エピローグ
エピローグ
「……つまり、結局俺は始めから、ヒメノとジークさんの掌の上で踊ってただけだった、てことか?」
「あら、心外ね。……確かに私がライトくんを見込んだのは間違いないけれど、あなたを道化としたことは無いのよ?」
俺の横で、大きな木の幹に背を預けるヒメノが、そのスカートと髪を揺らす。
不思議な香りだ。アロマのような、それでいて爽やかな匂い。
「ただ、あなた頼みだったことは、否定できないわ。それが彼の……シンの出した条件だったから」
そんな匂いをも吹き流すような、肌寒い風が吹いた。
あの決戦からまだそれほど経っていないはずだが、いつのまにかもう冬らしくなってきてしまっている。
「……あいつは、シンは、本当に未来から来たのか?」
「誤魔化したところで仕方ないでしょうから、正直に言うわ。……答えはYESよ」
あの時リリに力を借りて聞いたシンの話が本当なら、双葉さんは今、どうしているのだろうか。
彼女も、シンに作られたモンスターなのだとしたら、消えてしまっているのだろうか。
ローザと同じように。
「……あなたも知っているでしょう? 双葉ミイ……彼女自身の願い――『この世から超能力者を排除する』『何の能力も持たず、普通の生活をしたい』――そんな夢物語を、シンは自分の能力で実現させようとした。――過去そのものを消し去るという方法で」
ローザが未来を変えるために今を変えようとしていたのは、シンのアルゴリズムを受け継いでいたのかもしれない。
彼女自体、彼に作られた存在だったのだから。
「時間軸を飛びまわれる私とジークが、そんなシンの行動を許すはずがなかった。……聞いてるでしょう? この世界の管理をしているって」
「マジだったんだな。正直、そこまで信じてなかったよ」
「でしょうね。信じてもらおうなんて、はじめから思ってないもの」
それはヒメノだけなのでは、なんて無粋なことは言わないでおく。
こいつは育成場に居た頃から、なかなかに壊れた謎多き存在だったからな。
殺されたかと思ったら別の場所から無傷で出てきたり、人の記憶を結晶化して渡してきたり、あと移動するたびにパンツ落としてたり。
この期に及んでも、まったくヒメノが何を考えているのか分からない。
「それで、力ずくでとめようとしたのだけれど、彼もかなりの能力持ちだったのよ。誰かを連れて過去へ飛べている時点で分かっていたけどね」
遠くでサイレンの音が聞こえる。またどこかで建物が崩落したのかもしれない。
俺たちが鉱山を攻略してる間、外ではモンスターの残党による侵略がまた開始されていたらしい。
ステラを筆頭とした学校の残りのメンバーと聖堂学園の皆が対応してくれたおかげで、防衛戦争ほどの被害はでなかったようだが、防衛ラインはかなり突破されてしまったようだ。今は街の再復興に皆忙しくしている。
鉱山であったことを話したら、しばらく休む時間をくれた。さすがの熊谷先生でも、心身ボロボロの生徒を無理やり授業に参加させたりはしないらしい。そこだけは感謝した。
「そこで彼は私達に条件をだしたのよ。曰く『この世界の未来を託せる戦士がボクを倒せば、この計画はなかったことにしてやる』と」
「その戦士が……」
「そう、あなたよ、ライトくん」
俺で本当に良かったのだろうか。俺なんかに、未来は託されて良かったのだろうか。
「育成場という戦士育成機関を見つけた時は、これ程まで好条件の場所は無いって思ったけど、あなたに出会えるまで、かなり苦労したのよ?」
「タイムリープでもしたか?」
「あら、よく分かったわね」
「……歳、いくつなんだよ?」
「乙女にそんな無粋なことを聞いてはダメよ? それに私、歳はとらないの。身体の成長具合も、時間を戻せば調整できるもの」
平然と言ってのける。てかさっき過去に戻ってどうこうしようとする奴は許さないって言ってなかったか……?
