八等級勇者め、この世界の真の恐ろしさを思い知れ!「何それ!?シリーズタイトルなんですか!?」
星空上の大戦争
この話は、恒星や太陽系の惑星を題材にした話です。多分。
物語を始める前に、まずは用語説明。
視等級:地球から見た、恒星の明るさ。値が小さいほど明るい。
どうやらこの世界では視等級の値で強さが決まるようです。
恒星階級:元もとの恒星の見かけの明るさで決まる、この小説のキャラクターの強さ及び偉さ。
そんな感じですかね。
では、超長いので覚悟してくださいね。
明かりのつかなくなった城の中で、国王と一人の男が話をしている。
「では、勇者アルキオネよ。なんとかして世界を支配しようと目論む魔王ソルを倒して参るのじゃ」
「物語始まっていきなりソレですか。あと人の名前を勝手に作らないで下さい。それに何ですかその名前。私の場合のアルキオネはAですかBですかCですか?それともDなんですか?」
「うむ。おぬしの場合はCじゃ」
「思いっきり八等星じゃないですか。暗すぎますよ。視等級で言えば+8.30ですよ。それに比べて魔王は強すぎじゃありませんか?ソルって太陽の事でしょう。太陽の明るさは-26.73ですよ。どう考えても勝ち目無いですよ。しかも何で私の名前に使われている天体はマイナーなヤツなんですか?え?何?八等級の天体の名前をつけられた私にどうしろと?」
「まあまあ落ち着きたまえ。おぬしのレベルは今1じゃが、戦いの経験をつんでいくごとに上がるであろう」
「視等級の値を上げてブラックホールになってやりますよ。どーせ私なんていじいじ」
「こら!『半自暴自棄もう片方はいじけてるだけ』状態になるのはやめんか!とにかく、今のお前は弱い。弱すぎる。じゃから、なんとかレベルを上げまくって、せめて二等級くらいの天体には進化するんじゃ。よいな?」
「待ってください。無理矢理すぎますよ。私は何処かにいるモンスターとは違いますんで、進化など到底できません」
「ふむ、では、おぬしは『はねる』しか覚えていない鯉よりも劣っていると」
「もうそれでいいです」
「それでは、行ってくるのじゃ」
設定が滅茶苦茶な世界の勇者は、世界を救えるのかどうかわからんが、城を後にした。
*
勇者は城下町で武器やら道具やらパーティメンバーやらを集めることにした。基本中の基本である。防具は国王から貰った発泡スチロールの鎧があるから大丈夫だ。防御力+0・05の代物だ(泣)。
ここは武器屋。
「へい、らっしゃい!何をお求めで?」
そう言って武器屋の店主が出した紙には、売り物とその値段が書いてある。
鈍の剣 2ルピー
普通の剣 500ドル
至高の剣 100000円
最強の剣 50000000ユーロ
「何だこれは!」
勇者は驚きのあまり、紙を投げ捨てた。
「何ですかこの値段!せめて通貨を揃えてくださいよ!」
「わ、解ったよ。今度からは気をつけるよ。で、何を買う?」
勇者は財布を取り出し、国王から渡された金を確かめる。いつの間に貰ったんだ。
「3ルピー。少なすぎですよ王様」
仕方なく勇者は鈍の剣を2ルピー払って買った。
「まいどあり!」
勇者は泣きながら武器屋を後にした。
*
次は道具を買いに行く。が、勇者の手元には1ルピーしか残っていない。
「へい、らっしゃい!ここは道具屋だ!」
道具屋の店主は値段表を出す。
薬草 3ルピー
毒消し草 8円
聖水 250ユーロ
復活草 5000元
「待て待て待て待て!」
勇者は紙を破り捨てた。
「何ですかこの値段!通貨は揃えてくださいよ!それに何ですか?薬草が鈍の剣よりも高いって!」
勇者は激しく後悔した。こんなことになるなら薬草を全所持金失ってでも買うんだった、と。
「おお、ごめんよ。で、何をお買い求めで?」
「残念ながら私は1ルピーしか持っていません。よって、何も買いません」
「なんだよ。冷やかしはやめてくれよ」
勇者は道具屋を後にした。次はパーティメンバーに加わってくれる人を探しに行く。勇者一人では、町に出た瞬間に協会に搬送されるだろう。所詮八等級の天体ですから。
*
勇者は仲間になってくれる人を探すため、町の中央にある噴水の周りをウロチョロしていた。すると、戦士のような人が立っている。勇者は話しかけてみた。
「はじめまして。こんにちは。私はこれから魔王を倒しに行かされる勇者です」
「おう、で、お前、名前は?」
「アルキオネといいます」
「アルラウネ?」
「アルキオネです」
「へえ、お前みたいな八等級の天体が勇者か。で、この俺に何の用?」
「一人ではさすがに心細すぎるので、仲間になっていただけないかと」
「ふーん。いいぜ。その話、乗った。その代わり、条件がある」
「して、どのような?」
「俺を仲間として連れている間は、毎日三食食わしてほしい」
「いいですよ。それ相応の働きと金があればの話ですが」
「八等級のくせに偉そうな勇者だな」
「すみませんね、こんな性格で」
何の問題もなく、勇者は一人目の仲間を見つけた。
「それで戦士さん、お名前は?」
「俺?俺の名前はベテルギウスだ」
「えええ!?まさかあの、視等級0・58の一等星のベテルギウスさんですか!?」
「だからそうだって言ってるじゃんか」
「レベルはいくつですか?」
「58だ」
「おおお!これは心強い!よろしくお願いします!」
勇者は序盤にしては強すぎる人物を味方につけ、早速戦いに行くことにした。
*
外に出ると、最弱モンスターが一匹こちらに向かって来る。褐色の弱い輝きを放つモンスターだ。
「おっ、早速ザコキャラか。たしかこいつは『DEN 0255-477』だな」
「最弱モンスターのくせに贅沢な名前ですよね」
「お前はこれくらいは倒せるんだろうな?」
「はい。こんな太陽と比べて6600万分の1ほどの明るさしかない褐色矮星など、私の敵ではありません。もはや恒星でもないですし」
「なかなか物好きなヤツだ」
「物知りといってください」
「では、やってみろ」
「はい」
勇者は(鈍の)剣を鞘から抜き出し、DEN 0255-477に近付く。そのまま勇者はその剣を、DEN 0255-477に叩きつける。
「やあっ!!」
剣が当たった瞬間にDEN 0255-477は、爆発するように弾け飛んだ。
「どうやら、倒したらしいな」
もともとDEN 0255-477のいたところには、一円玉が二つ、落ちていた。
「よし、二円ゲットだ」
勇者が剣を高く掲げた。そして、その剣を下ろそうとした途端、
ポキッ
「えええええぇぇぇぇぇぇ!!??」
剣はぽっきり折れてしまった。
「そうでした。忘れてました。この剣、鈍の剣だったんですよ」
「何でそんなもん買ってんだ!」
「金が無くて」
勇者は剣がないので戦うことが出来ない。
「仕方ねえ。俺が戦って金を集めておくから、お前は陰から見ていろ」
「はい、すみません」
勇者は涙目になりながら木の影に隠れた。
「おっ、来たか」
見てみると、戦士の近くの草むらが揺れている。しかも、激しく揺れている。
「これは、もしかしたら大物かも知れないな」
そこから出てきたのは――
「北落師門か」
北落師門。そう呼ばれた恒星のモンスターは、なかなか明るく、大きさもかなりある。形は、粘土で作った人形のようだが、その身体は丈夫だ。
「これは、勝てないかも知れん」
「何ですか?この馬鹿でかいモンスターは!?」
「こいつは北落師門といって、中国語で『北の垣根の軍隊の門』という意味で、フォーマルハウトのことを指す」
フォーマルハウト。それは、みなみのうお座にある、視等級+1.16の恒星の名前。太陽を除けば、地球から見て18番目に明るい恒星だ。
「でも、ベテルギウスさんは視等級0.58でしょう?こんなの簡単に――」
「そうだ。俺の方が北落師門よりも視等級の値が小さい。だがな、俺よりもやつのほうが若い恒星なんだ。誕生してから二億年。それがやつの名前に使われた恒星。それに対して俺は、いつ超新星爆発を起こしてもおかしくない恒星だ。それを考えれば、どちらが有利か」
勇者は、大変な仲間をつけちまったな。旅の途中で爆発して吹っ飛ばされたらどうしよう。と思って話を聞いていた。つーか、何で序盤でそんな強そうな敵が出て来るんだよ!おかしいだろ絶対!勇者は心の中で激怒していた。
「ここで死ぬのも運命かも知れない。が、負けるわけにはいかない」
戦士は勇敢に突撃して行った。勇者よりも勇敢だと思われる。勇者は心の中で泣いていた。
戦士は、北落師門に近付く。その時の戦士は剣を鞘から抜いていない。
「ベテルギウスさん!敵が、北落師門がっ!」
北落師門が右腕を振り上げる。
「でぁ!」
戦士の剣が抜かれ、そのまま北落師門に身体を斜めに斬った。居合い切りというやつだ。だがそれを食らっても北落師門は怯まない。振り上げた右腕を下ろし始める。
「もうダメか」
戦士がそう呟いた瞬間、戦士の横から巨大な火の玉が飛んできた。それは北落師門に当たり、身体に罅を作ってやがて割れた。
「え?」
勇者は火の玉が飛んできた方向を見る。そこには、黒いローブに身を纏った人間が立っていた。フードで丁度顔が隠れているため、見た目で性別を判断することはできない。
「何だあんた。人の戦いに割り込んでおいて、何のつもりだ」
「あら、わざわざ助けてもらっておきながら、それはないと思うんだけど?」
声を聞く限りでは、この魔法使いらしき人物は女だ。
「お前、まさか、一等級魔術師のアンタレスか?」
一等級魔術師?何ですかそれ。という目で勇者はそのやりとりを見ている。
「ええ。国王に命じられて勇者の護衛に来ました。一等級魔術師のアンタレスです」
「まさかこいつが味方につくとはねぇ。全然予想もしていなかった」
「何?何か問題でも?」
「ないっ!異常なし!さてさて勇者よ、次は何処へ向かうのかな?」
どうやら、戦士はこの魔術師が苦手らしい。勇者は北落師門を倒して手に入れた100000円で、至高の剣を買う、と二人に告げた。
「別にいいが、そのあとどうなるかは知らないぜ?」
「いいんじゃない。新しい武器が手に入るし」
「そ、そうだな!勇者に賛成!町へ戻るぞ!」
戦士は走って町に逃げた。
「逃げ足だけは速い戦士ですね。えっと、アンタレスさん、でしたっけ。はじめまして。私は勇者をやっています、アルキオネです」
「アルラウネ?」
「アルキオネです」
「で、今何等級の恒星?」
「八等級です」
「ぶっ」
「今笑いましたね?」
「八等級?」
「八等級です」
「ぶっ」
「もういいです。ベテルギウスさんを追いましょう」
勇者と魔術師は町へ戻っていった。
*
「へい、らっしゃい!って、またお前さんかい。随分と強そうな仲間をつけたもんだね」
「早速ですが、至高の剣を下さい」
「ああ、至高の剣ね。すまんが、売り切れちまって」
「えええ!?いつ!?」
「ついさっき」
勇者は落ち込んだ。もうしばらく立ち直れそうもない。
「すみませんね、あんな勇者で」
「で、何を買う?」
「じゃあ、最強の剣をくれ」
「50000000ユーロなんだけど」
「買えねえじゃねえか!」
「あんたが馬鹿だからでしょ!」
「誰が馬鹿だ!あ、違う。俺が馬鹿でした」
「解ればよろしい」
「で、何を買うんだ?」
戦士と魔術師は、なんとかして至高の剣を買いたい、と思った。そこで出た考えは、
「至高の剣が出来上がるまで待ちますから、出来たら下さい」
「まいどあり!じゃあ金は前払いね」
こうして十万円は泡のように消えていったのであった。
*
勇者は立ち直る。
「ベテルギウスさん、アンタレスさん、結局何買ったんですか?」
「至高の剣を予約して前払いで十万円取られた」
「何やってんですか!この町から動けませんよ私達!この世界はどうやら、武器を持っていない人間は街の外に出ることができないんです」
勇者達は困った。至高の剣が届くまであと何日かかるだろうか。
「「「500日はかかるかも」」」
三人の台詞が被った。何の前触れもなく、しかも一字一句、数量もまったく同じだ。
「真似しないで下さい」「真似するな」「真似しないでくれる?」
実は相性ピッタリな三人である。
「とりあえず、そこら辺に落ちてる木の枝でも拾って、それを武器にでもしましょうよ」
「でも、ここらへんにヒノキは生えていませんよ」
「別にヒノキじゃなくてもいいじゃない。ね、ベテルギウス」
「え?いや、ヒノキ、あ、べべべ別にいいんじゃないか?ヒノキじゃなくても。ぼ、某RPGの最弱武器にとらわれなくても」
戦士は本当はヒノキがよかったのである。
「ほら、そこに丁度いい長さの太い枝が」
「これ拾います」
「これで外に出られるぜ!」
「この枝は何の枝かしら?」
「これは手触りとにおい的に考えて、ヒノキですね」
「やっぱりアルキオネは物好きなヤツだ」
「だから物知りと言ってくださいって」
「まあ、でもよかったじゃないか。棒がヒノキで」
「…」
「何ですかアンタレスさん?」
「そんな棒、捨てておしまい!!」
かくして、ヒノキの枝は『捨てる』コマンドによって消失した。
*
勇者達は次の町に向かって歩き続けている。至高の剣は出来上がり次第次の町の武器屋に届けてもらえるよう、武器屋の店主が要請してくれた。
「そういえばさあ、アルキオネの武器はどうなったんだ?」
「あ、私の武器ですか。これですよ」
勇者はそう言って、自分の武器を取り出した。
「は?何だそれ?」
勇者の武器は、茶色っぽい輝きを放つ剣。それは、銅の剣だった。
「宝箱に入っていた武器です」
「いいじゃんか!これでアルキオネも戦えるな!レベルが高ければの話だが」
「そういえば、アンタレスさんのレベルってどのくらいなんでしょうね」
「さあな。訊いてみれば?」
勇者は魔術師に話しかけた。
「アンタレスさん、あなたのレベルはどのくらいですか?」
「45だけど。それじゃああんたのレベルはどのくらいかしら?」
「え?まだ6ですけど(北落師門を倒してもらった時の経験地でここまで上がりました♪)」
「ぶっ」
「またまた笑いましたね」
「わ、笑ってない」
次の町はもうすぐだ。
「でもさあ、次の町に進むっていうことはさあ、ストーリーが進むってことだからさあ、なにか強い敵がさあ、出てくるんじゃないのかさあ」
「ベテルギウスさんはさあさあさあさあ煩いですよ。最後に関してはもう日本語としておかしくなってますよ」
