『タウロス討伐任務』開始前
今回ちょっと短めです
「市民要請って何でしょう?」
部屋に戻って、装備などの準備をしている間に、イスさんに聞いてみた。
「ん? ああーフェンリルちゃんは知らないかー」
と、イスさんが短剣の手入れをしながら答える。
「市民要請っていうのはさ、そのまんまの意味で市民から寄せられた警備隊じゃ対応出来ないような重い案件を代わりに軍部が請け負う作戦かな。基本的に警備隊による暴動の沈静の援護や魔物の討伐なんかをやってるの。たまに捜索任務もするけど」
「なるほど…」
「ちなみに軍部からの報酬に加えて依頼者からもお礼貰えたりしてやってて意外と悪くないよ〜」
「あはは……そうなんですか……」
正直それはどうでもよかった。
「ところで、イスさん。レイピアはいいとして私装備どうしましょう……?」
もう一つのハンドガンは訓練の時に魔法を放つと同時に得物を投げつけるという荒技を披露してからは使うのをやめた。もともと詠唱に邪魔だったし。
「んー? 私と同じ装備にしたら? 一応私も遊撃兵だし」
イスさんの作戦行動用ポシェットを見せてもらうと、中には、
『サバイバルナイフ、閃光弾3つ、信号弾2発、非常食が少し、鉤のついたロープに丈夫な手袋』
が入っていた。
「なんですこの手袋……」
薄手ではあるものの恐らくこれは登山用の手袋のようだ。
「ああ、それは拠点潜入に使うのよ。石とかで手を痛めないようにね。鉤つきロープも同じ目的」
「ははぁ……」
そういえば、暗殺とかも請け負ってたんだっけ。すっかり忘れてた。
そうしているうちに、ティールさんから市民要請の詳細が送られてきた。
「んー……ユミル平原かー……指定禁忌レベル1の討伐だね」
指定禁忌とはアスガルド世界共通で取り決められた『接触の許されぬ魔物達』の事だ。この世界には様々な魔物がいるけど、その中でも特に危険な魔物には『指定禁忌』の称号をレベル1から5まで定めている。
この指定禁忌がレベル1でも仮に戦場に現れた場合、『アスガルド特例停戦協定』によって必ず戦闘や作戦行動を中断しなくてはならない。
レベル3までは国の精鋭を集めれば何とか対処できるものの、4と5は『神種』と呼ばれるほど強大な力を持ち、消えるか破壊が収まるのを待つしかない。
「レベル1の……タウロスですか……聞いたことないですね……」
「んとねー、見た目は花かな。めっちゃでっかい」
そう言ってイスさんが自分の端末を私に見せる。
「うわ気持ち悪…」
確かに花…のようではある。葉はなく、長いツルが何本も根元から生えていて、花びらは毒々しい紫に黄色の斑点、真ん中は空洞で縁に毛のようなものが生えている。
「移動能力がないぶん、範囲の広い攻撃とか、遠くの敵を攻撃できる攻撃もするからまぁ……油断しなきゃあまり脅威にはならないよ」
「なるほど……あれ? でもなんでそんなのが指定禁忌に?」
「あー……あのねー、毒性の強いガス吐いたりツルには小さいトゲついててそこから毒吹き出したり……要するに毒の強さでよ。10秒も保たずにほぼ即死レベルだからさ」
「ふむふむ……分かりました」
「さ。そろそろ行こ。あんまし待たせるとティール怒っちゃうよ」
「……で、だ。さっき送ったように、今回は『タウロス』の討伐な。どうやら『ウロ』も発生してるらしんだが……まぁそっちは戦闘四部が掃討してくれるらしい」
今回は戦闘四部と共同みたいだ。最も、『タウロス』の討伐は私達だけだけど……。
「じゃ、行くぞ。アンスールは装甲車の準備を。それ以外は裏門へ。私は軍部に出撃報告をしてから向かう」
「了解っと」
「……了解」
「分かったよ〜」
「了解しました」
「じゃ、一回解散だ」
「んじゃあ、エオロー、フェンリルちゃん、行こっか」
イスさんとエオローさんと共に、車両が出入りする事の出来る大きな裏門へ向かう。
裏門は四諜の訓練棟を抜けて少し進んだ所にある。元々四諜が城の奥に設置されてるから、裏門には近い。
「ま、レベル1じゃ大したことないけど、フェンリルちゃんは気を付けてね。特にあいつの毒は吸わないように」
「最悪死んじゃっても私が蘇生してあげるよ〜」
「何言ってんのさ。蘇生したらエオローダウンしちゃうじゃん」
「まぁね〜。蘇生って大変だからぁ〜」
エオローさんの言う通り、蘇生魔法は生き返らせる為に膨大な魔力と体力、精神力を消費する。生き返らせたらその術者は3日意識を失っていたなんて話もある。
「が、頑張ります……」
とにかく、初陣の前に初任務となる。
気を引き締めていかないと……!