チャプター 2-3
3
ここの学校では、機械人形を相手にする訓練方法と、VRシステムを使った対人訓練が用意されている。
ただ、訓練用の機器不足が原因でVR対人訓練を行うには許可が必要だ。
「えっと……生徒手帳をセットして……」
対面式ではこのVRシステムを使って決闘をする。
「ライト。コンバートするから、使う道具と武器一式持ってきてくれ」
「ああ」
決闘開始時刻15分前になって、ようやくあっちへ行く準備を始めた。
いったい対戦相手はどこで準備をしているのだろうか……
俺はまだ数回しか使ったことのない、≪VRコンバーター≫を起動するシークエンスに入る。
さまざまなステータスの読み込みシークエンスを軽く通過し、起動準備を完了させた。
「さ……行くぞ。ライト」
熊谷先生が位置に着くように指示を出す。
「ああ……行ってくる!」
俺はコンバーターに横たわり、専用のヘッドギアを装着する。
「後悔の無いよう、そして、みんなに見られているって事、忘れないで行けよ」
「言われなくても……」
そこで、急激に意識が引き剥がされる感覚に襲われる。
……成功してくれよ……
俺は祈るような気持ちで感覚に身を任せ、目を閉じた。
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気がつくと、物音のしない無機質な部屋で寝ていた。
起き上がって壁に掛けている時計を見る。
……ぎりぎりだったな……
開始時刻の5分前になっていた。
さて……荷物は送られてきてるかな……
まだ見慣れない、こっちの部屋の机の上に、俺が先生に預けた武器一式が置かれているのを発見した。
窓の無い、4畳半ほどの空間。
俗に、≪待機室≫と呼ばれる小部屋だ。
ここでアシストスキルの調整などが行えるが、今回は時間も無いので装備をしまうだけにする。
……よし。これで準備OKだ……
俺は指定されているアリーナへ向かう。
そんなに広くない廊下を歩き、エレベーターで移動する。
春休み中に何度か使って、ここのマップは大体把握している。
そのため迷うことなく23階に用意されたアリーナへ着くことが出来た。
……さて、この扉の向こうに相手がいるわけか……
何度もこういう場で戦ってきたとはいえ、さすがに緊張する。
こんな時ってどうするんだっけ……
俺は記憶を探ってみる。
『......結果はやってみるまでわからない、そうでしょ?』
脳裏にリフレインされる彼女の声。
それは懐かしくも、絶対に忘れられない声。
……そうだよな。お前の言う通りだよ……
いまさら焦ってもしかたない。
俺は覚悟を決めて、アリーナへ続く扉を開けた。
「…………っ!」
目に飛び込んできたのは、白い、何も無い空間。
ホワイトアウトした視界が徐々に色を取り戻していく……
アリーナの中央付近にたたずむ少女が見えた。
腰の辺りまで伸びる金色の髪。
その髪を留めている赤いリボンが印象的だ。
……あれが、今回の相手……
俺はなぜか、初対面であるはずの少女に既視感を覚えた。
だがそれもそのはずで、その少女はさっきリフレインした声と……
「......遅かったね。でも、ちゃんと来てくれてうれしい」
「な……っ!」
その口から発せられた声は、違いも無く同じものだった。
……少女が閉じていた目を開く。
しかし、完全に見開かれることは無い。
彼女は半眼で、無愛想で有名なのだから、当然といえば当然だ。
……真紅に光るあの目。抑揚の少ない澄んだ声……
「まさか……」
「......また会えてうれしいよ……兄さん」
……そう来たか……
俺は、あまりにも予想外すぎる対面で緊張などどこかへ行ってしまい、正直決闘どころではなかった。
だが、相手はやる気満々なご様子で……
「......時間ね」
彼女は手を前に出し、決闘の申請体勢に移った。
「......天風ヒカリ。 1年Sランク」
……天風ヒカリ……俺の実の妹だ。
2年前に生き別れたっきりだったんだが……
俺は頭を振って手を前に出し、その申請を受諾する体勢に移る。
「天風ライト。 2年Cランク」
……こうなりゃもうやけくそだ……
「「決闘!」」
叫ぶと、タイマーが起動し、空中にウィンドウが表示される。
それを見た俺とヒカリは、色違いのビームサーベルを取り出した。
ブザーの音が、決闘の開始を告げる。
……相手がヒカリなら、話は別だぜ……
非難されようがもう知ったことではなかった。
……妹に負けることのほうがよっぽど嫌だろ……
俺は視覚の補助のため、サーチャーを起動し装備した。
そんな俺をよそに、殺る気満々のヒカリは、突きの体勢に入っていた。
「......はっ!!」
一息で俺とヒカリの距離が詰められる。
ヒカリのビームサーベルは俺のと違って刀身が薄く、明らかにスピードを意識した形をしていた。
いわゆる細剣だ。
その剣先が、恐ろしい速度で俺に迫る。
「くっ……」
ヒカリの攻撃パターンは大体つかんではいるが、スピードが圧倒的に成長していた。
何とかビームサーベルで受け流す。
……避けれると思ったんだけどな……
これでは反撃が出来ない。
「......兄さん、鈍った?」
「そ、そんなことはない!」
ヒカリの連撃を紙一重で防御する。
まるで隙が無い。
……いったいどこで何をしてたらこんなに速くなるんだ……
妹の成長を身で感じながらも、素直には喜べない自分が居た。
「......ほらほら兄さん、もう降参?」
……くっ……このままじゃ……
俺は早くも押されてきていることに気づかされる。
……ラッシュを数秒で良いから止められたら……
コンバートした武器をざっと頭で整理する。
使えるのは永続クリスタルが1つ。インスタントが3つ……
……そうだ、それがあった!
「――だあっ!!」
俺はバックステップしつつヒカリの剣を思い切り弾く。
その決死のパリィは外れることなく、きちんと仕事をした。
「......くっ!」
出来た隙を使って、俺はあのクリスタルを試してみることにする。
……たしか、トリガーになるキーワードは……
異様な形をしたクリスタル――名前は≪ミラークリスタル≫らしい――を取り出し、ビームサーベルに取り付ける。
剣を前に掲げて叫ぶ!
「≪エクスパンド≫!!」
刹那、激しい光がビームサーベルを包んだ。
……先生の説明によれば……
俺は説明通り、光から剣を新たに引き抜く動作をする。
……これか……!
グリップをつかむ感覚があったので、そのまま引き出す。
「......そんなの、ありなの?」
俺は……クリスタルを代償に、剣を二本装備している状態になった。
発動する補助スキルは……≪双剣≫。
俺は戻ってきた懐かしい感覚と、絶対的な自信に包まれた。
……これが、先生の言っていた……
本当の実力!
「ここからの俺は、容赦しないぜ……!」
大人気ないのは百も承知で、俺は反撃を開始した。




