暗闇の中で
暗雲が西巻市の上空へと立ち込めている。強い雨が街へと降り注ぎ、いつもの騒がしい道路から人々の喧騒を屋内へと押しのける。住宅街からは、人々の笑う声、子供泣き叫ぶ声、母が赤ん坊をあやす声が聞こえてくる。その中のほんのわずかであるが怒声が混じっている。しかし、そのいずれもは結局未だ生きている人々の証拠を示しているに他ならない。
うってかわり、住宅街からはずれた古びたアパートの窓からは、死人の血なまぐさい匂いがわずかに漏れ出ている。その匂いも、ほどなくして雨の匂いによりそれは消し去られる。時折鳴り響く雷がカーテンも閉められていない窓辺を照らす。静寂に包まれた部屋の奥から、衣擦れの音が聞こえてくる。やがて、その音も、より一層吹き付けた雨の音により消し去られてしまう。
衣擦れの音の主が居間の奥で佇んでいる。男は決心したようにひも付きの鈴を握り締め、ひもを重力に従わせてぶらりと垂れ下げ、静かにその音を鳴らす。対面に座っていた少女がゆっくりと目を開ける。
ストーリーの筋は変えませんが、表現はもっと上手く変えられたらなと思っています。全面的に改訂する予定。