「そんなことない。ほら、町が見えてきたぞ。活気に溢れた町だなあ」
「そうですか?ぜんぜんですけど」
見えてきた町は、人の気配も無いし、建っている風車も回っていない。
「変ね。様子が気になる。行きましょう」
「はい」「おう」
勇者達は町に入っていった。
「なんだこれは」
その町の様子を具体的に述べると、町は魔物で溢れかえっていて、争いごとが絶えず、毎日毎日魔物の死体と汚れが増えていく。そんなような町。
「魔物しかいない、だから人の気配が感じられなかったんですね。人じゃないから。ってそんなわけないですよ!どんな状態ですか!」
勇者は錯乱気味になりながら、町の様子を見た。町は静まり返っていて、人々の生活の後が残されているものの、誰一人としてこの町には人間が存在していない。
「一体この町に何があったんだ…」
しばらく突っ立っていると、一人の男が町に駆け込んできた。
「おっ、人が来たぞ」
「すみません。この町に何があったか知りませんか?」
「お待たせしましたー。至高の剣でーっす」
「何コイツ!空気読んでくださいよ!というよりも私の話を聞いてください!」
「まいどありー」
「あ、ちょっ、まだ話は終わってないですよ!」
男は去ってしまった。
「まあいいじゃねえか。至高の剣も手に入ったことだし」
勇者は至高の剣を手にいれたっぽい。早速勇者は剣を装備した。
「攻撃力+3113らしいです」
「何それ!?スゴッ!だがなんとも微妙な数」
そんなこと言っているが、戦士の装備している剣も攻撃力+7809のバケモノだ。それで北落師門倒せないって…、どんだけ怪物だよ。
「剣も手に入ったから、そろそろ行きましょう」
「どこへ?」
「決まってるじゃない。黒幕のところ」
「だからどこだよそこ。そもそも黒幕って誰だよ」
「この町から人間を消し去った魔物のことじゃないんですか?」
「待て、この町の人間が魔物によって消されたとは限らないだろ」
「解る。今なら解る。黒幕のいるところ」
「ちょっと、話聞けよ!」
「よし、行きましょう、アンタレスさん。ベテルギウスさんも」
「ちょっ!俺の話無視!?」
戦士は強引に何処かへ連れて行かれた。
「それよりも、何で黒幕の居場所がわかったんですか?」
「なんとなくそんな気がしたから」
「ダメじゃないですか」
「だから俺の話を聞けと言ったのにブツブツ」
「すみません。ベテルギウスさんが煩いので魔術で黙らせてくれませんか」
アンタレスはそう聞くと、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。アンタレスが呪文を唱え終わると、
「ブツブツブツブツブツブ―――」
「あ、止まりました」
「でもどうせならもう少しキリのいいところで止めればよかったかも」
「………(そんなことどうでもいいから早くこの魔法を解除してくれ)!」
*
町から歩いて三日、ひとつの洞窟の前に辿り着くが、「長いよ!何で一番最初のボスキャラの所に行くまで三日もかからなければいけないんだよ!!俺にかけられた魔法も解けちゃったよ!!!それどころか二回目もかけられて、また解けちゃったんですけど!!!!どういうことっすかこれ!!!!!」である。
「ベテルギウスさんが煩いんですけど」
「三回目なんだけど」
「お願いしたいんですけど」
「この魔術、結構な魔力食うんだけど」
「そういうことですベテルギウスさん。このまま大人しくしてるか、もしくはまたナレーションの途中で喋って、この小説からあなたの存在を抹消させますか?」
戦士は急に大人しくなった。そうして勇者達は洞窟の中へ入っていった。
「ちょっ、何ここ。滅茶苦茶狭いんですけど」
「せまっ!アンタレスさん、魔法でなんとかなりませんか?」
「無理」
しばらく進んでいくと、何もない広い空間に出た。
「ちょっ、何ここ。何もないんですけど」
「ひろっ!アンタレスさん、魔法で魔物を探してください」
「だから無理」
その先にはたくさんの分岐ルート。23はあるだろうか。
「ちょっ、何これ。気持ち悪いんですけど」
「多っ!アンタレスさん、魔法で本物のルートを探せませんか?」
「だから無理だって!」
どうやら魔術師の魔力はもう限界のようだ。そこで、勇者は道具袋袋からアイテムを取り出した。
「あ、ちょっと待て!説明がおかしいことになっているぞ!何だ道具袋袋って!道具袋を袋に入れるのか!?」
戦士が騒いでいる間に魔術師はアイテムを使い、魔力を回復させたようだ。
「ベテルギウスさん!正規ルートがわかりました!」
そう言って勇者と魔術師が進んだ道は、足元にある穴のような道だった。
「はあ!?どこ進んでんだよ!大体そんな狭い所を通れるわけ――」
「早くしてちょうだい」
「はい(泣)」
勇者達は仕方なく、小さな穴のような道を進んで行った。
しばらく進むと、また広い空間に出た。そこには明かりがついていて、賑やかな様子だった。
「ん?あれはもしや…」
「「魔物!」」
「おい待てゴラ!俺の台詞を先読みすんじゃねえ!」
煩い戦士は放っておいて、その広い空間には、十匹ほどの人間くらいの大きさの魔物と、一匹のどでかい魔物がいる。でかい方は多分ボスだろう。
「ねえ、どうする?」
「さあ?近付いて話しかければいいんじゃないですか?ほら、十字キーで私を操作して、魔物の前に立ったら△ボタンで話しかけましょう」
「何そのRPG的な操作方法。普通に動いてよ」
「どのみち三対十一の比率なんだから勝てるわけないでしょう?」
「やってみなきゃわからないじゃない」
「勇者っぽい台詞は控えていただきたいですね」
たまに生意気になる勇者と、勇者よりも勇ましい魔術師と、さっきまで煩かった戦士は、魔物に近付いて△ボタンで話しかけた。
「すみませーん。あっちのほうの町の人間を消し去ったのはあなたですか?」
「ハア?ナンダオマエ?オレサマノまいほーむニナンノヨウダ!」
「あー、これはまた面倒くさい…、じゃなくて、失礼致しました。ですが、今、向こうのほうの町で住民がいなくなるという問題が発生していまして」
「アア。コノオレサマガニンゲンドモヲツレサリ、ココデハタラカセテイル。ナンカモンクアッカ!!」
「返していただきたいのですが」
「ウルセエ!コイツ、ナマイキナヤツダナ!モノドモ、ヤッチマエ!!」
「ああ、これ、戦闘になるパターンですね」
「あ、そういえば名前を聞いていなかった。おいお前、名前は?」
「オレサマノナマエハかっかぶダ」
「おう、『かっかぶ』か」
「いや、片仮名と平仮名の配置から考えて、『カッカブ』ではないかと」
「どうでもいいんだけど」
こうして勇者達とカッカブの戦闘は始まった。
「さっき魔術でレベル量ってみたんだけど、38だって」
「死ぬんですけど」
「仕方ねえ。アルキオネはずっと防御してろ」
「この空間の構造から考えて、どっか逃げ回ったり隠れたりした方がいいと思いますけど」
三対十一。敵は十対がザコキャラで、勇者達は一体ザコキャラだ。
「ああ、私ザコキャラ扱いですか。勇者なのに」
ザコ勇者は放っておいて、二人の英雄と十一匹の魔物は戦闘を始めた。
「カズデセメルゾ!モノドモ、デアエ!!」
「なっ、ザコキャラが、300匹に増えた」
「何で数えられんのよ。とにかく、ザコは任せて!」
「おう、俺は首領を倒す!」
勇者は隠れている。勇者のくせにチキンである。
魔術師は火の魔法で魔物を蹴散らす。
「おいアンタレス!今のお前の撃破数は51匹だぞ!」
「解った解った。伝えなくていいから」
戦士はカッカブに向けて剣を振る。
「待てこのヤロウ!ちょこまかと動きやがって!」
「全然あたってませんよ」
「うるせえ!」
小さい魔物は無限に出てきそうだ。今の所、五百匹。
「ちょっと、魔力が持たないんだけど!」
「私も戦闘に参加しないとやばそうですね」
勇者も果敢に突撃する。
「ナンダコイツ?」
「タオセー」
「うぎゃあ!」
勇者死亡。
「弱っ!」
魔法使いはやはり火の魔法で敵を焼却処分する。
「おーい、今のお前の撃破数は632匹だ」
「だから伝えなくていいって!」
戦士はカッカブに攻撃し続けるが、両者とも倒れる気配はない。
「グハハハハハ!!コレシキノコウゲキデオレサマガタオセルトデモオモッテイルノカ!!」
「まだ俺は本気を出していないぜ!!」
「ソンナコトイッタラオレサマモダ!!」
「じゃあ本気と本気の勝負をしようじゃないか」
「ノゾムトコロダ」
戦士は剣を振る。それがカッカブに当たる。戦士は剣を振り続ける。
「お前の勝ち目は無いんじゃないか!?」
戦士の連続攻撃は止まらない。攻撃は絶え間なく続き、カッカブが何かしらの行動をするのを許さない。
「これで、止めだ」
戦士が高く剣を振り上げ、カッカブに向かって振り下ろす。
*
「終わったんですけど」
「ああ、俺もだ」
戦いは終わった。戦士がカッカブを倒した瞬間、他の魔物が退いていくのがわかった。
「お前の撃破数は1267匹だ。まさに無双だな」
「何で数えてんの」
戦士は戦闘中、アンタレスが倒した敵の数をずっと数えていた。余裕である。
「勇者はどうする?」
「え?私生きてるんですけど」
死んだはずの勇者が起き上がる。
「あれ?お前死んだはずじゃ」
「死んだふりをしたら襲い掛かってこなくなったので、ずっとそのままでした」
「何それ。ある意味最強の技じゃん」
「で、カッカブは?」
「微塵切りにして捨てた」
「勿体無いですね」
「何が?わけわかんないんだけど」
勇者達は、町の人間(らしき人物)たちを解放しに、洞窟の奥のほうへ行った。
*(その後の助ける描写や、洞窟から出るときの描写は省略させていただきます。)
「あー疲れた」
「そういえばさ、アルキオネのレベルはどこまで上がったの?」
「見てみます」
勇者はメニュー画面を開く(つもり)。
「38です」
「あ、ああ。1263匹+ボスか」
「相当な経験地だったんだろうね」
で、勇者達は今どこにいるかというと、町の宿屋である。先ほどの戦闘で疲れた身体を休めるために、手に入った金の100万分の1ほどを払って休んでいるのである。
「相当な大金が手に入ったんですね」
「120000000円は手に入ったんじゃない?」
「俺ら大富豪だな」
「いや、まだ小富豪ですよ」
「そもそも屋敷を持っていないから富豪じゃないんじゃない?」
「「なるほど」」
どんな話題だよ。
「次の町はどこですか?」
「えーと、この地図によると、北の方角に徒歩で二週間…」
「どこまで行くつもりですか」
「え?最後の町だけど」
「だから次の町って言ってるんだけど」
「あーはいはい。すみませんね俺が馬鹿で」
「だからどの方角にどのくらい歩けば――」
「北北西よりも少し北の方角に徒歩で二日」
「北でいいじゃん」
「二日で着くんなら近いほうですね」
「魔物さえいなければね」
で、今何時かというと、もう午前の三時である。
「眠いんだけど」
「じゃあ出発は明後日にしましょう」
「もう一泊分の金取られるってことですか」
「現実世界のホテルより安いからいいじゃん」
「そりゃそうですけど」
勇者達は明後日の出発に備えて、道具を揃え、そして早く寝た。
*
そして出発日の朝。
「あーよく寝た。俺の一日の睡眠時間の三位にランクインしたぜ」
「私は一位にランクインしましたよ。十時間も寝たのは初めてです」
「俺は一位が二十四時間で、二位が二十時間だぜ」
「何ですかその有り得ない時間。一位に関してはもう一日中じゃないですか。これ以上記録伸びませんよ」
「次からは二位になるわけだ」
どんな話題だよ。どうやらこの勇者達(今は魔術師だけ寝ている)は、どうしようもない話題で盛り上がる人間のようだ。
昼になってから勇者達は出発した。
「北の方角へ二日でしたっけ」
「違う!北北西よりも少し北の方角へ二日だ」
「同じじゃない」
「私もそう思います」
戦士は、「クソこのやろう、地図に従って歩かないと迷子になるぞ。寧ろなっちまえ」と思いながら先頭を歩いていた。
*
歩き続けて二日目。
「あー(自主規制)してぇ!」
「ベテルギウスさん、変なこと言わないで下さいよ」
「なんでだよ。人が何か言うのに許可が要るのか」
「そうじゃなくて、さっきのあなたの発言、完全にR15ですよ」
「何!?俺の台詞の一部が隠されているだと!?」
「ええ。この小説にはR15補正がかかっていますから、ベテルギウスさんの変な発言は全て隠されます」
「なんだと!?」
説明しよう。R15補正とは、R15に設定されていない小説内にて、キャラクターなどがR15紛いの発言をする時に自動で隠してくれる上級魔法である。今の所この魔法を使えるのは、勇者のアルキオネのみである。
「その説明いらないから。ていうか、他の人も普通に使えると思うし」
「そういうことです、ベテルギウスさん。私の前でそういう発言は出来ませんからね。薬物表現も隠されますよ、もれなく」
「あーむかつく!俺の(自主規制)を誰でもいいから(自主規制)に(自主規制)して(自主規制)したい!!」
「どうでもいいですから。それに喋るだけムダですから」
「男の欲望を叫んで何が悪い!!」
「世界の男性全てを対象とした代名詞はやめてください。特に私はそのようなものに興味はありません。作者もですね。この魔法の紹介のためだけにこのシーン書いているようなもんですから」
「(自主規制)!!」
「薬物表現も控えてください。合法だからって身体に良いわけではないんですからね」
「ああ、たまには誰かの眼球を(自主規制)して、頚動脈を(自主規制)して出た大量の(自主規制)(自主規制)(自主規制)!!」
「グロテスクなことも言わないで下さい。残酷描写補正もかかっていることも忘れずにお願いします。それにこの魔法、結構魔力使うんですからね」
「じゃあそんな魔法使うなよ!!」
「じゃあ、このままR15発言や残酷発言をして、あなたの存在をこの小説ごと抹消させますか?」
「それは困る…」
「なら今後はこのような発言を控えてください」
「あ、いい方法思いついた」
「何ですか」
「そういうことを言っているときのシーンを省略すればいい」
「なるほど。名案ですね」
魔術師は話についていけないようだ。というか聞こえてる?
