表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルメイト  作者: K
9/19

9 どうする? 5時限目

リカに最初の一報を伝えにきたのは、リーダーの一人であるアイリだった。

夜中にリカの家にかけこんできたアイリは、声を潜めて、リカに言った。

リカたちは、幼少期は親と暮らすが、ある年齢になると、独立して暮らすのが通例だった。

若者たちは、いくつかの地域にちらばって、長屋のような形の家に、一人ずつ暮らしていた。

駆け込んできたアイリは蒼白だった。

「リューが殺された。」

開口一番の台詞で、リカは緊張した。

リューのことは知っている。

恐らく、同世代では、剣の腕は一番だと聞いている。

彼も、仲間だったんだ。

新参者のリカは、タクミに認められたとはいえ、仲間の全てに紹介されているわけではない。

リカの知る仲間は、ごくごく身近に限られていた。

「急いで。逃げるわよ。計画がバレてる。」

「どうして?」

「わからない。けれども、一番腕のたつリューが、真っ先に殺された意味は…。」

「内通者?」

「その可能性が高いわね。脱走するメンバーは、全て知られてると思っていいかもね。」

「誰が内通者かは?」

「わからない。」

そこで、アイリは、いったん言葉を切った。

暗くて顔は見えないが、感情的になるのを必死で抑えているようだった。

「カズが、リューの家にいたの。仲間の一人よ。彼女が、死ぬ前に、テレパシーで映像を送ってきた。」

「カズはテレパス?」

「違う。けど、リューが目の前で殺されて、超能力が開花したんだと思う。一番、受け取ってくれるだろうと思われるソーに、その映像とメッセージを送ったの。」

「あのリューが、殺されるなんて…。」

「足を狙われ、そのあとは、メッタ突きだったらしいわ。超能力の開花を恐れて、とにかく一人ずつ、徹底的に殺していくつもりみたい。時間がない。急いで。」

アイリの声がかすれている。

涙をこらえているのかもしれない。

リカは、剣と、こんな時のために用意していたリュックだけもって、外に飛び出た。

けれども、リカにはやらなければならないことがある。

「アイリ、私は、キョウを迎えに行く。」

アイリは、それを聞くと、泣きそうな顔のままで言った。

「リカ、私は、ここにくる前にキョウの家を覗いたけど、キョウはいなかった。もともと、リューとカズは、キョウと3人で脱出のルートの話をする予定だったの。リーダー同士で、脱出の役割を、簡単に分担してるんだけど、外に出てからの動きの責任は、この3人が担当だったから。」

そんな細かいことは、まだ、リカには伝えられていなかった。

「なら、キョウは?」

「時間にルーズなキョウは、見たことがない。カズが死んで、テレパシーの交信が途絶えるまで、

カズの見える映像の中にキョウはいなかったらしいの。」

リカは、胸が激しく鳴るのを感じていた。

「キョウは、遅刻なんかしない。」

アイリもうなづく。

「最悪の場合、リューの元に向かう憲兵と遭遇した可能性がある。それでも、憲兵を見つけて、姿を隠していたのだとしたら、命はあるかもしれないけど…。」

ただごとじゃない憲兵たちの姿を見つけて、隠れてあとを追い、リュー達の惨劇を知ったなら…。

「リカ、自分に都合のいいことばかり、考えてる余裕はないわ。もう、キョウも命がないかもしれないことも、覚悟しておいて。」

キッと前を向くアイリは、いつもの優しいアイリではなかった。

リカは、頭を金づちで殴られたかのような衝撃を感じていたが、まだ、それについて考える余裕もなかった。

キョウ、お願い、生きていて。

そう祈るのがやっとだった。

「ソーからのちっちゃい伝令が来て…。」

「ちっちゃい伝令?」

「カズのテレパシーを何とか受け取ることできたソーは、リーダーに伝令を送ってきたの。それぞれの近場の仲間を連れて、西の門へ集合するようにって。私のとこには、ちっちゃい女の子だったわ。彼女は、別のリーダーのとこに、それを伝えにいったけど、運よく、他のリーダーたちのグループに合流できたら、西の門でキョウと会えるわ。」

そう願う。

リカは、心の中で強く念じながら、アイリの後について西の門に向かう。

憲兵に会わないよう、路地には気をつかいながら、月明かりの中、静かに走る。

この静寂の中で、大きな捕り物が行われているというのが、不思議な感じだった。

けれども、確実に、夜だからわかる地面を揺るがす地響きが伝わってきていた。

大きな人数が、迫ってくる足音だ。

「次は私かも…。」

アイリは、振り返りもせずにリカに言った。

「次の仲間のとこに行くつもりだったけど、やめておくわ。リカに、仲間の名前を告げて、私の代わりに彼らにこのことを伝えてもらおうとも思ったけど、時間もなさそう。リカは、とにかく逃げて。そして、私がいないことを、タクミたちに伝えて。」

「え?何を言ってるの?」

「一番厄介なのは、腕のたつリューだったと思う。その次は、きっと、ヒーラーだわ。」

「?」

前を行くアイリの表情は見えなかったが、声は冷静だった。

タクミに確認された覚悟を、このアイリもちゃんと備えているのだ。

「どんな手段で、私達を追っているのかわからないけど、仲間の名前がバレてて、探知できる能力者がいたなら、一人ずつ確実に追われるわね。能力の発動を恐れて、大人数で確実に独りずつ殺すのが、彼等のやり方なら、ターゲットが逃げるのは難しいけど、その分、他の者は逃げる時間がとれるはず。」

