チャプター 2-9
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"彼女には特別な何かがある"……
先生の言葉が妙に引っかかる。
まぁ、言われてみれば、クリスタルをこれだけ所持してるってだけでもアレだしな。
そんなことを思いながらも、とりあえず端末をポケットに戻し、問い詰められないようにする。
ローザは脅かしたことを少し反省しているらしく、黙ったままだ。
そこに、近づいてくる足音が二つ。
音のほうへ向くと、試験に行っていた2人だった。
「せんぱーい! 試験終わりましたよ~!」
そう言ってアカリは抱きついてきた。
跳ね除けるわけにも行かず、素直に受け止めた。
「ああ。 お疲れ様。 アキラもな」
「う、うん!」
まぁ、まだ一次試験だけだけど。
「二次はね、今週土曜だって先生が言ってた」
土曜か……。
当然学校はない。
選択肢は色々あったが、とりあえず浮かんだ質問をしてみた。
「なぁ、ローザ。 土曜って空いてるか?」
「ええっ!?」
文字通り目を丸くしてローザは固まってしまった。
驚くような質問だったか……?
「……い、一応、予定はないわよ?」
なぜか顔を赤くしてそう呟く。
「ならさ、せっかくだし、買い物に付き合ってくれないか?」
「え、ええっ!?」
いちいち驚かないでくれ。
「先輩、わたしたちも連れて行ってくださいよ~!」
「そうですよ! なにもボクたちが試験の時に行かなくてもいいじゃないですか!」
後輩たちの必死の抗議に、心が痛む。
「また今度連れて行ってやるから、な?」
「絶対ですよ!」
「ああ。 約束だ」
そうこうしてる間も、ローザは頭から煙を上げて行動不能になっていた。
「これって……もしかしなくても……」
なにやらブツブツ呟いていたが、よく聞こえなかった。
……別にそういうつもりじゃなかったんだけどな……
だが、内容をだいたい察した俺は、ローザの思考を否定することができなかった。
*********
「そ、そういえばライト」
落ち着いたのか、帰路の途中でローザが話しかけてくる。
「なんだ?」
振り向くと、思ったより真剣な表情だった。
「あなたに渡しておきたいものがあるの」
「渡しておきたいもの?」
ローザはポケットからエメラルドグリーンの……永続クリスタルを取り出した。
「それは?」
「……あたしと初めて出会った時のこと、覚えてるでしょ?」
「あ、ああ……ん?」
昨日のことだ。もちろん鮮明に覚えている。
廃工場で華麗に舞っていた彼女は、背中に薄緑の翼を……
……薄緑の翼……
「……まさか」
「ええ。 飛行デバイス≪フォトン・ウィング≫。このクリスタルの名前よ」
……そうか、あの翼もクリスタルのものだったんだな……
「でも、どうしてそれを?」
「便利でしょ?」
即答だった。
「……それだけ?」
「ええ。 まぁ、パーティー結成の記念ってことで、貰ってくれない?」
パーティーか……
"未来を変える"という大役を担っているという事実を、改めて思い出した。
これだけ色々あると忘れてしまいがちだが、ローザは単に遊びに現在へ来たわけではない。
……そうか、クリスタルも未来の産物……なんだよな。
「……どうしたの?」
ローザが首をかしげている。
「いや、ありがたく受けとっておくよ」
……これで、空を飛べるってことだよな……?
考えたらワクワクしてくる。
「……でも、本当に良かったのか? こんなの貰っちゃって」
「ええ。 もう1つあるから問題ないわよ」
マジかよ……
「……ならさ、こいつの使い方、教えてくれよ」
「ふふ……もちろんよ!」
ローザはうれしそうに笑った。
*********
「この辺でいいかしらね……」
橋を越えて少し行ったところにある広場。
そこに2人で剣を出して並ぶ。
「起動キーワードは特に必要ないわ」
「そうなのか?」
「飛ぼうという意志があれば、それだけで展開するわ」
それはまた、よくできたクリスタルだな……
通常のクリスタルは、よほどど使わない限り、起動にはキーワードが必要になる。
それだけ"意志"が強くないと、クリスタルは反応してくれないものだ。
だが、≪フォトン・ウィング≫は少しの意志で起動するというのだ。
技術力というかの差を感じさせられる。
「とりあえず起動してみて」
「よし……」
ビームサーベルにセットし、言われた通りに意識する。
「……これか?」
背中に違和感がある。
きっと展開できている証拠だろう。
「いいわよ。 じゃあ、ビシバシ行くわよ!」
ローザは、心なしか楽しそうに見えた。
「すごいじゃない! 初めてとは思えないわ!」
数十分後、ある程度は飛べるようになってしまっていた。
「ローザの説明が良かったんだよ」
「そ、そうかしら?」
まぁ、似たような場面を幾つか見たことがあったから、ってのもあるけど。
そんなことを言っても通じないだろうな。
「せっかくだし、少し飛んで帰らない?」
「そうだな」
2人で空へ飛び上がる。
今まで見ていた景色が、全然違って見えた。
「綺麗……」
「……そうだな」
夕日が溶けるように沈んでいくその姿は、桜の舞い散る海を照らし出し、俺たちを包んだ。
その光景を、2人で日が海に隠れるまで眺めた。




