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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
終章 「誰も望まぬ世界でも」
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チャプター 12-2



「クソ……クソッ! まだ着かないのかよッ!?」


もうどれくらいこうしているだろうか。

だんだんと感覚がなくなっていく腕を振るい、目の前のモンスターに得物を叩きつける。


「リリ! 最奥地はまだなのか!?」

『う、うん。 もう少しだけ進まないとダメみたい』


どうにも消耗してくると、心の余裕がなくなってしまうらしい。


「くッ……!」


イライラしてくる衝動をモンスターにぶつけ、叫びたい気持ちを抑える。

早くローザに追いつかないといけない。

そんな焦燥感が俺を掻き立てる。

こんな雑魚相手に時間を使ってる場合では無いのに。


「ヒヨはどこ行ったんだよ!? あいつ、こんな時に限ってはぐれるとか、どういうつもりだ!?」


ヒヨは歌いながら道を拓いてくれていたが、その歌がクリスタルを共鳴させてしまったらしく、なぜかどこかに転移されてしまったらしい。

こんなところでそんなドジっ娘スキルを発動させなくてもいいのにとは思うが、言ってても仕方ない。 どこかで合流できることを祈るしかない。


「……ライトくん。 ここは俺に任せてくれないか」


一瞬、ジークさんが何を言ってるのか分からなかった。

そのおかげで瞬間だけ冷静になった頭が現状を理解してくれる。

次の階層への道を防ぐように、壁中の穴という穴から小型のモンスターが溢れ出ているという状況。

誰がどう見ても、絶望的に戦力差が埋まらないゾンビ戦法。

こんな戦法を取られて、道が拓ける未来が見えないが、どうにかしないことには先に進めない。

だからこその提案なのだろう。 そこまでは理解できる。

けど、それで良いのか、という疑問がなぜか湧いてきた。

ジークさんにも、ジークさんなりにここに来た意味が、目的があったはずだ。

ここでその選択肢をとることで、それが達成されるのか。

人の心配をしてる場合でないのはわかっているが、それでも思ってしまう。


「……リリ。 風は起こせるか?」

『か、風?』


リリは戸惑うように呟くも、首をかしげた。


『……起こせるけど、これ全部吹き飛ばすのはちょっと』


さすがにそんな大魔法が使えるなら、最初から使っているだろう。


「じゃあライトくん。 風に乗るのは得意かい?」


その一言で、言わんとすることが見えてしまった。


「そんなの、やったことないですよ」

「簡単さ。 ただ足で風に乗ればいいだけだから」


何の説明にもなっていないって、本人は気付いていないのだろう。


「リリ。 一瞬でいい、前方に突風を全速力で生成して欲しい。 そしてライトくんと奥へ進むんだ」

『え? で、でも……』


ジークさんはニッと笑って、もう片方の手にも流星刀スターセイバーを召喚した。

刀の二本持ち。 防御を捨てた攻撃特化型の戦術。

この人は本気で一人でこの有象無象をどうにかするつもりらしい。


「大丈夫さ。 キミたちが奥へ行くまで時間を稼ぐだけだから。 すぐに合流する」


そんなことが可能なのか。 すぐに疑いたくなってしまうが……


「それに……キミをこんなところで足止めさせるわけには、いかないからね」


死角からの攻撃を、見えているかのように迎撃してみせる。


「……良いんですか? ジークさんも、ローザに用事があったんじゃ……」

「うん? いや、確かにローザも気になるけど、それはキミの仕事だろう? 早く突破しないといけないのは事実だし、任せてくれていいよ?」


強者の余裕……なのだろうか。

いや、そう見えるだけで、実際はそんなことないはずだ。

本当に余裕なら、こんなに苦戦していないだろう。


「……わかりました。 ここはお任せします」

「ああ、任されたよ。 そっちもキミに任せたからね」

「はい。 ……必ずたどり着きます。 そして、間に合ってみせる」


ジークさんは頷くと、リリに指示を飛ばした。


「リリ。 頼む」

『わかったよ。 ……死なないでね』

「もちろんさ」


リリが手をかざし、光り輝く粒子をその手に集め始めた。

おそらくあれが、風の元となるのだろう。


「――≪月影流二刀術≫」


それを確認するや否や、ジークさんも構えた。

≪雷切≫にも似た、突進の構え。


「≪新月蝶≫――ッ!!」


迫り来る軍勢に風穴が開く。


『≪ウィンドブラスト≫!!』

「ライトくん!」

「よしっ――」


リリが能力を発動し、呼ばれて俺が飛び出したのは同時だった。

