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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
エピローグ 「光は進む先にある」
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チャプター Ex-0




「ローザ。お前の名は赤月ローザだ」


いつだっただろうか。あたしは名前をもらった。

自分から聞いたのか、そんなことはもう憶えていないけれど。


「ローザ?」

「そう、可憐で情熱的な薔薇からとったんだ。良い名前だろう?」


あたしの目の前で得意げにそう語る彼。

和かに、心から嬉しそうに笑う。


「キミはこれから、この世界で旅をするんだ」

「どこへ行くの?」

「それはキミが決めるんだ」

「決まってないのに、どこかへ行くの?」


その問いかけは、饒舌な彼の口を一瞬止めるには十分だった。


「……不安になるのはわかる。目的なく歩くのは辛いだろう。けど、キミはきっと歩いているうちに見つけるはずだ。己が何をすべきで、何をしたいのかを」


どこか寂しげに、視線を外してそう言う。


「……難しいのね」

「無理もない。でも、わかる時がくるよ。そのために行くのだから」


気付いた時には先ほどまでの暗い顔はどこかへ消えて、明るい表情が戻っていた。


「さ、行っておいで。そして見せてくれ。ボクにその未来の可能性を」


高らかに言い終わると、こちらに背を向けて歩き始めた。


「どこへ行くの? あたしは、これからどうすれば良いの?」


あたしの口が無意識に紡いだ疑問。感情なんてものはまだ覚えていないけど、寂しかったのか、ただ怖かったのか、想像するくらいはできた。


「とにかく外に出るんだ。キミの旅はそこから始まる」


こちらを振り向きもせず、指だけを行くべき場所へ向けてくれる。

そちらへ視線を遣ると、遥か彼方に白い光が見えた。

先の見えない、明るい光。


「…………」


それ以上何も言わずに、どこかへ歩いて行ってしまった。

足音とともにその背中は闇に消えた。

もうここには、あたし以外誰もいない。


「……あたしの、旅」


自分に足が付いていることを思い出したかのように、感覚のない足を、踏みしめるたびに痛みと熱を孕む足を、一歩ずつ進める。

光が差す場所までは遠い。どこまで行ったって辿り着かないようにすら思えてしまう。


「……やぁ。待っていたよ」


そんな果てしない道の先で、彼は待っていた。

目深にフードを被った、一見怪しげな青年。

フードの奥から覗く目は、何かを探し求めているような渇望を感じさせた。自然と身が強張る。


「ああ、そんなに怯えないでくれると助かるんだが……っても無理か」


後ろ手でかくと、気付いたようにフードに手をかけた。


「確かに、顔も見えない相手を信用してくれなんて、無理な話だよな」


パッとフードが振り払われ、その顔が露わになる。

不器用な笑みを浮かべ、その手を差し出した。


「赤月ローザ……だよね? 俺は……赤月ジーク。キミの、お兄ちゃんだ」


そしてあたしに、お兄ちゃんができた。





あの日から数年の歳月が流れた。

親だと言う大人に居場所を与えられ、あたしとお兄ちゃんは教会でその日々の大半を過ごしていた。

そんなある日の午後。


「これはお前のお守りだ。名を≪ブレイズ≫という」


お兄ちゃんが何かを手渡した。見れば、真紅に光るクリスタルだった。


「これ、どうしたの?」

「どうしたのって……作ったんだよ、お前のために」

「え、あたしの……?」

「なんで引くの!? そこ喜ぶところだよな!?」


お兄ちゃんが慌てる様子がなんだか面白くて、自然と笑みが溢れる。


「……ったく。まぁでも、良い傾向だよな」

「え? 何の?」

「ローザ、よく笑うようになったから。最初のころに比べたら、表情も良くなったし」

「そう? ……よくわからないわ」

「そういうものさ。……それは置いておいて、このクリスタルを受け取ってくれ」

「どうして?」

「この世界で生きて行くには、必要なものなんだよ」

「そうは言っても……お兄ちゃんが守ってくれるし」


そこでお兄ちゃんは一瞬表情を曇らせる。

それを見逃すあたしではなかった。


「……お前には≪血薔薇の剣術(ブラッドローズ)≫を習得してもらう」

「ブラッドローズ……?」

「夢を見たりしなかったか? 薔薇を象ったドラゴン……だとか」


言われて思い返してみた。

時折聞こえてくる、誰かの声。姿は見えないけれど、訴えるように何度も何度も響いてくる声。


「……あれがそれだと言うなら」

「そいつの力を借りる。きっとお前を守ってくれるさ」

「で、でも……」


お兄ちゃんは寂しげに微笑んだ。


「……お兄ちゃんはな、やることができたんだ。俺がやらなきゃいけないことがあるんだ」


何故か頭が真っ白になった。

この感情を、あたしは知らない。

なんだろうか、この衝撃は。


「なによ……それ」

「ごめん。でも、俺にしかできないんだよ」

「なによそれ! 忘れたの!? お兄ちゃんは一度死んでるんだよ!? もう無茶しないでって言ったじゃん!」

「死んではいないさ。死にかけただけで」

「でも! あたしがいなかったら、あたしが血薔薇の龍と契約していなかったら……!!」


モンスターに襲われ、意識不明の重傷をあたしの代わりに負ったお兄ちゃんを助けるため、あたしは教会に封印されていたと言う血薔薇の龍にこの身と命を引き渡し、モンスターに対抗するすべを得た。