「今度からそうします。魔力も消耗しないし」
「それで決まりだな」
「じゃあこの場面は飛ばしてもらいますね」
「よし、たくさん叫ぶぞ」
よって、この場面は飛ばされる。
「m」
*
次の町に着いた。
「そういえば、場面変わるのと同時に言った台詞、ちょっと入っちゃいましたね」
「大丈夫だ。この世の中、mで始まる単語なんてたくさんある」
「そりゃそうです」
いい加減に町の名前でも付けるか。この町は、うーん、もう面倒くさいからアルデラミンでいいや。
「待て、ナレーターは一体何の話をしている」
「どうやら恒星の話ですね。アルデラミンは地球という星から見て、太陽を除いて87番目に明るく見える恒星だそうです」
「やっぱりアルキオネは物好きなヤツだ」
「物知り。何度も言わせないで下さい」
こんなことをしていても物語が進まないので、勇者達が宿屋に行くところまで飛ばす。
*
勇者は疲れ果てて宿屋に来た。
「この宿屋高かったぜ」
「宿泊料ですね」
「一人50円ってヤツ?」
「そうですね。三人パーティですから、150円ですね」
「通貨も統一されてるからお金が使えてよかったわね」
「私が最初の町で怒った甲斐がありました」
そこへ、一人の少年が駆け込んでくる。
「大変です!ってあれ、お客さん?とにかく大変なんです!町の外へ逃げてください!」
「は?何だお前」
「とにかく、今はこの人のいうことに従いましょ」
「それが得策です」
「早く!」
異常を伝えに来た異常な少年と共に、勇者達は宿屋の管理人を放って外に出たのであった。
「何だこれは!」
外に出てみると、街の中央の広場に、たくさんの人が集まっている。円を描くようになっているようだ。その円の中央には、魔物。
「行ってみようぜ」
「そうしなきゃストーリーが進みませんから」
勇者達が広場に出る。その魔物はどうやら、人質を取って何かを求めているようだった。そこへ戦士が割り込む。
「えーい静かにしろ!俺様は魔王様の部下で、冥王と称されたカペラだ。お前ら、この街から今すぐ出て行け。さもなくばグフォッ!!」
「お前こそ静かにしろ」
戦士が右ストレートをぶちかましたようだ。
「何者だ!それより、台詞は最後まで喋らせろ!」
「へっ、悪役に喋らせる義理はない」
人々は驚いている。「なんてヤツだ」「怖いもの知らずだな」とか言っている。
「生意気な戦士め。俺様は魔王様の左腕とも言われたカペラだぞ」
「知らん。ていうか、右腕じゃなくて左腕かよ」
「なっ!俺様が一番気にしているところ」
それを遠くから見ていた勇者と魔術師も割り込んできた。
「アンタレスさん!こいつのレベルを量ってください!」
「うん。今量っているところ」
「また変な連中が出てきたな。俺様一人で全て滅ぼしてやる!」
カペラは人質を放って、戦闘態勢に入る。
「出た!105だって!」
「高っ!」
「お前ら、これから戦闘が始まりそうだってのに。空気読め」
とにかく、異常事態なのには変わりない。勇者達は果敢に突撃する。
「ムダだ!」
だが、カペラ(というらしい魔物)に近づくことができず、跳ね返される。
「待て!これどうなってんだ!?詳しい描写がないからよくわからん!」
「どうやら相手は結界を張っているようね。しかも、かなり強い」
「結界だかなんだか知りませんが、諦めるわけにはいきません」
勇者が珍しく勇者らしいことを言った。レベルが上がると人ってここまで変わるのか。
「感心してないで戦闘の様子を書いてくださいよ!!」
勇者はカペラに近付くも、結界に当たって跳ね返される。戦士は結界を壊そうと剣を叩きつけるが、壊れる気配はない。魔術師は人々を避難させ、爆発魔法を放つ。
「アンタレスさんが一番まともな気がするんですけど」
「お前が頼りねえからだろ!!」
「ベテルギウスさんもですよ。勝手に戦闘始めて」
「えーい、こいつらがうざすぎる!!もうここには用はない!!あったけどもういい!諦めた!!ということでお前らには俺様を追い返した褒美として、これをくれてやろう。出でよ、ポルックス!!カストル!!」
カペラがそう言うと同時に、カペラは去り、ポルックス、カストルと呼ばれた二匹の人型の魔物が姿を現す。
「ふたご座のアルファ星とベータ星に当たる恒星です。カストルがアルファ星で、ポルックスがベータ星です」
「強さはどのくらいだ?」
「えーと、カストルが視等級1.58、ポルックスが視等級1.15です。北落師門よりもほんのちょっと強いだけですから、大丈夫ですよ」
「全然大丈夫じゃないじゃん!」
「ちなみに、この二つの恒星は、『金星』や『銀星』と呼ばれ、双子のように扱われています。多分」
「多分かよ」
「とにかく、三人でかかればザコキャラですよ」
「えーと、今レベル量ってみたんだけど、カストルが59で、ポルックスが68」
「カッカブよりも強いじゃん」
「…」
「ほら、襲い掛かってくるよ!いきましょ」
カストルとポルックスが襲い掛かる。カストルは斧、ポルックスは鎚を持っている。
「グゲア!」
「グギャア!」
「なんだよ、この魔物めッ!」
「アンタレスさん!襲い掛かられなかったからってボーっとしてないで下さいよ!」
それを聞き、魔術師はなにか呪文を唱え始める。すると、巨大な氷の玉がカストルを打ち、鋭いかまいたちがポルックスを切り裂く。が、両者共に大した傷にはなっていない。
「それでもだめかよ。なら、これを食らえ!!」
戦士がカストルに得意の連続切りを放つ。戦士よりもレベルがひとつ違うだけあって、なかなか怯まない。
「アンタレスさん!こいつらの弱点がわかりました!」
「何?」
「もともとの恒星の色的に考えて、カストルは火、ポルックスは水です!」
「何その根拠。当てにならなそうなんだけど。まあいいや。とにかくやってみる」
魔術師はカストルに向かって火、ポルックスに向かって氷の魔法を放つ。火の玉はカストルを、氷の嵐はポルックスを襲う。
「グガア!」
「ゲギャア!」
が、カストルは水、ポルックスは雷の魔法を放ち、相殺する。
「待って!これじゃ無理よ!」
「知りませんよ!私に言われても困ります!」
「二人とも、そんなこと言ってないで戦え!」
カストルに攻撃し続ける戦士だが、その剣はまったくといっていいほど役に立たない。攻撃力+7809の武器を装備しているにもかかわらず、相手に傷ひとつ与えられない。防御力がチート級だ。
「ポルックスは!?ポルックスの方は防御力どのくらいだ!?」
「さっきから斬り続けているんですが、まったく傷がつきません。さっき触ってみた所、蚊でも刺せないほど硬い皮膚でした」
「それってやばいじゃん!!」
「あ、そうだ。二人とも、爆発魔法放つから後ろに下がって!」
「それいいかも」
「だから早く!」
勇者と戦士は後ろに下がり、魔術師が呪文を唱える。
「うわっ、何か光った」
「もう爆発しましたよ。ドカーンて」
全てを消し去る(と伝えられる)爆発はカストル、ポルックスの二匹を飲み込む。
「これぞ爆発型魔法最上級、超新星爆発」
「そんな縁起の悪い名前付けないで下さいよ。超新星爆発といえば、星の最期ですから」
が、そんな爆発魔法を食らっても、両者ともに立っている。
「こいつらバケモノですね。対策は他にありますか?」
「ないと思う」
「ベテルギウスに同じく」
「…」
カストル、ポルックスが自身の武器を振り回して突撃してくる。
「まずいですよ」
「もう終わりか」
「どうやらそのようね」
勇者達は諦めかけていた。が、突然勇者の後ろから黒いビー玉のような球体が50個ほど飛んできて、魔物を包んだ。
「力、貸しますよ」
そう言って出てきたのは、さっき宿屋に駆け込んできた少年だ。
「こんな魔物は一瞬です」
黒い球体がくっつき、大きな球体と化していく。そのドーム状の球体は二匹の魔物を包む。
「消えなさい」
少年がそう言って、黒い球体は大きな破裂音を轟かせて割れた。そのあとには、魔物も何も存在しない空間があった。
「何この上級魔法」
「信じられん」
「アンタレスさん、レベル量ってください」
「直接訊けば?」
「そうでした」
少年は勇者のほうへ向き、一礼してから話し始めた。
「どうも。俺はこの街の一等級僧侶のアルタイルです。あなた達、勇者パーティですね?」
「ええ。そうですけど」
「実は、あなた達の仲間に加えてもらいたいんです」
「嘘!?」
「嘘ではありません。俺はさっきのカペラとかいう魔物に恨みがあります。ですが、一人では敵う相手ではなかったのです」
「え?じゃあ、一人でカペラに挑んだってこと?」
「はい。でも、結界を破れただけでした」
「それで充分じゃん。いいよ。仲間に入りなよ。いいだろ?」
「別にいいですけど。私は」
「ありがとうございます!俺、絶対勇者様のお役に立ちます」
これで勇者一行は四人パーティになった。
「で、レベルはどのくらいなんですか?」
「72です」
勇者たち三人はそれを聞いて愕然としている。強すぎ。
「72!?それは心強い、じゃなくて、心強すぎるにも程がある!!絶対戦闘で役に立つよこいつ!!」
「すごすぎるね。あたしはアンタレス。一等級魔術師よ」
「私はアルキオネです。この弱さで勇者をしています」
「えっと、アルラウネさんですか?」
「アルキオネです」
「あ、失礼しました」
「それで、ビックリしすぎてここにぶっ倒れてんのが、一等級戦士のベテルギウス」
「馬鹿で阿呆な戦士だと思ってもらって結構です」
勇者の紹介は最低である。まあその通りなんだけど。
どうやら、僧侶は去年、カペラに家族を人質にとられたらしい。さっきと同じような用件だった。町の住民は反対し、追い返そうとした。が、カペラの強さにまったく歯が立たず、家族を殺されて、住民も30人ほどは殺されたという。町もいくらか破壊された。
「そして、今年もまた来ましたね」
「はい。俺はあいつを許せません。だから、これから倒しにいくんです」
「いきなり!?」
「いきなりでお願いしますよ、ホント。やるなら今しかないんです。カペラは東にある塔にいます。ほら、行きましょう」
「あ、ちょっと待て!まだ道具や武器を揃えていない!それに、俺達まだレベルも足りんだろうに!」
その後、勇者達はなんとか説得して、意気込んでいる僧侶を止めて武具集めに向かった。といっても、武器屋に行くだけだが。
「へい、らっしゃい!」
武器屋の店主はそう言って値段表を差し出す。
最強の剣 80000円
最弱の剣 90000ドル
パねえ剣 10円 売り切れ
宝剣 60000000000000000000000両
「…。通貨を揃えてくださいよ」
「しかも何だよこの品揃えは!最弱の剣が最強の剣より高いぞ!ていうか何?パねえ剣って何?10円なの?どこぞの棒状の菓子売るつもりかテメェ!つーか売り切れかよ!」
「その宝剣ってのも気になるんだけど」
「ああ、この剣ね。これはなあ、武器としては使えない代わりに、飾りとして使えるんだぜ」
「そんなもん武器屋に置くな!値段に関しては最凶最悪だな!適当に0並べただけだろうがテメェ!」
「じゃあ、最強の剣を四つ下さい」
「これだね。320000円だ」
「俺の話を聞けゴラ!」
「あたし、剣は装備できないんだけど」
「俺もです」
「あ、じゃあ二つで」
「160000円だ」
「俺の話!」
勇者達は最強の剣を二つ買い、魔術師と僧侶は別の武器屋で杖と槍を買った。
「こんな序盤にして強い武器が手に入りましたね」
「もう中盤ですよ、アルキオネさん」
「でもアルタイルさん、中盤でもすごいほうだと思うんですがね」
「もう誰が喋ってるんだかわかんねえぜ」
「喋るときにわかりやすいようにどっちかに印つけてもらわないと」
「アルキオネが(ア)でいいじゃん」
「じゃあアルタイルは?」
「(ル)にしよう」
「アルキオネのほうにも(ル)が入ってるんだけど」
「仕方ねえな。アルタイルは(鷲)にしよう」
「鷲座の首星ね」
「三角形がどうとかアルキオネが言ってたぞ」
「どうでもいいんだけど」
「おーい、みなさん、そろそろいきますよー」(鷲)
「おっ、今のはアルタイルだな」
「(鷲)ってついてたもんね」
勇者達は東の塔に向かって歩き出した。
*
歩き続けて三日目。
「遠っ!いつ着くの!?」
「町から徒歩で一週間です」(鷲)
勇者達は東の塔へ行くため、起伏の激しい山道を歩き続けていて疲れ果てていた。
*
塔へ着くまでの険しい道のりはいい加減に省略。25階まである塔を上るシーンも省略。
「お前らか。よくここまで登ってこれたな。この塔は去年、一人の少年が上ってきたことにより、5階から25階に改築したのだ」
