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1 はじまり
重く鈍い感触が手に伝わった。
見上げると、驚いた顔がこちらを向いている。
「どうして?」
掠れた声は、痛みより戸惑いが大きいことを伝えている。
声が交錯するが、何を言っているのかわからない。
けれども、彼の白いシャツは、見る間に鮮血に染まっていく。
蒼白になる彼の表情は、徐々に苦痛の色を濃くして、身体は、バランスを欠き、ゆっくり崩れ落ちて行った。
「!!」
梨花は、飛び起きた。
「え?」
一瞬、違和感を覚えてめまいを感じる。
ここは…?
自宅のベッドの上だった。
両手を見る。
鮮血で真っ赤になっていた両手には、血などついていない。
けれども、梨花にはあの感触が残っていた。
彼の背中から、剣を突き刺すあの感触だ。
生々しくリアルだった。
そして、驚いた彼の顔。
どうして? と聞く彼。
私の方が聞きたい。
何で、私があの男を刺し殺さないといけないわけ?