その力を使ってクリスタルを回収し、お兄ちゃんの命を繋ぎ止めた……というのはもう1年以上前の話。

あの日以来、お兄ちゃんとあたしは互いを守り合う関係になっていた。それを今、解消しようと言うのだ。


「……ローザも、そろそろ自分でこの世界を歩み始めても、良いんじゃないかと思うんだ」


両親だった存在も殺され、家も街も壊され、頼れるのはお兄ちゃんだけなのに。


「まだ、見つけていないんだろ? 自分が何をしたいのか」

「もう見つけてるもん。あたしは、お兄ちゃんを守るためにこの力を得たのよ。何もわからない、居場所のないあたしに全てをくれたお兄ちゃんのために!」

「ローザ……」


わがまま言ってることは承知している。それでも言わなくてはならない。

せめてそうしたいと思ったこの気持ちだけは、守らなくてはならない。


「それに、モンスターの侵撃も酷くなってるんだよ!? もういつここも荒地にされるか……」


でも、肝心な言葉が紡げない。そう言いたいのに、理由だけを並べてしまう。


「……手荒な真似は避けたかったんだけど」


お兄ちゃんは手をかざすと、その手に粒子を集めた。

どこからともなく引き寄せられた光の粒たちは、ちょうど刀を模るように動き始める。


「――≪流星刀スターセイバー≫」

「お、お兄ちゃん……?」


クリスタルで命を繋いだその日から、お兄ちゃんは不思議な力を使うようになった。

それまではそんな能力を持っている素振りなんて、見せてなかったはずなのに。


「俺はどうしても行かないといけないんだ。だから、ローザがどうしても離れないと言うのなら、力尽くでも行かせてもらう」

「そ、そんな……。どうして……」


お兄ちゃんはそれ以上語る必要もないとでも言いたげに、流星刀を構えた。

反射的に、大剣を呼び出し、防御の姿勢をとってしまう。

争いたくなんてないのに、止める術がみつからない。


「……ごめん。これもお前のためなんだ」

「だったら、刀を下ろして」

「ごめん……それはできない」


ジリ、と靴が地を撫でる。

今にも刀を振られそうだ。


「……分かったわ。だったら、あたしが勝ったら全て話してもらう。そしてあたしも一緒に行く」

「!?」


お兄ちゃんの目に動揺が映る。はっきりと見て取れた。


「このままじゃ、納得できない。納得できないままお兄ちゃんと離れるなんて、あたし、嫌だよ」

「……また会えるよ。お別れなんかじゃない」

「ううん……なんとなく、分かるんだ。お兄ちゃん、すごく遠くへ行くんでしょう?」

「………………」

「きっとあたしが……今のあたしがどう頑張ったって追いつけないほど、遠くへ」


予感……がそうさせているのか。そんな気がする、が絶対にそうだ、に置き換わって行く。


「そんなこと、させない。させたくない。だってお兄ちゃんは……」


泣いている……のか。いつのまにか、視界がぼやけている。

どうして、なんて思ってしまう。どうしてここまで嫌がっているのだろう。

行きたいと言うのだから、行かせればいいのに。

そう思っても、反発する自分がいた。

素直に行かないで、側に居てって言えない自分が。


「……ありがとう。ここまでお兄ちゃん思いの妹が出来て、本当に嬉しいよ」


言い終わるが否や、飛び込んでくるのが見えた。


「――っ!?」


実体を持たないはずの刀は、確かな質量と反動を大剣に伝えてくる。


「舐めないで! あたしだって、戦えるんだから!」


守って欲しかった。だから甘えた。その強さに。

守ってもらいたかった。だから戦わなかった。

