チャプター 12-9
9
「おいおい……そいつはどういうことだ?」
汗が額を滑り落ち、手に自然と力が入ってしまうのを感じる。
「どういうこと? ……ああ、安心して良いよ。コイツは確かに死んだ」
シンは背後から姿を現した影に、そちらを見向きもせずに指を指す。
「ならなぜ……」
「分かってるんだろう? 答えは、簡単さ」
そしてその影が、腰に提げていた黝く禍々しい大剣を抜いた。
「……コイツはボクが作ったコピーさ。これを作ることを条件に、彼の腕を修復をしたんだ。このボクがね」
言われて思い出す。ジークフリートは確かに、ヒカリと戦う時は腕が治っていた筈だ。どこかで治療したのだろうとは思っていたが、まさかそこでもシンが噛んでいたとは。
「聞いたよ。この人形、キミの劣化コピーなんだってね?」
「…………」
それは……事実だ。ジークフリートは育成場が作り上げた、正真正銘最強の兵器となるはずだったモンスターだ。
サウザンドの能力を殆ど解放している今なら、その記憶も淀みなく引き出せる。それが誰の記憶だったかはともかく。
「変な話だね。キミが最強だと認められたはずなのに、キミのコピーを最強と謳って、あげく暴走させて兵士を無駄に失う事になってるんだから」
兵士……仲間を失っただけじゃない。育成場ごと、その周りでさえも全て破壊し尽くしたんだ、あいつは。
リリやヒカリたちがいなかったら、最悪死んでいたかもしれない。……いや、まぁ確かにそれまでに何度か死んでるはずだけど。
それでも本当に、再起不能になるかもしれなかったのは嘘じゃない。
「……だから封印したのに。それを、お前が解除したのか?」
「そうだよ」
シンは悪びれる様子もなく、当然と言わんばかりの表情で答える。
「キミが作り上げた世界を壊すために、そして構成員を全て殺すために、ジークフリートとそこのリリに協力してもらおうと思ってね」
肩越しにチラと確認すると、後方でローザに緊急手当をしていたリリが、困惑したように目を見開いていた。
「……どうしてそこまでして」
「当たり前だろう。キミたちの描く世界は破綻している。とてもじゃないが、ボクが今から創る世界には、必要ないものばかりだ」
「だから殺すのか?」
「そうさ。今生きている人類だって、不適合者ばかりだ。だから殺す。全てなかったことにして、新しくやり直すんだよ」
ジークフリートは何も話さない。死んでいると言うだけあって、口をきかないつもりなのだろうか。
「そこまでして……いったい何の世界を創るんだよ。そんなの、誰も救われないじゃないか」
「全人類を敵に回したキミには言われたくないね」
俺はハナから全人類など救おうとは思ってないが、敵に回してしまっていたらしい。……何を犠牲にしてもローザだけは守ると言った手前、そう解釈されても反論はできないだろう。
「救われる。救われるさ。滅び行くしかなかった人類を、存続させられるんだぞ、ボクが新しく世界を創ることで。ボクのような神を生み出すこともなく、キミたちのような戦士もいらず、モンスターに襲われる必要もない。そんな理想の世界をボクは創るんだよ!」
狂ったように、光の無い目でそう宣言する。
「お前たちを殺してな!!」
来る。そう思った時には既にジークフリートは動いていた。
「もう遊ぶのはやめだ! 追加サンプルにしようかと思った自分がバカだったよ!」
未だに空中で待機していた刀を、磨り減る神経を使って発射していく。
「くっ――!!」
両手の刀を振り回し、ジークフリートの猛攻を弾いていく。
どうやってコピーしたかはわからないが、動きのキレは劣らず……いや、もっと増しているようだ。ほぼ全開まで解放したサウザンドでも、なんとか目が追いつくのがやっとといったところ。
『――≪ウィンド・ブラスト≫!!』
「――!?」
