幕間
幕間
「ふあああぁ……」
間の抜けたあくびが漏れる。
どうも連戦の疲れが出てきたらしい。
……やることももう無いし、晩飯まで少し寝るか……
ローザと階段をのぼり、見慣れた自分の部屋へ。
日はすっかり落ちて、あたりは真っ暗だった。
「ローザ、悪いが少し寝てくる。 おなか空いたら起こしてくれ」
「ええ。 疲れてるなら休む。 鉄則よね」
……鉄則?
ローザの返答を了承と受け取り、俺は靴を脱いで寝室へ。
荷物をリビングのソファーに投げ、扉を開ける。
……うん?
だが、そこはいつもの寝室ではなかった。
……ああ、空いてた隣の部屋か……
どうやらひとつ扉を間違えてしまったようだ。
「......兄さん?」
どうやらこの部屋には先客が居たらしい。
「ヒカリ……さっきから見ないと思ったら……」
薄暗い部屋の中、ブルーライトに照らされた顔をこちらに向けてくる。
「テストはどうしたんだよ?」
「......もうとっくに、終わってるよ?」
そんな"何言ってるの?"的な目でこっちを見ないでくれ……
ブルーライトカットのメガネを直しながら、ヒカリがこっちに来いオーラを発する。
……それにしたって、ヒカリのメガネ姿も久しぶりだな。
普段はかけていないため、余計に感慨深い。
たいていかけるのは、コンピューターを弄ってる時か、コスプレの時だけだ。
「こんな時間から何やってたんだ……?」
そうぼやきつつ、障害物を避けつつ画面に目をやると、
「……何だこれ?」
見たことのないアプリが立ち上がっていた。
「......兄さんの≪サーチャー≫の拡大版」
「どうして俺がそれ持ってるって知ってるんだ……」
ヒカリは何も答えない。
でも確かに言われて見れば、円形モニター内の赤い点は、モンスターの位置を表しているように見えた。
「……一応聞いておくが、これ、どうしたんだ?」
「......わたしが作った」
「ですよね……」
ヒカリはプログラマーだ。
この事実が発覚したのは、俺達が小学生のころ。
あのときは、学校中のプログラムを乗っ取ったりして、大変だったよな……
きっかけは些細なことだったんだが……
「......兄さん、昔のことはいいから」
心読むとかいうメタ能力使うのはやめてもらえますかね……?
「……にしたって、こんなプログラム作って、どうするつもりだ?」
「......一応。警戒用に試験的に導入してみただけ」
「…………」
"警戒用"か……
「......また"あいつ"が、来るかもしれないし……」
「……いや、この1年間、姿を現したという情報は無かったが?」
「......このまま、何も無かったら、いいけど……」
こうして見ていると、最終防衛ラインを超えてきた小さなモンスターが結構居ることがわかる。
……まったく……どうやったら半日かからずにこんなの作れるんだよ……
「......とりあえず、どこに居ても、兄さんの≪サーチャー≫に情報を送れるようにしておくから」
「ああ。 助かるよ」
これでしばらくは不意打ちに会うこともないだろう。
「……これ、人は探せないのか?」
「......一応、追跡できるようには出来るけど……?」
不思議そうな眼差しを向けてくる。
「いや、いい。 確認しておきたかっただけだ」
「......そう」
俺は改めて空き部屋だったこの部屋を見直す。
……とてもじゃないが、人の部屋に持ち込む量じゃないな。
こいつ……完全にここに住む気だぞ……
「......あ、部屋の移動の件は、先生に通達済みだから」
「……先生は何と?」
「......兄妹なら、問題無いと」
ヒカリは無表情のまま親指を立てた。
いや、良くないからな……?
「ローザには言ったのかよ?」
「......? どうして赤月先輩に……?」
「なんだ、聞いてないのか? この部屋はもともとローザのものだよ」
「......え?」
……なんだ……この言いようも無い寒気は……
「......わたしがいない間に……赤月先輩とそういう関係になったと言うの……?」
「ちょっ! 待て! 誤解してるぞ……!」
……うわ……こういう時、どうやって説明すれば…
「ライト~! そろそろご飯の準備、した方がいいんじゃないかしら?」
扉の向こうの方からローザの声が。
……いいぞ、タイミングばっちりだ! ファインプレイだぞ!
「……そ、そういう訳だから、この話は後にしよう。 な?」
だが、ヒカリは納得していないらしく、
「......今晩はわたしが作る」
むくれてそんなことを言い出した。
「何……?」
「......兄さんも手伝って」
「あ、ああ……」
ヒカリ、料理なんてできたっけか?
ていうか、俺も野菜炒めぐらいしか作れないんですけど……
**********
「ねぇ、どうしてヒカリがここに居るの……?」
「......何か問題でも?」
「…………」
意外にも、ヒカリが用意したレシピは、オムライスだった。
ただ、こんな修羅場の真っ只中で調理できる気がしない。
「まぁまぁ、二人とも、落ち着けって」
「なによ、勝手に連れてきておいて……」
「......兄さんのニブチン……」
なぜか冷たい反応しか返ってこなかった。
「絶対に後で説明してもらうからね!」
ローザ、怖い。怖いって……
その夜は、ゆっくり過ごせるはずも無かった。