でも守りたかった。だから剣を取ることを選んだ。

戦うことを選べる。あたしは、戦える。お兄ちゃんが居たから。


「はぁぁああああああ!!」


力任せに大剣を振り回す。剣筋なんて無茶苦茶で、けれど殺傷力と破壊力だけは確かにある。


「……あまり時間がないんだ。悪いけど、勝たせてもらう」


だがやはりと言うべきか。そんな殺意のない攻撃はあたるはずもなく――


「――≪朧月≫!!」


フッとお兄ちゃんの姿が搔き消え、腕に、肩に、熱い何かが走る。


「え……?」


ガラン、と派手な音を立てて大剣が地面を転がる。そして数刻遅れて全身の力が抜けた。

不思議なことに、切られているはずなのに、血が出てこない。


「おにぃ……ちゃん……」


地に伏せるしかない。唯一の攻撃手段はたった今奪われた。

もうこれ以上、立ち上がることも叶わないだろう。


「…………ごめんな。お前は……お前だけは、幸せになって欲しいんだ。だから……きっとお前だけの未来を、見つけてくれ」


数にして3つ、地面に何かが落ちる音がした。

あたしの目は閉じてしまっていて、それが何かを確認することはできない。


「時間だ。……すぐに終わらせる。そして……こんな未来、絶対に変えてやる」


足音が遠ざかる。

離れていっているのか、意識が遠のいてるだけなのか。

多分、両方なのだろう。やがてあたしの意識は呑まれて途切れた。





「未来を、変える……」


気が付いた時にはもう、お兄ちゃんはそこに居なかった。

残されていたのは、エメラルド色したクリスタルが3つ。


「どうやって……? こんな争いと破壊に満ちた世界で、何を変えるの……?」


2年前、この世界で戦争が起きた。

正確な勢力図はなく、敵影は異形のものばかり。

敵味方も分からず、ただ異形のモンスターたちに破壊と蹂躙の限りを尽くされている。

あたしは居場所を壊されてからずっと空き家を転々として身体を休ませていたが、それで我慢できたのも、お兄ちゃんが居たから。

その支えももう、今となっては存在しない。


「分からないよ……あたしはこれから、どうすればいいの……?」


どこかで爆撃の音がする。

まだこの辺りで生きている人が他に居たなんて、かなりのサバイバーに違いない。


「…………それを探しに行く、か」


いつかどこかで聞いた、誰かの声。

今になってなぜか、その言葉が頭をよぎった。


「お兄ちゃんも言ってたもんね……『何もしない奴に、生めるものは何もない』って」


不安、躊躇、そんな負の感情で溢れた心は、今に折れてしまうだろう。

でも不思議と、足は外へ向かっていた。

何もしないと始まらない。それだけは分かっていたから。


「……とにかく食料を補給しないと。パンだって、日持ちしないし」


もはや関東地区のほとんど全てが戦場と化した今では、物資の供給ラインは限られてしまっている。

この地区に3校あると言う軍事学校も、難民キャンプのように人で溢れ、あたしのようなあぶれ者にまで支給することはできないだろう。


「お兄ちゃんはどこで回収してたっけ……? 何故かお兄ちゃんが漁った家に限って食べ物が残ってたりしてた気がするけど……」


仕方なく、クリスタルをポケットに仕舞い込み歩き出す。

その景色の殆どが灰色で構成された街並み。

風に聞く世紀末というのは、こういうものなのだろうか。


「……っ」


敵の気配を感じる。

人影のないこの場所で、動いている自分以外は全て敵だと思った方がいい。お兄ちゃんがそう言ってた。


