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ソウルメイト  作者: K
14/19

14 許すよ

梨花は、目を開けた。どうやら、榊から、ベッドにおろされて、そんなにたってないようだった。

「気分はどう?」

高階が、顔を覗き込む。

梨花は、思わず飛び起きた。

「どうして、あんなことしたの?!」

「え?」

驚く高階。

高階の後で、凛から生物の教材を受け取っていた榊も、驚いて梨花を顧みる。

「私に嘘をついた。貴女がスパイだったのね。シュウ!」

「牧嶋?」

榊が、梨花の剣幕に驚き、声をかけるが、梨花は、高階を睨み付ける。

「牧嶋さん、何を言ってるの?」

高階が、近寄ろうとすると、梨花は激しく拒絶した。

「死んでるキョウに驚いたのは何故? キョウの死体にとりすがって泣いてたのは、シュウでしょう? キョウが間諜なら、皆を守るために殺さなければならないのは当然のルール。どうして、あんなに驚いたの?」

高階は、2、3歩後ずさった。

「貴女は、リューの家に向かうはずだったキョウを、理由をつけて足止めしたんでしょう?

そして、伝令から、リューが殺されたという情報を聞いた後、キョウに、アイリが怪我をしてるから助けてって嘘の情報を伝えたのね。ヒーラーは、絶対に必要だから、捕まる前に連れてきてって。

そして、私がキョウを探すつもりなのを知ると、探し出さないよう、キョウをスパイだと偽った。私がキョウを探し出してしまったら、アイリが死んだことも、自分が嘘を言ったこともバレちゃうから。」

「…。」

「スパイは貴女だったのよね。リューが最初のターゲットになることを知っていた貴女は、キョウをその現場から遠ざけた。キョウが、遠い北の門まで行って、いないアイリを捜して、帰ってくるころには、西の門に集まる私達が片付いていると思ったんでしょう。」

凛は、驚いて口をパクパクさせている。

「た、高階も参加者?」

高階は、夢の中のシュウと同じように、きれいな顔を歪めた。

「よく考えれば、おかしいことはいっぱいあったのよ。シュウに何故一人かと聞かれたけど、伝令の順番からすると、シュウの方がアイリより先に情報が届いているはずなのに、シュウは一人も仲間を連れていなかった。キョウが長老の家に行ったのを目撃したことだって、確かにシュウの家は長老の家には近いけど、わざわざあんなところで、夜遅く、偶然目撃するのも、そのことを、怖くて誰にも話していないというのも、事の重大さを考えれば、おかしいことだらけだったのに…。」

高階は、怯えたように首を振る。

「貴女は、キョウだけを助けようとしたのね。」

「現実じゃないわ…。現実じゃ…。」

高階の言葉に、凛はぎょっとする。

「高階、話が通じてる?」

「どうしてなの? どうして、シュウは私をだまして、キョウを西から遠ざけたの?」

梨花は、激しく高階を罵った。

高階は、首を振りながら、苦しそうな声で答えた。

「好きだったから…。」

「高階?」

声をあげたのは、凛だった。

榊は、呆然と二人を見つめている。

「私は、間諜の家に育って、自分の使命以外の生き方を選ぶことはできなかった。でも、せめて、好きな人の命だけは、救いたかった。キョウに嘘の情報を伝えて、いないアイリを探す間に、西は片付くはずだった。私は、長老には、キョウの名前だけは、はずしていたから、キョウは助かるはずだったのに。キョウは、いるかいないかわからないリカを迎えに行くために、あそこまで引き返してた。じゃなきゃ、あんなとこにいるはずがない。本当なら、一番安全な場所にいたはずだったのに。」

高階は、叫んでいた。

叫びながら泣いていた。

「私だって、つらかったのよ。リカには、嘘をついた罪悪感を感じてた。だから、西の門が待ち伏せされてるって情報を伝えたのよ。待ち伏せがあることを知るだけで、もしかしたら、誰かが助かるかもしれないって…。私だって、板挟みになってどれだけ苦しんだか…、必死だったのよ。」