風穴に突風が吹き荒れ、文字通り吹き飛ばされる。


「ぬぉおおおおおおおお――!?」


ジェットコースターだとかフォトンウィングでの飛翔だとか、そんなものは比較にならない。

目を回す間もなく向こう岸に転がされ、リリが同じ風に乗って転がってきたと思うと、軍勢の穴は塞がった。

すぐさま向こうの方からモンスターがなぎ倒される音がしてきた。

モンスターの視線はそちらへ集中していて、こちらを襲ってくる気配がない。

今がチャンスなのは火を見るよりも明らかだった。


「行くぞ」


軍勢に背を向け、走り出す。

そんな俺の背中を無言で頷いてリリは追ってくれる。

リリの情報ではまだいくつか部屋を越えないといけないようだが……


……早くたどり着かないと。 ローザのためにも、託してくれたジークさんのためにも。


『あ、だ、誰か居るみたい……』


言われて足を止める。

目を遣ると、黒い人影が二つ、部屋の中央に見える。


「あれは……」


そのシルエットに、見覚えがあった。

忘れもしない、育成場を共に生き抜いた同胞の戦士。

だからこそ、この目を疑いたくなった。


「…………」


一歩、部屋に入る。

光る何かを目の端に捉え、首を少し傾けた。

頬を何かが掠めて行った。


「……さすがは先輩。 最後の勇者(・・・・・)に選ばれるだけはある」

「なに……?」


足音が近付いてくる。

影が輪郭を結び、その姿があらわになった。


「待ってましたよ。 あなたなら、必ずここに来られると読んでいました」

「お前は……本当にアキラなのか?」

「あれ? 忘れちゃったんですか? 可愛い可愛い後輩を。 ボクはアキラ。 あなたの可愛い後輩ですよ?」


どこか芝居がかった、いつもと雰囲気の違うアキラが俺の目の前で足を止めた。

後方にいるのは、アカリだろう。 なぜか今にも泣きそうな顔をしている。


『………怖い』


リリが一言、ぼそりと呟いた。


「……どうしてこんなところに居るんだ?」


リリの肩を抱いてあげ、アキラを睨みつける。

目の前に居るアキラが、俺の知るアキラでないのは確かだろう。 あいつがこんな目で笑うはずが無い。


「どうして? それはもちろん……」


ふっ、と姿が掻き消え――


「――チッ!!」


――ビームサーベルが左方で火花を散らした。


……この動き、《忍術》を開放してるのか……?


アキラは忍者の末裔だと、育成場の情報端末で読んだ覚えがある。 幼少期からその身体に特殊技術を叩き込まれたんだとか。

彼女自身、その技で人を傷つけることを疑問に思い、長らく封印していると言っていたはずだ。

なのにそれが今、俺の目の前で使われている。

それが意味するのはすなわち……


「……おい、話が違うぞ、アキラ。 お前、もう人は殺さないんじゃなかったのか」

「そうさ。 ボクはもう、人は殺さない。 人は(・・)ね」


……嘘だろ。 いったい何のために……?


「アキラちゃん!!」


アカリの悲鳴のような声が木霊し、アキラが瞬時に動きを見せる。

どうやらアキラに不意打ちは効かないらしい。


「……先輩。 もう分かってるんでしょう? 殺す気で来ないと、守れませんよ?」


分かっていた。 これだけははっきりとわかる。

……アキラたちは、リリを殺そう(・・・・・・)としている。

その理由までは計りかねるが、それは間違いない。

現にこうして、リリを狙った必殺の一撃が見舞われている。

少しでも油断を見せれば、その隙を突かれて殺されかねない。


「ふざけるな。 どういうつもりか知らんが、やめておけ。 こんなことをしても、意味が無い」

「意味はある」


即座に反論された。


「そうしないと先輩は……もっと不幸になってしまう。 先輩を悲しませたくない。 これ以上辛い思いをして欲しくない。 だから、その≪フォルトゥーナ≫を殺して、この狂った運命から助け出すんです」

「は……?」


聞きなれない単語が出ていた。

今アキラは、リリを何と呼んだんだ?


「知らないんですか? まぁ無理もありませんよね。 先輩は彼女に遊ばれていただけですから」


遊ばれていた? 俺が、誰に?


「教えてあげますよ。 先輩の隣にいるその子は、女神≪フォルトゥーナ≫。 運命を司る女神なんですよ」


女神。 そのこと自体は本人の口から聞いた。

別にそれだけで殺す理由にはならないはずだ。


「……驚かないんですね? もう少し、動揺すると思ってましたけど」

「教えろ。 何を以ってリリを殺そうとする?」


リリを盗み見た。

反応的に、アキラの言っていることは事実らしい。

女神は女神でも、運命を司る女神。

それがこの世にどれほどの影響を与えるのか。 少し想像すればわかることだった。


「お前たちに、リリを殺す理由はないだろ?」


だが、実際にリリは運命に影響を与えたか?