「へー、そうなんだ」
「何だその興味のなさそうな目は!!」
「だって興味ない」
「なめやがって!『冥王』ともいわれた俺様の力を見せてやる!」
カペラは巨大な鳥に変身した。その鳥は全身が黒い。例えるならばカラスだ。が、その足は三本。
「ヤタガラスですか。厄介な敵ですね」
「羽に飲まれて死ね!!キエエェェェッッッ!!!」
「あ、これ戦闘になるパターンだ」
「当たり前じゃないですか。そのためにここに来たんですから」(鷲)
「行きますよ!」
「おう!」
カペラは元々ぎょしゃ座のアルファ星である。カラスなど微塵も関係ない。
「最強の剣の威力を見よ!」
戦士と勇者は突撃する。が、カペラの結界により、攻撃が届かずに弾き返される。
「何度来ようともムダだ!散れ!」
カペラの体から三つの紫色の球体が発せられる。僧侶はその球体を槍で突き、消滅させる。
「小癪な!」
カペラは三本の足の中央に力を溜めた。
「来ます!みなさん、後ろに下がって!」(鷲)
「ハァッ!」
カペラの影になっている部分の床が炎を噴き出し、勇者達に向かって来る。同時に、僧侶は結界を張り、火を防ぐ。
「前へ!」(鷲)
勇者達は前進する。カペラが紫色の球体を発する。僧侶はそれを槍で突いて破壊し、一直線にカペラに突撃する。
「ムダ!」
「その余裕がいつまで続く?」(鷲)
僧侶がカペラの結界の一歩前で止まり、精神を統一させるっぽいことをしている。
「今から、結界を破ります」(鷲)
僧侶は槍を構え、カペラに向ける。すると、槍から大量の光の矢が飛び出し、結界に当たる。次々と結界に穴が開く。
「おのれぇ!これしきで結界が破れるとでも」
「去年のこと、忘れましたか?」(鷲)
「まさか、お前、」
「そうです。あのときの」(鷲)
光の矢が結界を貫き、結界が破壊される。
「なにっ!」
勇者と戦士と魔術師は唖然として見ている。カペラが巨大化する前の結界も敗れなかったのに、僧侶はそれを一人で破った。
「まだ結界が破れただけだ!俺様はまだ負けていない!」
「ですが、これで攻撃できるようになりました。みなさん、行きます!」(鷲)
「それがどうしたァァァァァッ!!!」
カペラの目が黒から赤に変色する。どうやら本気モードのようだ。
「ガァッ!」
カペラの下の床が爆発した。その床はぽっかりと穴が開いている。
「まずいですね。どうしましょう」(鷲)
「魔法で何とかできないのか!?」
「やってみる!」
魔術師が氷の魔法を放つ。
「ムダムダムダムダ!」
が、カペラに届かずに掻き消される。
「詳しい描写がないからどういうふうに掻き消されたかわかんねー!」
「つまり、対策が立てられない、ということですね」
「あ、来る!」
「しつこいやつらめ、消え去れ!!」
カペラが黒い光を上に向けて飛ばした。光は空に集まってひとつにまとまり、そこから黒い雨が降り注ぐ。
「なに!?何で光が集まったら雨が降るんだ!?」
「そんなの今はどうでもいいでしょ!!」
「これはどうやら、強酸性の雨のようですね。剣の柄が溶けました」
「何してんだお前!!」
「とりあえず、結界を張ります!」(鷲)
僧侶が結界を張り、雨を防ぐ。
「あ!いい方法見つけた!」
「なんだ?教えろ教えろ」
「カペラは、攻撃する時に呪文を詠唱しているっぽい。つまり、詠唱できないようにすれば」
「なるほど。俺に使った沈黙魔法だな」
「アルタイル!魔法を唱えるから、結界で攻撃を防いで!」
「はい!」(鷲)
僧侶が結界を張る。
「結界ごと滅ぼしてやる!!」
カペラの三本の足に光を溜める。よく見たら、微かに口が開いたり閉じたりしているのが見える。
「準備できた!魔法を放つから結界を解いて!」
結界が消滅した。それと同時に、魔術師から赤い光が出て、カペラに向かって行く。
「なにっ!詠唱途中だから他の魔法が出せない!!」
カペラは詠唱をやめ、光を避ける。が、光には追尾性能が備わっているため、途中で曲がり、カペラを追う。
「ぐわ!石の柱が邪魔で避けられない!」
石の柱の前でカペラは止まろうとしたが、急には止まれずにそのまま激突。
「グギャ!」
おまけに光も当たったため、カペラは声を出すことができなくなる。
「とんだマヌケ冥王ですね」
「一気にたたみかけるぞ!」
「じゃあ、私は隠れてますね。殺されますから」
勇者が逃げる一方で、戦士と魔術師と僧侶は攻撃を続ける。戦士は柱にぶつかって落ちたところを斬り、魔術師は光の魔法で援護する。僧侶は…、えーと、回復役か?
だが、戦士たちが与えているダメージは、数値にしてみると一回30あたりだ。全然効いてない。
「もっとレベル上げときゃよかった」
「それを聞くと負けそうな気がしてくるのでやめてください」(鷲)
やがて、カペラが起き上がる。
「…!……!!」
「何て言ってるのかわかんねー!」
「大丈夫!読者にはわかるようにしておいたから」
「俺もわかるようになりたい!」
「………!」
「何て言ってるかわからんけど、なんか怒ってる!」
「当たり前でしょ!」
「…!」
カペラは魔法を放とうとする。が、沈黙魔法の効果によって、放つことができない
「よし!今だ、攻めろ!」
「どうやって?」
「いい方法がある。さっき出来た穴の中に、カペラを落とすんだ。そのためには、もう一度石の柱にぶつける必要がある。上手く誘い込め!」
「そううまくいきますかね?」(鷲)
「やってみるしかないだろ!」
「じゃあ私も参加した方がいいんですかね」
勇者も参加した。四人は石の柱の下に移動した。
「…!」
カペラは空中で旋回して突進してくる。
「ちょっ、これ当たったら死ぬ」
「今です!回避!」(鷲)
四人は石の柱から離れ、散り散りになる。
「…!!」
カペラが石の柱にぶつかり、柱が崩れる。
「落ちてきた!行け!カペラを押せ!穴に落とせー!」
勇者達はカペラを穴まで押す。
「あ、そうだ。氷漬けにしてから押したほうが滑りやすくなっていいかも」
「なるほど」
勇者、戦士、僧侶の三人がカペラから離れ、魔術師は氷の嵐を発生させる。カペラは呆気なく凍結した。
「…!」
「押せ!穴まで押せ!」
「落ちる直前に解凍する!」
再び四人で押す。凍ったおかげで滑りやすくなり、カペラは穴に落とされる。落ちる直前に魔術師が火を放ち、氷が溶けた。
「…………!!!!!」
カペラは穴に落ち、強い衝撃を頭に受け、死んだ。下から何かが崩れるような音が響き、穴を覗くと、下の階にもう一つ穴が開いている。
「勝った」
勇者達はカペラに勝った。戦士がそう言った後は、四人とも興奮のあまり、声を発することができなくなった。
*
勇者達は塔を下り、一週間かけて町に戻った。
「勝ちました。勝ちましたよ冥王に!これも皆さんのおかげです!ありがとうございます!」(鷲)
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
「皆さんと一緒に魔王を倒しに行くつもりです!」(鷲)
「いいですよ」
「ちょっと待て!ここは驚くところじゃないのか!?」
「そんなことどうでもいいでしょ。仲間が増えたんだから」
こうして、勇者パーティは四人になった。
「次はどこに行く?」
「そろそろ魔王城に行きたいんですけどね」
「カペラもまともに殺せなかったのに魔王を倒せるわけないでしょ!」
「そうだなぁ。穴に落として殺したんだっけ」
「そうですねぇ。魔王はさすがに穴に落ちて死ぬような馬鹿じゃないと思いますし」
「あ、そうだ。『八賢者』に力をもらいに行けばいいんじゃないのか?」
「なるほど。いいかも知れませんね」
「じゃあ早速行きましょう」
説明しよう。八賢者とは、魔王ソルと同時に誕生した、強大な魔力を持った者たちである。
「八賢者のほかにも、準賢者とかいうやつがいるらしいぜ」
「面白そうですね。で、どこへ行けば?」
「この地図によると、北北東よりも少し北の方角に十日歩けば着くそうだ」
「北ですね。解ります」
「だから、北北東よりも少し北…」
「ていうかそこ魔王軍の直轄支配地じゃないですか!入ったら間違いなく殺されますよ」
「大丈夫だ。アンタレスの魔法がある」
勇者達が行き先について話している間、一度も話に入れなかった僧侶であった。
「…(泣)」(鷲)
*
魔術師のステルスを使いながら、魔術師の上級爆発魔法で山を崩しながら八賢者の元へ向かう勇者達。
「魔力がもたないんだけど」
「知らん」
「この先進めなくなるけど」
「…。アルキオネ、魔力回復アイテムを出せ」
「丁度切れましたよ。そこら辺の川から湧き出てるはずですから、汲みに行ってください」
「仕方ねえな。アルタイル、行くぞ」
「はい」(鷲)
戦士と僧侶は川に水(魔力回復アイテム)を汲みに行った。
「つーか、川どこ?」
「足元にありますよ」(鷲)
「あ、ホントだ!何だよこれ。魔力回復アイテムを踏んでるようなもんじゃねえか。何で気付かなかったんだチクショー」
「早く汲んで帰りましょう」(鷲)
戦士と僧侶はペットボトルを取り出した。それで水を汲んでいく。
「満タンになりましたよ。戻りましょう」
「やっぱり二リットルは重い」
「何でそんな大容量のペットボトル持ってきたんですか!!五百で充分でしょう!!」(鷲)
「アルキオネに渡されたんだよ!あいつ戻ったらしばく!」
そんなわけで戦士と僧侶が戻ったあと、勇者はしばかれた。
そのあと、勇者達は八賢者の元へ向かう。
「さっきから向かってたような気が」
気にしない気にしない。
というわけで、いつの間にか八賢者のところについてしまった。
「早っ!」
そこには、至って普通の草原に、至って普通の賢者がいるような感じだ。
「普通の賢者って何!?」
とにかく、八人の賢者っぽい人と、165人の賢者っぽくない人がいる。
「賢者っぽくない人多っ!てか賢者っぽくない人ってどんなの?突っ込みどころが多すぎる!!」
「とにかく、話しかけてみましょうよ」
「これはイベントですから、操作しなくても勝手に動いて話しかけてしまうんですね」
「どうでもいいから」
勇者は八賢者の内の一人の、木星の大赤斑のような模様の法衣を纏った賢者に話しかけた。
「すみませーん。私達は魔王を倒すために旅を続けているんですけどー、魔王でも倒せる強大な力をくださーい」
「なに?兄弟な力?」
「強大な力ですよ!賢者のくせにボケないで下さい!」
「で、用件は?」
「さっき言いましたよね私。強大な力が欲しい話ですよ」
「だめだ」
「早っ!てかなんで?」
「その力を持つに値する人物だとは思わないからだ」
「じゃあ証明して見せましょうか?」
遠くで見ていた戦士や魔術師は、「アルキオネの馬鹿!殺されたらどうするんだよ!」と思っていた。まあ、さすがに殺されることはないと思うが。
僧侶は、「かっこいい台詞ですね!」と思っていた。ていうか言ってた。
「ほう、証明すると。して、どのように?」
「私達四人で、あなたたち八賢者を相手します」
それを聞いて、戦士と魔術師は心配になった。
「ほう、面白い。だが、お前達四人と私たち八人では分が悪い」
戦士と魔術師は、「うんうん、確かに」と思っている。
「そのため、私達は、この衛星と呼ばれる人たちを参加させる。勿論、こちら側に!」
「おかしいだろそれ!」
耐え切れなくなって戦士が叫んだ。
「俺達にも仲間をくれよ!」
「お前達には強そうな者がいるじゃないか」
確かにいる。僧侶である。
「文句は言わせん。ではこれより、戦闘を始める。
――前に、まずは私達から自己紹介といこうか。私は八賢者のリーダー的存在、ではないが、八賢者の中で一番体格は大きいが中身がない、ジュピターだ」
「悲しい自己紹介ですね」
「次は俺でいいか?俺は八賢者の中で一番のひねくれ者、ウラヌスだ」
「次は私ですね。私は八賢者の中で一番魔王ソルに近いとされている、マーキュリーです」
「次は我なり!我は八賢者の中で一番赤いものが効かない、ネプチューンだ!」
「次に私だな。私は八賢者の中でもたくさんの生命力を生み出すことができきる、アースだ」
「私は八賢者の中で、アースの次に生命力を生み出すことができると信じられているマーズです。どうぞお見知りおきを」
「私は八賢者の中で一番美しいとされている、ヴィーナスです」
「最後にあっしだな。あっしは、八賢者の中でも一番目だってわかりやすい、サターンだ。へっへっへ」
これで八賢者の紹介は終わりである。
「なるほど。八賢者は太陽系の惑星が元になっているんですね」
「どうやらそのようですね」(鷲)
「実は、太陽系の惑星はちょっと苦手なんですよ」
