18 話をしているうちに見えてきた
喫茶店から榊が出ていくと、カウンターに座っていた男が、爽の前に座りこんできた。
「聞いてた?」
「うん。」
「珍しいよね。兄貴が、こんな話に興味持つなんて。」
「たまたま、暇だったからな。」
爽に兄貴と呼ばれた男は、爽に似たパーツを持ちながら、派手な印象を持つ綺麗な顔立ちをしていた。
「どう思った?」
「どうって?」
「彼は、僕を見た時、懐かしいって言ったんだ。」
「それが?」
「彼は、全ての記憶を落としてきてるわけじゃないんだ。」
「?」
「彼は、何故、自分がここにいるのか、疑問を持ったはずなんだ。けれども、今回は、その疑問に触れるのを止めた。」
「それは?」
「今は、そこに触れない方がいいと思ったからだ。」
「何で?」
「彼を、この世界に連れてきたのは、僕だ。」
「え?」
「正しくは、僕の前世のソーだ。」
「は?」
「今、榊さんと話しているうちに見えてきた。」
「びっくり人間ぞろいだな。」
「僕等は、結局、脱出には失敗した。全滅し、最後に死んだのが、ソーだった。ソーは、超能力者だった。彼は、自由を夢みた仲間と、自由のある場所に行けるよう強く祈って死んだんだ。その祈りに反応した魂が、僕と一緒に、この世界に来てる。」
「まさか?」
「そう、兄貴もだ。梨花さんが、夢に振り回されているとき、兄貴に会ったら、びっくりしたろうね。タクミがここにいるって。」
「マジかよ。」
爽の兄、巧は、楽しそうに声をあげた。
「でも、もう、リカの意識は、宿題を終えて昇華されつつある。今、兄貴と会っても、多分、気が付かないよ。シュウもそうだ。」
「そいつは残念。」
淡々と答える巧に、爽が笑う。
「あんまり、驚いた感じじゃないね?」
「今更だろ。」
爽は、笑いながら、榊が出て行った先を見る。
「僕にもわからないけど、この世界に生まれてきた理由があるなら、榊さんとは、また会うことになるよ。榊さんが、疑問をそのままにしたのは、今は時期じゃないと思ったからか、今後も必要ないと思ったからだ。でも、何だか、また、会いそうな気がするな。」
「そうか。」
「うん。彼を、この世界に連れてきたのは、僕なんだから。」