11 キョウは嘘をついていた
「リカ!!」
聞き覚えのある声がして振り返ると、キョウだった。
「良かった。家をのぞいたら、いなかったから…。」
ホッとしたように笑顔を見せるキョウとは対照的に、リカの声は暗かった。
「キョウ…。」
「会えて良かった。リューが殺されたことは知ってるか?」
「知ってる。」
「西の門に集まることになっている。このことは、聞いてるか?」
「聞いてる。」
「大丈夫か?」
キョウは、リカの様子がおかしいことに気づいたようだった。
「覚悟はしてたろ? 悲しんでる暇はないぞ。しっかりしろ。」
「西に向かう?」
「ああ。どれだけ情報が漏れてるかはわからないが、ここから抜け出すとしたら、西からしか手がない。仲間も集まってきているはずだ。」
「そうだね。」
キョウは、リカの両肩に手をおいて、リカの顔をまっすぐに見た。
「本当に、しっかりしろ。一緒についていってやりたいが、俺は、引き返して、アイリを連れてこなければならない。」
「アイリ?」
「北の門で怪我をして助けを待ってるんだ。俺が行くまでに、少しでも治っていたらいいが…。」
「アイリが待ってる?」
「そうだ。」
リカは、キョウを絶望的な目で見た。
「ヒーラーは俺達には絶対必要だ。リカは、気をつけて西に向かえ。誰かが向かってるはずだ。合流するんだ。あとで、必ず追いかける。」
「キョウ…。」
キョウは、リカに背を向け、通路に憲兵がいないことを確かめる。
その無防備な背中に向けて、リカは、剣をふりかざした。
「ええー!!」
凛の声が廊下に響く。
慌てて、梨花が凛の口を押えた。
「榊を殺す夢だって言っちゃったの?」
「うん。」
「で、榊は何て?」
「ショックを受けてるみたいだった。」
「そりゃそうでしょうよ。いくら天然でも、自分を殺す夢を見るって言われて平気な奴ってそんなにいないと思うよ。」
「うーん。」
言ったあと後悔したのは、確かだけど、嘘を言ったわけじゃない。
もっとも、殺したのは、榊じゃなくてキョウなんだけど…。
「ちゃんと説明した方がいいんじゃない?」
「うん。そう思う。」
そう思うが、それどころでもない。
リカがキョウを刺す直前の夢を観た。
リカの様子はあきらかにおかしかった。
あの時の心の中を思い出そうとするが、混乱しかない。
混乱、そして絶望。
アイリを連れてくるとキョウは言った。
けど、アイリは、リカが、死んだところを目撃したんじゃなかったか?
リューが死んで、アイリがリカを迎えにきて、アイリが死んで、そしてキョウに会って、タクミに会って…。
夢の中の時間経過を整理してみる。
アイリが死んで、そのあとにキョウに会っている。そして、キョウを殺してタクミに会った…。
やっぱり…。
梨花は溜息をついた。
キョウは嘘をついていた。