「へー、意外ですね」(鷲)
「今回は敵の数が多いので、四人で頑張りましょう!」
「今回は秘策があるんですよ」(鷲)
「どんなのですか?」
「それは後で話します」(鷲)
「スゲェなこれ。(鷲)の印がなかったらどっちが喋ってんだかわかんねえぜ」
「さりげなくあたしの魔法って役に立ってるよね」
「そうっぽいな」
勇者達の会話は置いといて、八賢者が後ろに下がり、賢者っぽくない人たち、つまり、衛星と呼ばれる人たちが前に出てきた。
「まずは私からいきましょう。私はアース様の衛星を努めています、シルヴァーで御座います。白銀色の光を発することでこの名がついていますが、黄金色の光を発することもできます」
シルヴァーと名乗った衛星は、地球の衛星の月にあたる。
「次は俺達だぜぃ!俺はマーズ様の衛星のフォボスだ!」
「んで俺がダイモスだ」
フォボスが戦士と同じような煩い系の人物なのに対し、ダイモスはいくらか大人しそうだ。
「次は俺様、イオの番だZE☆」
「いや、紹介は俺、エウロパが引き受ける」
「俺だろ俺。なんたって俺はガニメデだぜ?」
「えーいうるさい!そんなものは私、カリストに任せておけばよいものを!」
「お前は出しゃばんなぁぁ!!」
どうやらこの騒がしい四人組は、ジュピターの衛星のようだ。ジュピターは、この四つを合わせて、63の衛星を持っている。贅沢な賢者である。
「「「「「「「次はサターン様の衛星、[タイタン/テティス/ディオーネ/ハイペリオン/エンケラドス/ミマス/イアペトゥス]だ!!!!!!!」」」」」」」
「まためんどくさいのが出た」
サターンは全部で59の衛星を持っている。やはり贅沢である。
「私達はさっきまでの騒がしい者どものようにはいかないからな。で、私達はウラヌス様の衛星だ。私がミランダ、そこのデカブツがティタニア、そこにいるくらいやつがウンブリエルだ」
ウラヌスの衛星は他に24、あわせて27だ。そのうち、ミランダには、顔には刃傷のようなものがいくつも出来ている。
「最後に私たちだな。ネプチューン様の衛星だ。プロテウス、トリトン、ネレイドだ。以上」
「早っ!」
ネプチューンの衛星は13。以上。
「これで賢者達および衛星たちの紹介は終わりだ」
「じゃあ次は俺達の紹介だな」
「どうも。私は勇者をやっています、アルキオネです」
「アルキオネ?」
「アルラウネです。あッ!違った。合ってます、合ってますよアルキオネで。いつも間違えられるんで、ついつい突っ込みが出ます」
「で、俺は一等級戦士のベテルギウスだ」
「あたしは一等級魔術師のアンタレス」
「俺は一等級僧侶のアルタイルです。魔術師さんの魔法で鍵括弧の後に(鷲)が付きます」(鷲)
「ちなみに、私は八等級勇者です」
「勇者だけは完全になめきっておるな。いいだろう!ぶっ潰してくれる!!」
「あ、それ賢者の言うことじゃないですよね」
「黙れ八等級が!」
「あ、ストレートに傷付きましたよ私」
こうして、4対173の大戦争は始まった。
「そういえばさっきレベルを量ってみたんだけど、大きいものから60、50、40、30だって」
「強いじゃん」
「八賢者ですからね」
レベルが高いのは、60のウラヌス、ネプチューンと、50のジュピター、サターン、アース、シルヴァーだ。
「まずはこちらから行くぞ!」
大赤斑の法衣を着た賢者、ジュピターが叫び、空が厚い雲に覆われる。
「何あれ?」
「俺に任せてください。ハァッ!」(鷲)
僧侶が右手を前に突き出した。すると、そこに雲が吸い込まれていき、黒い光に変わる。僧侶がそれをジュピターに向けて撃つ。
「ギャアア!!」
黒い光は放射状に広がっていき、八賢者全員を飲み込んだ。が、衛星までは届かなかったようだ。
「今の何?」
「殲滅魔法です。名付けて、ブラックホール!!」(鷲)
「また縁起の悪い名前を…。ブラックホールは、星が超新星爆発を起こして死んだ後にできると言われている天体ですよ。大量の放射能を発する高密度強重力のバケモノです」
「解説してないで、衛星倒すぞ」
衛星の皆さんは驚きのあまり動けないようだ。
「すみませんが、殲滅魔法は一回しか使えません。なので、後は自力でお願いしますよ」(鷲)
「わかった。上級爆発魔法を唱えておく」
「俺は一番強そうに見えるミランダと戦う」
「私は変な魔術で敵を弄びます」
「では俺は槍で貫いておきます」(鷲)
四人は前へ出る。魔術師が起こした大爆発で、いくらか衛星は減ってきた。
「何だこいつら、強え」
「そんなこと言っている場合ですかね。それっ」(鷲)
「うぎゃ!」
「こっちもですね。うりゃ」(鷲)
「ぽぎゃ!」
衛星たちはばったばったと倒れている。
一方、戦士とミランダは――
「お前は一等級戦士か。いいだろう。本気でかかって来るがよい」
「じゃあ遠慮なく」
「ギャア!!ホントに本気で来た!」
「当たり前だ。戦いに手加減はなしだ」
勇者は――
「お前が勇者KA☆ 潰してやるZE☆」
「すみません、聞こえませんでした。もう一回言ってください」
「おう、もう一回言ってやるZE☆
お前が勇者蚊☆ 潰してやる是☆
A、ARE?台詞が変だZE☆」
「はいお喋りタイムは終わり。散ってください」
「グギャア!」
そんな調子で意外に役立つようだ。
衛星の数は残り10。フォボス、ダイモス、カリスト、ディオーネ、ティタニア、ウンブリエル、プロテウス、トリトン、ネレイド、そしてシルヴァーだ。
「これ以上は好きにさせん…」
ウンブリエルが突っ込んでくる。
「何コイツ!静か過ぎて不気味なんだけど!ちょっと誰か、助けてよ!!」
「俺が行きます!うれぁぁ!!」(鷲)
「ガハァッ!」
「衛星は皆さん弱いですね」(鷲)
「そう言ってられるのもそこまでだ!」
次はティタニアだ。
「でかっ!超強そうなんですけど!」
「俺に任せろ!でりゃぁ!」
戦士が剣を一振り。すると、ティタニアは呆気なく地に倒れた。
「デカイ割には弱いんだな」
「おい、トリトン、ネレイド、私達もいくぞ!以上!」
「うし!行くぜ!異常!」
「異常ではない!以上だ!」
「わかったぜ!以上!」
「こいつらなんかムカつくから鎮めますね」(鷲)
「ギャア!」「ぐへあ!」「ぶふぉっ!」
「「「以上!!」」」
その調子で勇者達は衛星を次々に鎮圧していき、残るはシルヴァーだけになった。
「フフフ、ハッハッハッハ!!!お前らもここまで来たか。いいだろう。衛星の底力を見せてやろうか!!」
「何だコイツ、人格が豹変しやがったぞ」
「月の裏側の顔はクレーターだらけとは、よくいったものです」
「何その例え、意味わかんないんだけど」
「そもそもそれは、例えなのでしょうか?」(鷲)
「えーい、ゴチャゴチャ煩い!!」
「なんか怖いからさっさと鎮めようぜ」
「なめやがって!覚悟しろ!!」
「五月蠅い黙れこの狂人が!!」
「あっ!!ベテルギウスの怒りが爆発した!!『うるさい』の漢字表記が『煩い』から『五月蠅い』になってる!!」
「何ですかその地味な変わりよう」
戦士は剣を一度鞘に収め、ゆっくりとシルヴァーに向かって歩いていった。
「なめやがって!覚悟しろ!!」
「あーもう、その台詞いい加減に飽きた。二回も聞いたら飽きるわい!!砕け散れ!!!」
戦士が素早く剣を抜いた。その剣の軌道はシルヴァーに重なり剣に当てられたシルヴァーは、仰向けになって倒れた。
勇者達は八賢者と165の衛星との戦いに勝利した。
八賢者と衛星が立ち上がる。死ぬような傷は負わせていない。
「なるほど。お前達の力、認めよう」
「ということは!?」
「ああ。私達の力を授ける」
ジュピターは残りの七人の賢者を呼び、勇者たち四人を取り囲むようにして、それぞれ右手を上げた。
「天よ、この熱と冷の力をこのものに授けよ」
「天よ、この光の力を授けよ」
「天よ、この命の力を授けよ」
「天よ、この砂の力を授けよ」
「天よ、この風の力を授けよ」
「天よ、この氷の力を授けよ」
「天よ、この蒼の力を授けよ」
「天よ、この闇の力を授けよ」
「「「「「「「「天の力を、この者らに」」」」」」」」
勇者達の身体に光が降り注ぐ。どうやら、強大な力が備わったようだ。
「これで、強大な力を得ることができたんだろうな」
「うむ。これでお前らは兄弟な力を得た」
「強大な力だって!!」
「うそうそ。お前らにはちゃんと強大な力が備わっているよ」
「ビビらせんなよ」
勇者達は八賢者と衛星に礼を言い、そのまま魔王城に向かおうという話になった。
*
「アルキオネ、お腹空いた。カロリーの低くてお腹の膨れる食べ物出して」
「ないです」
「アルキオネ、面白い植物見つけた。カメラ出して」
「ないです。ってかそれ魔物ですよ」
「アルキオネさん、疲れました。暑いです。お腹もすきました。宿屋とクーラーと食堂出してください」(鷲)
「私の道具袋は四次元空間に繋がってるわけじゃないんですからそんなに大きいものは入りません!!!」
「使えない勇者だな」
「じゃあもっとRPG的な要求をしてくださいよ!!カメラなんか常備してる勇者なんて見たことありませんよ!!」
勇者達は、歩いて一ヶ月かかる魔王城の城下町に向かっていた。今は二週間目である。
「あと二週間ちょっとなんだから我慢してください」
「無理。お腹空いた。食べないダイエットは太るのよ!」
「知りませんよ!!」
「この植物は今を逃したら一生見れないかもしれないんだぞ!」
「あなた植物マニアだったんですか!!」
「疲れて暑くてお腹すいてもう死にそうです」(鷲)
「私にはどうにも出来ません!!」
「このダメ勇者ー」
「ダメ勇者ー」
「ダメ勇者ー」(鷲)
「…(この野郎後でつぶす!!)」
*
なんとかして魔王城の城下町に辿り着いてしまった勇者達。
「ここが魔物の町か」
「この町の魔物たちはみんな優しいらしいですよ」(鷲)
「信じられませんね」
城下町に入っていく勇者達。
「おう、こんな所に人間とは珍しいな」
「あっちに宿屋があるよ」
魔物たちが笑顔で話しかけてくる。
「魔物の笑顔って初めて見た。見慣れていないから気持ち悪いぜ」
「失礼なことを言いますね。聞こえてたらどうするんですか」
「俺の殲滅魔法で滅ぼします」(鷲)
「この子危険だから早く取り押さえてください!!誰か!!」
勇者達は変な話題で盛り上がりながら、休むために宿屋に向かった。
勇者達は宿屋に入る。
「信用できない」
「ああ、俺もだ」
「二人とも、入っていきなりそれですか」
「大丈夫ですよ。なにかあれば俺の殲滅魔法で――」(鷲)
「やめてくださいよ!!」
勇者達は一人100円の宿屋で4000円払って泊まった。
「待て、何で一人100円なのに4000円払わねばいかんのだ」
「見えない六人がいたりして」
「主人の計算ミスですかね?」(鷲)
「そんなわけないでしょう。十泊するんですよ。見えない六人はいないしここの主人は計算ミスしません」
勇者達はこんな調子で宿に泊まった。
*
魔物の町での生活、六日目。「早っ!」
「防具を買いに行こうぜ」
「そうですねぇ。発泡スチロールの鎧は溶けますし」
「発泡スチロールのローブも溶けそう」
「発泡スチロールの法衣のほうが溶けそうですよ」(鷲)
「俺の発泡スチロールの盾なんか間違いなく解ける」
「あ、みなさん発泡スチロールの防具使ってたんですか」
ということで勇者達は防具屋に向かう。防具屋はこの町にひとつしかない。普通か。
「へい、らっしゃい。お、人間の客とは珍しいねえ」
防具屋の店主(魔物)は、値段表(以下略)。
紙粘土の鎧 40円
紙粘土の盾 60円
紙粘土のローブ 80円
紙粘土の法衣 2円
「なめてんのかゴラ」
「今こそ、俺の殲滅魔法を使うときが「来ませんからね」…」(鷲)
「で、なにを買う?」
「仕方ねえな。それ全部くれよ。発泡スチロールよりは強いんだよな?」
「ああ。防御力+0.02だぜ!」
「弱えじゃねえか!」
「残念ですが、私達はそんなふざけた防具買いませんよ」
「あ、ああ。すまんな。品揃えが悪くて」
魔物は素直に謝ってくれた。いい人、じゃなくて、いい魔物である。
勇者達は何故か激しい罪悪感を覚え、宿屋に戻った。すると、宿屋の中に知らない魔物がいる。
「あれ?お客さんですか?部屋はもう空いてないようですよ。私達が最後でしたので」
「違います。私は行商人というものです」
「助かった!早く防具を売ってくれ!」
行商人は値(以下略)。
最強っぽい防具セット 80000円+税
うまい棒セット 1000円
「ふざけんなお前」
「え?普通ですよ?」
