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ワイルド・ヒースはほっとけない!  作者: 朝顔
一章 百聞は一見にしかず。
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2話 大人になったらなにになる?

うちの一人息子は本当に外へ出ない。

6歳になった時、初学に通わせようとしても試験にすら行ってくれなかった。

仕方がないので家庭教師をつけたのだが、これがひどく合わなかったようで、人前にすら出なくなった。

幸い勉強は好きで飲み込みも良かった。すすんで本を読ませ、字を覚えさせ、仕事の合間をみて計算やらを教えた。

10歳になってようやく自分の意思で外に出た息子は、こちらの驚愕をよそに持たされた弁当を食べている。

若干中身がよれているが今はそんなことはどうでも良い。

「ワイズ、珍しいな。散歩か?」

息子は目線だけでこちらを見ると首を横に振った。そして口の中のものをゆっくり呑んでから応える。

「いいえ。今日家の本を全部読んでしまってすることがないので、父さんに借りてきてもらおうと思って。」

「ああ、図書館に行きたいのか。」

前々から本の虫だとは思っていたが、外に出ない理由と出る理由が本とは恐れ入った。

「じゃあ帰りに一緒に行こうか。それまで他の子と遊んで待ってな。」

「え?…いや、もう帰ります。図書館は遠いでしょう?父さんに代わりに行ってきてください。」

あまりにきょとんとした顔で言うので、思わず頭を抱えたくなる。

新しい本を読みたいが買うには高い、図書館は遠いというわけで近場の療治院に来たわけか。分からんでもないがしかし、このタイミングを逃せば次にいつ外出する気になるか分かったものでない。

「なあ、正直お前も日中暇だろう?学校に行く気はないのか?」

「興味はないです。行かない人も多いみたいだし、お金もかかるじゃないですか。もったいないです。」

「あー…じゃあ大人になったらやりたい事とかは?いまから動いておかないと損するぞ。」

就学に関しては取りつく島もなかったのに、これに関しては少し悩むような間があった。

「意味がよくわからないです。いままで通り母さんの手伝いして、家を継ぎますよ。だいたい必要な調合は覚えましたし。」

どうやら将来的にも家に篭って暮らす予定らしい。

今日みたいに何か用があれば出歩くかもしれないが、基本的には奥で調合だけしていたいのだろう。

自分達が居るうちはこれでいいかもしれないが、どう考えても近いうちに困る事になる。

「そうか。ワイズは調剤師になりたいんだな?」

「まあ、父さんの仕事もいいですが往診があるし。俺は調剤師の方が合ってるかと。」

頭だけはいいはずの息子の、あまりにも狭い選択肢のなかでやりたくない方を落とすという結論に、ようやく決意が決まった。

「なら、調剤師になってみようか。」

笑顔で言うと怪訝そうな顔を向けてくる。

疑問が口をついて出る前に、小さな身体が前に傾いて、そのまま地面に崩れる。

まさか自分の子に睡眠薬を打つ日がくるとは思わなかった。

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