になっていた。

ヒカリも訓練に付き合ってくれたりして、充実した訓練になったと思う。


……そういえば、ヒカリは結局あの部屋に住むことになったんだっけ……


熊谷先生に電話で相談してみたところ、ヒカリがそう望むのなら、そして部屋の持ち主の許可が得れれば問題ないと告げられた。


……あの後二人でこそこそ話し合ってたけど、何を話してたんだろうか……


思っていたよりすんなり許可したことも、妙に引っかかる。


……また今度聞いてみるか……


俺は気を取り直して、道の先……その暗がりの向こうを見据えた。

そこから浮かび上がってくる赤い目。


……これは一匹じゃないな……


定期的に≪サーチャー≫に送られてくる敵の予測位置のおかげでわかってはいたが……


……数まではさすがにわからないか。


ベルトにつるしていた愛剣ビームサーベルを取り出し、刃を展開する。


「ここで会ったがなんとやらってね!」


サーチャーでの解析を平行して行いながら、全長2メートルほどのジャイアント三匹に喧嘩を売る。


……動きはのろそうだな……


開幕速攻をかけ、一振りでジャイアントの腕を切り取った。


「――遅い!!」


攻撃モーションに入られる前に、追撃を加える。

だが、ジャイアントは傷つけられるのも厭わず、攻撃を無理やり繰り出そうとした。


……あれもらったら骨の一本二本は持ってかれるんだろうな……


俺はあえて一歩引き、ジャイアントに攻撃をさせて、解析を進める。

空を切ったその拳は、地面に気持ちいいぐらいのクレーターを作った。


……やばいやばい……


調子に乗りすぎたらマズイらしい。


……さっさと片付けてしまおう……


≪解析完了≫と画面に表示されたのを確認して、俺はバックステップでさらに距離をとる。


「≪天津風流龍剣術≫――」


ジャイアントがこちらに追撃をしてこようとしたタイミングを見計らって、技を放つ。


「――≪朧月≫!!」


視界が追いついたときには、ジャイアントの背後に居た。

今度はきちんと相手の急所を捉えていたようだ。ジャイアントの頭が落ちる音が三度聞こえる。

振り向いたときには跡形も無く消え去っていた。


……データは……取れてるな……


確認が終わると、思い出したように息をつく。


「こんな夜道にジャイアント(こんなやつ)が出歩いてるんじゃ、危ないよな」


……夜道なんて出歩くもんじゃないな。うん。


ビームサーベルを仕舞い、電子生徒手帳を取り出す。


……もう2時か……


ほんの少し用事を済ませて帰るつもりが、思ったより時間がかかってしまった。


……俺も早く帰って寝よ……


まだ寮まで距離があったので、≪フォトンウイング≫を展開した。

なるべく人目を避けて帰る。


……静かだな……


星の見えない夜空では、ほぼ満ちている月が夜道を照らしていた。

昼間の喧騒は影を潜め、たまに遠くで何かが啼く音がするだけだった。



*********



「ただいま」


鍵を開けて部屋に入る。

玄関には俺のじゃない小さな靴が2セット。


……ちゃんと居るな……


荷物をさっさと片付けてしまい、寝室へ向かう。


「くぅ……くぅ……」


ローザの幸せそうな寝顔を見ていると、こっちまで眠くなる。


……ほんとに同い年かよ……


あくびをかみ殺しながら自分のベッドへ腰掛けようとしたが、


「うん……?」


俺は数秒考えた後、掛け布団を引き剥がした。


「......にぃ、さん……」

「おいおい……」


安心しきった寝顔を浮かべ、ヒカリが寝ていた。


……寝てるときのほうが表情豊かなんじゃないか……?


「......う、う……ん?」


などとその寝顔を眺めていたら、もぞもぞし始めた。


「……悪い。起こしちまったか?」

「......あれ……? 兄さん……?」


寝ぼけ眼を擦って、こちらを向く。


「......どこ、いってたの……?」

「ちょっと野暮用でな。……それより、どうして俺のベッドで--」


そこまで言ったとき、ヒカリが奥の壁際へ寄った。


……入れってことか……?


「……今日だけだからな」

「......兄さんは優しいから、大好き」

「……冗談でも恥ずかしいからやめてくれ……」


ヒカリは楽しそうに笑う。

普段の様子と比べると、幾分表情が柔らかい感じがする。

寝ぼけているからだろうか。


「......兄さん、あったかい……」

「……そうかよ……」


ヒカリに擦り寄られ、妹とは言えど、心が揺れる。

……寝ろ、寝るんだ。このままやり過ごせ……

やはり追い出さなかったのは失敗だったかと思いながらも、目を閉じる。


「......兄、さん……わたし……は……」


やがてヒカリの声が聞こえなくなり、代わりに規則的な寝息が聞こえてきた。


……寝たのか……


ローザも居ることだしこのままにするのもマズイ気がしてきたので、俺は空いてるベッドへ移動した。


……目覚ましさえあれば大丈夫だろ……


セットし、ようやく安心して寝れると、目を再び閉じた。


……おやすみ、二人とも。しばしの休息を……


緊張の糸が切れ、俺の意識は驚くほどすんなり途切れたのだった。






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