「――!!」


大剣を引っ張り出し、突撃に備える。

黒い影しか見えなかったが、重い一撃が大剣を鳴らした。


「だ、誰!?」


問いかけるも、返事がない。


「くっ……その速さ、何者なの……?」


ヒットアンドアウェイ、というのだろう。こんな暗殺者アサシンめいた洗礼をうけ、ただ倒されるというのも性に合わない。


「――そこっ!!」


次の攻撃を読み、大剣を振るう。

派手な音を立てて、何かが宙を舞った。


「――って、きゃあ!?」


やったと思った矢先に押し倒され、地面を転がる。

土煙を上げて回転が止まるのを待つと、やがて焦点が定まり、視界が戻る。


「……へぇ。お前、ただの一般人じゃないな」


顔の殆どが前髪で隠れてしまっているが、声色からして青年。お兄ちゃんとそれほど歳が離れていないように思える。


「あ、あんたねぇ……」

「ん……?」

「いいから退きなさいよ! なによ! どうせあたしは貧乳よ!」

「何も聞いてないし言ってないぞ――グハッ!?」


いつまで経ってもあたしの上から手を退けようとしないそいつを殴り飛ばし、強引に引き剥がす。


「イタタ……結構効くなぁ……」


青年を改めて観察する。

髪色は黒。背は座っているから推測でしかないけど、あたしと30センチは差があるだろう。

体格は筋骨隆々と言ったものとは無縁な感じで細め。

顔は相変わらず前髪が邪魔で分からない。


「ふん! いきなり襲ってくるあんたが悪いんだから。そんなケダモノみたいに飛びかかっちゃって」

「いやまぁ……実際襲って物資でも剥ぎ取ろうとしてたし」

「えぇ!?」

「……冗談。普通に敵が居たのかと思って」

「違うわ! 別にあたしはあんたを殺すつもりはないし、どうこうしてやろうなんて思ってないわ」

「そうかよ……。いや、でもそんな簡単に敵じゃないなんて言って良いのか?」

「何がいけないの? 真実を言ったまでよ」

「…………はは、ははは」

「なに、何が面白いの?」

「いや悪い。こんな戦場で、まだここまで純粋な子が残って居たなんて、思わなかったから」

「純粋……? あたしが?」

「そう。モンスターの見た目をして居なければ同じ人間で味方。そう言ってくれる純粋さを持ち合わせているのがお前だ」


何を言われているのか分からなかった。けど、悪い人ではないということだけは分かる。


「……せっかく会えた仲だ。同じサバイバー同士、協力し合おうぜ」

「ま、まぁいいけど……」

「どうかしたか?」

「……あんたは、その、なんのために生きてるの?」

「え?」


あたしは真剣な眼差しで、そのつもりで彼の見えない目を見つめる。


「あたしは分からないの。この世界で生きていく意味が。これからどうすればいいのか」


まだ答えは見つかっていない。だから、今のあたしには分からないとしか答えられない。

この世界で生きている彼なら、何か答えを、そうでなければヒントを持っているかもしれない。


「……そんなもん、自分で探せよ」


けれど、言われたことは同じだった。


「お前が何をしないといけないかなんてのはお前にしか分からない。お前の人生なんだから、お前が決めろ」


そして彼は少し口を歪め、視線を外した。


「……偉そうなこと言ったが、俺も見失ってるんだ。どうしてまだ、生きているのか、その理由を」

「見失った……?」

「ああ。俺はこの手で何1つも救えなかった。助けられなかった。守れなかった。なのに、まだこんな壊れた世界で生きているんだ。それがなんだか許せなくて、けど、死ねなくて」


