表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

男嫌いな私の処方せん

作者: まなつ

男嫌いの私がよりによって、こんなことをさせられる羽目になるなんて……。

 私はため息をつきながら、自分の席でスマホをいじっていた。

 友達の美里から、勧められた恋愛シュミレーションゲームは、男嫌いだった主人公がひょんなことからクラスメイトの男の子と暮らすことになり、あたふたしているうちに二人の間に恋が芽生えるという、現実にはありそうもない話だった。

 主人公が私と似ているというだけで、また美里が私をからかっているに違いない。

 私は再びため息をついた。


 それは、桜が舞っていた、4月初め。始業式。

「……12…13…14。ハァー。」

 掲示板に張り出されたクラス名簿を見ながら、何度も何度も男子生徒の名前を数えてはため息をつく。

「由紀子!」

 後ろから抱きつかれた私は思わず、飛び上がった。

「……ちょっと美里。やめてよね。」

「男漁りに夢中になってるからだよ。」

 反省をするどころか、私をからかうように言うと、美里は掲示板に張られた名簿の中から、自分の名前を探し始めた。

「男漁りなんかしてないよ。ただ、同じクラスに男の子が何人いるのかなって……気になっただけだし。」

 自分の名前を見つけ、振り返る美里は「やっぱり漁ってんじゃん。」と、私をからかいながらも、やけに満足げに微笑んだ。

「おめでとう。また同じクラス。」

 ニカッと白い歯を見せて笑う美里に、私もつられて笑顔になった。美里は幼稚園から一緒にいる幼馴染だ。からかってばかりいるけど、いざという時には、いつも私を守ってくれていた。

「それと、二宮くんと同じクラス。」

「二宮くん?」

 美里は呆れたように頭を抱えた。私は少しリアクションがオーバーすぎるだろうとムッとしたが、すかさず美里が口を開く。

「由紀子ってば、さっきあんなに掲示板とにらめっこしてたじゃない。」

「数、数えてただけだもん。」

「一緒になるクラスメートの名前ぐらい見ときなよ? ホント、由紀子って男嫌いなんだから。」

 美里はそういうと、私の手を引いて三年四組の教室へと向かう。

 私は、母と2人暮らしだし、生まれてこのかた、男の人とまともに口をきいたことはないかもしれない。 

「そーいえば、誰なの? 二宮くんって。」

「あら、珍しい。由紀子が男子に興味持つなんて。」

 からかう美里に、私は顔を赤くした。

「そ、そんなんじゃないよ!」


 教室に向かう途中、美里がブレザーのポケットからスマホを取り出した。

 「歩きながらじゃ危ないよ。」

 私の忠告など聞かず、手慣れた手つきで画面を操作する手がしばらくして止まった。

「男嫌いの由紀子に朗報。」

 そう言って立ち止まり、私にさっきまで自分が操作していたスマホの画面を突き出した。

「なに?」

 急なことに戸惑いながらも、私はスマホに顔を近づけた。

「恋愛シュミレーション、男嫌いな私の処方せん……!?」

「ね? 由紀子にピッタリ。」

 美里はまたからかったような笑みを浮かべる。スマホをポケットに直すと私を諭すように、私の両肩に手を置いた。

「高校最後の春なんだよ。ガツンと行こうぜ、ガツンと。」

 呆れる私を置いて、美里は歩き出した。

「ガツンとって……。」

「知らないの? 春は恋の季節じゃん。」


 そんな恋の季節もすっかり終わり、もうすぐ夏が来る。

 私は相変わらずだった。

 たかだかゲームひとつで、変わるとも思っていない。最初から期待なんてしていなかった。

 私はまた、ため息をついた。

「なに、ため息ついてるの?」

 そんな私に一人のクラスメートの男の子が声を掛けてきた。

 二宮くんだ。始業式の日、美里が言っていた男の子。席は離れているが、成績優秀、スポーツ万能な彼はどこにいても目立っていた。

 ちょうどスマホの画面は、男の子が頬を染め、主人公に告白しているシーンで止まっている。

 これを、男の子に見られるのは恥ずかしい気がした。

「なに、してんの?」

 二宮くんは私のスマホを覗き込もうと首をかしげる。実際は覗き込む真似をしただけのようだったが、私は慌てた。

 画面をロックしようとした手が滑り、スマホを落としてしまう。

 幸い、スマホは画面を下にして、床に転がっている。でも、これを相手に拾われるわけにはいかない。私は慌てて椅子から立ち上がり、その場にしゃがんだ。

 スマホを取ろうと伸ばした手に、二宮くんの手が重なった。本屋さんであるような展開に、免疫のない私は、顔を真っ赤にし、すぐさま手を引っ込めた。

「ご、ごめんなさい……! に、二宮くん。」

「こっちこそ。」

 優しく笑う二宮くんは、少し照れたように頭をかいた。

「はじめて名前呼ばれた。」


 私の心の中で、ずっと閉ざしていた扉の鍵が開く音がした――――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