「最強っぽいセットって何だ」
「え、本当に最強かどうかわからなかったんで、“っぽい”をつけました」
「で、この+税ってのは何だ」
「最強税です。この町では、最強という文字のついたものを売るのに税を払わなければいけないんです。それで、この前商人で会議をしました所、もういっそのこと商品に税を加算させようという話になって」
「そうじゃない。どのくらいの金が加わるのか聞いてる」
「本体の値段の5%です」
「地球とかいう惑星の中の日本とかいう国の消費税じゃねえか!それで、うまい棒セットは何だ」
「うまい棒の100本セットで御座います」
「もうわかったよ。じゃあ、最強っぽい防具セットと、うまい棒セットをひとつずつくれ」
「どうも。85000円になります」
「ほいよ」
「まいどあり」
勇者達は最強っぽい防具とうまい棒を手に入れ、40%ぐらい満足気味だった。半分以上不満だけど。
「宿屋の中で89000円も使う勇者は初めて見ました」(鷲)
「うるさいですね。しかも私が使ったわけじゃありませんよ」
「4000円使いましたよね」(鷲)
*
なんだかんだあって、宿屋最後の夜。
「もう明日は魔王退治か。倒せるか心配だな」
「私達には強大な力が備わっていますから、大丈夫ですよ」
「でもわからない。あの賢者達あてにならないし」
「お腹がすくと思うのでキッチンを持っていきましょう」(鷲)
「それは不可能です」
「珍しい生物がいるかもしれない。カメラを用意しよう」
「寧ろ私達が珍しいですよ」
「低カロリーの食べ物も用意して」
「戦いにエネルギーは不可欠ですよ」
最後まで持ち物の話題でいっぱいな勇者たちであった。
*
そして夜が明けた。
「魔王城に乗り込むぞ。準備はいいか?」
「「勿論!」」「よくない!」(鷲)
「おいアルタイル、何かあったか?それより、お前空気読め」
「何でもありません。ボケてみたかっただけです」(鷲)
「お前は存在自体がボケだ」
てなわけで、勇者達は決戦の地へ向かおうとしていた。が、
「現在、魔王城は改築中です」
「なんだと!?」
魔王城は今工事中で、入ることが出来ない。
「いつまでかかるんだよ!」
「だいたい6億年後ですかね」
「待てねえよ!」
勇者達は一旦引き返す。
「どうする?」
「先に進めませんね」
「魔王の居場所は今どこかしら?」
「聞いてみましょう」(鷲)
勇者達は工事現場の人に話しかけてみた。
「すみませーん。魔王の…、ゴホン!魔王様の居場所を知りませんか?」
「魔王様は今玉座の間にいますよ」
「玉座の間ってどこですか?」
「あそこだよ」
その人、じゃなくてその魔物は、上を指した。
「ああ、あれか」
「遠いね」
「あそこまではいけませんね」
「眩しすぎてよく見えません」(鷲)
「大丈夫です。もうすぐ帰ってくる時間ですよ。あと十二時間くらいかな」
「待て待て待て。魔王は夜に活動する生物なのか」
「いつも活動していますよ。太陽ですからね」
「ソルだからですね」
勇者達は仕方なく、引き返そうとした。が、そこを工事の魔物が引き止めた。
「魔王様を倒しに行くんなら、四天王と呼ばれる魔物に会いに行くといいですよ。この森の奥にいます」
「普通に言っちゃったよこの人!普通その存在は隠しておくべきなんじゃないの!?」
「とにかくいってみましょう」(鷲)
勇者達は魔王城の奥にあった森の奥に歩いていった。
「ここが最奧部か」
「あ、何か四人の魔物がいますよ」
そこには四体の魔物がいた。三体は人型で、もう一体は足がない。
「話しかけてみましょうよ」
「十字キーで私を操作して、あの一番えらそうな男の人の前に立って、△ボタンを押せばストーリーが進行するんじゃないんですか?」
「これは自動で操作してくれないのね」
魔術師はどこからかコントローラーを取り出し、十字キーを押した。すると、勇者が歩き出し、四天王の中でも一番偉そうな魔物の前に立った。魔術師は△ボタンを押し、話しかけさせた。
「どうも。こんにちは。私は勇者というものです。魔王ソルを倒しに行きました」
普通そんなこといわねえだろ勇者。
「貴様は何だ。私達は魔王様をお守りする四天王であるぞ。さっさと立ち去れ」
「それはなりません。私達は魔王を倒すためにここまで歩いてきたんです」
「何だこの変わった勇者は!仕方ない。潰してやろう。行くぞ、カノープス、アークトゥルス、ベガ」
四天王が四人並んだ。
「これは戦闘になるパターンですね」(鷲)
「なかなか強そうです」
四天王の中で一番弱そうな魔物が前へ出た。
「私たちとの戦いは、一対一の一騎打ちにしましょう!一番美しい戦い方です!」
「何ですかこいつ、気持ち悪いですね。俺が相手をしてやりましょう」(鷲)
「私の相手はこの少年君ですか。私はベガ。四天王の中で一番美しい魔物です」
「気持ち悪いですね。反吐が出そうです。で、俺はアルタイル。一等級僧侶です」
派手な格好をした気持ち悪い魔物対僧侶アルタイル
「アルタイル、今ベガのレベル量ったんだけど、93だって!カペラより弱い!」
「殲滅魔法で一撃ですよ」(鷲)
「よかったですねアルタイルさん。殲滅魔法をぶっ放せますよ」
「それでは、美し~い戦いを、始めますよ☆」
「目障り且つ耳障りなやつですね。消し炭にしてやりましょう!!」(鷲)
それ正義側の人間が言う台詞じゃないよね。
「殲滅魔法を食らえ!!」(鷲)
僧侶は黒い光を放つ。が、ベガは素早く回避する。
「美しくない技ですね。なら、これを受けなさい!」
ベガが光の矢を発射する。僧侶は避ける。
「魔物に似合わない技ですね。本当の魔というのを教えてやりましょう」(鷲)
僧侶は目の前に黒い円盤を発生させ、その中央に槍で穴を開けた。
「嫌な予感がしますね」
「散れ!!」(鷲)
円盤の中央の穴から青白い光が飛び出し、ベガに当たる。ベガは数メートル先に吹き飛ばされた。
「よくもやりましたね。今度はこちらの番です。かくごグべっ!!」
僧侶が槍の柄で殴ったようだ。
「不細工ですね。塵にしてさしあげましょう!!」
「それはこっちの台詞ですよ」(鷲)
ベガがさっきよりも太い光の矢を大量生産し、僧侶に向かって飛ばす。僧侶はそれを避けつつ、ベガに近付く。
「琴座の魔物よ、ここに滅せよ!!」(鷲)
ベガの前に立った。僧侶が槍を正面に構え、素早く前に突き出す。その槍はベガの身体を貫いた。
「これで私も終わりのようですね。ですが、四天王は残り三人。私はここで死にますよ。美しく。
死に際はいかなる時でも美しく!!」
ベガはそう言って仰向けに倒れた。
*
「ベガが死んだか。まあ良い。次は誰だ?」
「私が行きましょう」
「勇者か。おい、アークトゥルス、お前の番だ」
「絶望サセテヤル」
アークトゥルスと呼ばれた魔物は、大きな鎌のようなものを持っていて、何より、足がない。
「アークトゥルスは死神ですか。元の意味では熊を守るものだったんですがね」
「知ラン」
「あ、こっちの話ですよ。気にしないで下さい」
「おーい、こいつのレベルは159だよー!!」
「強っ!負けたらごめんなさいね!!」
死神対勇者アルキオネ
「私は八等級勇者のアルキオネです」
「八等級?ナメヤガッテ!殺ス!!」
アークトゥルスが鎌を振り上げて襲い掛かってくる。移動は浮遊で、速い。
「速っ!」
勇者はかわすが、すぐに次の一撃が来る。
「攻撃する暇がありませんよ」
勇者といっても所詮八等級だ。
「八等級勇者!!死ネ!!」
「あ、今八等級って言いましたね。そろそろ真面目に戦い始めますよ」
「フザケヤガッテ!!」
「こう見えても魔法の一つや二つぐらいは使えますよ」
勇者は一度立ち止まり、手の平に全神経を集中させ、力を入れる。
「いったぁ!!!手ぇつった!!!」
「アホかお前。勇者だろうが。ほら、死神が来たぞ」
だが、手を攣るほどの力を手の平に込めたので、そこから大量の光の矢が飛び出す。しかも痛くて勇者が暴れまわっているため、乱射される。
「ナニッ!!グワァァ!!!」
死神は一度後ろに下がる。相当なダメージを与えたようだ。
「グゥゥ。オ前、嫌イ。ココデ殺ス」
死神が本気モードに移行したようだ。
「いたたたたた!!!」
「まだ痛がってんのかよ!!情けねえなあ」
「でも本当に手を攣ったら痛いですよ!!物凄く!!」
わかるわかる。某も攣ったことあるから。
「てか戦闘の描写をしてくださいよ!!」
死神が鎌を持っていない左手を出し、そこから黒い光が飛び出す。
「残念。手はまだ攣っていますから、魔法の効果は残っていますよいたたたた!!!」
光の矢の魔法が暴発して、勇者と死神にダメージを与える。勇者はそれほどでも無さそうだが、死神の方はかなりのダメージを受けている。勇者は手が攣った方が痛がっている。
黒い光は光の矢で相殺した。
「グワァ!貴様、強イ…ナ…」
死神はその場に倒れる。
「とどめです。いい加減に死んでくださいね。死神ですから」
勇者は死神の身体に剣を突き立てる。
「ガハァッ!!!!!」
*
残るは二体。
「四天王も残り二人か。二人負けてしまったが、ここからはそうはいかんぞ!!次はこの俺、一等級戦闘員のカノープスだ!!」
「ほう、一等級戦闘員か。面白い。一等級戦士のベテルギウスが相手をしてやろう」
「ふん。赤色超巨星か。お前ごときがこの俺に勝てると思うなよ!!」
「お前は白色超巨星だな。必ず勝ってやるぜ」
「レベル200だって」
「あなた空気読んでくださいよ」
一等級戦闘員対一等級戦士ベテルギウス
「まずはこちらから行くぞ!!」
カノープスが自慢の斧を振りかざして突進してくる。
「重そうだな。少し軽くしてやろうか」
戦士が素早く鞘を払う。居合い切りだ。カノープスが後ろに仰け反る。
「生意気なッ!!!」
カノープスが体制を整え、斧を構えて横に振った。戦士は少し後ろに下がるが、斧の先が掠る。
「覚悟しろ!!!」
カノープスが斧を物凄い速さで振る。とても人間の業とは思えない。人間じゃないからいいんだけど。
戦士は斧の餌食にならないように逃げ回る。避けると同時に、カノープスが疲れるのを待つ作戦だ。
「おのれちょこまかと!!!」
斧に当たった木が倒れる。
「おのれぇぇぇ!!!!!」
離れているはずなのに、体が斬られる感触がある。風が刃となって襲い掛かってくるのだ。
カノープスが疲れてきたらしく、動きが鈍ってきた。
「今だ!!!」
戦士は剣を振りかざしてカノープスに近付く。
「食らえ!!!」
「なッ!!後ろからだと!?」
戦士は剣を振り下ろし、カノープスを叩き切った。
「ぐわぁぁぁぁ!!!!!」
カノープスは後ろに倒れる。
*
「ついに四天王も私一人になってしまったか」
「最後に一等級魔術師、アンタレスが四天王を滅ぼす!!!」
何でこのパーティの人たちは悪役っぽいことを言うのだろうか。
「ふん、下らん。この一等級魔導師のシリウスが全てを壊してやろう」
「おっ、魔術師対魔導師の対決か」
「気をつけてくださいよ。シリウスは視等級-1です。超強いですよ」
「わかってる。レベルを量ったら501だった」
「何だそれ、半端ねえな」
「数字自体が中途半端ですけどね」
一等級魔導師対一等級魔術師アンタレス
シリウスは人間と殆ど変わらないような感じだ。
「まずはこちらから行くぞ!!」
シリウスの手から黒い煙が発生し、それが固まって黒い円盤がいくつもできる。
「これは俺が作った円盤に似ていますね」(鷲)
円盤の中央に穴が開き、そこに青白い光が見える。
「滅せよ!!!」
中央の穴から青白いレーザー光線が飛び出す。それが10本ほどあるため、避けることは困難である。
「あ、俺のパクッた!」(鷲)
アンタレスは結界をはって光線を防ごうとするが、光線は横からも後ろからも飛んでくる。
「くっ!」
光線は高温で、高濃度の放射能を含んでいるため、かなりのダメージになった。
魔術師は火の魔法で反撃するが、シリウスは水の魔法で相殺する。次に魔術師が風の魔法を放つが、シリウスは地面を盛り上げる魔法でそれを防ぐ。
「強い」
魔術師が攻撃の手を休める。一方、シリウスは剣を抜く。
魔術師は水の魔法と火の魔法を同時に出した。シリウスは剣を横に振り、水の魔法と火の魔法を寄せ合わせて、消した。
魔術師が爆発魔法を放つ。が、その煙に紛れて風の刃が魔術師を切り裂く。
「これ無理!勝てない!」
魔術師が必死に叫ぶ中、勇者達は水筒の水を飲んでいる。
「ちょっと!水分補給なんかしてないで助けてよ!」
「えー、だって一対一の真剣勝負だろ?」
「水分補給しないと熱中症になってしまいます」
「一人で頑張ってくださーい。俺らの戦闘終わったんで」(鷲)