「これって、ホントにホントに前世じゃない? 榊?」

凛が、榊の隣で、榊を見上げる。

「?」

「一応、説明してあげるけど、二人が言ってるキョウって、先生の前世よ。…多分。」

「俺?」

榊が目をむく。

「先生の記憶は?」

凛の問いかけに、榊は、首を振る。

「俺に前世の記憶なんてないぞ。」

「梨花の夢の話、聞いたでしょ? 前世の梨花が、前世の先生を刺し殺しちゃったのよ。…多分。」

「ああ、このことか…。」

榊は、梨花から聞いた夢の内容が、この件だったと納得し、ホッとしかけて、事態がホッとする状況でないことに気がつく。

「梨花も高階も先生を殺したことで、言い争ってるのに、先生、ホントに思い出さないの?」

凛が、小さい声で榊を責める。

「俺が悪いのか?」

「そうじゃないけど…、でも、そしたら、どうやって、この状況に終始をつけるの?」

「俺に聞くか?」

梨花は泣いていた。

「私は、とんでもないことを…。」

梨花は、どんどん溢れてくる涙をぬぐうこともせず、ベッドから降りて、まっすぐ榊の元に向かってきた。

「梨花じゃ…ないよね? 前世のリカだよ。…多分。」

凛は、榊の袖をひっぱり、事態の認識を榊にうながす。

榊は、凛を見て、梨花を見て、数歩後ずさって壁にはりついた。

「…。」

梨花は、榊の前でピタリと止まる。

「近っ」

凛がつぶやく。

キスでもしそうな近すぎる距離に榊も戸惑う。

それでも、いつもの雰囲気じゃない梨花と視線をあわせた。

梨花は、まだ泣いていた。

「ごめんなさい。ずっと、ずっと後悔してた。キョウを殺してしまってから…。」

高階がハッと顔をあげる。

「ごめんなさい。貴方を疑って、貴方をスパイだと思い込んで、貴方を信じられなくて…。」

榊は、困ったように梨花を見つめる。

「リューが死んだと聞いて、怖くなった。アイリが、殺されるのを見て、普通じゃなくなっていた。覚悟なんてできてなかった。冷静に考えれば、誤解していたことも、もっといろんな対処を考えれたはずなのに、余裕がなくて、いっぱいいっぱいになってて、アイリを口実に、私達を囮にして、逃げるつもりだと、思い込んでしまった。」

「牧嶋…。」

「私は、どんなことがあっても、死んだという情報を聞かない限り、キョウを探すつもりだったのに、キョウは、私が西で死ぬことに何の躊躇もないんだと、勝手に貴方に絶望してしまった…」

「…。」

「貴方は、アイリを探す前に、私を心配して、私を探すために、あそこまで戻ってきていたのにね。」

「絶対、前世だ。」

誰も聞いていないが、凛がつぶやく。

「ごめんなさい。キョウ。私は、貴方に謝るために、貴方を追いかけてきたの。」

「…。」

梨花の瞳は、まっすぐ、榊にうったえている。

「本当にごめんなさい。大好きだったのに。」

「…。」

榊は言葉を失っている。

凛も、冗談ではない雰囲気は、しっかり感じ取っていた。

「許してくれなくても、しょうがないわよね。私、あんなに酷いことを…。」

目をそらし、再びあふれ出す涙をみて、榊は、あからさまに戸惑い、

「許さないも何も…。」

と、言いかけて、言葉を止めた。

凛が、じっと榊を見ている。

「許すよ。それで、君の気がすむなら…。」

榊は、そう言うと、伺うように、梨花の顔をのぞきこんだ。

グッジョブと、隣で凛が親指をつきだす。

梨花は、大人の女性のような、深く優しい笑みを浮かべた。

「ありがとう、キョウ。」


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