彼の拳が震える。

彼は彼なりに、辛い過去を辿ってきたのだろう。それぐらいは、分かる。


「……何よ、あんたも一緒じゃない」

「はは……そうだな。一緒、だな」


そっと手を差し出した。どうしてそうしたかはわからないけど、そうしたい気分だったのは確かだ。


「よろしくな。一緒に見つけようぜ。これから何をしていくのかを、さ」


そうしてあたしにパートナーができた。

新たな心の支えとなるはずの、パートナーが。





「……うん、似合ってるよ」

「ほ、ほんと?」

「ああ。……それにしても、一番小さいサイズが残っててよかったな」


全焼した建物に入っていったと思ったら、その地下に倉庫があって、そこに服やら何やら生活用品が並んでいた。

どうもここが彼の拠点らしい。


「……なんであんたが制服なんて持ってるの? しかも、女性用」

「え? あ、いや、それは俺の妹の制服の替えだよ」

「そうなの? ……じゃあ、その妹はどうしたのよ?」


彼はしっまたと言わんばかりに口をへの字に曲げた。

やがてその口を開いてため息をいた。


「……死んだよ。この戦場で」

「そ、そう……。ごめんなさい、嫌なこと聞いたわね」

「いや、気にしなくていい。……それより、思いついたことがあるんだ」

「なに?」


彼は一転して楽しげに笑う。相変わらず顔は見えないが。


「地区管理棟に行こう。そこで、この戦争の真実を確かめるんだ」




空を何かが飛ぶ音がする。

見上げれば、戦闘機……の背中に触手のようなものが付いている。

あれもモンスター……なのだろうか。


「お、あったぞ」

「ほんと? あたしにも見せなさい!」


上層部分が飛んでしまっている元高層ビルの中層部。

管理長の机は幸いそこに健在で、資料も何もが奇跡的に残っていた。


「……クリスタルの流通ルートと値段、か」

「この数値、おかしくないかしら?」

「ああ。こんなの、法外なんてもんじゃない。それにこの相手国……最悪今回の戦争に噛んでる説もあるぞ」

「そんな……この戦争は、世界大戦の続きだというの?」

「……可能性はある。だとしたら……」


彼は言い淀むと、こちらに顔を向けた。

あたしは無言で頷く。


「……だとしたら、この戦争を止めることは不可能だ。過去へ行って無かったことにするぐらいでもない限りは」


この場合、相手側の要求は間違いなくクリスタルの規制緩和、及び流通の拡大。

研究結果を寄越せだとか、研究者を寄越せだとか、そんなことを言われていてもおかしくない。


「でも、だったらどうして敵は異形ばかりなの? 普通は兵士を雇って攻めにくるんじゃ……」

「いや……恐らくは数少ないクリスタルを使って、通常の兵器よりも殺傷力の高い生物兵器を作ったんだろうさ。人力で倒しに行くよりは、使い捨て出来て戦果をより稼げるこっちを選ぶだろうね」

「そんな……そんなことしたら、戦争が終わっても……」

「ああ。多分だけど、この戦争に終わりはない。何故なら終わりを告げるものがここに居ないから。要求を呑んで降伏すると言うはずの人は戦場に居ない。どこかへ逃げてしまって、生物兵器がこの世界を壊すのをただ眺めているだけだ」