風が背後で巻き起こった。
ジークフリートに強打をかまし、稼いだ一瞬で状況を確認。
「チッ……――リリ!!」
上から振り下ろされた大剣を、両手の刀をクロスして受ける。派手な音を鳴らして、俺を押しつぶそうと体重をかけて来る。
「新世界に神は要らない! 能力も、魔法も、要らないんだよ!!」
シンは叫びながら、暴風に負けじとリリへ接近していく。
「――させるかッ!!」
ジークフリートの大剣を流し、追撃を≪朧月≫で返して、一瞬の隙を突いて駆け出した。
「邪魔をするなッ!!」
シンが指先を向けた。ちょうど、手が銃の形をしている。
「どうしてそこまでして世界を創りたがるんだ!? モンスターが憎いだけなら、モンスターを滅ぼせば良いだろう!?」
射線を読み、身を躱す。予想通り、なにかがシンの指先から放たれ、俺の髪を掠めていく。
「モンスターが憎いわけじゃ無い。モンスターを生み出す人間が憎いわけじゃ無い」
「じゃあ何が……」
「ボクを生み出した、この世界が憎いんだよ! たったひとりの願いを叶えたいだけなんだよ!」
「――!!」
俺が≪雷切≫を放とうとしたのが見えたのか、構えたタイミングで切り返し、俺へターゲットを変えたシン。
「こんな方法しか思いつかなかった! 完全な形で叶えることなんてできないで! 彼女をこの手で殺すことになったんだよ! そんなボクが、ボクの存在が、憎くて憎くて、仕方ないんだよ!」
暴風に乗って加速したシンは、俺が視界に捉えるより早くその足を放ち、俺の腕を持って行った。
「――ぐッ!?」
バキ、と嫌な音が響く。
「お前の相手はそいつだ! 邪魔はさせない。ボク自身の存在を消して、彼女の願いを叶え、世界を創り変える。そのために、消えてもらう!!」
さらに追加で打ち込まれた足で後方へ吹き飛ばされる。
そこで待っていたのは、しっかりとこちらに狙いを定めたジークフリート。
「無茶苦茶言いやがって!!」
体を捻り、折れた腕を庇いつつも大剣の軌道から外れる。
俺の背中をかすめ、大剣が地面を叩いて砕く。
「殺したやつの願いなんて、叶ったところでどうなるというんだ!」
「それが彼女にとっての報いだ! ……そうさ。彼女の願いは唯一つ。この世界から、異能も能力も消し去ること。ボクたちのような、神に近い存在を生み出さないことなんだよ!!」
ジークフリートは自我などないかのようにただ剣を振るう。乱暴に、しかし的確に。
「クソッ!! 邪魔なんだよ、ジークフリート!!」
シンは踵を返してリリへ再び攻撃を仕掛けに行っているのに、俺はまだ、切り捨てたはずの過去に取り付かれたまま、思ったような動きが出来ないでいる。
「お前はもう、俺には勝てない! 未来に可能性を見出した俺が、過去にすがるしかなかったお前に負けるわけが無いんだよ!!」
いつかどこかで言った様な台詞を吐き、サウザンドの能力をさらに拡張。
折れたはずの腕を無理やり動かし、刀を構える。
「――≪雷切≫!!」
キィィイイインッ!!
甲高い金属音が、鼓膜と鼓動を振るわせる。
だが、そんな音に構っている暇は無い。
今はもう、音速ですらまだ遅く感じる。
「≪龍王二式≫!!」
弱点である背中を切りつけ、大剣を叩ききり、ジークフリートを無力化させる。
ついでに踏み台にして、シンの背中を追った。
「シンッ!! やめろッ!!」
発する音がそこへ辿り着くよりも、シンの拳がリリに当たるほうが速い。
リリはバリアを張ろうとしているのか、両手を自身の前に掲げているが、間に合うかは微妙なところとみえる。
「まずは貴様からだッ!! 運命の神、≪フォルトゥーナ≫!!」
間に合わない――雷切も、神速も、あと一秒が足りない。
「――――ッ!!」
リリが思わず目を瞑って――
「――ぁぁぁあああああああああッ!!」
「「!?」」
ドンッ!!