「どういうこと?」

「集団でやられたら、勝ち目はない。それより、このことを残された仲間に伝えて。それが、大事な使命よ。」

「…。」

「わかった?リカ。」

振り返ったアイリの目には、強い覚悟があった。

足音の地響きは、確実に大きくなっていた。

その瞬間だった。

遠くから投げられた矢が、アイリの胸をとらえた。

「アイリ!」

憲兵たちの姿が見える。

リカの背筋がゾクリとする。

覚悟はしていたが、死を現実に間近に感じると、想像もできない恐怖が襲ってきた。

アイリは、リカに向かって、必死で怒鳴る。

「早く逃げて。」

「でも…。」

恐怖で足が竦むリカにアイリは、更に怒鳴る。

「私がいかないことを、伝えて。お願い!」

怒鳴ることもつらい状況のはずだが、アイリの必死さが、リカの目を覚めさせた。

けれども、アイリをここに置いて逃げていいものかと、躊躇するリカに、アイリは、言った。

「リカの今考えること全ては、間に合わない。いい? リカが今できることをして。お願い。」

アイリに刺さっている矢を抜いて、アイリ自身が自分をヒーリングしたとしても、間に合わない。

この状態のアイリを、リカが抱えて逃げることも不可能だ。

リカの今考えること全ては、間に合わない。

アイリの言う通り。

リカが出来る事と言えば、逃げることだけだ。

仲間にとって、貴重なヒーラーを失うのは相当な痛手だ。

そのヒーラーが、もういないということを伝えてと、アイリはリカに託した。

自分を探すなと。ヒーラーがいない前提で戦えと。

それを仲間に伝えろとアイリは言うのだ。

リカは、覚悟を決めて、アイリを見た。

憲兵たちは、もう、すぐそこにきている。

アイリが必死にうなづいた。

リカは、次の矢が飛んでくる中、アイリに背を向けて、走った。

憲兵たちは、アイリの想像通り、リカを追うことをせず、先に、アイリのとどめを刺す方を選んだ。

リカが、最後に振り向くと、憲兵に囲まれたアイリが血しぶきをあげていた。



目をあけると、懐かしい顔がそこにあった。

「梨花―、心配したわよ。」

夢にどっぷりつかったあとは、こちらの現実世界の方が、嘘っぽく感じられる。

ホッとした凛の顔を見て、懐かしいと思えてしまった。

つくづく平和な日本にいることを痛感する。

「ごめん…。」

起き上がった場所は、学校の保健室だった。

「気がついたか。」

保健室の先生である高階と話をしていた榊が、ホッとしたように、声をかけた。

「すみません。」

「今、病院に連れて行く話をしてたとこだ。」

梨花は、慌てて首を振った。

「いいです。いいです。もう、全然大丈夫!!よくあるただの貧血ですから。」

「何言ってるんだ? 下手すりゃ、大怪我してたんだぞ。」

凛も

「そうよ。榊が支えなかったら、頭打ってたかもしれないよ。」

と、榊の方につく。

そして、自分の言い方にすぐ気が付いた。

「あ、いや、榊先生が、梨花をここまで連れてきてくれたから…。」

「いつもは呼び捨てか…。」

舌を出す凛に、苦笑して、榊は、梨花のそばに座った。

「病院に、行った方がいいと思うんだが…。」

「いいえ。絶対にお断りです。ホント、ただの貧血ですから。今、生理中なんで、血が不足気味なんです。」

「でもな…。」

「榊先生。」

高階が、割って入る。

「午後の授業にかかるかもしれないけど、少し、ここで休ませますよ。おかしいようだったら、病院に無理矢理でも行かせますから、先生は、授業に行ってください。」

「そうですか?」

保健の先生がそういうならと、榊は、心配そうに梨花を見つめたあと、梨花についていると言い張る凛をひきずるように連れだし、午後の授業のために、教室に戻って行った。

残された梨花は、自分が何故、意識を失ったのか考えていた。

ショックだったのだ。

自分が人を殺したということが。

この平和な日本で、人を殺すこと自体が、梨花をとりまく環境の中にはないものだった。

人を殺すなんて、ドラマやニュースの、自分とはかけ離れた世界の、自分には全く関係のない、一生関わることのない世界のことだと思っていた。

けれども、梨花は、夢の中で、確かに、人を、キョウを殺したのだ。

そして、目の前で、アイリも死んだ。

自由が欲しいと言っていた仲間は、その夢の代償に何を得たのだろう。

梨花は、自分の手を見てみる。

両手に血はない。

けれども、感触は残っていた。

そして、後悔の気持ちも…。

フと気が付くと、高階が、梨花をじっと見つめていた。

その目は、心配しているというより、氷のように冷たい視線だった。

「高階先生?」

梨花が声をかけると、高階はハッとしたように、瞬いた。

にっこり笑ったその顔には、先程の冷たさはみじんもない。

「どうする? 5時限目。」

いたずらっぽく笑った高階に、梨花は、さっきの視線が勘違いかと思いなおす。

「今から行きます。もう、全然平気なんで。」

「そう。じゃあ、気を付けて。何かあったら、すぐに保健室に来るのよ。」

「わかりました。ありがとうございました。」

「榊先生にも、ちゃんとお礼言っておいた方がいいわよ。」

「そうします。」

教室に向かいながら、梨花は、高階が、榊のことが好きなのかなと、ちょっと思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