表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルメイト  作者: K
2/19

2 どうして?

桜咲く今日は、始業式。

牧嶋梨花にとっては、3年最後の年になる。

2年の終わりの進路希望は、短大か専門学校か就職のいずれかの欄に丸をつけた。

大学進学組とは、もう道は重ならない。

先生とも家族とも話し合った。

奨学金を何件か借りるという手もあったが、それが苦にならないほど成績がいいわけではない。

経済的な問題で、梨花はこのクラスを選んだのだ。

最終的に就職を選んだら、この1年が最後の学校生活になる。

さして優秀でもない高校だが、一応進学校。

3年のクラスは、進路によって分かれている。

1組は、特進クラス。

2、3組は、国立進学クラス。

4、5組は、私立進学クラス

そして、6組が梨花が選んだ短大、専門学校、就職クラスだ。

「りっかー♡、今年も一緒よーん。」

後から抱き付いてきたのは、同じく短大、専門学校、就職希望クラスの里村凛。

同じ中学だったのだが、親しくなったのは、高校に入ってからだ。

体育の並びで、常に一番前を死守するくらい小柄で、おかっぱ頭の、目のくりくりした親友だ。

私立大学の進学希望のくせに、梨花が6組を希望すると聞いて、自分も6組にしてしまった変わり者でもある。

「6組は、進学するには不利な雰囲気だよ。」

と、凛には何度も忠告したが、

「真面目なのは3組までだって。あとはどこも一緒。」

だと、誰の意見も聞かなかった。

おかげで、1年楽しくなるけどねと梨花は、素直に喜んだ。

担任は、片桐百合子。中年の国語教師だ。お堅い性格で、融通はきかないが、梨花は別に嫌いじゃない。

クラス名簿を見ながら

「副担の榊って誰?」

と、凛が聞いてきたが、梨花もはじめて聞く名前だった。

その理由は、そのあとの始業式で判明する。

今回、始業式で、赴任の挨拶をした教師は二人。

一人は、保健室に常駐する高階柊子。そして、もう一人が6組の副担任、生物担当の榊恭平だった。

教師としては、まだ初々しい感じの榊は、目元が涼しげな端正な顔立ちの好青年で、クラスの女子が湧きたった。

凛が、梨花に親指を突き出す。

何となく、いい1年になりそうな予感がして、ウキウキした気分のままで、一日を終えたその夜のことだったのだ。



鋭利に研ぎあげられた剣が、嘘のように彼の身体を突き抜ける。

思い切り、彼の身体を刺した。

小さなうめき声を聞き、思わず離した手には、血がべっとりついている。

激しく出血している。

「どうして?」

それが、振り返った彼の、最初の言葉だった。

「わかってるはずよ。」

手が震えているのがわかった。

けれども、リカは、あえて、冷たい声で言った。

彼にこの冷たさが伝わるように。

伝えないといけない。

彼に、この怒りを。

けれども、語尾は震えている。

彼は、眉をしかめながら、弱く首を振る。

激痛が襲ってきたらしく、冷や汗が噴き出ている。

「何のことだ?」

その言葉は、怒りではなかった。

身体が大きく揺れ、支えるのが苦しい状態であるのがわかる。

「自分の胸に聞いてみる事ね。」

「何を言って…。」

「…。」

耐えきれず、膝をつく。

その姿を、見下ろすリカ。

彼は、苦しそうな表情で、リカを見上げた。

何か言いたげに唇を動かすが、最早言葉にはならない。

「…。」

そして、彼の目から急速に光が消えていく。

同時に、身体を支える力も抜け、彼は、静かに倒れていった。



ベッドから起き上がったリカは、汗をかいていた。

思わず見つめる両手には、血のあとはない。

けれども、その手には、さっきまで握っていた剣の感触が残っている。

暖かい血が、その手に滴った感触が残っている。

手が、震えていた。

「何で?」

何で、私が、あいつを…?

頭をかかえる。

梨花が、今、夢の中で殺した相手は、今日、赴任してきたばかりの新人教師、榊恭平だったからだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