爆発じみた、それでもどこかくぐもった音が響き、シンの身体が一瞬その動きを止めた。
見れば、満身創痍のローザが自身の大剣を振るい、シンの一撃を封じたらしい。ローザの身体が吹き飛んでいる。
「うぉぉぉおおおおおああああああ――――ッ!!!」
一瞬。されど一瞬。
ローザの稼いだ一瞬があれば、何もかも十分すぎた。
「しまっ――――」
ギリギリで身をかわされ、腕一本しか捉えられなかったが、ついにシンに傷らしい傷を負わせられた。
赤い尾を引いて、シンの腕が宙を舞う。
「――俺の女に、手を出すんじゃねぇッ!!」
右一閃。シンの左目も持って行った。
「ぐッ――!!」
よろめきつつ、後ろへ飛びながら後退していくシン。
戦闘不能となったジークフリートの隣で息を整える。
「……なぜだ。どうしてボクが勝てない。お前達は、抵抗するだけ無駄だというのに」
切られた目を押さえ、シンはうめく。
「願いも、希望もないくせに。どうしてボクに逆らうんだ。素直に殺されろよ」
こちらも乱れた息を整えつつ、そっと折れたはずの腕に手をやる。
明らかに無機質めいた、違和感が掌にかえってくる。
この感触は……クリスタル。
どうやら救急治療は成功したらしい。腕も、折れる前と大差なく動かせる。
「……悪いな。俺はまだ、死ぬわけにはいかないんだ」
それを確かめた俺は、サウザンドの能力限界が近いことを内心で悟る。
空中の刀は消え去り、身体のいたるところから煙が噴き始めた。
熱い。痛い。全身がやけどしたかと思えるほどに。
「まだ、守りたいやつが居るんだ。それに、俺は目の前で仲間をみすみす殺させるようなことはしたくない。だから俺は、死ねない」
独りよがりかもしれない。自分勝手な、わがままなのかもしれない。
でも、もうそんな人類だとか、世界だとか、大きな話は飽き飽きだ。
たとえこの身が黒く蝕まれても、俺は彼女だけは守る。守り抜く。
そのためだけに、俺は生きるって決めたから。
「それに、お前の目的の中に、あいつらを殺すことが含まれているのなら、俺は十分に抵抗する理由を持っている。お前の計画を阻止するだけの、行動理由がな」
強い意志で、身体を奮い立たせる。少しでも弱ったところを見せれば、そこへ付け込まれる気がした。
「……はは」
シンは小さく、
「はははは」
心底可笑しそうに、笑った。
「やっぱり、こんな世界は変えるべきだ。キミはかならずボクと同じ過ちを繰り返す。この世界がある限り、必ずだ」
傷を塞いだのか、目を覆っていた手を払いのけた。
するとそこにあったのは、紅く鈍く光る、邪悪な瞳。
それはもう、人が持てるものではない。見ただけでそう感じてしまう。
「いいや。俺は未来に希望を見出した。明日をも信じられなかったお前と違って、俺は明日を信じることができる。どれだけ昨日今日、絶望しようと。望みを絶たれようと。俺は明日に託す事ができる。……前を見ていられる俺と、前を見ていられないお前が、同じ失敗をするものか」
横目でローザの様子を確認する。リリに支えられながらも、なんとか息は繋いでいるようだ。これで俺はまだ、戦うことができる。
「くく……くははははッ!!」
一人笑う。紅い悪魔の目をして、腕を片方無くしたままで。
「じゃあ、証明してみせろよ。同じ過ちを繰り返さないのなら、キミはボクに勝つ必要がある」
シンは再び指をパチンと鳴らした。
「未来を見てきたボクが言うんだ。ボクにとって過去でしか無いキミは、ボクを超えられることはできない。ボクの辿った運命は、ボクが変えない限り変わらず、キミは同じ運命をたどるんだよ!」
すると、ジークフリートが闇に溶け、黒い影となって、シンを包んだ。
シンの腕が、足が、身体が、ジークフリートのそれに置き換わっていく。
まるで、二人が融合でもしたかのように、混ざり合っていく。
「同じ運命を辿らないというのなら、ボクを変えてみせろ。ボクを倒して、ボクの全てが間違いだと言ってみせろ。それができないのなら、キミは運命を受け入れてここでおとなしく死ね!」
黒い影を纏ったシン。その雰囲気は、先ほどまでとはやはり違い、どこか悲しげで、ただ純粋な殺意に満ちている。
「…………リリ。一撃で良い。付き合ってくれ」
刀を全て虚空へ還し、リリを背中で呼ぶ。
『……使うの? あれを発動すれば、もう暫くは……下手をすれば、二度と使えなくなるかもしれないんだよ?』
