チャプター 2-5
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「……にしても、よく俺がここに居るってわかったな」
「......丸一年掛けて、兄さんの行方を追ってたの」
ヒカリと廊下を歩きながら、何から話そうか考える。
「住む場所とか、困らなかったのかよ?」
「......市の出してる公開依頼やってたから。アパート暮らしは充実してた」
「そ、そうか」
どうやら不便は無かったようだ。
「......でも、学校の名簿から兄さんの名前を見つけるのは、大変だった」
「セキュリティーを掻い潜ってまで探したのか!?」
「......だって、会いたかったんだもん……」
ヒカリは廊下に人が居ないのを良いことに、俺に身体を摺り寄せてくる。
……うーん……こっちはあんまり成長してないみたいだな……
「……ったく、しょうがないな……」
そうこうしていると、向こうのほうから足音が聞こえてきた。
「あ、ヒカリちゃん! こんなところに居たんだ!」
「あれ? 隣に居るのは……」
「......二人とも、どうしてここに……」
姿を現したのは、学校では初めて合う顔の二人。
そして、昔から顔馴染みである二人だった。
「もしかして、アカリとアキラか?」
問いかけると、二人の表情がパッと輝いた。
「やっぱり! ライト先輩だ!」
アカリが飛びついて、首に手を掛けてつかまる。
「ちょっ……苦しいって!」
ゆっくりアカリを降ろして、改めてヒカリを含む三人をみる。
「そうか……みんなここの新入生なんだな」
こうして見てみると、まだ新しい制服がなんとも初々しさを醸し出している。
「ヒカリ、お前が呼んだのか?」
「......ええ。 わたしたちの気持ちは同じだったから」
「えへへ……来ちゃいました」
「ボクは別に、その、来たいなんて……」
「......アキラ、あなたが一番、落ち着き無かったくせに……」
「い、言わないでよヒカリ!」
「あははは……」
……そうか、またこうして笑いあえる、普通の日々を送れるのか……
そう思うと、こうしてこれまで生き残ってきた甲斐があるというものだ。
だが同時に、本来ここに居るべきだった彼女のことを思うと、胸が苦しくなる。
あのときの記憶は、未だに俺を強く蝕み続けていた。
「......兄さん?」
「……いや、なんでもない」
俺は頭を振って、頭を切り替えた。
「あ、ライト! こんなところに居たのね!」
「ローザ?」
後ろから駆け寄ってきたのは、教室へ行ったはずのローザだった。
「探したのよ! あんたがさっさと保健室から出ちゃうから……って、その子達は?」
「ああ。紹介するよ。彼女たちは……」
「天堂アカリ、1年Aランク」
「御影アキラ、同じく1年Aランク」
「......天風ヒカリ、1年Sランク」
それぞれ自己紹介をしていく。
「あら?あなたもしかして、ライトとさっきまで戦ってた1年じゃ……てか、ライトと同じ苗字……」
「あぁ……その、ヒカリは俺の妹なんだ」
「......ども」
「そ、そうだったの。……へぇ……ぜんぜん似てないわね……」
「それはよく言われるよ……」
そこでローザは何かを思い出したように手を合わせ、自分の胸に手を当てた。
「そうそう。 遅れたけど、あたしは赤月ローザ。2年Aランクよ」
「よろしくお願いしますね! 赤月先輩!」
「えぇ。 ……あ、そういえば、ライト。 あんた、身体測定行かなくていいの?」
「え……」
「あたしたちはもうとっくに終わったけど……」
「わ、忘れてた~~!!」
……今何時だ……げ、もう11時回ってる……!
例年通りなら、1時までに測り終えないと減点対象だったよな……
「すまん、みんな。 ちょっと行ってくる!」
「ええ。 気をつけるのよ」
「後でいっぱいお話しましょうね! 先輩」
「ボクたち、待ってるから」
「......まったく、兄さんときたら……」
三者三様の返事をもらい、俺は超特急で測定をしに走った。
*********
「……あんなに焦ること無かった……」
どこの測定場も空いていて、予想していたほどの時間はかからなかった。
俺は自分の電子生徒手帳を取り出し、つい先ほど更新されたばかりのステータス画面を開く。
「まぁ、少しは成長してるな……」
微々たる物だが、最後に見たときよりも数値が上昇していた。
「ただ……」
相変わらず伸び悩んでいる項目があった。
……≪射撃≫、評価判定Dか……
致命的にもほどがあるというものだ。
どうにも銃になると腕が振るわなくなってしまう。
……これが今後の課題か……
そろそろ中距離、遠距離からの攻撃も対応できるようにならないとな。
「あいつらは食堂かな?」
廊下を道なりにしばらく歩いたところにある、この学校の食堂。
カフェテリアにも似た席の間取りをしている割には、とっても庶民的なメニューが並んでいる。
「あ、あれか」
見慣れた背中が見えたので、その席へ。
「あら、ライト。 早かったのね」
「思ったより空いててね」
6人がけのテーブルに、ヒカリ、アキラ、アカリ、ローザ。
そしてなぜかヒヨの姿があった。
「ライト君、お疲れ様。どうだったの?」
「あぁ。 まずまずってところ」
横からアカリが手を上げながら割り込んできた。
「先輩! 食堂のオススメとかってないんですか?」
「オススメ……」
……定番メニューなら、カレーとかラーメンとかだろうか。
いや、女の子に勧めるメニューなのだろうか、それは……
「そうだな……普通にランチとか、いいんじゃないか? Bランチがオススメだ」
「あ、思ったより普通」
ローザが面白くなさそうに返す。
「ランチですか……いいですね。 わかりました! アキラちゃん、行こっ!」
「え? ボクまだ決めてな――」
「いいからいいから」
アカリはアキラを引きずっていってしまった。
さすがに高2生三人とじゃ居座りにくかっただろうか。
「ねぇ、ライト君。 あの子達とやけに仲がいいみたいだけど、どういう関係なのか聞かせてくれない?」
……この場の雰囲気を壊すオーラを出すのはやめてくれ、ヒヨ……
「あ、それはあたしも気になってた。あんたの妹の友達ってだけじゃないんでしょ?」
「いや、それで八割あってるよ」
「......兄さん」
そこで、何かの液体――オレンジジュースだろうか――を吸っていたヒカリが、視線で釘を刺してくる。
「……まぁ、俺が行ってた中学校の後輩なんだよ」
「「ふ~ん……」」
二人の視線が痛い。
「別に何も間違ってないだろ? な、ヒカリ?」
「......そうね」
「そう……」
二人は渋々、といった感じだが納得はしてくれたらしい。
そうさ、あれは俺たちにとって紛れも無く中学校だったんだよ……
「......兄さん、信用されなさすぎ」
何も言い返せない自分が居て、非常に情けなかった。




