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パラドックスライフ  作者: 水無月 俊
序章 「再開の時に集いし星」
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チャプター 2-2



「…………」

「えっと……まだ怒ってる?」


玄関で靴を履きながらローザの機嫌を伺う。


「別に、怒ってないわよ……」


……うーん……この反応は怒ってるな……

どうやって機嫌を取ろうか、さまざまな考えが頭をめぐる。


「……まぁ、あんたがあたしの依頼を頼まれてくれるって言うなら、さっきの……その、は、破廉恥な行動は、無かったことにしてあげてもいいわよ?」


そこでローザから助け舟が出される。

……依頼か。内容によるけど、断る必要はなさそうだな。


「ああ。 いいよ」

「……二言は無いわね?」


獲物がかかった時のように、いたずらっぽく笑みを浮かべるローザ。

……なんかいやな予感がするぞ……


「これを見て」


ローザは俺に電子生徒手帳を見せてくる。

その画面には、誰からかのメールが映されていた。

……うん? これは熊谷先生からのメールか……?

内容は……


『今日行われる入学式の後、対面式を行うが、うちの学年の代表として出て欲しい』


……といったものだった。

そうか、そういえば今日は新入生の入学式だったな……

在校生は今日、身体測定及び身体能力値ステータス測定の予定だから、忘れていた。

……ただ、文面はそれだけではなく、そのあとにこう書いてあった。


『ただし、転入生であるお前にこの仕事を任せるのは私の本意ではないので、今回だけ特別に、ランクC以上の生徒に代行を依頼しても良い』


……は? 代行?

本来、対面式では、新入生代表1名と在校生代表1名が舞台で決闘デュエルをする……というものなんだが……

在校生代表は、高校2年生の既存のステータス値のトップ10から選ばれるのだが、なぜか今年はローザが選抜されてしまったらしい。

ちなみに、わざわざ決闘をする意義だが、校長曰く、


『顔を合わせて対話をするよりも、拳で語り合ったほうがいいだろう』


――というなんとも馬鹿げた理由による。


「その代表代行を、あんたにして欲しいの。 ……これが、あたしからの依頼」


ローザは涼しい顔をして、そう言ってきた。

……ウソだよな……?