「構わない。この技はそもそも、力を封印するために組んだんだ。これでサウザンドと離れてられるなら、俺も少しはマトモに人間らしくできるってこった」
この技は完成した途端にヒカリに記憶ごと奪われ、リリに譲渡されたものだ。
リリがいなくては使えない。俺一人では、身体がもたない。
そもそもの前提として、サウザンドの能力の全開放ということ自体、負担しきれなくなる可能性があるレベルだ。
だが、今は残りたった一度の開放権を使ってサウザンドの能力に制限がない。
結局育成場を潰した時以来撃つことのなかったこの技を撃つための条件は、全て揃ってしまっているのだ。
「シン。全力でいかせてもらうぞ。お前が少しでも俺たちを否定したいと言うなら、お前も全力を以って抵抗しろ」
「…………いいだろう。キミの口車に乗るのはいやだが、これで決まると言うものだ」
シンは手に召喚した、ジークフリートの大剣を構えた。
結局こいつも、武器に、そして過去の産物に頼るしかなかったらしい。
それは、俺ももしかしたら同じなのかもしれない。サウザンドという過去の産物に縋って、未来を切り拓くすべを探していたから。
「……失って、失って、失って、それでも明日を見上げた時、その胸に抱く希望の強さが、理想の未来が、その顔をあげさせたんだと分かった。だから俺は、この剣が抜ける」
リリの小さな手が、俺の手にそっと触れたのを感じた。
神経をそこへ集中させ、イメージを重ねる。
「……闇に染まって、抱えきれないほどの絶望を抱え、縋るものすら見失った。それでもこの忌々しい能力で変えようとした。けれど変わらない。未来を変えるためには、過去を、事実そのものを変えなくてはならない。だからボクはこの剣が使える。英雄でもなかったのに、背負わなくて良い希望と絶望を背負った彼とボクだからこそ、この剣が使える」
黝く染まりきった大剣を立てる。そこへ集気するのを感じる。
希望とも、絶望とも取れる、曖昧な感情。
願いを叶えるには、十分なほどの能力を持っていたはずなのに、いざ叶えようとすれば足りない。
どう足掻いたって、行動したって、思い通りに叶いやしない。
「来いよ――≪見果てぬ夢と理想の剣≫」
呟くなり、黄金に輝く光の刃が展開した。
全ての理想と希望が詰まった、俺の編み出した奥伝。
『イメージした剣を生み出す』サウザンドの能力を極限まで開放した末に、俺の持つ夢を形にした剣。それがこのエクスカリバー。
これを可能にしたのが、やはりサウザンドの能力。
『自動治癒能力』――これが鞘にあたるアヴァロンの能力に匹敵し、因果的に実現可能になったわけだ。
「行くぞ――≪ヴァルムンク≫」
対照的に、シンの構えた大剣からは、全ての闇を呑み込んだような漆黒が噴き出した。
シンの周りを闇が支配し、負の感情を渦巻かせている。
……そうか。シンとは絶対に相容れないと思っていたが、どうやらそれには、原因があったらしい。
……結局、誰もが同じだったんだ。同じ理由で悩んで、立ち止まって、間違って。
だからシンは変えたかったんだろう。存在ごとなかったことにして、自分の行いを消し去って。
そして同じ過ちを繰り返させないように。
俺が抱いたこの感情は、嫉妬だったのかもしれない。
シンが平気な顔して『人類を救う』だとか、『世界を変える』だとか言ってのけて、そのくせ無駄に強くて。
少しでもまともな性格をしていれば、誰しもに必要とされる、英雄になっていたかもしれないのに。
――いや。
もしかしたら、誰もに必要とされて、必要のない希望まで背負って、絶望してきたからこそ、ここまで狂ってしまったのかもしれない。
だったら、この感情はなんだろうか。
どうして自分のやってきたことをなかったことにしようとするのか。やってきた事は全て無駄だったのか。
そんな疑問が湧いてやまない。
「……お前は、正しかったのかもしれない」
「あ?」
「……能力を有用に使って、人々の役に立ったのかもしれない」
ゆっくりと、エクスカリバーを立てる。
全てを呑み込もうとする闇に負けず、全てを照らそうとする光が湧き出る。
「その結果がどうであれ、救った人々のことを無かったことにするなよ。たった一度の失敗で
全てを嘆くなよ」
「お前に何がわかる!! 失敗するはずがなかった! 首尾よく叶えてしまうはずだったのに! 結果的に一番失いたく無かったものを失ったんだぞ!? それを嘆かずして、何を嘆く!」
……やっぱりか、と思ってしまう。
