表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

オッサニア・オンライン(下)

 それから一カ月。

 かなり急なサービス停止の通知が行われてから、プレイヤーはどんどん減って行った。

 けれど、ゲームの中で仲の良い友人を作った者達や、最後の一瞬まで高みを目指す者たちは残り続けた。

 通知から一カ月後の今日がラストイベント。

 『滅びの竜襲撃イベント』によって、長い時間を掛けて作り上げたギルドハウスが一撃で粉砕される。 破壊禁止オブジェクトのはずの建物も、今日は属性を外されているのかドンドン壊れていく。

 仲間たちがカードで召喚したHP2000の炎の魔法剣士サブや、HP2300の白銀の騎士ワカガシラーがまたたく間につぶされる。

 滅びの竜の姿には、500000という絶望的なHPが刻まれていた。


 『宇宙ヤクザ・ファンタジー』は、様々なミッションでお金を稼ぎ、武器や薬品を売買したりもするが、アバター自体はステータスを持たない。

 ガチャガチャやミッションの報酬で手に入るカードが攻撃力やヒットポイントといった数字を持っている。

 召喚したカードのユニットが攻撃をすると反撃を受ける。自分の攻撃力の分、相手のHPを減らし、相手の攻撃力の分こちらのHPが減る。それだけのゲームだ。

 なんどもミッションを繰り返し、新しいカードを手に入れては合成し育ててきた仲間たちの、最強のカードがゴミクズにされていく。


「みんな負けちゃうよ! 誰かもっと強いカード持ってる人いないのっ!」


 ギルドマスターの少女が叫ぶ。彼女のカードはもう全て使い果たしていた。


「【後の無いテッポーダマン】に【魔法の薬】使ってもダメージが100しか行かない。どんな攻撃力があっても与えるダメージは同じなのかも」

「そんなの勝てないじゃん!」

「攻撃無効化の【伯父貴の守り】つけたのにサブが一撃で死んだんだ。滅びの竜の攻撃は防御出来ないのかもしれない」

「ずるいよっ! そんなの!」


 冷静なギルドメンバーの少年が、様々なカードをぶつけて滅びの竜の能力を確かめるが、結果はどうあがいても倒す方法が無いと言う事だけ。

 公式HPにも、運営からのメッセージにもなかったが、ラストバトルで滅びの竜を倒せばゲームが終わるのを防げると言う噂が子供たちに流れていた。サービス停止が通達されてから、大勢の子どもたちが最後の闘いの為に夢中でカードを強化したのはその為だった。

 それも全て無駄に終わる。

 子供達の目から光が消えていく。

 もう終わりって言ったでしょとゲーム機の電源を抜かれた時。やろうとしていた時に宿題やりなさいと言われてやる気をなくした時、大事にしまっておいたガラクタを捨てられた時、カブトムシの居る部屋にバルサン焚かれた時。

 それらの時と同じだった。無力な自分達は何もできない。大人の横暴に全て壊される。


「誰か……助けてよ!」


 少女の叫びが電子の海を越えて響き渡った時。


 そこに現れたのは光の英雄ではなかった。ウルトラレアのキングクミチョーでも無かった。

 世界間接続ゲートから光を纏って現れたのは、ハゲ散らかした頭を脂でテカテカと光らせた、貧層なおっさん。

 着古したスーツの袖のあたりはつるつるになっており、ネクタイも毛玉だらけ。そんな嫌な所まで再現された貧相極まりないおっさんが、手に持った野球のバットを滅亡の龍に叩きつける。


 100


 小さなダメージだった。そして滅びの竜の反撃を喰らっておっさんは消える。二度と復活は出来ない。


 けれどおっさんは一人では無かった。光の輪を通り抜けて次々と現れるおっさんたちは、何かを守る決意で瞳を光らせていた。


 1人のおっさんが走りだし、割れたビール瓶で滅亡の龍に殴りかかる。


 10人のおっさんが力を込めて、割り箸を滅亡の龍に突き刺す。


 100人のおっさんが宙を舞い、焼き鳥の串を無数に射出し、


 1000人のおっさんが全身から闘気光を噴き上げて枝豆のさやを叩きつける。


 その手に聖剣はないけれど、死んだらアカウントごと抹消される攻撃の前に一歩も引かない姿に、子供たちは英雄の姿を幻視した。


 一人のおっさんが一瞬立ち止まる。「誰にだって、逃げ場所が必要なんだよな」


 少女は一人のおっさんに見覚えのあるしるしを見た。

 姿は同じ無料アバターだけど、父の日限定の有料装備の一つ『サッカーボール柄のネクタイ』をつけているアバターがいたのだ。

 同じアイテムは数千とあるはずだが、彼女は確かにそのアバターを父親だと確信した。頭の辺りが似てるし。


「とうさん!」


 数十人のおっさんアバターが一斉に振り返る。

 その中のただ一人を見つめながら、その全てのアバターに叫んだ。


「ありがとう」


 その一言で救われたような気がした男達の背にさらに応援の言葉(バフ)がかけれる。


「パパ頑張れ!」「父さん」「負けるなー!」


 魔法の言葉だった。その言葉があれば父親は無敵になるのだ。

 そして無敵の英雄はゴルフクラブを振るい、バグか魔法かはわからないが一つの奇跡を起こした。


 101


 それだけだったが。


 父さんと呼んだおっさんが滅びの竜の振るうドスの錆に消えると、もうおっさんたちは現れなかった。全て居なくなったのだ。


 けれど、英雄が死に絶えたわけではない。子供たちは気が付いていた。

 誰かを守って戦う姿のかっこよさを。輝く鎧や魔法の剣が無くてもその姿は英雄だと言う事を。


 続け!俺達も、俺達も英雄になるんだ!

 彼らは竜に立ち向かい、散っていった。


 彼らは誰も楽園を失いはしなかった。

 逃げるのではなく、カードの英雄を戦わせるのでもなく。今度は自分自身が戦う事でカッコいい英雄になれると知ったから。


 いつかあんなかっこい大人(おっさん)になるんだ!



 なっちゃだめだぞ子供たち。

別にMMOの運営に文句があるわけでも、おっさんが好き過ぎるわけでもありません。

ただこんなゲームあったら面白いなって思ったネタを広げただけです。

○ゲてる人、すいません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