「受けてくれるって、さっき言ったよね?」

「あ、はい……」


有無を言わせぬローザは、反論する余地も与えてくれない。

……最悪だ。 勝ったら大人気ないと叩かれて、負けたら上級生の恥さらしだと罰せられるっていう、理不尽すぎる決闘なんだぞ……

だからこそ俺に擦りつけたんだろうが。


「てか、俺があんな濡れ衣を背負わなかったら、どうするつもりだったんだ?」

「さぁ? どうだったでしょうね」


あんたが悪いんだからね、とローザは笑う。

してやった感溢れる彼女は、どうもご満悦なようだ。

……まぁ、機嫌が直ったならそれで結果オーライ……なのかな……

依頼を安請け合いするのはやめようと心に誓った。



*********




……さて、そうなるとこの後の予定が大幅に変更になるな……

まだ人の少ない送迎バスに揺られながら、計画を練り直す。


「……ちなみにローザ。 そのメール、いつ送られてきたんだ?」


隣に座るローザに聞いてみる。


「今朝よ」

「今朝!?」


どう考えても、そんな朝早くから代行頼ませるとか、無茶すぎるだろ……

……絶対俺に頼ませる気だったな? あの熊谷の野郎……


「そういえば去年もあったんでしょ? 対面式。 どうだったの?」


ローザがいつに無く興味深そうに聞いてくる。


「……まぁ、去年はある先輩が先輩風吹かそうとぼこぼこにした結果、その先輩は病んじまった」

「へ?」

「あぁ……対面式なんてさっさと廃止にすればいいのに……」


試合前から負けたような気分だった。


「……な、何があったかは知らないけど、がんばるのよ、ライト!」


そんな頼りない応援をされて、俺の気は滅入る一方だった。


「……それにしても、どうして俺のランクがC以上だって知ってたんだ?」


メールには、『ランクC以上の生徒の代行を許可する』ってあったんだが……


「たまたまよ」

「えぇ……」


……そこは『ちゃんとあなたのことは解析済みよ!』とか言って、調査表もってくるところだろ……


「ふふっ、冗談よ。 討伐許可証持ってんのにDランク、なんてありえないでしょ?」

「ははは……まぁ、それもそうだな」


……いるんだよな……そういうやつが……

あの家事スキルだけはSSランクの彼女の事を思い浮かべながら、俺はただ笑うしかなかった。




*********




試合に出る準備があると言って、ローザには先に教室へ向かわせた。

あと30分ほどで始まるであろうHRには、副担任である水島先生が来るだろう。

なんて言ったって、担任の熊谷先生は……

俺は目的の部屋のドアをノックする。


「失礼します」


部屋に入ったとたん、鼻をくすぐる消毒液の匂い。

カーテン全開の明るいこの部屋に、先生はいた。


「やぁ、おはよう。 気分はどうだ?」

「……最悪ですよ」

「それは大変だな。 そこのベッドで横になるといい」

「誰のせいだと思ってるんですか……」

「ふっ……冗談だ」


この独特な雰囲気を醸し出す話し方のせいで、いつもペースを崩されてしまう。

……だからめんどくさいんだよな……熊谷先生は。


「……で、どういうつもりなんですか? 代表代理を認めるなんて……」


先生はカーテンを閉めて、仕事着である白衣を羽織った。

そして切れ長の目を細めたと思ったら、コンピューターを立ち上げた。


「そのことなんだが……」


何かを打ち込もうとして……やめ、こちらに向き直る。


「実は、今年の新入生代表から直々に指名があってな」

「指名……?」

「なんでも、お前と戦いたいらしいぞ、ライト」


……俺をわざわざ指名してきたのか……?


「……それなら最初から俺を代表に選べばよかったじゃないですか」

「悪いが、今のお前じゃ、とてもじゃないが代表には選ばれないよ」


……わかっていた。 片手剣一本じゃこれ以上、上には行けない事は。


「だからあんな回りくどいまねを……」

「なんだ? 不満か?」

「そりゃあ……そうですけど……」


……ってことは、ずっと先生の手の上で踊らされてたのか……

つくづく食えないやつだ。 熊谷先生は。


「……まぁ、いいですよ……それで、その指名してきたのはどんなやつなんです?」


……決闘でも戦争でも喧嘩でもそうだが、ほとんどは情報戦で決まると言っても過言ではない。

相手の情報を分析し、自分をどこまで相手に適応させるか。

クリスタルという無限の可能性を秘めたアイテムが出回っているこの時代、こいつの使い方を相手に合わせるのも重要になっているのだ。

だから、新しい情報を出来るだけ多く集めるのがベストとされる。


「……すまないが、本人から口止めがかかっていてね。 今は話せないんだ」

「それはどういう……」


しかし先生は、対戦相手の情報を一切開示できないと言い始めた。

……これじゃあ、自分だけ手札見せてババ抜きしてるみたいなものだ。

相手は俺のことを知った上で、勝負を挑んできたんだろうからな。


「まぁ、その代わり……といったらあれだが、お前に渡したいものがある」


そう言って先生は机をガサガサし始める。


「……ところで、赤月の様子はどうだ? 何か進展はあったのか?」

「進展なんて、なにも――」


俺は昨夜のイベントをさっと回想して、思わず自分の手を見てしまう。

そこにはめられているシルバーリングは、明らかに何かあったとしか思えないものだ。


「……パーティー申請はちゃんと通ってるから、安心しておけ」


……こいつ、知っててわざと聞いたのか……?

本当に気に食わない先生おんなだ。


「あの部屋が住みにくくなったって言うなら、私の研究室に来てくれてもかまわないんだぞ?」


……そんな生活感のない部屋に来いって言うほうがおかしい。


「今なら、三食昼寝に私付きだぞ?」

「いりません結構です」


速攻で断言してやった。

この人はいったい自分の生徒を何だと思ってるんだ……

先生は笑いながら、机から引っ張り出してきた物を俺に差し出す。


「これは……クリスタル……?」


大きさ的に、使い捨てのインスタントクリスタルだろうが、形状が異常だった。

正八面体を4つほど貼り付けたような、そんな形をしている。


「これは、お前が実力を出せるような能力を秘めた、まさに、魔法のアイテムさ」





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