襲撃 1
✳︎✳︎✳︎
広大な森を抜けた先には、延々と伸びる一本道が続いていた。世界で一番長いことで有名な《セントリーヌ横断道》、その始発点だ。
それを見た瞬間、隣でリアが小さく「うへぇ」と呟くのが聞こえた。無理もない。この道は遥か40キロメートル続き、ようやく街に辿り着くのだ。それだけでは飽き足らず、街を抜け、その道は果てしなく遠くまで伸びる。その道を終着点まで歩いた更にその先にシャファルは行かなくてはならないのだ。
道のことぐらいは知っているのだろう、とリアの方を振り向くと、案の定リアは驚愕の表情で。
「この道…どこまで続いてるんですか?」
…まさかとは思っていたが、横断道のことも知らなかったらしい。呆れて物も言えず、シャファルは無視して横断道へと足を踏み出した。
シャファルひとりなら、たいして時間もかけずに40キロ先の小さな農村・ビューロ村まで行けただろう。しかし今、隣には大して体力もない少女が一緒ときている。どう考えても、日が暮れる前に村に辿り着くことはできないだろう。かといって、獰猛な竜型呪霊の彷徨く暗い森の中で一夜を明かせるわけもない。この道の途中で野宿、というのが最も安全な策なのは疑いようがなかった。
あと数十分もすれば、完全に陽が落ちる。既にかなり暗くなっている今、これ以上進むべきではない。そう判断したシャファルは横断道から少し離れた野原で、背負っていた巨大なカバンを下ろした。
その行動の意味を察したのか、リアが恐る恐る尋ねた。
「まさか…ここで野宿、なわけないですよね?」
語尾の震え方から、「否定してほしい」と言っているのは明らかだった。しかしその希望を汲んで意味のない嘘を言うほど、シャファルは馬鹿ではない。
「そうだ」
短く肯定してから、シャファルは黙々とテントを張り始めた。
「あえてこんな場所で…? さっきのおっきい道の方じゃ駄目なんですか?」
「ここらは夜になると盗賊が現れるからな。見晴らしがいい方が撃退しやすい」
顔をしかめてから、リアは手伝おうとしたのか、こちらに数歩近寄り、途端にパッと飛び退いた。
「ひっ!」
「なんだ?」
「い、今の、サソリ…!?」
「ああ、ここらにはクササソリが生息してるから。猛毒をもってるが、こちらから何かをしなかったら何もしてこない。無視しろ」
「そ、そんなこと言われても…」
「サソリか盗賊、どっちが嫌だ」
「両方!」
溜め息を呑み込んでから、シャファルはテント張りを再開した。
まったく、思っていた以上に重い荷物を抱え込んでしまった。