チャプター 2-4
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「あ、ローザ!おはよ~」
教室のドアを開けると、ヒヨがあたしにあいさつをしてくれる。
「え、ええ。 おはよう」
……よく考えてみれば、教室であいさつを交わすなんて何年振りかわからない。
「そういえば、ここの壁、もう直ってるのね」
昨日ライトごと吹き飛ばした壁を撫でつつ、
「学校の作業員は優秀だからね」
ヒヨは自分のことの様に自慢する。
そこでケンが教室に入ってきた。
「お、二人で何の話してたんだ?」
「そこの壊れてた壁の話」
「あぁ、昨日中に直すように言っておいたからな。 ちゃんと直っててよかったよ」
……そういえば、ケンは生徒会の一員だったわね……
いったいいつの間に手配したのだろうか。
「あれ、ライトは? ローザ、一緒じゃなかったのか?」
「えぇ、そのことなんだけど――」
あたしは二人に、今朝あったことと、ライトが代表代理を任されたので対面式に出ていることを伝えた。
……だいたいはぐらかしちゃったけどね。
「そうか、今年はあいつが出るのか……」
「……心配なの?」
「ちょっとな……」
「相手はどういう人かって情報とか、ないの?」
ヒヨは少し不安そうな顔で聞いている。
「……生徒会にも情報はいくらか来るから、わかることはいくつかある」
ケンは自分の携帯端末を取り出し、起動させた。
「対戦相手の1年は、ランクSで入学試験に1位で通るほどの成績をもっている」
「……!!」
……確か入学試験は、筆記テストと実技テストの二つだったはず……
あの試験を1位通過って……
「す、すごいね……」
ヒヨが正直にそう零す。
「これはライトが負けることもありえるよなぁ……」
後輩に負けるのは屈辱だよな、と続けた。
「で、でもっ! ライト君も入学した時はAランクだったし!」
「え? そうなの?」
ランクが下がるなんて事があるの……?
転入してくる際に受けた説明からして、そう簡単には落ちないようになっているっぽいけど……
「ライト君、遊んでばっかりいて、ぜんぜん成績よくなかったよね」
「そうだな。 あそこまで遊ばれちゃ、ランク落とすしかないよな」
いったい去年のライトには何があったというの……?
「み、みなさん! 席に着いてください~」
そこで教室のドアが開き、見慣れない先生が入ってきた。
「あぁ、今日は水島先生の日か」
「水島先生……?」
「クラスの副担任だよ」
そう言いつつ席に座る。
ゆりちゃんこと副担任の水島先生は、この後の予定をざっと説明した。
今日は身体測定の日らしい。
1時までに各自測り終えるように、と締めて解散となった。
「ねぇ、ケン。効率のいい回り方ってないの?」
「そういやローザは今回初めてだったよな」
「私が案内するよ」
ヒヨが連れて行ってくれるようだ。
「まぁ、オレはライトの様子でも見ながら適当に回っとくよ」
「ここから様子見れるの?」
「ああ。生徒手帳にLIVE機能があったろ?そこで見れるはずだぜ」
自分の電子生徒手帳を取り出して起動する。
メニューの深いところにそういう機能がついていた。
……ライト……
差し金になったのはあたしだけど、それで負けられても気分が悪い。
どうせやるなら勝ってきて欲しい……
あたしは今更になって、ライトに代表代理を押し付けたことを後悔し始めていた。
……こんな思いするなら、頼まなきゃよかったわ……
*********
*********
「......兄さん、容赦ない」
「仕方ないだろ……っ!」
俺はヒカリの細剣を両手の2本の剣で押さえる。
「俺だって本当は使いたくなかったんだが……」
「......そんなにわたしに負けるのが嫌?」
「ああ。 嫌だな」
力任せに剣を押しのけて、連続攻撃を開始する。
しかし、ヒカリも負けじと攻撃を全て弾いてくる。
「ヒカリ……"あの技"、忘れてないよな?」
このままでは時間が足りないことを悟った俺は、決着をつけるべく、ある提案をする。
「......ええ。 もちろん」
「じゃあ、試しに撃って来いよ」
「......いいの? あの技は……」
ヒカリは技を使うことを躊躇しているようだ。
「大丈夫だ。 誰もわからないだろ」
「......まぁいいけど。死んでも知らないから」
「ああ。 ……かかって来い!!」
一旦距離をとりあって、技を放つ体勢をとる。
……久しぶりだな……こうして本気で戦うのも……
思っていた以上にこの決闘を楽しんでいる自分が居た。
……さて、やるか……
ヒカリが構えたのを確認した俺は、力の限りに技を放つ!
「≪天津風流龍剣術・二刀の型≫!!」
「……≪天風天命流・中伝≫!!」
……天命流か……っ!!
俺の自己流アレンジ技と、ヒカリの本家の技が交錯する!
「≪龍王二式≫!!」
「......≪五月雨≫!!」
放ったタイミングはほぼ同時だった。
だが、ヒカリの音速の剣先が俺の身体に届く前に、俺の剣がヒカリを捕らえた感覚があった。
……悪いな、ヒカリ。今回は俺の勝ちだ!!
「......兄さんのイジワル」
ヒカリの一言が、胸に刺さる。
「俺にケンカを売ったことを恨むんだな」
ブザーの音が鳴り響き、決闘の終了を告げた。
*********
*********
「お帰り、ライト」
「ああ。 無事に戻ってこれてよかったよ……」
感覚が戻ってきたのを確認してから、俺はベッドから降りる。
「まさか、ヒカリがここに来ていたとは思ってもみなかったよ」
「どうだ? 驚いただろ?」
「驚かないわけが無いじゃないですか……」
これも先生の思惑通りってわけか……
そう考えるとどうも腑に落ちない。
「そういえばヒカリはいまどこでコンバートしてるんですか?」
ずっと気になっていたことを聞いてみる。
「あぁ、ヒカリならすぐ隣の部屋だよ」
「なに……!?」
灯台下暗しとはこのことか……
俺は確認も取らずに、隣の部屋へ続く扉に手をかけた。
……が、それよりも早く扉が開いた。
「グフッ!?」
「......あ」
思い切り鼻を強打して、痛みに悶絶する。
「おい、ヒカリ!」
鼻を押さえつつ文句を言おうとするが……
「......兄さん……!」
ヒカリが胸に飛び込んできたので、それどころではなかった。
……考えてみれば、俺たちは約2年ぶりに再会したんだよな……
そう思うと、ヒカリのこの行動も憎めない。
俺は素直にヒカリを抱き返した。
「ゴホン、ゴホン」
「おっと……」
先生のわざとらしい咳払いで我に返った俺は、場所を変えることにする。
「全く。 兄妹愛もほどほどにな」
そんなセリフを背に受けて、部屋を後にした。