「………………」

「俺たちがこの戦争に関して出来ることは、本当にただモンスターを倒し続けることだけだ」

「…………」

「おい、どうした? お腹でも痛いか?」

「……ううん。なんでもない」


彼は困ったように口を曲げる。


「……全く。これはお前が持っておけ。俺は管理がガサツでな」


手渡された紙切れを手に取る。

カサついて、どうして残っていたのか不思議でたまらない紙。

あたしはそれをただ、眺めるしかできなかった。






それから1年近く経った。

あたしはまだ彼の名を知らない。

聞こうとも思わないし、知ろうとも思わない。

呼ぶこともなければ、あたしの名が呼ばれることもないから。


「……何を読んでるんだ?」

「日記よ。倉庫の奥にあったの」

「へぇ。……こんなもの、どこで拾ったんだったか」


ぼやく彼を放っておいて、日記を読みふける。

丁寧な字体で書かれた誰かの日記。口振りからして彼が書いたものではなさそうだが。


「それで、何が書いてあるんだ?」

「これまでの過去よ。どうやら筆者は軍事学校の生徒だったみたいね」


そして気になる一文を見つける。

『過去を変えるために未来から来たと言う戦士が現れた』。


「……ねぇあんた、この戦争を終わらせるには、過去へ行って無かったことにするしかないって言ってなかった?」

「そんなこと、言ったっけ?」

「言ったわ。そうでもしない限りは止まらないって」

「……そうか。いやでも、そんな事が出来る奴なんて、この世に存在すると思うか……?」

「…………」


ため息が聞こえた。


「……一応聞いておくが、お前は過去へ行ってこの戦争を止める理由があるか?」

「……あるわ。あたしのお兄ちゃんがもしこの戦争を止めるために過去へ行ったと言うのなら、あたしはそれを追いかける。そしてお兄ちゃんを、あたしの居場所を奪ったこの戦争を終わらせたい」

「…………そうか。本気、なんだな?」


ごそごそとポケットを漁る音が。


「何を……」


言いかけた時、地上の方から地震にも似た爆発音が響いた。


「くっ……ついに見つかったか……!」

「あ、ちょっと!」


外へ飛び出して行く彼を追いかける。

そこに居たのは……ロボットのような、巨人のような、半生物半機械と言ったモンスター。


「くっそ……逃げられねぇ、よな」


彼はあたしを背に隠して、半身だけでこちらを向く。


「……お前、名前は?」

「え?」

「いいいから」


戸惑いながらも、自分の名を明かす。


「あたしはローザ。赤月ローザよ」

「ローザか。お前にピッタリだよ」


彼はポケットから白銀に光るクリスタルを取り出し、なにかを呟いた。


「ほら、これを持って念じろ! 信じれば、過去へ飛べる!」

「は?」

「良いから! 早く!」


彼の向こうからモンスターが迫って来ている。

仕方なく、言われた通りにクリスタルを握って念じてみる。


……きっと過去へ行って、この世界を変えてみせる。あたしとお兄ちゃんが、幸せになれる世界を。


「じゃあな。俺の分まで、未来を変えて来てくれ。きっと俺のような不幸ものが現れないように、な」


だんだんと白に視界が染まり始め、感覚が遠のいて行く。

こんなクリスタルをどうして持っているのか、聞きたくてももう口が動かない。


やがて全てが白に染まり、全てが黒に変わった。






「……こ、ここは……?」


いつのまにか倒れていたらしい。気だるい身体を起こす。


「……え?」


しかし、意識は無理やり起こさざるを得ない。

目の前に、黒い敵がいたから。


「ちょ、ちょっと待って!?」


身体が浮いている。いつのまにか装備していたフォトンウィングが効果を発揮していたらしい。


「なによ、どうしてこんなところに……!」


爪を弾く。その速さは追いつくので精一杯だ。

やがて押されて少し後退してしまう。この隙を突かれたら……


「――はぁっ!!」


などと思った矢先、横から誰かの声が。


「……あとは俺に任せろ。こういうのは、俺の仕事だからな」


そしてあたしは、一生一緒に居続けることになる、新しいパートナーと出会った。

きっとここから、あたしの人生が始まる。そんな予感だけがあたしを満たして居た。







ポッキー最高

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