チャプター 2-8
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「ほらほら!逃げてばっかりじゃ勝てないわよ?」
……くそっ……油断してた……
ローザの使用サポートスキルが≪双剣≫に変わったときは、まだ勝ち目があると思っていた。
だが、彼女の≪双剣≫は、そんな甘いものではなかったのだ。
ローザがその剣を振るうたびに、そこから半月型のビームが飛んでくる。
一瞬の溜めがあるおかげで避けれているが、近づけない。
タイマーの残り時間は……インスタント麺一個分か?
自分で思っているより、案外余裕に思っているのかもしれない。
……さっさと本気出すか……
俺はセットしておいたミラークリスタルを起動する。
「≪エクスパンド≫!!」
ついでにポケットから永続クリスタルを取り出して、取り付ける。
飛んでくるビームをかわしつつ、それも起動させた。
「≪リーンフォース≫!!」
強化項目は……AGI。
「……っ! 急に速く……!」
ローザの攻撃が、飛び交う光線が、遅く見える。
……俺の身体が耐えれるか怪しいな……
足の回転は明らかに速くなってはいるが、スタミナは変わらないので、どれほど持つかわからない。
……右側面から回り込む!!
「甘く見ないでよねっ!」
ビームが当たらないことを悟ったローザは、迎撃体勢に移る。
「遅いっ!!」
技が出せるのは、時間的にあと一回。
……ここで決める!!
「≪天津風流龍剣術・二刀の型・龍王二式≫!!」
だが、ローザの対応も早かった。
「≪秘剣・血薔薇の悲鳴≫!!」
……この技は……!!
ローザの剣に俺の剣が触れた瞬間、視界が真っ暗になった。
……くそ……やっぱり、只者じゃないな……
ブザーの音が、遠くで鳴り響いた。
*********
*********
「痛っ……!!」
体中の関節という関節が、悲鳴を上げている。
意識の覚醒と同時に痛み始めた身体は、収まる気配をみせない。
……あぁ……俺は、負けたのか……
去年の公式戦以来だった。
……≪双剣≫も使って、俺の≪龍剣術≫まで出したというのに……
それほどまでに彼女は強かった。
……それに、最後の"あの技"。
≪血薔薇≫。
初めて聞く名前ではないが、どこで聞いたか忘れてしまった。
……俺のほうが速く動けたのに、回避できなかった。
その事実が、≪血薔薇≫の技の強さを裏付ける。
……他の技も使えるのかな……?
絶対に敵には回したくないな。
「お疲れ、ライト」
「……先生」
器具を回収しにか、熊谷先生が来る。
「見てたぞ、赤月との決闘」
「…………」
……覗き見とは、趣味が悪いな……
口に出す元気がないので、思うだけにとどめておいた。
「あの子には特別な何かがある。 そう思わないか?」
「……どういう意味ですか」
コードや機器を片付けながら、先生はこう続ける。
「彼女の使っているクリスタルはどれもまだ未開発のものだった」
「…………」
そう来たか……
クリスタルを研究している身として気になるのはわかるが、そこを説明していいのかわからない。
勝手に説明して、ローザに何かあったら嫌だしな。
「……きっと、クリスタル鉱山でキャンプでもしたんでしょう」
「面白くない冗談だな」
鼻で笑いながらその台詞はないだろ……?
「まぁ、データは勝手に解析させてもらうさ」
そう言って先生はコンピューターの前に戻る。
「欲しかったら売ってやってもいいぞ?」
「……考えておきます」
披見体の一人として、それぐらいの恩恵を受けても、文句は言われないと思う。
「どっちにしても、彼女と組む以上、何があるかわからない。 注意しておけよ」
「ああ。 わかってる」
身体の痛みが引いてきたので、そのまま部屋を後にした。
*********
電子生徒手帳を取り出し、起動する。
もう3時だった。
……あいつらの試験、そろそろ終わるころかな?
アカリ達なら大丈夫だろうと思えてしまう。
……ん? メールが来てる……
ケンからだった。
……なになに……
『今日計った測定値は全てパーティー内で共有されるらしいぞ。 だからさ、ローザの全ステ画面スクショして送ってくれ~』
いやいや、何言ってんの?
誰がこんな要求を了承するんだよ。
俺はとりあえず、『そういうことばっかりだと査問会に出すぞ』とだけ書いて送っておいた。
生徒会の一員として、もう少し自覚を持って欲しいところである。一友人として。
……てか、本当に見れるのか……?
共有されている、と書いてあったが……
メニューから、パーティー情報を開く。
そこからローザのステータス画面へ。
……あ、普通に見れるじゃねぇか……
流れ作業的に開いていったが、すんなりいけてしまった。
……でも、見えているのは基本的なステだけだな……
誕生日、名前、性別、所属などなど。
さすがにプライバシーの問題からか、ケンが喜ぶような情報は開示されていなかった。
ん? 返信が……
『この情報教えてやるから査問会だけは勘弁してくれ』
という件名。
……そんなに嫌なんだな……
『詳細情報が欲しい場合は、アバターを表示させて、欲しい情報の箇所を長押しすると見れるぞ』
いやいやいやいや……
どうしてこんな情報を知っているんだ……?
「マジかよ……」
ステ画面に戻り、試しにアバターを出してみる。
さっきまで見ていた彼女の姿がそこに映し出される。
"欲しい情報の箇所を長押し"……
無難におなかの方を押してみた。
おお……見れる……見れてしまう……
ウィンドウが開き、確かにいくつかの数値が表示された。
……56か……女子のウエスト事情とかよくわかんないんだよな……
触ってもピクリともしないアバターは、本人そっくりで……
その本人の知らないところで、超個人情報が危機にさらされているなんて……
「何してるの?」
「うあああああああっ!!」
「え? ちょっ!? 何!?」
いつの間に後ろに……
「い、いや。 なんでもない、なんでもないんだ」
「そ、そうなの?」
……よかった……身長差的に画面は覗けなかったのか……
「そんなに驚かなくてもいいのに……」
ローザは少し気まずそうにそっぽを向いてしまう。
うん、ケンはあとで説教だな。