「……話を戻すけど、既に世界を壊せる程の能力を持っていたシンと真っ向から勝負したところで、守ろうとしている世界が壊れてしまうかもしれなかった。だから私たちは、その条件を呑むしかなかったのよ」
「ヒメノは俺を育成場で育ててたんだろ?」
「間違いはないけれど、どこか言い回しに悪意を感じるわ」
「その間、ジークさんは何やってたんだよ?」
「それは……本人に聞いた方が早いわよ? けど、一言だけ言うなら、ローザちゃんの兄をやってた、かな」
そのタイミングで既にローザは造られていたんだな。そしてどういうわけか、ジークさんが保護することになったと。
ローザの記憶がどこからあってどこまで嘘なのかはもう分からないけど、ジークさんの事を本気で兄として慕っていたみたいだったから、自分がどうやって生まれてどうしてジークさんが兄なのかなんて事は問わなかったのだろう。
「……って事は結局、やっぱり俺はただの駒に過ぎなかったってことじゃないか」
「結局、なんて言葉で片付けるには、些か込み入った事だと思うのだけれど?」
「そう言われても、俺は救うつもりもなかった世界を救った事になって、一番守りたかったものを何一つ守れていないんだぞ。……こんな俺が、未来を託されて良いのか?」
サウザンドの能力はもう使えないはずだ。あの時のあの技の契約でそうなっているから。
ならば俺の命もそろそろ朽ち果ててもおかしくない。この命をこの世に繋ぎ止めていたのは、間違いなくこのサウザンドなのだから。
そんなある意味で未来のない俺は、死んだみんなを差し置いて、生きていても良いのだろうか。
「……ふふっ」
「なんだよ、笑うことか?」
「いえ、ごめんなさい。けど、そんな事は今更よ」
「え?」
「あなたはもう、知っているでしょう? その答えを、もうもらっているでしょう?」
シャラン、と眼前になにかが垂れ下がってきた。
みれば、太陽光を反射して煌めく、小さなネックレスだった。
「それはあの娘の……ローザちゃんのクリスタルよ」
「ろ、ローザの?」
「ええ。……受け取ってあげて。彼女が最期に残してくれたものだから」
手を出すと、その上に落とされた。
細いチェーンの先で、真紅の名に負けない赤いクリスタルが淡く光を帯びて輝いている。
「……そうか。そうだよな。俺、どうして迷ってたんだろ。もう迷う必要なんて、なかったのに」
俺は約束したんだ。彼女の居る未来に追いつくと。そして約束してくれたんだ。彼女は俺の信じる未来に居ると。
何も迷う必要はない。俺の信じる未来を信じれば、彼女の信じる未来に行ける。彼女は今でも未来で待っていて、俺を導いてくれて居るんだから。
「……私があなたを選んだのは、その意志を感じたからなのよ」
「意志……?」
「そう。どれほど心脆くても、あなたは最後に必ず意志を持って立ち上がった。未来というものは、最後に立って前を見た人だけが辿り着けるものなのよ」
ヒメノはそこでクスリと笑うと、俺の前方を指差した。
「あなたも、顔をあげて前を向きなさい。そうすればきっと、うまくいくわ」
同時に俺の耳に、足音が届いた。だんだんと近づいてくる、小さな足音。
「あなたの言葉を借りるなら……『信じれば、奇跡も起こせる』、でしょう?」
そっと、その止まった足音の方を振り向いた。
「…………」
――きっとこれは、≪未来≫という≪結末≫を迎える話。
けれど、歩み続ける限り、そこに≪終わり≫はない。
だからきっと、この先に未来は続いている。
「お前は…………」
視線の先に居た少女は、柔らかく微笑んで、こう言った。
「ただいま」
一応これで『パラドックスライフ』完結となります。ここまで読んでくださった読者の方々、本当にありがとうございました。
感想やコメントなどございましたらよろしくお願いします。今後の励みになります。
そんなパラフも11日に3周年を迎えます。長かったようで、あっという間だった3年間でした。
その日に何もしないのもアレなので、なんとか外伝的な短編を最後にエクストラとして収録しておきたいと思っています(予定ですが)。
もし間に合ってないようだったりしたら察してください。その場合はその日中にあげますので。
こんなポンコツ水無月がお送りしたパラドックスライフ。少しでも楽しめたら幸いですが、現在進行系で改稿中だったりします。全て変えるまでは時間かかると思いますので、ゆっくりとお待ちください。
それではこの辺で。パラフ製作に関わってくださった皆さん、最後まで応援してくれたあなた、本当に感謝です。これからもどこかで見かけたときは水無月を応援してください。
ではでは。