自分の意思で、自分の望む運命に誘導したことがあったか?


「……あるよ。 もちろん、ある」


それでもアキラは、そう言い切ってみせた。


「そうだよね、アカリ。 教えてあげてよ、彼女が何をしようとしているのか」


後ろを振り返り、顔をしかめて居心地悪そうにしているアカリにそう問いかけた。


「……日記帳。 ライト先輩も、知ってるでしょ?」


アカリはポツポツと言葉を紡ぐ。


「あれはね……リリが書いたものなんだ」

『!?』


ビクッ、と隣で体が震えた。


「そしてその日記帳に、この先の未来が書かれていたんだ」


思わず視線を移してしまう。

リリはもともと白かった顔をさらに蒼白に染めていた。


「――『やがて世界は破滅する。 誰の望みも叶えることなく』」

「なっ……!?」

『そ、それは違――』


何か叫ぼうとしていたリリだが、それを最後まで聞き取れなかった。

一瞬の油断も許されない。

アキラが常にこちらの隙を伺っている。

今も危うく苦無が刺さるところだった。


「――だからわたしたちは、どうせ死ぬなら、せめてわたしたちの手で、って……」

「ふざけるなッ! そんなことで殺されてたまるか!?」


背中にしがみつくリリは壊れそうなほど震えている。

無理もない。 分かり易すぎるほど、アカリとアキラから殺気が溢れ出ているからだ。


「大丈夫です。 先輩はもう、十分に戦ったんですから、少しくらい休んでも文句は言われません」


バシュゥッ――


電撃がアキラの足元を走り、青紫の光を放つ。


「それに、先輩の分まで、ボクたちがあがいてみせますよ。 この――」


やがてその雷にも似た光は何かを構築していき――


「――≪白虎≫でね」


……四神の三匹目か!? まさか、いつの間に……


四神のクリスタルを二人で分けたと言っていたアカリとアキラだが、二人はクリスタルをうまく使えず、それぞれ半分しか能力を使えなかったはずだった。

だが、どうやらそれはもう過去の話らしい。


「……アカリ。 準備はいい?」

「うん……」


痛みからか、アカリは今にも泣き出しそうだ。

けれど、その背後から蛇のような何かが這い出ているのが見える。

残る四神は一つ。


「――≪青龍≫。 わたしに、力を貸して」


……クソッ……二人をなんとかして説得しないと。 このままじゃ……


「おいおい……冗談だよな? 忘れたのか? リリは俺たちの大切な仲間だっただろ?」


一触即発な空気に押し負けないように、なるべく声を張る。


「「…………」」


二人は何も言わない。


「やめろよ、そんなのは。 そんなで、誰が救われるんだよ?」

「……先輩が、殺されずに済む」

「誰に? 誰に俺が殺されるって?」

「リリに……運命に殺されるなんて、そんなの納得できない! ボクだって本当は信じたくない! けど、仕方ないじゃないか、それが真実なんだからッ!!」

「――ッ!?」


俺はそこでようやく気がついた。

アキラたちは、この決断を下すのに、かなり苦しんだのだろう。

俺が死ぬという未来を見て、どれほど絶望したのか、その気持ちを図ってやれてなかった。

そんな気持ちを超えて、こうして俺のために、行動している。


……なんだよ。 お前ら、結局みんなそうなのかよ。


「……わたしだって、ずっと反対してた。 こんなの、絶対おかしいって。 でも、次々と本の内容が実現して……もう疑えなくて……」


涙を掌で拭って泣き噦るアカリは、それでも青龍を収めようとしない。

巨大な龍が、俺とリリを見下ろしている。


「……分かった。 じゃあ、勝負をしよう」


お前たちの気持ちは分かった。

リリが狙われるのも、今はそれで納得しておこう。

――けど。


「俺はリリを守る。 お前たちは全力で俺をたおしにこい。 そうすれば、大人しく殺されてやる」

「「――――ッ!?」」


俺が二つ返事で了承するはずもないのは分かっていたはずなのに、どうしてそれでもやめようとしないのか。


「その代わり、俺を倒せなければ……諦めてもらうぞ、リリを殺すことは」


その理由を問いただすためにも、まずは落ち着いてもらわないといけない。


「来いよッ!! そんなにお前たちが正しいと思うなら、それを証明してみせろよッ!!」


もう引き返せないのは、分かっていたから。


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