7 そんなに出たいのか…
「宗主ってどんな人だったの?」
リカの質問に、キョウは、またかという顔をする。
「すごく優しい人だったと聞いている。」
「超能力が半端なかったんでしょ?」
「ああ。かなり強力な能力を持っていたらしい。」
「そのせいで、迫害されたのよね。」
キョウは、呆れたように、リカの顔を見る。
「お前、歴史、勉強しなかったのか?」
「したわよ。」
「でも、子ども向けの歴史じゃん。」
「子供向けって…」
「迫害された宗主は逃げることができたけど、一族のヒーラーが、何人か捕まって殺された。宗主は、とても悲しんで、一族を守るために、泣きながら、この城塞を作った…。」
「そういう一族だからな。俺達の先祖は。」
「外の連中は、何で、迫害するの?」
キョウは、少し寂しそうに笑った。
「人は、自分に理解できないものや、自分の常識からはずれたこと対して、恐怖を覚えるものらしい。恐怖だけは、どうしようもない。自分より数段の高い能力を持つものを無条件に信頼するのも簡単なことじゃない。」
「常識枠が狭すぎるんじゃん。」
「その通りだが、恐怖を克服するのは、理解しかない。生きていくのに必死な時代に、理解する余裕を持つのは…」
「難しい? もう、何世代たってると思ってんのよ!」
「…。」
「ソーたちはともかく、私には、そんな能力ないし…。」
「お前だけの問題じゃないんだぞ。」
「わかってるわよ。でも、私は、ここから出たいのよ!!」
キョウは、慌ててリカの口を押えた。
「馬鹿! いいかげんにしろ。死にたいのか?」
「うぐっ。」
リカの口を押えたまま、近くに人がいないか確認する。
誰もいないことがわかって、ようやくキョウは、リカの口から手を離した。
「戒律は戒律だ。ここから出ることは死罪だ。時代錯誤だろうが、今はまだ戒律が生きている。」
「言われなくても、わかってるわよ。」
リカの目には涙が浮かんでいる。
「リカ…。」
キョウが声をかけるが、涙が乾かないうちは、キョウの顔を見たくなかった。
そっぽを向くリカに、キョウは、静かな声で言った。
「そんなに出たいのか…。」
今朝の夢の話をすると、凛は、感心したように、大きく息を吐いた。
「ドラマじゃーん?」
梨花は、二人に流れる絆のようなものを感じていた。
「この時のリカとキョウは、信頼し合っていたような気がする。」
兄妹と言っていいような雰囲気だったが、兄妹でないなら、幼馴染じゃないかなと推測する。
そんな、言葉の裏にあるものを全てわかっているかのような強い絆を感じた。
リカがキョウを殺す前の話だ。
「キョウの裏切りで、リカはキョウを殺したんだけど、この時点では、そんなきざしは全くないのよね。」
少なくとも、この時点で、リカは、キョウに殺意などみじんも持っていなかった。
むしろ…
「ねえ、榊と話をしてみない?」
凛は、楽しいことを思いついたような顔をして、梨花の顔を覗き込んだ。
「先生と?」
梨花は、榊の様子を思い浮かべてみる。
「懐かしいって言ったのは、絶対意味があると思うよ。」
「うーん。」
「榊が、同じような夢見てるかどうかだけでも、確認してみたら?」
「そんなことあるわけないじゃん。」
正直、凛だから、この話をした。
他の誰かに、この話をしようとは思ってはいなかった。
それが、夢の中では深い因縁のありそうなキョウと同じ顔の榊でもだ。
「絶対、榊と話をしてみた方がいいと思うけどなー。」
のらない梨花に、凛が、残念そうに、つぶやいた。