チャプター 2-6
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「……あんたの後輩、元気いいわね」
「さすがにちょっと元気すぎだろ……」
結局ランチを買ってきた二人と一緒に、そのまま昼食を済ませたわけだが……
「試験、間に合ったのかしらね?」
「どうせ間に合ってんだろ」
気づけばもう1時を回っていた。
そのことを思い出してから非常にどたばたしたものだ。
……食い切れないからって押し付けるのはやめてくれよな……
だが、楽しそうに他愛も無いことを話す彼女たちの姿を見たら、そんなことも言ってられなかった。
「……にしたって、入学そうそう入隊試験なんて、大変だな」
「何を他人事みたいに言ってんのよ。 去年あんたも受けたんじゃないの?」
「いや、まぁ、そうだけど……」
ローザのつっこみは容赦が無い。
……俺の所属する≪討伐科≫の授業を取るには、最初に課される試験に合格する必要がある。
人に害を及ぼすモンスターとはいえ、命を扱う学科だ。
自分の身を守れないやつを振り落とすため、このような試験を行っているらしい。
……俺的には、そういう人こそ訓練出来るようにして欲しいんだけどな。
「てか、ローザは行かなくていいのか? 入隊試験」
「あたしは編入試験のときについでで受けておいたから、大丈夫よ」
……試験をついでって……
効率的でいいんだろうけど、さ……
「……ライト、あんたは今からどうするつもりなの?」
そんな俺の視線も気にとめないローザ。
「いや、特に何も予定してなかったけど……?」
この後は部屋に戻ってゲームでもしようか、ぐらいしか考えていなかった。
「あの……こういうことを言うのは変かもしれないけど……」
「……?」
時間的に俺たち以外誰も居ない廊下で、ローザは言いづらそうに口ごもる。
「その……あんたと一度……」
「え……?」
「……一度でいいから、あんたと本気で闘ってみたいの!」
彼女から伝えられた彼女の願いを理解するのに、俺は数秒を要した。
「えぇっ!?」
「や、やっぱりだめだったかしら……?」
……聞く人が聞いたら誤解すること間違いない要求だな……
「別に、だめって事は無いけど……」
……急にそんなこと言われてもなぁ……
「……あんたの闘ってる姿を見てね」
おもむろにローザが話し始める。
「あたしも、あんたと剣を交えてみたくなったの。いいでしょ? パートナー同士の仲じゃない!」
そう言ってローザは指にはめたシルバーリングを見せてくる。
……そこまで言うなら、別にいいか……
「……わかった。 今からアリーナをセットしてもらえるように掛け合ってみるよ」
「そうこなくっちゃ」
ローザはあからさまにうれしそうだった。
……まったく、わかりやすいと言うべきかなんというか……
俺たちは保健室にいるはずの熊谷先生のもとへ向かった。
*********
……まさか、1日で2度もコンバートする羽目になるなんてな……
先生に「ローザと決闘がしたい」といった内容を伝えると、気が抜けるほど安請負をしてくれた。
「赤月はあっちの部屋へ」
「わかりました」
ローザは指示通り、ヒカリがさっきまでいた部屋へ移動していった。
「……赤月に誘われたのか?」
ローザがドアを閉めたのを見計らって、先生が問いかける。
「まぁ、そんなところです」
「こんな昼間から……若いねぇ」
「冗談はやめてください」
……ていうか、さっきもコンバートしただろうが……
「そんなに怒らなくてもいいだろう?」
先生はシステムを起動させながら、そんなことを言っている。
わざとらしく唇を尖らせて見たりするのはやめて欲しい。
……これだからこの先生は嫌いなんだよな……
俺の母の従姉という関係上、付き合いは長いが、どうにも慣れない。
「……大丈夫なのか? ライト。1日で2度はさすがにきついんじゃないか?」
急に真面目な顔になった先生は、そう俺に問いかけた。
「……いえ、大丈夫です」
「無理はしないでくれよ」
「……ああ」
……まったく……調子狂うぜ……
コンバーターのセットされたベッドへ向かう。
武器とクリスタル類は全てコンバート済みなので、後は最終シークエンスに入るだけだ。
「25番アリーナを使えるようにして置いたから、そこに向かってくれ」
「了解」
……さて、ローザがこの決闘をしたがった真意を確かめるためにも、そして、今の戦力を確かめるためにも……
意識が奪われていく感覚がする。
……ローザ、悪いが倒させてもらう……!
目を閉じて、電脳の世界へコンバートした。
*********
*********
「…………」
この部屋に来ると、自然と緊張感に襲われる。
殺しても大丈夫というルール上、楽しむ気分にはなれない。
「行くか……」
部屋を出て、エレベーターで25番アリーナへ。
アリーナの使用状況を見てみたが、結構人が入っていた。
……他の学校のやつらかな……
このアリーナは、関東エリアの公共のものだ。
当然、他の学校の生徒も利用できる。
……まぁ、うちの学校はグレードがあれだからな……
技術的にはそんなに進んでないほうだと聞いている。
……また、関東エリア戦とかやるんだろうな……
去年の記憶が頭をよぎる。
……いや、まずはローザとの決闘だ……!
アリーナのドアの前に立って、深呼吸をひとつ。
「……よし」
再び、戦いの舞台への扉を開いた。
「…………」
相変わらず真っ白な部屋は、俺の視界を不自由にする。
目をこすって、なんとか慣れてくると、壁と床が識別できた。
そこで、向かい側の扉が開き、中から、もう見慣れた姿があった。
……へぇ、よく出来てるじゃん……
電脳世界のシステムを組んだ人をほめたい気分だった。
ローザの赤っぽい髪のつややかさも、あの高校生にしては幼くみえる身体も。
現実と見分けがつかないほど忠実に再現されていた。
ローザは背中から例の大剣を引き抜き、構える。
「来たわね……さぁ、勝負よ!」
俺はそれに応えるようにビームサーベルの刃を出し、構えた。
片手で決闘のセッティングを済ませ、ウィンドウを閉じる。
上空にタイマーが表示され、準備が全て整ったことを教えてくれる。
「ああ……勝っても負けても、恨みっこなしだからな!」
「ええ。 望むところよ!」
手を前に出し、高らかに宣言する。
「「決闘!!」」
二人だけのステージで、死闘の開始を告げるブザーが鳴り響いた。