「えーヒドイ!!」
勇者達は顔を見合わせた。
「どうしようか」
「助けに行きます?」
「もう四天王は残りシリウスだけですし」(鷲)
「行きますか」
魔術師がシリウスと激しい魔法の打ち合いをしている中、勇者たち三人が乱入する。シリウスはそれに気付かない。
「ほれ」
「とう」
「散れェェェッッッッ!!!」(鷲)
勇者達はシリウスに後ろから攻撃する。
「ぐわっ!何だと、乱入か!?」
「黙れ」
「粉砕しますよ」
「粉薬にしますよ」(鷲)
「がっ!貴様ら!!」
シリウスが勇者達の方を向く、その隙を見て魔術師が適当に魔法を乱射する。それは見事にシリウスに当たった。シリウスは呆気なく地に倒れる。
起き上がった。
「貴様ら、どうやら死にたいらしいな」
「ギャアア!!本気モード移行だぁぁ!!」
「早く潰しましょう!」(鷲)
「ベテルギウスさんは正面、アンタレスさんは何でもいいからベテルギウスさんに当たらないように魔法、アルタイルさんは遠くからレーザー光線か殲滅魔法でお願いします!!」
戦士は立ち位置を変えずにシリウスの相手をする。シリウスは剣の腕もなかなかのものだ。
魔術師は少しはなれて戦士にぎりぎり当たらないように火の魔法を放つ。
僧侶は遠くに離れてレーザー光線の準備をする。
「まとめて滅ぼしてやる!!」
シリウスも戦士から離れて殲滅魔法の準備。殲滅魔法の方がレーザー光線よりも早く準備が完了したようで、シリウスが先に魔法を放つ。
「危ない!!」
魔術師は僧侶の前に結界を張る。
「ちょっ!俺も助けろ!ぐわぁぁ!!!」
「ベテルギウスさん!!」
戦士が何処かに飛ばされた。
「今は仕方がないです。アルタイルさん!準備は!?」
「バッチリですよ。放ちますから結界を解いてください」
「解いたよ!」
「レーザー光線発射ぁ!!!」(鷲)
僧侶の前の黒い円盤から青白いレーザーが放たれる。
「なっ、ぐわあああぁぁぁっっっ!!!!!あぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」
「まだですね。出力を最大にします!」(鷲)
「がぁぁぁぁ!!!!!!」
シリウスは2メートル30センチ5ミリ飛ばされて、そのまま動かなくなった。
「何でそんなに詳しく!?」
「それより、シリウスはどうなったの?」
「大丈夫ですよ。あの程度の攻撃なら、致命傷にはなりません」(鷲)
こうして四天王との戦いは幕を閉じた。
「何その物語終わったみたいな文!!」
*
勇者達は四天王たちとの戦いに勝利し、魔王の登場を待った。
「まだ日没まで三時間ありますよ」
「俺、そこら辺の生物観察してくる」
「魔力回復アイテム探してくる」
「木陰で休んでます」(鷲)
「あなた何かしてくださいよ!!」
*
勇者達は、体力も魔力も全回復させ、魔王の登場を待っている。
「なかなか来ないな。もう日は沈んだというのに」
そして待つこと三十分。
「なかなか来ないんだけど」
「もう少しで来ますよ」
「それ聞くの十回目なんだけど」
「あ、あれみろ!何か降ってくる!!」
空を見ると、赤い色をした巨大な球体が降ってくる。
「待て、あれでかすぎだ。あれが魔王だってのか?おかしいだろ!太陽よりも俺の元になっている恒星の方が800倍もでかいんだぞ!!」
「はいはい。豆知識はいいですから、戦闘の準備をしてください」
球体(魔王ソルだと思われる)が地につき、地面が大きく揺れ、鼓膜を破らんばかりの轟音を立てる。触れた森の木は塵になって、風に舞う。
「あれが魔王」
魔王の体からは炎が噴き出していて、その下の地面は焼け焦げている。
「我は魔王なり。よくここまで来たな。だが、貴様らもここまでだ」
魔王の声は森中に木霊する。
「はい。はじめまして。私は勇者をやっています、アルキオネともうします。あなたを倒しに参りました」
「何だそのふざけた自己紹介は!!なめやがって!!この世界ごと滅ぼしてやる!!!」
魔王は地面を離れた。つまり、浮遊している状態になった。
「熱っ!近付けねえよ!」
「魔王の名は伊達じゃないみたいですね」
「殲滅魔法が今なら使えます」(鷲)
「じゃあお願いしますね、アルタイルさん」
「準備ができるまで魔王を引きつけて下さい」(鷲)
「こんなでかさじゃ一瞬で死にますよ!」
「そもそも熱くてひきつけられねえし」
「さっき魔王に触れてた地面に穴が開いてるんだけど」
「それじゃあひきつけるのは無理ですね。仕方ないです。注意を引き付けて下さい」(鷲)
「それも無理ですよ。あんなやつとまともに戦ったら間違いなく塵になります」
「じゃあ何とかしてください」(鷲)
「具体例を示してくださいよ!!」
「面倒くさいから自分で考えてちょ」(鷲)
僧侶は逃げるように後退した。勇者達は魔王と向き合い、魔王のでかさに身体を震わせた。戦士は冷や汗が身体中から噴き出し、鳥肌が立ち、足が震えて今にも倒れそうである。
「ちょっと、どうにかしてよ」
「無理」
「同感です」
魔王は灼熱の吐息を勇者達に吹きかける(つもり)。
「あちぃぃぃぃぃ!!!」
「焼ける!!」
「本当に良かったですよ発泡スチロールの鎧じゃなくて!!」
「凡愚どもめ、焼け死ね!!」
それにしても、魔王の威圧感は半端じゃない。ここに一般人を連れてきて、木に縛り付けて逃げられないようにすれば、これを見ただけで死ぬだろう。
「ハァァッ!!!」
魔王の体から溶岩が噴き出す。
「何これ、バケモノじゃん!!」
「そりゃ魔王ですからね!!」
「三人とも、結界の後ろに隠れて!!」
魔術師が結界を張ったようで、勇者達はその後ろに隠れる。
「小癪な!!」
魔王の体から火の玉が飛び出す。特大だ。結界はガラスが割れるときのような音を立てて破れた。
「アルタイルさん!!殲滅魔法の準備は?」
「まだまだです!!」(鷲)
「やばい。強すぎる。これが魔王か」
「地獄の焔を見よ!!」
魔王が地面に足をつけ(※あくまでも魔王のイメージです。魔王には足など御座いません。)、地面から青い炎が発生する。
「ちょ、炎が広がるんですけど」
「これは青い炎だから高温ですね」
「結界張っても破られるよ」
勇者たちは炎を避ける。が、炎が広がっていくのと、魔王が近付いてくるので、動ける範囲が狭まってくる。
「やばい。アンタレス!何でもいいから攻撃しろ!」
「わかってるよ!!」
魔術師が水の最上級魔法を魔王に向かって三度放つ。3メートルの水球を相手に叩きつける攻撃だ。だが、水球は魔王に届く前に蒸発し、無色透明の気体と化した。
「全然効かないんだけど!」
「アルタイル!殲滅魔法はまだか!」
「もう少しです!もう少し、耐えてください!」(鷲)
「魔王が来るんだけど!」
「焼失させてやろう」
魔王の体から再び溶岩が噴き出す。溶岩は僧侶の所へ飛んでいく。
「準備完了です!行きますよ!特大殲滅魔法、ブラックホール!!」(鷲)
黒い光が放射状に広がり、その軌道上の物質を全て破壊しつくす。
「危ね!危うく巻き込まれるところだった!」
破壊されるのは、魔王とて例外ではない。魔王すらも黒い光に飲み込まれる。そこからは、赤い炎が噴き出しているのがわかる。
「ぐわぁぁ!!これは、殲滅魔法、か!!?」
「そうです。ブラックホールに飲まれ、潰れなさい!!」(鷲)
「そんなこと…」
魔王から噴き出す炎が更に激しくなる。
「ムダだ!!!!!!!」
黒い光が周囲に散った。その光に包まれていた魔王は、少し形が凹んではいるが、依然としてその威厳を保っている。
「遊びは終わりだ。殺してやるよ」
「嘘だろ…?」
魔王は、形を変えて、巨大な炎の竜に変化した。
「あ、待て、これよく見たら竜じゃないぞ。これは、蛇だ。竜によく似た蛇だ」
「蛇ですか!でも、強いことは変わりませんね」
「死ねぇェェ!!!」
魔王が口から卵のような形をした炎を吐き出した。
「何これ!?卵飲み込むときの逆再生!?」
「ふざけてられるのもここまでだ!」
卵がいきなり爆発した。爆発は、魔術師の使える最上級爆発魔法よりも範囲が広く、威力も倍以上ある。
「何コイツ!無双じゃん!!」
「アルタイルさん!殲滅魔法は使えますか!?」
「魔力が足りなくて使えません!!」(鷲)
勇者はそれを聞くと、道具袋から魔力回復アイテムを取り出し、アルタイルに向かって投げた。
「これでもう一度殲滅魔法を放てるはずです!!」
「ありがとうございます!今度は最大の殲滅魔法を放つんで、時間稼ぎしてください!!」(鷲)
魔王は蛇の形になったため、いくらか動きやすくなっている。
「魔王め!こっちへ来い!皮を剥いで財布に入れてやる!!」
「ならよい!貴様の財布を燃やしてやろう!!」
「何この会話!!」
魔王が戦士に突進する。戦士はそれをギリギリでかわす。
「残念だったな!俺の財布はさっき落として失くしちまったぜ!!」
「お気の毒だな。それでは死ね!!!」
「だから何なのその会話!!」
魔王が口から青い炎を噴き出す。そして一回転する。
「あちっ!」
「ちょっと!巻き添え食らったんだけど!」
「私の靴が燃えました!!」
「ハハハハ!!もう片方の靴も燃やしてやる!!」
魔王はまた火を噴き、さっきとは逆に回転する。
「どうしてくれるんですか!!道具袋から零れた薬草が燃えましたよ!!」
「ハハハハハハ!!次は道具袋が消える番だ!!」
「殲滅魔法の準備が整いました!!」(鷲)
「おっ、丁度いいタイミングだな。行け!放て!」
「最大出力のブラックホール、発射!!」(鷲)
黒い光は更に黒みを増して、魔王に襲い掛かる。が、魔王はそれを掻き消す。
「無駄な足掻きをするな」
勇者達は驚きのあまり、何もすることができない。
「嘘だろ?殲滅魔法が全然効かないなんて」
「どうしましょうか」
「もう諦める?」
「打つ手なし、ですか」(鷲)
「グハハハハ!!!我に挑んだことを地獄の底で公開するがいい!!」
「え!?後悔じゃなくて公開!?」
「おっ、アルキオネの突っ込みを聞いたら何だか勇気がわいてきたぞ」
「何それ、あんただけじゃないの」
「俺もそう思います」(鷲)
魔王の口に青い炎がたまっている。
「吐き出されて終わるぞ。どうしようか」
青い炎が吐き出された。炎は勇者たちを襲おうとする。が――
「邪魔だ、どけ!!」
誰かが急に、勇者達の前に立って青い炎を防いだ。
「お前は確か」
「あ、四天王の四人目、シリウス」
「別に私は貴様らを助けるつもりで来たんじゃないからな」
「でも、どうして」
「アンタレス、と言ったな。お前との決着はまた今度だ。今はこの怪物を先に片付ける」
「あんただって怪物でしょうが」
青い炎が周囲に散る。
シリウスが魔王に近付き、特大の水の魔法を放った。
「なっ!!シリウス!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
魔王はその場に倒れた。体から出ていた炎はおさまった。
「魔王、お前にはここで死んでもらおうか」
「何故だ…、何故だ、シリウス…。何故、この我を、裏切っ……」
「終わりだ。この世界から去れ!!」
シリウスは、少し離れてから殲滅魔法を使った。
「ぬっ!!ぐあっ!!ぁぁぁぁ!!!!ぬぅおぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
*
光が消えた後、魔王はそこにはいなかった。地面に、小さなミミズがいるだけだ。
「ぎゃっ!ミミズ!」
魔術師が遠くへ逃げた。
「これが、魔王の本来の姿だ」
「本来の姿?」
「そうだ。魔王は本当は、小さなミミズの魔物だった。だが、いつだったか、空から九つの光が降ってきた。その中の一番明るい光が、こいつの身体に落ちてきたんだ。それが、太陽の力だったって訳だ。で、残り八つの光はどこに行ったかわからんが、八賢者になったらしいな」
足元にいるミミズはとても小さい。普通のミミズが縮んだ時よりも、もっと小さい。ミミズはそこから、小さな声を出していた。
「体は滅びようとも、我が魂は滅びぬぞ」
「いいえ、あなたの魂は、ここで滅びます」
突如、八賢者が現れる。
「あなたの魂は、今、ここで滅びます」
「なっ、何を言う!貴様らと我は同じ存在だ。我が滅びようものなら、貴様らも共に滅びるぞ!」
「構いませんよ。元々、そのための存在ですから。今までたくさんの宇宙を回ってきました。この前の宇宙は、太陽が膨張し始めた頃の宇宙でしたね。ですが、今回は太陽がまだ膨張する前の宇宙。あなたを滅ぼすことは、至って簡単ですよ」
