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ソウルメイト  作者: K
12/19

12 考えるな

タクミは、自分が引き連れていた仲間たちに、先に行けと指示をし、リカに近づいた。

「リカ…。」

タクミは、痛ましそうにリカを見て、リカからゆっくりキョウの身体を引き離した。

ぐったりと横たわるキョウの身体を調べ、死んでいることを確認する。

「リカ、もう死んでいる。」

タクミは、呆然としているリカの頭を軽く自分の胸におしあてた。

そこで、リカは初めて、自分の顔が涙でぐしゃぐしゃになっていることに気が付いた。

自分の涙とキョウの血で、タクミの服がひどいことになっていたが、タクミは頓着しなかった。

「落ち着け。キョウは、ここへ置いて行く。」

「…。」

リカは、錯乱していた。

キョウの身体を、どこかへ連れて行こうとしていた。

どこかへ連れて行けば、このつらい状況が何とかなるんじゃないかと、焦燥感にかられて、必死で自分をその辛さから逃してくれるどこかへ連れて行こうとしていた。

治せるものなら治して、生き返るものなら生き返して欲しかった。

そんなこと、できるはずがないのに。

キョウは、タクミの親友だった。

タクミの衝撃も大きいはずだったが、タクミも、リカも、感傷に浸る余裕はなかった。

「もうすぐ朝になる。それまでに、長老たちも片をつけたいはずだ。俺達も、それまでが勝負だ。」

「…。」

リカは、涙をぬぐった。

受け止めないといけない。

現実から逃げてはいけない。

前に、先に進まなければ、何の為にキョウを殺したのかわからない。

リカは、タクミの目をキッと見た。

リカの覚悟が定まったことを知り、タクミは安心したように、少し口角をあげた。

「ひとつ確認しておく。何故、キョウが裏切ったと思った?」

リカは、涙で震える声を、気力で押さえた。

「キョウは、リューとカズと一緒に脱出のルートについて相談する約束をしてたのに、その時間、長老の家に行っていた。」

「長老の家に?」

「長老の家から出るところを、シュウが目撃してる。」

「シュウが?」

「シュウは、そのあとの長老の様子を伺っていたらしいの。そうしたら、憲兵が現れ、二つに分かれたらしいわ。一つは、リューの家の方に、もう一つは西の門の方へ。」

「西の門?」

「そのあとで、リューが殺されたことを聞いたシュウは、キョウが裏切ったんじゃないかと思ったけど、怖くて、誰にも言えなかったって。」

「怖くて?」

タクミが、リカを睨んだ。

リカが睨まれる筋合いはないが、シュウはここにはいないのだ。

「西の門は、きっと待ち伏せされてるわ。」

タクミの眉がピクリとはねた。

「だけど、キョウは、私に、西の門に行けと言ったのよ。自分は、怪我をしたアイリを助けるために、引き返すって。」

「?」

「私は、アイリが死ぬとこを、この目で見たのに…。」

「アイリが?」

タクミが、息をのんだ。

アイリを失うこともつらいが、ヒーラーを失ったという事実も、タクミ達にとっては大きな痛手だった。

リカが、必死で耐えてる感情が、震える声になる。

「キョウは、自分だけが助かって、私達を壊滅させようと…。私を、私を…。」

「…。」

涙が零れ落ちそうになるのを振り払い、リカは、タクミを見た。

「西の門は、待ち伏せされてる。キョウは、こういう時に西の門に集合することを知ってたのよね?」

「…。」

「待ち伏せされてても、私達は、西からしか出られない。仲間も皆、西に向かって集まっている。西に行くしかないんでしょう? 集まってくる仲間をどうするつもり?」

「…。」

「西を突破する手段は、考えてるの?」

タクミは、リカを見下ろして、少し笑った・

「想定してなかったわけじゃない…。」

「じゃあ…。」

「かと言って、推奨できるプランでもないが…。」

「え?」

「とにかく、西に急ごう。俺が殺されるわけにはいかなくなった。」

その時、人の足音が聞こえてきた。

急いで、物陰に潜むリカとタクミ。

足音は一人。

仲間か?と物陰から様子を見ようとしたとたん

「きゃああ。」

あたりをつんざく悲鳴が聞こえた。

あの悲鳴は?

「キョウ!どうしたの?どうして死んでるの?どうして、貴方が死んでるの?」

キョウの死体に縋りつく女の声。

あの声は?

「リカ、来い。」

タクミがリカの腕をひいた。

何も言わず、走るタクミのあとを、必死でリカは追いかける。

必死でタクミについていくが、タクミはスピードを緩めない。

ついに、リカが足をもつれさせて、転げてしまう。

ようやく、タクミが気が付いたように、リカのもとに引き返してきた。

タクミの様子がおかしい。

倒れたリカの手を取り、起き上がる手助けをしながら、タクミは、リカと視線をあわさない。

そして、リカも、何か説明のつかない違和感を今、心に感じていた。

これは何?

何?

気分の悪いこの状態は、いったい何なの?

この激しい違和感は一体?

だけど、考えたくない。

このことを、深く考えたくない。

けれども、ますます激しくなるこの焦燥感。

タクミは、リカを助け起こすと、そのまま、また黙って進もうとしている。

「タクミ。」

タクミを呼ぶが、タクミは振り向かない。

「タクミ、おかしい。何かおかしい…。」

「考えるな。」

タクミは、振り返りもせず、それだけを言い放つ。

「今は、何も考えるな。」

「どういうこと?何か、ひっかかる。おかしい。」

「考えるなと言ってる。」

その言葉を聞いたとたん、リカの血がざわざわと騒ぎ出した。

おかしい。絶対おかしい。何かが間違っている。

何か、大事なことが…。

「タクミ…無理。」

心臓がバクバクなっている。

呼吸が極端に浅くなる。

汗が噴き出してくる。

何かに気が付いた自分がいる。

同時に、気が付かないでいたい自分がいる。

タクミが、哀れむように、リカをみた。


起き上がった梨花は、胸に強烈な痛みを感じた。

本当に痛い。

締め付けられるように痛い。

夢から醒めてもなお、梨花は、苦しくて、苦しくて、吐き気さえしてきた。

考えたくない。

夢からさめてもなお考えたくない。

タクミは何て言った?

何て言ったの?

思い出したくない。

思い出したくないけど、大事なことだった。


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