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ソウルメイト  作者: K
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4 何も考えられない

リカは、倒れた彼を見て、錯乱した。

恐ろしいほどの後悔が襲ってくる。

全身の血が逆流しているかのようだ。

パニックになり、彼を貫いた剣が目に入ると、彼を傷つけているその剣を、思い切って身体から引き抜く。

自分が刺したくせに、この状態を引き起こしたのはこの剣のせいだと言わんばかりに、その血にまみれた剣を投げ捨てる。

何も考えられない。

考えたくない。

刺した剣を抜くことが、彼にとって、どんな状態を引き起こすかということも考えられない。

ただ、彼の身体に彼を傷つけた剣が刺さったままになっているということが許せなかった。

彼が痛みを感じたままの状態でほおっておくことが耐えられなかった。

血があふれ、床にまで流れ出ている。

「こんなに血が…。」

倒れて、ピクリとも動かない彼を引き揚げ、壁に背をつけ、何とか座らせてみる。

けれども、彼は、ぐったりしたまま、ピクリともしない。

必死で、リカは、彼をかかえあげようとしていた。

何とかしなくちゃ。

何とか…。

リカの心の中はそれだけだった。

誰か、お願い、助けて…。

声にならない叫び声をあげながら、リカは必死だった。

だらりと、力の入らない彼の腕の自分の肩に回し、立ち上がろうとするリカだったが、所詮、成人男子の身体を、さして大柄でもないリカの力で支えることなど不可能だった。

何度も何度も起こそうとするが、彼の身体は持ち上がらない。

誰か、誰か…

その時、

「リカ!」

リカを呼ぶ声に振り向くと、そこにタクミが立っていた。

タクミは、血だらけのこの惨状を見て愕然とする。

「やられたのか?」

「私が刺した。」

「え?」

「キョウが裏切った。」



一瞬、ここがどこなのか、日常の記憶を呼び起こさなければならないのは、毎度のことだ。

そして、いつものように、そこが自宅のベッドの上であることを確認して、ホッとする。

榊を刺し殺したあとの梨花を襲った感情には、梨花自身が驚いていた。

死ぬ直前の榊への冷たい態度は何だったのか?

梨花を襲ったのは、恐ろしいほどの後悔の念だったのだ。

殺してしまったあと、梨花は、そのことを後悔していた。

このリアルすぎる夢は、少しずつ話が進んでいる。

夢の中のリカを通して3Dのテレビをみているようだが、その時のリカの心情やリカの記憶を現実の梨花は、はっきり覚えている。

夢の中のリカは、今の梨花自身ではないが、全てにすっかり同調していた。

そう、夢のリカは、今の梨花自身ではない。

だとすれば、リカがキョウだと呼んだ榊も、今、目の前の教壇に座っている榊恭平自身ではないのかもしれない。

夢の中で、いきなり現れたタクミも、今までの人生の中で、梨花が、出会った記憶はない。

綺麗な顔をしていた。

あんな綺麗な顔なら、一度見たら忘れられないはず。

けれども、夢の中のリカは、初めて見るタクミが、仲間だということを認識していた。

あの世界はどこなんだろう?

背景まで意識したことはなかったが、現代とは違うような気がする。

リカも、タクミもそして、キョウも、当たり前のように剣を持っていた。

彼等は、日本語を話して、日本の名前を持っていたが、持っていた剣は、日本刀ではない。

むしろ、西洋の騎士が持つような…。

そう言えば、建物も、木造りではない。

イメージ的には、中世のヨーロッパの石づくりの大きな城塞のような雰囲気があった。

その中の市街地の路地にリカたちはいた。

道は狭くてゴチャゴチャしてる。

真っ直ぐな道はなくて、脇道が多く、アップダウンも多い。

どこ?

自分が今まで学んだ世界史、日本史の中で、そういう材料に全て当てはまる環境はない。

だったら、未来?

大規模な環境破壊がおこり、あんな場所に避難した?

それにしては武器も建物も道もレトロだった。

今回の夢でわかったことは、二つある。

一つは、リカが榊の顔をしたキョウを殺して、死ぬほど後悔していたこと。

この時の気持ちは、梨花は二度と味わいたいとは思わない。

リカに同化している梨花だったが、吐き気がするほどの、恐ろしい後悔を、梨花は、生まれてはじめて経験した。

道を歩いていて、いきなりマンホールに吸い込まれて落ちてしまったような、どうしようもないという自覚と絶望感。それは、このまま殺してほしいと思えるほどの、大きな激情だった。

もう一つは、リカがキョウを殺した理由だ。

キョウは、リカを裏切ったのだ。

リカが殺したあとあんなに後悔したキョウは、そんなリカが殺さなければならないようなことをしでかしたのだ。



トンと肘をつかれて、梨花は振り返る。

隣の席の凛が、小さな声で注意する。

「梨花、榊、睨み過ぎ。」

そう、今は、生物の小テスト中。

梨花は、榊の顔を見ながら、夢の中の話の推理をしていたのだった。

あわてて、梨花が、教壇の榊を見ると、榊は、気まずそうに、こっちを見ていた。



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