「訳のわからないことをほざくな!」
勇者達は唖然としてそのやりとりを見ている。
「太陽の力はすでに抜かれたはずです。私達は、元の世界へ帰ることが出来ます」
「貴様らはまだ八賢者だ。八賢者のままだ!元の世界へ帰すなど、あってたまるか!」
勇者達は会話の意味がまったく分からずにいる。
このままわけのわからない会話をしていて文字数が足りなくなりそうになるだけなので、ここで少し解説をしよう。
八賢者とこの魔王の魂は、解るとおり、太陽系の惑星と太陽である。この賢者達は、宇宙空間から抜け出した太陽の魂を追って、ここまで来たのである。つまり、太陽を元の宇宙空間に帰しに来た。太陽のない状態だと惑星達は軌道を無視してどこまでもとんでいき、ついには滅びてしまう。それを阻止するため、惑星の魂が賢者となったのである。
この前の宇宙、とは、簡単に言えば平行世界である。複数の宇宙でこのようなことが起こっているため、賢者達は複数の宇宙空間の惑星の魂を乗り換える必要があった。
「私達の使命は、この宇宙空間で最後になります」
今までたくさんの宇宙を回ってきた賢者達だが、太陽のなくなった太陽系は、今のところこれで最後である。これから先のことは、全て他の宇宙空間の賢者に任せる。
「まだだ、まだ、暴れ足りぬ!」
「あと何億年もすれば、あなたは暴れられますから、今は帰りましょう。銀河系の中で、今は太陽系だけが抜けている状態です。もう、帰りましょう」
「ぬ、ぬあぁぁぁ!!!!」
一瞬、強い光が放たれ、八賢者が消えた。
*
“あの”戦いから三年が経った今、アルキオネは八等級の恒星のくせに、一等級の恒星がやる仕事をやらされている。
「王様、城も随分と明るくなりましたね」
「ああ。魔王がいなくなったからのう。お前が魔王を倒したのは確か、三年前だったかのう」
「ええ。あの時は大変でしたよ。巨大な魔物と戦ったんですから」
「そういえば、魔王の蛇皮は取ってきたか?三年間訊くの忘れてたが」
「取れませんでしたよ。ミミズでしたから。それより、三年間も訊くの忘れてたってすごいですよある意味!!」
ベテルギウスは、武器を捨てて、魔王軍直轄地であった場所の生物の研究をし、学会に認められた。
アンタレスは、まだ魔術の修行に励んでいる。アンタレスは料理が苦手らしく、時々家にシリウスを招いて作らせている。今日もその日だ。
「お前の家に強制収容されるのは142回目だな」
「何それ。独裁者に連れてこられたみたいな」
「おっと、ユダヤ人とやらはそんなこと言わないらしいぞ。そもそも、141回も毒ガスを吸って死なずに、それでも元気に142回目と言うのはさすがにバケモノだぞ」
「あんたもバケモノでしょうが」
「うるさいな」
「この三年間、言うのを忘れていたが、あの時の勝負はまだ終わっていないからな。その時が来たら、お前に一番相応しい方法で殺してやる」
魔王もまだ生きている。と言っても、今では普通より小さいミミズだが。
魔王は、とある農家の所にいって、畑の土をよくする肥料を作っている。普通のミミズの仕事だ。
アルタイルは、アルキオネの元で働いている。
「アルキオネさん、ひとつ気になったことがあるんですけど」(鷲)
「何ですか?」
「シリウスが魔王を裏切った理由って、なんだったんでしょうね」(鷲)
「知りませんよそんなこと」
「あと、今までは視等級で強さが決まるみたいな感じでしたけど、本当は、太陽なんかよりも俺やシリウスやベテルギウスさん、アンタレスさんの方が明るい恒星ですよね」(鷲)
「だから魔王に勝てたんですね」
「ていうかこれって、」(鷲)
「何ですか?」
「超ハッピーエンドじゃないですか」(鷲)
こんなクソ長ったらしい話を読んでいただきありがとうございます。最後のほうは笑いの要素を盛り込むのが難しかったです。ていうか盛り込めてない気が。
それでは早速設定集。というか出演者紹介。
勇者:アルキオネ
年齢;19 恒星階級;八等級 職業;勇者 性別;男
たまに生意気になる人です。人かどうか分かりませんが。
元ネタは、八等星のアルキオネCです。視等級+8.30。
「さあ?近付いて話しかければいいんじゃないですか?ほら、十字キーで私を操作して、魔物の前に立ったら△ボタンで話しかけましょう」
戦士:ベテルギウス
年齢;33 恒星階級;一等級 職業;一等級戦士 性別:男
とあるシーンの変な発言は、勇者の魔法を紹介するためだけのもので、本人の意思ではないようです。
元ネタはオリオン座一等星のベテルギウス。太陽の約800倍の大きさの赤色超巨星です。
「お前は白色超巨星だな。必ず勝ってやるぜ」
魔術師:アンタレス
年齢;23 恒星階級;一等級 職業;一等級魔術師 性別;女
アルタイルの次に活躍したみたいですね。
元ネタはさそり座一等星のアンタレス。視等級平均1.09。
「ぎゃっ!ミミズ!」
僧侶:アルタイル
年齢;15 恒星階級;一等級 職業;僧侶 性別;男
殲滅魔法と、ブラックホールのジェット噴射を操れる僧侶さん。
元ネタは鷲座のアルタイル。視等級0.77。地球から見て太陽を除いて12番目に明るい星。
「殲滅魔法です。名付けて、ブラックホール!!」(鷲)
敵キャラ1:DEN 0255-477
年齢性別共に不詳。
元ネタは、最近観測された、とても暗い褐色矮星。
敵キャラ2:北落師門
年齢性別共に不詳。
ゴーレム型のモンスター。
元ネタは、みなみのうお座のアルファ星のフォーマルハウト。北落師門は中国語です。
ボス1:カッカブ
年齢不詳 職業;魔窟のボス 性別;男
カッカブは喋る時にカタカナになってしまう魔物です。
元ネタはおおかみ座のカッカブ。実際の年齢は214歳程度だとか。まだまだ若い恒星です。ちなみに視等級は+2.30。
「ウルセエ!コイツ、ナマイキナヤツダナ!モノドモ、ヤッチマエ!!」
ボス2:カストル、ポルックス
年齢性別共に不詳。 職業;カペラの部下
双子の魔物。
元ネタはふたご座のアルファ星、カストルと、ベータ星、ポルックス。ポルックスの方がカストルよりも明るい恒星です。
「グガア!」
「ゲギャア!」
ボス3:カペラ
年齢;38 恒星階級;一等級 職業;魔王の部下 性別;男
他に強い魔物がたくさんいるのに「魔王の左腕」とか、「冥王」とか言われている魔物。何故そうなったかは不明。変身後はカラス。
元ネタは、ぎょしゃ座のカペラA。地球から見たらアルタイルよりも明るい一等星です。
「何度来ようともムダだ!散れ!」
八賢者1:マーキュリー
年齢不詳。職業;賢者 性別;男
水星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、水星。太陽に最も近い。
「次は私ですね。私は八賢者の中で一番魔王ソルに近いとされている、マーキュリーです」
八賢者2:ヴィーナス
年齢不詳。性別;女
金星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、金星。硫酸の雲に覆われた灼熱の星。
「私は八賢者の中で一番美しいとされている、ヴィーナスです」
八賢者3:アース
年齢不詳。性別:男
地球の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、地球。まあそんな感じです。
「次に私だな。私は八賢者の中でもたくさんの生命力を生み出すことができきる、アースだ」
八賢者4:マーズ
年齢不詳。性別:男
火星の力を得た賢者。
元ネタは太陽系の惑星、火星。酸化鉄の色に染まった星。
「私は八賢者の中で、アースの次に生命力を生み出すことができると信じられているマーズです。どうぞお見知りおきを」
八賢者5:ジュピター
年齢不詳。性別;男
木星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、木星。一番大きいが密度が小さい。でも何気に土星のほうが密度が小さい。大気に大赤斑が見える。
「うむ。これでお前らは兄弟な力を得た」
八賢者6:サターン
年齢不詳。性別;男
土星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、土星。大きな環を持った天体。
「最後にあっしだな。あっしは、八賢者の中でも一番目だってわかりやすい、サターンだ。へっへっへ」
八賢者7:ウラヌス
年齢不詳。性別;男
天王星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の惑星、天王星。自転軸が横に大きく傾いている。
「勇者だけは完全になめきっておるな。いいだろう!ぶっ潰してくれる!!」
八賢者8:ネプチューン
年齢不詳。性別;男
海王星の力を得た賢者。
元ネタは、太陽系の天体、海王星。青く見えるのは大気にメタンを含んでいるから。大気には大黒斑が見られる。
「次は我なり!我は八賢者の中で一番赤いものが効かない、ネプチューンだ!」
衛星:シルヴァー
年齢不詳(以降、これを略します)。性別;男
アースの衛星。二重人格。
元ネタは月。裏はクレーターだらけ。
「なめやがって!覚悟しろ!!」
衛星:フォボス、ダイモス
性別;どちらとも男
マーズの衛星。
元ネタは火星の衛星。
「次は俺達だぜぃ!俺はマーズ様の衛星のフォボスだ!」
「んで俺がダイモスだ」
衛星:イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト、他
性別;カリスト以外男。その他は知りません。
ジュピターの衛星。
元ネタは木星の衛星。全部で63個ある。
「次は俺様、イオの番だZE☆」
「いや、紹介は俺、エウロパが引き受ける」
「俺だろ俺。なんたって俺はガニメデだぜ?」
「えーいうるさい!そんなものは私、カリストに任せておけばよいものを!」
「お前は出しゃばんなぁぁ!!」
衛星:タイタン、テティス、ディオーネ、ハイペリオン、
エンケラドス、ミマス、イアペトゥス、他
性別不詳。
サターンの衛星。
元ネタは土星の衛星。全部で59。
「「「「「「「次はサターン様の衛星、[タイタン/テティス/ディオーネ/ハイペリオン/エンケラドス/ミマス/イアペトゥス]だ!!!!!!!」」」」」」」
衛星:ミランダ、ティタニア、ウンブリエル、他
性別;男 他は知りません。
ウラヌスの衛星。
元ネタは天王星の衛星。ミランダは、深い傷が無数にある衛星。ティタニアは、天王星の衛星の中で一番大きい。ウンブリエルは暗い天体。全部で27。
「お前は一等級戦士か。いいだろう。本気でかかって来るがよい」
「これ以上は好きにさせん…」
「そう言ってられるのもそこまでだ!」
衛星:プロテウス、トリトン、ネレイド、他
性別不詳。
ネプチューンの衛星。
元ネタは海王星の衛星。全部で13。
「おい、トリトン、ネレイド、私達もいくぞ!以上!」
「うし!行くぜ!異常!」
「異常ではない!以上だ!」
四天王1:ベガ
年齢;16 レベル;93 職業不明。性別;男
美しい物好きの四天王。
元ネタはこと座のベガ。視等級0.03。
「それでは、美し~い戦いを、始めますよ☆」
四天王2:アークトゥルス
年齢;46億 レベル;159 職業;死神 性別不詳。
凶悪な四天王。
元ネタはうしかい座の恒星、アークトゥルス。太陽とほぼ同年齢。本来の名前の意味は、「熊を守るもの」。
「八等級勇者!!死ネ!!」
四天王3:カノープス
年齢;43 レベル;200 職業;一等級戦闘員 性別;男
好戦的な性格。
元ネタは、太陽を除いて、地球から2番目に明るく見える星、カノープス。りゅうこつ座。
「生意気なッ!!!」
四天王4:シリウス
年齢;24 レベル;501 職業;一等級魔導師 性別;男
魔王との因縁関係は未だに不明。
元ネタは、おおいぬ座のシリウスA。太陽を除けば、地球から見える星で一番明るい。視等級は-1.47。
「この三年間、言うのを忘れていたが、あの時の勝負はまだ終わっていないからな。その時が来たら、お前に一番相応しい方法で殺してやる」
魔王:ソル
年齢;46億 レベル;46億 職業;魔王 性別;男
魔王。すなわちラスボス。第一形態は太陽と同じ球体で、第二形態は蛇の姿。本当の姿はミミズ。
元ネタは太陽。視等級-28程度。地球から見て一番明るく見える恒星。
「なっ!!シリウス!!貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
本当に、本当にありがとうございました。