シンは、この上なく絶望したんだ。守りたかったものを守れず、願いすらまともに叶えてやれないで。
そう、まるで俺のように。
「……それでも明日はある。生きている限り、過去を積み上げた先に、初めて希望ある明日を描ける。だから……過去をなかったことにしようなんてするな。明日には、全て変わるかもしれない。奇跡だって、あるかもしれないだろ?」
「ボクはそんな甘えた方法で逃げたりしない。取り返しがつかないから諦めるなんてことは、ボクにはできない。……なにせ、ボクには取り返せる能力がある。その力がないお前に、ボクの絶望が分かるものか!!」
「ああ……わからねぇよ。俺は全てを背負えるほど強くない。明日に希望を託さないといけないほどに弱い。お前と違って俺は、弱いんだよ」
でも、と、息を吸って続ける。
「でも、お前は違うんだろ? 背負えるほどの強さを持ってる。なのに、どうして背負おうとしない! 失ったというのなら、取り戻せるだけ生きて、取り返せよ! どうしてそれをしようとしないんだよ!!」
「クソが――知ったような口をッ!!」
「それだけの強さを持っていながらも、事実を受け止めようとしないお前が、腹立たしくて仕方ないんだよッ!!」
そして、光り輝く剣を振るった。
十二分に光を吸い込んだエクスカリバーは、何もを白く染め上げるほどの光を放出し、シンに襲いかかる。
「お前には何も分からない! 分かるはずもない! この絶望が、この苛立ちが!」
シンも遅れて漆黒の剣を振るった。
光を覆い隠すかの如く、黒が世界を埋め尽くす。
「そうさ! こんな存在はこの世界ごと消えてしまう方がいい! そうすればこんな思いをする奴もいなくなる!」
「やるなら一人でやれ! 世界を、俺の仲間を巻き込むな!!」
光と闇が交錯し、互いを吞み合い、互いを打ち消しあう。
衝撃波と暴風が何もかもを吹き飛ばし、地面を、この世界をも揺らす。
「お前の絶望は、俺が必ず照らしてやる! 誰も悲しまなくて済む。誰も失わずに済む。そんな世界を、俺は世界を壊さずに作り上げてみせる! だからもう、お前は壊す必要はない! 何も失う必要はないんだよ!」
「誰がそんな綺麗事を信じる!? 不可能だ! そんなこと、できるはずがない!」
「できる! 信じるんだ! 俺はあいつのお陰で、信じることの可能性を知った! 運命だろうが未来だろうが、信じる力があれば変えられる! 信じて行動できるだけの力があれば、変えられるんだよ!」
視界がホワイトアウトした。
飛ばされ、壊れ、全てが吹き飛ぶ。
「何が信じるだ! そんなもの、何になると言うんだ!」
土煙が遮る視界の向こう。
壊れかけの鎧と剣を持つシンの赤い目が光って見える。
「たった一人が立ち上がったところで、何も変わらない。そんなこと、分かっているだろう」
――ヒヨ。ヒカリ。……最後に一度だけ、力を貸してくれ。
「――≪超新星の千里咆哮≫」
両手のビームサーベルに装填しておいたヒヨとヒカリのコアクリスタルを、砕く。
「変わるさ。誰かが動けば、そして誰かを動かせば、皆が動く。きっかけを作るのさ。やれる事をやるだけでいい。それだけで、簡単に奇跡は起こせる。人が為す力は、奇跡をも引き寄せるんだよ」
もう動くことの叶わなかったはずの身体が、疲れなど感じさせない勢いで活動を再開する。
時間制限付きの、最後の足掻き。
永続クリスタル二つの代償を払っての、最期の攻撃。
「お前は簡単に人類を語り過ぎだ。もっと、可能性に賭けてみろよ。案外、どうにでもなるものだぞ」
強い風が吹いた。仰げば、赤く燃えるような月が、空で笑っていた。
「はは……ははははははは」
遥か下の方で、姿が見えてきたシンの笑い声が聞こえる。
「お前はバカだ! この上なく、最高のバカだよ!」
「そりゃ……光栄だな」
体を捻り、空中で落下姿勢をとる。
ビームサーベルを前へ出し、錐揉み回転で、シンへ突撃する。
「自分以外を信じられなかった大バカ野郎にそう言われちゃ、よっぽどだよな」
クリスタルの補正が自動的にかかり、加速していく。
「――≪フォーリング・ストライク≫!!」
そして、シンの反撃を許すことなく、シンの胸の中央にビームサーベルが突き刺さった。
地面にクレーターを作って、粉塵を撒き散らす。
……ありがとな、ヒヨ、ヒカリ、ローザ。
衝撃に耐えられず、右手の何もが粉砕していくのを感じながら、一人思う。
……そしてケンも。お前たちの仇は、とったよ……
そっと息を吐いて、目を閉じた。




